晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「黄色いリボン」(49・米)80点

2022-01-27 15:55:54 | 外国映画 1946~59


 ・ 42歳だったJ・ウェイン、貫禄の老け役。


 西部劇の巨匠ジョン・フォード監督による騎兵隊三部作「アパッチ砦」(48)・「リオグランデの砦」(50)の第二作で唯一のカラー作品。主役ジョン・ウェインの役名も二作のカービー・ヨークではなくネイサン・ブリトリスなのでシリーズとも言いがたい。

 1876、スタアク砦で退役まであと6日となったブリトリス大尉(J・ウェイン)は、いつもどおりクインキャノン軍曹(ヴィクター・マクラグレン)に起こされる。シャイアン族掃討作戦の指揮を執ってきたが、果たせないまま定年を迎えるハメに。
 隊長の妻と姪オリヴィア(ジョアン・ドルー)を護送する任務についたが、シャイアン族に阻まれやむなく砦に戻ってくる。
 志半ばで退役の日を迎え退役記念の時計を見ると期限まであと4時間あった。

 本作はブリストルの片腕タイリー軍曹(ベン・ジョンソン)、酒好きでお気に入りのクインキャノン軍曹や新任のコーヒル中尉(ジョン・エイガー)などとの心の交流が描かれていて、部下を思い慕われる理想のリーダーである主人公を中心とする騎兵隊賛歌だが単なるアクション大活劇ではない。
 オリヴィエを巡って中尉とペネル少尉(ハリー・ケリー・ジュニア)の恋のさや当てや酒場でのコミカルな乱闘シーンなどを挟みながら、先住民への敬意もあって戦闘による殺戮シーンを極力見せない工夫も凝らされている。

 民謡をアレンジした主題曲はミッチー・ミラー楽団が有名で大ヒットしたが、本作ではジョニー・ハート楽団のもの。
 J・フォード作品ではお馴染みのモニュメント・バレーを背景にした雄大な繰り広げられる暴走する駅馬車やバッファローの大群・馬の暴走など圧巻のスペクタクル・シーンも魅せてくれる。
 加えてブリストルが亡妻の墓前で語り掛けたり、焼き討ちで殺された二等兵の埋葬シーンなど活劇シーン以外の詩情豊かな描写が観られ、カラー作品ならではの映像が光る。オスカー撮影賞も納得である。

 最も驚かされたのは当時42歳のJ・ウェインが定年間近の老け役を全く自然に演技していたこと。部下に「謝罪は軟弱な証拠だ」と示唆する台詞が流石の貫禄だ。

 

「鉄道員(ぽっぽや)」(99・日)70点

2022-01-19 12:09:19 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

 
・ 高倉健 晩年の代表作のひとつとなったファンタジー。

 浅田次郎の直木賞受賞作品の短編を降旗康男監督、高倉健主演、木村大作撮影のゴールデントリオで映画化。「四十七人の刺客」以来5年ぶりに映画出演した高倉健20世紀最後の作品で、晩年の代表作といえる。

 北海道・幌舞線終着駅の駅長が定年間近の冬に訪れた小さな奇蹟を描いた人情ドラマで、本人は乗り気で無かったが東映スタッフの願いや監督の熱心な口説きに心を動かされ、19年ぶりの東映作品が実現した。

 イタリア映画往年の名作(P・ジェルミ監督・主演)と同じ題名で定年間近の愚直な鉄道員人生を描いているが、本作は家族に先立たれた孤独な主人公。
 生後2ヶ月で一人娘を亡くし、テネシーワルツを口ずさむ最愛の妻・静江(大竹しのぶ)にも先立たれながら駅に立ち続ける佐藤乙松(高倉健)は、まもなく定年を迎える。
 蒸気機関車時代からの同期・杉山仙次(小林稔侍)は系列のホテルに再就職が決まっているが乙松は何も決まっていない。
 そんな冬のある日、人形を手にした小さな女の子が駅に現れる...。

 感想は雪国の駅に立つ凜とした制服姿が絵になる<健さんの映画>に尽きる。製作の東映社長・高岩淡がカチンコを握り「網走番外地」シリーズのスタッフたちの懸命に働く姿が目に浮かぶ。
 共演したのは東映大部屋出身の小林稔侍を始め、芸達者な大竹しのぶ・奈良岡朋子・田中好子・石橋蓮司に吉岡秀隆・平田満・板東英二・本田博太郎など多士済々。
 さらに人気絶頂の広末涼子が終盤重要な役柄で登場し、健さんの希望で映画初出演で唯一の映画出演となってしまった志村けんが印象に残るシーンまであった。

 鉄道ファンにはD51やキハ12を改造した40-764ディーゼル車やロケ地・幾寅駅も懐かしく、木村大作のダイナミックな映像は感動を呼び、白と黒の世界に旗やベストにマフラー、ランドセルなど随所に配色した赤も計算し尽くしたもの。時代を遡るセピア色の画面も詩情をを誘う。

 筆者の幼少時代はテレビも無く少年少女向け東映時代劇隆盛期で「紅孔雀」や「笛吹き童子」に目を輝かせていたが、東京・大泉で現代劇も作るようになる。「米」(57・今井正監督)のような名作も生まれたが、添えもの的に二本立てが作られていて東映ニューフェイスとして高倉健が登場する。
 以来見続けている健さんには耐える男が当たり役となった<任侠もの>や<過ちを犯し愛妻と別れた男の悲哀を描いたドラマ>などを経て「ひたすら忠実に仕事一筋で働く昭和の男」のイメージがついて回る。
 本作はその集大成ともいえる。
 21世紀になっても「ホタル」(01)そして遺作「あなたへ」(12)まで時代に取り残されながら懸命に生きてきた男を演じきっている。

 この2月にシネマコンーサトの予定があるがコロナ禍で無事開催されるだろうか?鬼籍に入られた健さん・志村けん・田中好子・高岩淡元社長を偲ぶためにも是非開催して欲しい。

 
  
 

「黄昏」(51・米)75点

2022-01-09 14:59:02 | 外国映画 1946~59


 ・ 名匠W・ワイラーによる印象的なラストシーンのラブ・ストーリー。


 1900年セオドア・ドライサーの処女作「シスター・キャリー」をウィリアム・ワイラー監督が「嵐が丘」(39)以来久しぶりにローレンス・オリヴィエを起用してコンビを組んだ。
 19世紀末のアメリカ。田舎からシカゴへ出てきた娘・キャリーと高級レストラン支配人の中年男性との恋の行方を描いたラブ・ストーリーで、ヒロイン・キャリーにはジェニファー・ジョーンズが扮している。原題「Carrie」。

 この時代のアメリカは資本主義の発展とともにシビアな現実があった。大都会シカゴには地下鉄ができ、人減らしで田舎から出てきた若者を労働力に繁栄してきた。
 キャリーはミズリーの田舎から姉夫婦を頼って靴工場で働くが、指を怪我してクビになり家にもいられなくなってしまう。シカゴへ向かう途中なにかと話しかけてきたセールスマンのチャ-ルズ(エディ・アルバート)と再会。ディナーに誘われ会食したレストランでジョージ支配人と会いお互い好意を抱く。

 いわゆる不倫ものだが、キャリーは同棲するチャールズが結婚する気がないという不安感があり、ジョージには金持ちの妻ジュリアとは不仲という背景が二人を結びつけてていく前半はリアリティに欠けるキライは否めない。
 キャリーに扮したJ・ジョーンズは美しいが中年男が独身だと思う純朴さとか弱さ・儚さを感じさせず、悲劇のヒロインとは違うイメージだった。しかしその後「終着駅」(53)、「慕情」(55)とメロドラマのヒロイン役がはまり役となっていくのは筆者とは違い本作が好印象だったせいか?
 ジョージを演じたシェイクスピア俳優L・オリヴィエは、紳士としてのプライドを漂わせる高級レンストランの支配人に相応しい役柄だが、妻子ある身でキャリーに夢中になるには今ひとつ必然性に欠ける。中年男が陥りがちな愛情の発露か?

 ふたりはNYへ逃避行、幸せの絶頂を味わうが長続きしない。このあたりから二人の愛は相手を思うあまり、すれ違いとなって盛り上がってくる。

 東西の名作「椿姫」や「冥途の飛脚」を思わせるこの悲恋物語は、ラストシーンでクライマックスを迎える。
 男の矜持を魅せた名優L・オリヴィエの演技を堪能した120分だった。