晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(12・デンマーク スウェーデン チェコ)75点

2016-11-24 15:33:27 |  (欧州・アジア他) 2010~15


 ・ 18世紀後半、デンマークを舞台に繰り広げられた良質な歴史宮廷劇。


   

 18世紀デンマーク王妃・カロリーネがドイツに幽閉され、子供2人宛てに手紙を書くことから始まるドラマは、国王・クリスチャンセン7世と侍医・ストルーエンセとの関係を核にした史実をもとにした壮大な歴史・政治劇。

 デンマークでは有名な王室スキャンダルを初めて映画化した本作は、本国で7ケ月のロングランとなったという。「ドラゴン・タトゥーの女」の脚本家・ニコライ・アーセルが監督・脚本も手掛けていて、サブタイトルが相応しくない正攻法の演出は137分の長さを感じさせない。

 華麗な衣装を身に纏い、華やかな舞踏会のシーンや美しい風景で繰り広げられる宮廷劇は王妃と侍医の不倫劇が中心だが、寧ろ王制が限界に差し掛かった欧州における小国デンマークの歴史を知る想い。

 カロリーネを演じたのはスウェーデン出身のアリシア・ヴィキャンデル。知性ある慈悲深い王女役を好演している。英国育ちで15歳から23歳までの役には少し可憐さに欠けるのは止むを得ないところ。その後「リリーのすべて」(15)での適役でオスカー(助演女優賞)を獲得している。

 侍医ストルーエンセに扮したのは<北欧の至宝>マッツ・ミケルセン。「アフター・ウェディング」(06)「007カジノロワイヤル」(06)でお馴染みだが、本役では王妃を寝取った野心家ではなく、庶民のため改革に邁進した理想家として描かれている。そのためか、王のお気に入りながらも王妃と恋愛を繰り広げる彼の心情が中途半端な印象は拭えない。

 それに反して、クリスチャン7世を演じたミケル・ボー・フォルスゴーが魅力的。とても映画初出演とは思えない、精神を病んでいる奇行の持ち主でありながら聡明で繊細な部分と無能な我が身を憂う<苦悩に満ち溢れた王>を見事に演じて、ベルリン映画祭銀熊(男優)賞を獲得。

 シェークスピアの台詞で王と侍医が縁で深い絆を結び、ルソーの啓蒙思想の本でカロリーネとストルーエンセが惹かれ合った3人。

 「この世は舞台、男も女もみな役者」という台詞がぴったりで、捕らわれたストルーエンセの「私も民衆のひとりだ」という言葉が虚しい。

「ハタリ!」(62・米) 80点

2016-11-21 16:55:02 | 外国映画 1960~79

  ・ H・ホークス監督、J・ウェイン主演コンビのエンタテインメント大作。


   

 原案は「情婦」などの脚本家でもあるハリー・カーニッツ。「赤い河」(48)を始め「リオ・ブラボー」(59)などのハワード・ホークス監督と主演ジョン・ウェインのコンビが、舞台を西部からアフリカに移して繰り広げる、アクションありロマンスありのエンタテインメント大作。

 猛獣を生け捕って動物園やサーカスに売る野獣ファームのリーダーと、世界各国から集まった仲間たちとの交流をユーモアたっぷりに描いている。

 原題はスワヒリ語で<危ない>という意味だというだけあって、動物捕獲の迫力ある映像はなかなかのもの。なかでも道なき道を疾走する車とサイの激突は本物感溢れるシーンでジョン・フォードも真っ青!

 ほのぼのとしたシーンも随所にあり、なかでもヘンリー・マンシーニの音楽による主題曲「子象の行進」は大ヒット。他にもユニークなサルの捕獲作戦も奇想天外で笑わせてくれる。

 ショーン(J・ウェイン)とアンナ(エルサ・マルティネッリ)、ポケッツ(レッド・バトンズ)と所長の娘ブランディ(ミシェル・ジラルドン)のラブ・ロマンスや、カート(ハーディ・クリューガー)とチャールズ(ジェラール・ブラン)の友情など西部劇かと見違えてしまうようなストーリーもご愛敬。

 「リオ・ブラボー」でも感じたが、H・ホークスは軽妙洒脱な明るさで観客を楽しませることに全力を尽くしてくれる監督で、主演のJ・ウェインの無骨だが信頼できるリーダーのキャラクターがピッタリとハマっている。

 

 
 

「ルーム」(15・カナダ/アイルランド) 80点

2016-11-17 14:15:51 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ サスペンスとヒューマン・ドラマが同時に味わえる佳作。


   

 今年のオスカーで、意外な主演女優賞を受賞したブリー・ラーソンの作品。原作はエマ・ドナヒューのベストセラー「部屋」で脚本も担当している。監督はレニー・エイブラハムソンで、ともにアイルランド出身。

 5歳の男の子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)の語りで現れる映像は、ママ(B・ラーソン)と一緒に暮らす朝から始まる。おはようの挨拶をして体操・TVを観て5歳の誕生日を祝うケーキを焼く。

 この部屋は壁で仕切られ扉には鍵が掛けられていて、天窓からこぼれる木漏れ日以外は何も見えない。

 観客は、やがてこの部屋は納屋で二人は監禁されているのを知らされる。ママは7年前オールド・ニック(ショーン・ブリジャーズ)に拉致され、ジャックにとってこの部屋が全世界だったのだ。

 拉致監禁という暗くて閉鎖的な空間を子供の視点で描くことで、ファンタジーのような印象すらある。

 やがてニックが失業していることを知ったママは、このままでは先行きが成り立たなくなる不安からジャックを脱出させることを決意する。

 サスペンス・タッチのかなり危険な決死の脱出はジャックを混乱させるが、偶然や幸運に恵まれ奇跡的に成功する。

 映像がスリリングでジャックの視点で描かれるカメラワークが見事!「英国王のスピーチ」のダニー・コーエンが撮影監督だった。

 ママも無事救出され、晴れて自由となり外界で幸せな生活を送るハズだったが、新たな試練に立ち向かうことになる。

 ここからはジャックの視点から離れ、二人の新たな家族の様子が描かれる。

 実家は元のままだったが、ばあば(ジョアン・アレン)はじいじ(ウィリアム・H・メイシー)と別れ、レオ(トム・マッカス)と住んでいた。じいじは遠くから会いに来てくれたが、犯罪者にレイプされできた子供のジャックをまともに見られず去って行く。

 「私は人生を奪われた!」というママ。「この事件で人生を失ったのはアナタ一人だけというの?」と言い返すばあば。

 平穏な生活を取り戻すことの大変さは容易ではないことは想像に難くないないが、救いはジャックの純粋な感性と賢さだった。

 伸び放題で女の子と間違えられそうな髪を、ママに活力を与えようとばあばに切ってもらう。優しいレオとおやつを食べたり、近所の子供とサッカーをしたり順応して行くさまはホッとさせてくれる。

 B・ラーソンは約8ケ月役作りに専念。「母親であることと性的虐待を受けたサイバー」であること、誘拐される前の人間像と心的外傷を受けた心情を想定しながら演技に反映させ見事オスカーを獲得した。

 ジャックに扮したJ・トレンブレイは撮影時8歳だったが、5歳から天才といわれた名子役。3週間一緒に過ごしたラーソンとは本当の母子のよう。

 アップから引きのショットから俯瞰のラストシーンまで映像の変化とともに心を揺さぶられる佳作だった。

「ユージュアル サスペクツ」(95・米)80点

2016-11-14 16:26:17 | (米国) 1980~99 

  ・ 映画ならではのサスペンスの醍醐味を楽しむ!


   

  サスペンス好きには傑作と名高い本作。A・クリスティの「アクロイド殺し」をヒントにクリストファー・マッカリがシナリオを書き、この年のオスカーを獲得している。監督はブライアン・シンガー。

 カリフォルニア・サントロペ港で密輸船が爆破され、その中には銃殺された遺体を含む多数の遺体が発見された。生き残ったのは重傷のハンガリー人と左半身不随の男だけだった。

 LA地元警察、NY関係局麻薬捜査官、FBIが捜査に乗り出し、カイザー・ソゼという謎の男が浮かび上がった。

 麻薬捜査官クイヤンは、生き残ったキントを尋問。キントの語ったのは6週間前NYでの銃器強奪事件で警察から5人が面通しされたことから始まる。

 5人とは、元汚職警官キートン、射撃名手で忍びのプロマクマナスとコンビのフェンスター、爆弾仕掛けのプロ・ホイックニー、そして詐欺の前科者で半身不随のキント。

 マクナマスが警官の汚職が絡む宝石強奪を持ち掛け成功、さらに故買屋レッドフッドと知り合い新たな宝石強奪を画策。成功したかに見えたがそれは宝石ではなく麻薬だった。

 レッドフットは依頼主は弁護士コバヤシなので会えという。コバヤシは伝説のギャング、カイザー・ソゼの指示だという。
  
 その証拠に5人は過去ソゼに関連した事件を起こし、その資料はコバヤシが持っていてNYの事件はソゼが5人を引き合わせるために仕組んだものだった。

 謎の男カイザー・ソゼの正体探しで物語は進んで行く。

 キートンはコバヤシだと睨み殺そうとするが恋人が人質状態で、4人も身内が同様の有様。

 キントの証言ではソゼは左利きだというが、麻薬捜査官クイヤンは嘗ての同僚キートンだと確信する。

 ミステリー好きなら終盤の大どんでん返し前に正体はオオヨソ推測できる。それでもラストシーンは映画ならではの面白さを味わえるのがこの映画の魅力。

 見直してみると序盤から数々に仕掛けが施され、成程と納得させられる。

 出演者の順番がマクマナスのスティーヴン・ボールドウィンがトップ、エンディングではキートンのガブリエル・バーンなのも意図的か?

 日本人名のコバヤシを演じたのはピート・ポスルスウェイトなのも仕掛けのひとつ。ブレーク前のフェンスター役ヴェニチオ・デルトロ、「セブン」でも好演し助演男優賞を受賞したK・スペイシーの演技も見逃せない。

 気の抜けない中身の濃い106分間だった。

 

 

   

「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」(15・英)65点

2016-11-08 17:44:35 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 19歳王女時代のエリザベス女王、一夜のロマ・コメ。


    

 英国のエリザベス女王がリリベット王女と呼ばれていた時代、非公式に一夜の外出を許されたという逸話をもとに描いたファンタジー・ストーリー。

 監督は「キンキー・ブーツ」(05)のジュリアン・ジャロルド。脚本はトレヴァー・デ・シルヴァのオリジナルをケヴィン・フットが手を加え、スクリューボール・コメディの要素が随所にみられる。

 ’45年5月8日の終戦の夜、祝勝ムードに沸くロンドン。ジョージ6世がスピーチの準備をしている王室では、リリベットが妹のマーガレットとともに外出の許可を願い出ていた。

 スピーチの感想を肌に感じるためという名目で許可が出たが、護衛が付き1時には戻るという条件付き。リッツ・ホテルでワルツを踊る望みは叶ったが、グレゴリー・ペッグが訪れたというマーガレット念願の<クラブ カーゾン>には護衛の目を盗んで行くしかなかった。

 真面目でお堅いリリベットと自由奔放なマーガレット。2人の描写が誇張されていてフィクションとはいえ英国王室の寛大さを改めて感じる。

 リリベットを演じたのはサラ・ガドン。カナダ生まれながらイギリス英語をキチンと話し、監督のお眼鏡に適った。祖父が海軍兵士で5月8日トラファルガー広場でスピーチを聴いたという縁も感じたという。’87年生まれだが、「ローマの休日」のオードリー(実年齢24歳)と比較しても19歳を不自然とは思わせないキュートさは彼女の魅力でもある。

 マーガレットを追ってバスに飛び乗ったリリベット。お金を持たない彼女を救ったのが空軍兵士のジャック(ジャック・レイナー)。彼とともに過ごしたロンドンには、宮殿にいては分からない戦勝の陰で多くの悲しい出来事があったことを知る。

 ご都合主義な展開もかなりあったが、子気味いいテンポと大勢のエキストラ、トラファルガー広場やバッキンガム宮殿への道などの臨場感あふれる映像はなかなかのもの。クリストフ・ボーカルヌのカメラワークの冴えを実感。

 「ローマの休日」に「シンデレラ」をミックスしたような英国王女のロマ・コメは、90歳を超えても庶民に人気のある女王の秘密を垣間見るような気分にさせてくれる爽やかさだった。

「半落ち」(04・日) 65点

2016-11-06 17:00:38 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 横山秀夫のベストセラーを豪華キャストで映画化した社会派サスペンス。


      

「クライマーズ・ハイ」などのベストセラー作家・横山秀夫の原作。題名は警察用語で「一部自供」という意味。優秀な警察官である梶聰一郎(寺尾聰)が妻(原田美枝子)を絞殺し、出頭するまで<空白の2日間の謎を巡る>サスペンス風社会派ドラマ。監督は「陽はまた昇る」(02)でデビューの佐々部清で脚本も担当している。

 自首してきた梶を担当した警察官・志木和正(柴田恭兵)、検察官・佐瀬銛男(伊原剛)、新聞記者・中尾洋子(鶴田真由)、梶の弁護を買って出た植村学(國村隼)、そして判決文を書くことになった若い裁判官・藤林圭吾(吉岡秀隆)の立場から、事件に関わった背景やエピソードを交え物語が進展して行く。

 とにかく豪華キャストである。主要人物以外でも西田敏行・樹木希林・高島礼子・井川比佐志・奈良岡朋子などが次々登場。検察事務官・田山涼成や刑務官・笹野高史などチョイ役でオイシイ役もあり、それぞれの達者な演技を楽しむには見応え充分。

 空白の2日間に何があったのか?というミステリー的興味は終盤までに解明してしまい、寧ろ<尊厳死>がテーマとなっている。

 7年前一人息子を急性骨髄性白血病で失い、妻が若年性アルツハイマー症という境遇の主人公。自分が梶だったらどうしただろう?という悩ましい選択を迫られた場合、同じ行動はとても取れなかっただろう。とはいえ当事者になってみないと分からないのかも・・・。

 公開時には裁判官・藤林の判決文を書くまでの思い悩む姿や公判での結審時の朗読があったような記憶がある。「魂が壊れてしまったという人間にも生きる権利があり、何人でもそれを奪うものではない」という正論が語られていたハズだったが、今回再見したものはカットされていた。

 梶夫婦が亡くなった息子の代わりに生き甲斐としていたことへの喪失が悲劇となって泣かせる映画を志向したため、力作ながら共感と反論が相半ばしてしまったのが残念!