・ 18世紀後半、デンマークを舞台に繰り広げられた良質な歴史宮廷劇。
18世紀デンマーク王妃・カロリーネがドイツに幽閉され、子供2人宛てに手紙を書くことから始まるドラマは、国王・クリスチャンセン7世と侍医・ストルーエンセとの関係を核にした史実をもとにした壮大な歴史・政治劇。
デンマークでは有名な王室スキャンダルを初めて映画化した本作は、本国で7ケ月のロングランとなったという。「ドラゴン・タトゥーの女」の脚本家・ニコライ・アーセルが監督・脚本も手掛けていて、サブタイトルが相応しくない正攻法の演出は137分の長さを感じさせない。
華麗な衣装を身に纏い、華やかな舞踏会のシーンや美しい風景で繰り広げられる宮廷劇は王妃と侍医の不倫劇が中心だが、寧ろ王制が限界に差し掛かった欧州における小国デンマークの歴史を知る想い。
カロリーネを演じたのはスウェーデン出身のアリシア・ヴィキャンデル。知性ある慈悲深い王女役を好演している。英国育ちで15歳から23歳までの役には少し可憐さに欠けるのは止むを得ないところ。その後「リリーのすべて」(15)での適役でオスカー(助演女優賞)を獲得している。
侍医ストルーエンセに扮したのは<北欧の至宝>マッツ・ミケルセン。「アフター・ウェディング」(06)「007カジノロワイヤル」(06)でお馴染みだが、本役では王妃を寝取った野心家ではなく、庶民のため改革に邁進した理想家として描かれている。そのためか、王のお気に入りながらも王妃と恋愛を繰り広げる彼の心情が中途半端な印象は拭えない。
それに反して、クリスチャン7世を演じたミケル・ボー・フォルスゴーが魅力的。とても映画初出演とは思えない、精神を病んでいる奇行の持ち主でありながら聡明で繊細な部分と無能な我が身を憂う<苦悩に満ち溢れた王>を見事に演じて、ベルリン映画祭銀熊(男優)賞を獲得。
シェークスピアの台詞で王と侍医が縁で深い絆を結び、ルソーの啓蒙思想の本でカロリーネとストルーエンセが惹かれ合った3人。
「この世は舞台、男も女もみな役者」という台詞がぴったりで、捕らわれたストルーエンセの「私も民衆のひとりだ」という言葉が虚しい。