晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『湖のほとりで』 85点

2009-07-25 17:13:15 | (欧州・アジア他) 2000~09

湖のほとりで

2007年/イタリア

人を愛することの難しさを浮き彫りにした傑作

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ノルウェー・ミステリーの女王、カリン・フォッスムの原作「見知らぬ男の視線」を、イタリアに舞台を移したアンドレア・モライヨーリ監督の長編デビュー作。
単館ロードショーとはいえ封切り1週間後で上映30分前に満席のため、次回上映で何とか観られた。さすがイタリアのアカデミー賞といわれるダヴィッド・デイ・ドナテッロ賞10部門受賞作品である。
オープニングは幼女誘拐事件を思わせ、全裸の他殺死体が発見される経緯はサイコ・スリラーの雰囲気。単なる犯人探しのミステリーではなく、事件を追うサンツィオ警部(トニ・セルヴィッロ)の訊き込みで登場する人々の葛藤や他人には言えない秘密が浮き彫りになってゆく。それが警部自身の抱えている問題になっていく構成が見事で、<人を愛することの難しさを描いた傑作>に仕上がっている。
長年ナンニ・モレッティの助監督を務めていただけあって、美しい風景描写を背景に人間の奥にある感情の曖昧さ・温かさを的確に捉えていて、とても長編デビュー作とは思えない。サンドロ・ペトラーリアの脚本も、ゆったりとしたテンポながら95分で纏め上げた手腕が素晴らしい。
ただ登場人物全員があまりにも過酷な境遇なので、如何に人間ドラマとはいえ最後まで重たい雰囲気が残ってしまいスッキリしなかった。ラストシーンにもう一工夫があっても...。
主演のトニ・セルヴィッロは、今やイタリアを代表する男優。彼との競演を望んでヴァレリア・コリーノ、オメロ・アントヌッテイなど地味ながら達者な俳優達が集まったのも成功の要因だろう。
そして出番は少ないがモデル出身の新人、アレッシア・ピオヴァンが話題性充分。「夢を見ていた。起こさないで。」という台詞だけでスターの仲間入りした感がある。モライヨーリ監督共々、今後が楽しみである。


『世界最速のインディアン』 80点

2009-07-15 15:28:46 | (欧州・アジア他) 2000~09

世界最速のインディアン

2005年/ニュージーランド=アメリカ

心温まるロード・ムービー

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「13デイズ」「リクルート」のロジャー・ドナルドソンが伝説のライダー、バート・マンローを描いた心温まるロード・ムービー。
<インディアン>とはハーレー・ラビットソンと並ぶアメリカのバイクのこと。バート・マンローはニュージーランド南端インバカーギルと言う田舎町に住む実在の熟年ライダーで、愛車は20年型インディアン・スカウト。ジャック・ニコルソンが熱演している。
憧れの聖地は米ユタ州ボンヌヴィルのソルトフラッツ。毎年8月世界最速レースが開かれる。
前立腺と狭心症の持病のある63歳のバート(J・ニコルソン)はガールフレンド・フラン(アニー・ホイットル)のアドバイスで、自宅を担保に銀行から借金をして地球の裏側の聖地を目指す。早朝から爆音を鳴らしたり、庭のレモンの木に小便し、雑草の苦情にガソリンを撒き消防車騒ぎになったり人騒がせな老人なのに何故か憎めない人柄。とくに隣家の少年トム(アーロン・ジェームス・マーフィ)はバートが大好き。この辺りは「老人と海」と同じパターン。地元の不良ライダーがカンパするあたりからハートウォーミングのオンパレード。
貨物船にコックとして乗り込み不当出国しながらロスの税関係官をはじめ、モーテルの女装のフロント係ティナ(クリス・ウィリアムズ)、中古自動車屋フェルナンド(ポール・ロドリゲス)、砂漠の真ん中の先住民、ベッドをともにする未亡人エイダ(ダイアン・ラッド)など何れもいい人ばかり。
ドナルドソン監督は’71に生前のバート・マンローのTVドキュメンタリーを手掛ているだけに逸話は知り尽くしていて、フィクションであってもまるっきりの作り話ではないだろう。J・ニコルソンは68歳の老齢?に鞭打ってこのエピソードを納得の演技ぶり。とくに初対面のどんな相手にも偏見を持たず自ら名前を名乗り、にっこりと笑顔を見せられると相手は人柄に魅了され手助けしてしまう。
顔にシワがあっても「心はいつも18歳」という彼の言動はとても真似はできないが、トシを取っても夢を叶えるために続けることの素晴らしさを教えられた。


『刑事』 80点

2009-07-05 10:15:39 | 外国映画 1946~59

刑事

1959年/イタリア

登場人物のさまざまな人間模様が興味深い

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

C・E・ガッタの小説「メルラーナ街の恐るべき混乱」をピエトロ・ジェルミが監督・主演したイタリアでは珍しい刑事ドラマ。
噴水のUPが引くと高級マンションが現れ、その空間から男の後姿があって、騒音とともに強盗事件だと分かる。「鉄道員」「わらの男」同様、レオニダ・バルボーニの撮影、カルロ・ルスティケリの音楽がタイトル・バックから本領を発揮して期待感充分。
イングラヴァロ警部(P・ジェルミ)が被害者の家政婦アッスンタ(クラウディア・カルディナーレ)に事情聴取すると恋人ディオメーデ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)が浮かぶ。アリバイがあって釈放されるが1週間後隣家のバンドゥッチ夫人(エレオノーラ・ロッシ・ドラゴ)が惨殺される。発見者であるいとこの医者・バルダレーナ(フランコ・ファブリッティ)、三國連太郎似の夫・バンドゥッチ(クラウディオ・ゴーラ)など事件にかかわる登場人物の多種多様な人間模様が、徐々に絡まって明らかになるところが面白い。イタリア独特の人間味溢れる人物像が次々と登場して飽きさせない。
P・ジェルミは正義漢溢れる刑事だが、照れ隠しにサングラスをするなど、人情味も持ち合わせた魅力的な人物を気持ち良さそうに演じている。訊き込みで訪れた海辺のコテージへプライベートで行ったことが窺えたりする。電話で愛人ともなかなか逢えないなど刑事の辛い心情も垣間見せる。
「鉄道員」以来の名コンビ、サーロ・ウルツィが相変わらずコミカルな味で彩を添えているのも楽しい。
その分イギリスの正統派ミステリーとは趣きがまるっきり違っていて、犯人探しをしながら観ていると肩透かしに合う。
ルスティケリの娘・アリダ・ケッリが歌う「死ぬほど愛して」に載せてC・カルディナーレが世界中に知れ渡った映画でもある。庶民的な顔立ちのC・Cも良いが、E・R・ドラゴの知性溢れる美貌振りが忘れられない。


『荒馬と女』 80点

2009-07-04 10:55:25 | 外国映画 1960~79

荒馬と女

1961年/アメリカ

映画史に残るいわく付きの作品

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

劇作家アーサー・ミラーが自身の短編「野生馬狩り」を、妻マリリン・モンローのために脚色した。評価は芳しくないが、M・モンロー最後の映画であり、クラーク・ゲーブルの遺作としても映画史に残るいわく付きの作品である。
近代化にともない取り残された人間の悲哀を描くのが得意なA・ミラーらしく、ネバダ州リノで繰り広げる離婚した女を巡るカウボーイ3人の物語。
原作にロズリン(M・モンロー)を加えたのは離婚間近のモンロー自身を投影しているとしか思えないキャラクター。初老のゲイ(C・ゲーブル)に「眩しいくらい美しく、トキドキひどく哀しそう」と言わせたり、若いバース(モンゴメリー・クリフト)に「誰を信じているのか?」と訊かれ「わからない。ただいつも明日起きることに期待している。誰かに頼ったりしない」と返したりする台詞は彼女を良く知るA・ミラーならでは。
C・ゲーブルは、「風と共に去りぬ」で一世を風靡したかつての2枚目俳優。その後20年経って衰えは否めないものの時代に逆らいながらカウボーイを続けるプレイボーイ振りは適役。野生馬との格闘シーンは最大の見せ場だった。吹き替えなしのこのシーンが祟って撮影終了10日後心臓発作で亡くなったのも話題になった。
3大スターの競演を懐かしく偲ぶ作品である。


『鉄道員(’58)』 85点

2009-07-03 15:16:49 | 外国映画 1946~59




鉄道員(’58)


1958年/イタリア






モノクロならではのレンブラント・ライトと切ない音楽








総合★★★★☆
85



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★★
90点





カルロ・ポンティ製作によるピエトロ・ジェルミ監督・主演でイタリアのネオ・リアリスモ代表作品。
運転歴30年の鉄道員アンドレア(P・ジェルミ)とその家族の喜怒哀楽を末っ子サンドロ(エドアルド・ネボラ)の視点で描いた人間賛歌の物語。
この作品を初めて観たのはリバイバル上映で17才だったが、サンドロの父への憧れと家族を思う直向きさに思わず涙した青春の記憶が残っている。この頃のヨーロッパ映画は必ずテーマ音楽が印象的で、切ないテーマ音楽が忘れられない。このテーマと「禁じられた遊び」「太陽がいっぱい」などギターを弾くキッカケになったことでも思い出深い。
第二次大戦の傷跡がまだ残っているイタリア。最新の電気機関車の運転手アンドレアは貧しいながら良妻賢母のサラ(ルイザ・テラ・ノーチェ)に家庭を任せ、同僚と酒場でワインを飲みながら歌を歌って疲れを癒す日々。長女ジュリア(シルヴァ・コンナ)はハズミで妊娠、長男マルチェロ(レナート・スペツイアーリ)は仕事がなく悪い仲間に巻き込まれ、順風満帆とはいえない。
そんな家族に末っ子サンドラはまるで天使のような存在。オーディション200人から選ばれたエドアルド・ネボラはチョッピリ太目のアイドルでこの作品ではナレーションまで務めるキイマンだ。「自転車泥棒」など男の子が主役のイタリア映画には名作が多いが、この映画もそのひとつ。
P・ジェルミは実年齢42歳で老け役を見事に演じ俳優としての実力もさることながら「わらの男」(’56)「刑事」(’59)など監督としても有能振りを発揮していて、大好きな監督のひとり。今観るとかなり荒い筋書きではあるものの、モノクロならではのレンブラント・ライトと呼ばれるレオニーダ・ベルボーニの光と影の映像とカルロ・ルスティケリのテーマ音楽が、家族の苦悩とささやかな喜びを描いて物語を盛り上げている。