晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『セントアンナの奇跡』 85点

2009-08-30 14:37:50 | (米国) 2000~09 

セントアンナの奇跡

2008年/アメリカ=イタリア

人間愛を謳った壮大な寓話

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

スパイク・リーが原作者ジェームズ・マクブライドに脚本を依頼して製作・監督した人間愛を謳った壮大な寓話。’83NYの郵便局員が切手売り場で客を射殺。不可解なのは凶器が古いドイツ製のルガーであることと家宅捜索で見つかったプリマヴェーラ彫像の首が出てきたこと。黙秘を続ける犯人が思い口を開いたのは、39年前大戦中のトスカーナに起きた出来事だった。
物語は、バッファロー・ソルジャーと呼ばれるアフリカ系アメリカ人のみで構成される米軍第92歩兵師団の4人の兵士と市民との交流を中心に繰り広げられる人間模様となって行く。
ナチス・ドイツの掃討作戦で560名の市民が殺された<セント・アンナの大虐殺>と<サンタ・トリニータ橋の爆破>という史実をもとに、いつも弱い者が犠牲となる戦争の悲劇がリアルに描かれる。なかでも国籍や人種を超えた人間の尊厳を丁寧に綴った作りは、163分という長さを感じさせないメッセージがひしひしと伝わってくる。
「マルコムX」など社会派といわれるS・リーだが、今回は黒人への偏見をテーマとしながらそれを超えた人間愛を取り上げ、ナチス・ドイツにも善意ある人がいるし、イタリア人でも思想はヒトさまざまで、まして黒人でも仲違いもするし性格もまちまちであるという当たり前のことをドラマチックに映像で示してくれた。
冒頭の事件が39年前に繋がるためには、被害者の顔と犯人の名前をしっかり覚えておくことをお勧めしたい。うっかりすると終盤まで取り残される恐れがあるので要注意。
主要人物のリーダー格の兵士をデレク・リーが扮していて他の3人も個性豊か。少年アンジェロから<チョコレートの巨人>と慕われるトレイン役のオマー・ベンソン・ミラーが寓話の世界へ惹き込んでいく。刑事のジョン・タトゥーロ、記者のジョセフ・ゴードン=レヴィットなど出番が少なくて贅沢な脇役陣である。冒頭のサスペンス・タッチが結果としてあまりにも遇然が重なって無理があるともいえる。ドラマを盛り上げるための手法としてメクジラを立てるのは控えたい。


『ライトスタッフ』 80点

2009-08-29 11:11:21 | (米国) 1980~99 

ライトスタッフ

1983年/アメリカ

宇宙飛行士の黎明期は人間臭い男のドラマ

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

ドキュメンタリー作家トム・ウルフの原作「ザ・ライト・スタッフ」をフィリップ・カウフマンが監督し脚本も手掛けた長編。完全版は3時間33分だが監督と製作で編集が揉めオリジナル3時間15分に落ち着いた。日本ではそれでも長いと判断され2時間50分に短縮され公開されたいわく付きの作品である。迫力ある70mm画面に流れる音響で米アカデミー賞の作曲・音響効果・録音賞を受賞しているが、編集賞も受賞したのは前宣伝の効果もあってのことか?
NASAのマーキュリー計画で選ばれた宇宙飛行士夫妻と戦闘機パイロットの孤独な挑戦の物語。
エドワーズ空軍基地にはパンチョの店という酒場があり命知らずの戦闘機パイロットの溜まり場となっている。なかでもチャック・イエーガー(サム・シェパード)は音速の壁を破るために挑戦を続ける孤高な男。のちに宇宙飛行士となるゴードン・クーパー(デニス・クエイド)にとっても特別な存在である。
時代は’57ソ連のスプートニク打ち上げとともに宇宙開発時代に突入。アメリカの名誉を賭けて選ばれた7人の宇宙飛行士たち。人間モルモットとしての扱いを受けかけない舞台裏をトキにはコミカルに描いて行く。
最初の有人飛行をしたヒーローアラン・シェパード(スコット・グレン)はNYで盛大なパレードとケネディ大統領の叙勲があったのにガス・グリソム(フレッド・ウォード)は着水時カプセルのハッチが爆破したため寂しい叙勲。それでもメディアへの作り笑顔はとっても痛々しい。それぞれの妻たちの栄光と落胆ぶりが好対照だ。ジョン・グレン(エド・ハリス)のジョンソン副大統領への政治利用を断固たる拒否といい、夫婦で勝ち取ったヒーロー像が窺えて興味深い。
冗長な部分もあるが、宇宙飛行士と戦闘機パイロットの逸話を織り交ぜ、宇宙オタクや戦闘機マニアでなくても充分楽しめる人間ドラマに仕上がっている。


『フェーンチャン ぼくの恋人』 75点

2009-08-20 10:30:46 | (欧州・アジア他) 2000~09

フェーンチャン ぼくの恋人

2003年/タイ

誰にでもあった甘酸っぱい想い

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

365フィルムズ・プロダクションズというタイの若手映画制作集団による、少年時代の初恋と友情の物語。監督6人脚本7人という異色の組み合わせながら、ひとつの物語として纏まっているのに驚き。
80年代タイの田舎町に住むジアップ(チャーリー・タライアット)の家は理髪店。1軒おいて隣にも理髪店があり同い年のノイナー(フォーカス・ジグラン)とは生まれたときからの仲良し。
同い年の小学生は女の子のほうが成長も早く、遊びはオママゴトやゴム跳びばかり。そろそろ男の子の遊びをしたくてもジャックなど悪ガキの仲間には入れてもらえない。
誰にでもあった少年時代の甘酸っぱい想いと男同士の友情が繰り広げられ懐かしい。インド映画で観られる随所に流れる音楽は当時流行していたタイの歌謡曲なのでタイの観客に熱烈な支持を受けたのも頷ける。
主演の2人は愛らしく、とくにノイナー役のF・ジグランはタイ版チャン・ツィイを思わせる国民的アイドルとなった。ドラえもんのジャイアンを連想させるジャックの悪ガキぶりも微笑ましい。
「小さな恋のメロディ」「スタンド・バイ・ミー」「ドラえもん」と随所にパクリが見られるのはご愛嬌。ラストシーンと編集に思い切ったメリハリが欲しかったのが減点要因だが、忘れていた落し物が戻ったような幸福感に浸れ得した気分。


『サンシャイン・クリーニング』 80点

2009-08-15 16:40:10 | (米国) 2000~09 

サンシャイン・クリーニング

2008年/アメリカ

ハート・ウォーミングな米版「おくりびと」

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

ミーガン・ホリーのオリジナル脚本をグレン・ウィリアムソンが企画、「リトル・ミス・サンシャイン」の製作スタッフが合流して映画化が成立した。監督はニュージーランド出身で「シルヴィア」のクリスティン・ジェフズ。
ニューメキシコのアルバカーキという典型的な田舎町で繰り広げられる、家族4人が自分自身を取り戻す、ユーモアたっぷりな再生の物語。題名のサンシャインとアラン・アーキンが父親役で出ているため「リトル・・・」と比較されるが、パワフルさはなくどちらかというとハートウォーミングなストーリーとテーマといい、米国版「おくりびと」の風情。
主演のエイミー・アダムスは前作「ダウト」の純粋なシスター役とは180度違うトシ相応のシングル・マザー。息子を養育するためハウス・キーパーをしながら、警官の恋人マック(スティーヴ・ザーン)と不倫中という不安定な日々。ハイスクール時代のチアリーダーの花形の面影はあるもののいわゆる<負け組>。息子は公立校を退学になるし父(A・アーキー)は怪しげな行商で一攫千金を狙うが失敗続き、妹ノラ(エミリー・ブラント)は生きることが不器用なニート暮らしという家族。
人物設定がシッカリされているのでそれぞれのキャラクターの演技にブレが観られない。A・アダムスは「私は強い。私はパワフル。私は勝者。」といいながら家を出るが、その弱さを見せまいと必死に生きる健気さが滲み出て、見事お姫様役からの脱皮を果たした。次回作でどんな役をやるのか楽しみな女優だ。妹役のE・ブラントも「プラダを着た悪魔」でのさっそうとしたキャリア・ウーマンとは正反対の、孤独で投げやりな人生を送りながらも心優しい面を見せる訳ありの人物を好演。A・アーキンは「リトル・・・」そのままの破天荒な父親ながら、家族愛は決して忘れない好々爺を楽しそうに演じている。息子のジェイソン・スペヴァックは演技を超えた自然な存在感は大人顔負け。誠実で温かみのあるクリーニング店・店長ウィンストンのクリフトン・コリンズ・J.R.や採血所に勤めるリン役のメアリー・リン・ライスカブの絡みも見逃せない。
クスリと笑わせるエピソードを交え、ここまで丁寧に人物像を描いているのは素晴らしい。低予算(5百万ドル)で頑張ったせいか、こじんまりとまとまってしまったのが残念。


『野ばら』 80点

2009-08-08 14:58:48 | 外国映画 1946~59

野ばら

1957年/ドイツ

古き良き時代の感動ドラマ

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆90点

ウィーン少年合唱団を世界に広めるキッカケとなった心温まるドラマ。マックス・ノイフェルト監督がカール・ライターと共同で脚本も手掛けている。
ハンガリーの難民でオーストリアに逃れてきた少年トーニ(ミハエル・アンデ)は、愛犬フロッキとともにドナウ川汽船の元船長ブリュメル老人(ヨゼフ・エッガー)と暮らすことに。歌が好きなトーニはある日教会で聞いたウィーン少年合唱団に憧れる。
突然入団を志願して認められるなど多少強引なところもあるが、周りの大人たちは善意の人々で不自然さは感じない。
題名の「野ばら」をはじめ「アベマリア」などおなじみの名曲が全編に美しい歌声で流れて心地良く、チロルの美しい風景も心を洗われる。
<純粋に人を愛し、思いやりを持つことの大切さ>を教えてくれたこの映画を、少年時代に観た幸せをあらためて感じている。


『会議は踊る』 85点

2009-08-07 15:58:22 | 外国映画 1945以前 

会議は踊る

1931年/ドイツ

トーキー初期シネ・オペレッタの傑作

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆90点

エリッヒ・ポマーが音楽劇の監督エリック・シャレルを起用して19世紀初頭のウィーン会議を舞台に繰り広げるオペレッタ映画の傑作。
ナポレオンのエルバ島流刑を機にヨーロッパの平和と秩序を守ろうと開かれたウィーン会議。オーストリア宰相のメッテルニヒ(コンラート・ファイト)は主導権を握ろうと連日宴会とパーティで各国首脳を骨抜きにしようとする。折りしも若きロシア皇帝アレクサンドル(ヴィリー・フリッチ)は、手袋やのクリステル(リリアン・ハーヴェイ)の鞭打ち25回の刑を助けることがキッカケで恋に落ちる。
トーキー映画の初期に音楽とカメラワークを駆使した魅力的な映像は、映画史に残る名作といわれている。なかでも酒場で歌うパウル・ヘルビガーの「新しい酒の歌」やクリステルが馬車で別荘へ向うときに流れる「ただ一度だけ」は誰でも一度は聴いたことがあるハズ。そのシーンの長廻しの映像は今観てもこれぞオペレッタと納得。
ヒトラー政権前にこんな楽しい映画を作ったドイツは、2年後に暗黒のときを迎える。人材もちりじりバラバラになってしまったが、そのテクニックは世界の映画に反映されている。


『リバー・ランズ・スルー・イット』 80点

2009-08-02 11:41:43 | (米国) 1980~99 

リバー・ランズ・スルー・イット

1992年/アメリカ

良きアメリカを描いたR・レッドフォード

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆80点

ノーマン・マクリーンの自伝小説「マクリーンの川」をロバート・レッドフォードが監督。彼が愛するモンタナの雄大で美しい風景をバックに繰り広げる家族の物語。
フライ・フィッシングの魅力とブラッド・ピットの出世作として印象に残る作品だが、'20年代の良きアメリカを愛おしむR・レッドフォードの映像作家としてのこだわりを感じる。淀川長治が「絵のごとく美しく、詩のごとく悲しい」と評したストーリーで、年老いたN・マクリーンの眼を通して兄ノーマン(クレイグ・シェイファー)と弟ポール(B・ピット)の確執と絆を回想する。
厳格なスコットランド出身の牧師である父(トム・スケリット)から教わったフライ・フィッシング。真面目で秀才だが不器用な兄と自由奔放な弟。兄は牧師かプロボクサー、弟はプロのフライフィッシャーを夢見ていたが違った道を歩んで行く。
アカデミー賞撮影賞を受賞したフィリップ・ルースロのカメラが、丹念にモンタナの映像叙事詩を捉えて離さない。とくにキャスティングの曲線の美しさをたっぷり堪能でき、フライを男の憧れのスポーツとして昇華させている。それは単なるスポーツというより<自然と自分を一体化する快感>を味わってみたい境地にさせてくれる。
兄はエリートとして後にシカゴ大学の教授となるが、父母からも愛される輝き美しい弟に嫉妬しながら見守るしかなかった。その美しさは姿形というより人間の魅力に対する賛美であろう。ブラピはこれを超える作品には巡り逢えていない。