晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『忍びの者』 80点

2010-11-30 10:04:59 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

忍びの者

1962年/日本

忍者ブームの先駆けとなった山本薩夫作品

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

終始一貫して反骨精神溢れる社会派、山本薩夫監督の娯楽時代劇。村山知義原作を高岩肇が脚色した忍者ブームを呼ぶキッカケとなった記念碑作品だ。それまでの忍者といえば立川文庫で子供たちに大人気の猿飛佐助や霧隠才蔵などのヒーローもの。この作品は忍者をなるべくリアルに捉え自己犠牲を旨とする兵法のひとつであることを伝えながら、そこに生きる忍者の人間模様が描かれている。
主演は伊賀の下忍・石川五右衛門に扮した市川雷蔵。これを機に3作がつくられ、役柄を変え計8作の人気シリーズとなった。
若き日の五右衛門はお頭・百地三太夫(伊藤雄之助)に憧れ将来を夢見る頭脳明晰な忍者で技も抜きん出ていた。欠点といえば女好きなところ。お頭に手も触れられない妻イノネ(岸田今日子)の誘惑に負けてしまう。
伊賀の忍者は大名たちの諜報活動を請け負い業でトキの権力とは無縁だったが、自分たちの流れをくむ宗門への織田信長(城健三郎=若山富三郎)の弾圧だけは許せなかった。三太夫は五右衛門に信長暗殺を命ずる。信長を追った五右衛門は、堺であった遊女マキ(藤村志保)に一目惚れ、自分の存在を改めて意識して人間性を取り戻す。
この作品のヒットとなった要因は忍者ものの斬新な解釈とヒーロー織田信長をヒール役にして権力への抵抗を謳ったことで若者たちの共感を呼んだことだろう。さすが山本監督一筋縄ではいかない。
もうひとついままでの時代劇にはなかったリアルで残酷な殺陣。ライバル木猿(西村晃)との一騎打ちは大量の血と腹から背に突き刺さった剣先。忍者は存在を知られてはいけないため死ぬ時は顔を切り刻んだり、潰したりするシーンも。当時当たり前だったカラーではなくモノクロにしたのはこの表現に必然性があったからか?この傾向は黒澤作品にも見られ互いに影響し合ったのでは。
市川雷蔵は悲しい運命を背負いながら希望を失わない若者を爽やかに演じている。脇役では伊藤雄之助の相変わらずの怪演振りが際立ち、岸田今日子、西村晃、加藤嘉、城健三郎(若山富三郎)などベテラン陣がキャラが生き生きと際立って見えた。藤村志保は初々しくこれから長く続く雷蔵との名コンビが伺える。


『100歳の少年と12通の手紙』 80点

2010-11-29 11:57:31 | (欧州・アジア他) 2000~09

100歳の少年と12通の手紙

2008年/フランス

ファンタジックで洗練された台詞で後味が良い

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「地上5センチの恋心」のエリック=エマニュアル・シュミットが自分の戯曲を映画化。10歳の少年が白血病で余命幾ばくもないストーリーと聞けばお涙頂戴の悲しいドラマと想像して観賞を躊躇していたが、思ったより深刻さはなく説教くさくもない。
その要因は口の悪いピザやのローズに扮したミシェル・ラロックと少年オスカーに扮したアミールの持つポジティブな雰囲気。いたずら好きな少年アミールはズケズケとモノを言うローズに耐えがたいことに直面したらどうするべきかを身を持って教えてもらう。人生に臆病だったローズは、オスカーから<長くはない命を助ける強さ>を見つけ出して行くうち、自分自身の発見にもなってゆく。
全体のトーンが暗くなりそうなところを上手くバランスを取っていったのが、自称元プロレスラーのローズの自慢話。スラプスティックなシーンが入るたびにオスカーともども観客も過酷な現実を忘れさせてくれる。
ファンタジックで洗練された台詞が巨匠ミシェル・ルグランの音楽に乗ってトテモ後味の良い作品に仕上がっている。共演しているローズの母ミレーヌ・ドモンジョ、医師のマックス・フォン・シドー、婦長のアミラ・カサールのベテランや、難病を抱えながら病院暮らしを子供らしく生きている子役たちが、精一杯生きたオスカーとローズの10日間を支えている。


『ゾディアック』 85点

2010-11-28 12:38:27 | (米国) 2000~09 

ゾディアック

2007年/アメリカ

真実に迫ったD・フィンチャー 

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「セブン」「ファイトクラブ」のデヴィッド・フィンチャーが、実在の連続殺人事犯ゾディアックに獲り付かれ翻弄される4人の男の物語。原作は風刺漫画家で本作の主人公でもあるロバート・グレイスミス。ジェームズ・ヴァンダービルトの脚本は真犯人をかなりボカシタものだったそうだが、D・フィンチャーは真実を知りたいという信念の原作と生存者や警察の協力を得て真実に迫っている。ケレンミのある作風を排し、淡々とした進行がかえってこの異常な事件を盛り上げてくれている。
4人の男とはR・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)以外に、SF刑事のデイヴ・トースキー(マークラファロ)と相棒のビル・アームストロング(アンソニー・エドワーズ)、そしてクロニエル紙の記者・ポール・エイブリー(ロバート・ダウニー・Jr)。
事件の異常さは犯人が暗号付きの大量の手紙を新聞社や警察に送りつけ、マスコミを利用した劇場型であること。「ダーティ・ハリー」の犯人スコーピオのモデルとしても有名。本作でもグレイスミスがトースキーと出会った映画は、「ダーティ・ハリー」を上映中。<ハリーに解決してもらえよ>と警官同士の投げやりな言葉を聴いたトースキーが<映画では強引にできることを実際法を守る警察官にはできない>というシーンがある。情況証拠だけでは逮捕できないジレンマを感じているトースキーを象徴していて印象的。
グレイスミスは冷酷傲慢な犯人に対する怒りが人一倍強く、トースキー刑事が転属になったあとも最有力容疑者を執拗に追いかける。迷宮入りのこの事件をドラマチックに盛り上げるフィンチャーの手腕は流石で157分の長さを感じさせない。


『スウィート ノベンバー』 75点

2010-11-20 17:04:36 | (米国) 2000~09 

スウィート ノベンバー

2001年/アメリカ

盛りだくさんのラブ・ストーリー

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

未見だが’68「今宵かぎりの恋」のリメイク。主人公のキャラクター、職業、ファッション、親しい友人、ペットと子供、病、季節、街並み、テーマ音楽どれをとってもラブ・ストーリーの設定。盛りだくさんでこれ以上は無理というほどのてんこ盛り状態で、どことなく「オータム・イン・ニューヨーク」を思わせる。
とくに大切なのは主役の2人と場所だろう。「オータム...」はR・ギア、W・ライダーのNYの秋だが、こちらは、キアヌ・リーブス、シャリーズ・セロンのサンフラシスコの秋。ヒロインのS・セロンはサンフランシスコの街にお似合いのオシャレな住まいと衣装でぴったり。残念だったのは相手役のK・リーブスに魅力・存在感がなく、バリバリの広告プランナーとはとても思えないこと。2人の絡みに情感が湧いてこないのが致命的で2人ともラジー賞にノミネートされたのはS・セロンに気の毒だった。
脇役では隣人チャズ役のジェイソン・アイザックがいい味を出していた。立派な腕の女装振りは意外性があって一歩間違えるとぶち壊しになる難しい役柄だが、しっかり見せてくれた。
正統派ラブ・ストーリーはなかなか映画化が難しい時代となったということかもしれない。


『砲艦サンパブロ』 85点

2010-11-17 12:29:39 | 外国映画 1960~79

砲艦サンパブロ

1966年/アメリカ

ピュアな主人公の哀しいサガを好演したS・マックイーン

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

ロバート・ワイズといえば「ウェストサイド・ストーリー」「サウンド・オブ・ミュージック」のミュージカル映画に手腕を発揮した監督だが、レパートリーは広い。リチャード・マッケナの「サンパブロ号乗組員」をロバート・アンダーソンが脚色、R・ワイズが製作・監督した3時間を超える長編大作。
この時代の中国は統一に向かって国内紛争の最中。アメリカは権益と人命を守るためサンパブロ号を出動していた。1等機関兵のジェイク(スチーブ・マックイーン)が派遣されたときは、艦内は事実上中国人に支配され、ダレ切っていた。
無骨で正義感溢れるジェイクは仲間とも中国人とも上手く行かず周りを敵にしてしまう。親しくなったのはフレンチー(リチャード・アッテンボロー)だけで艦長も持て余すありさま。
国内紛争が激しくなるにつれ外国人の排斥運動が過激となり、親米の中国人も攻撃の対象となってゆく。乗組員ポ・ハン(マコ・岩松)も犠牲となり、ジェイクに射殺される。キリスト教普及のため訪れた伝道師やアシスタントのシャーリー(キャンデス・バーゲン)の立場も微妙に。
西洋文明を東洋に普及することの困難さは幕末の日本とオーバー・ラップする。なかでも悲劇は酒場の女・メイリーとフレンチーの悲恋。
この長編を最後まで迫力あるドラマにした功績は壮大な戦争シーンとともにS・マックイーンの好演が欠かせない。職務に忠実であればある程悲劇に見舞われるという哀しいサガの男を演じると右に出るものはいない。私生活とも重なっているのだろう。ジェリー・ゴールドスミスの音楽も独特の雰囲気で盛りたてている。


『クロッシング』 80点

2010-11-16 11:33:06 | (米国) 2000~09 

クロッシング

2008年/アメリカ

アメリカの閉塞感を切り取った警官のドラマ

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「トレーニング・デイ」のアントワン・フークア監督が久しぶりに描いた正義と悪の境界で悩む警官の葛藤ドラマ。脚本はブルックリン育ちでNY地下鉄に勤務していたマイケル・C・マーティンのデビュー作。
退職を7日後に控え何も功績がない孤独なエディ(リチャード・ギア)、麻薬捜査官で5人の子持ちで喘息の妻の病気を気遣うサル(イーサン・ホーク)、潜入捜査官に嫌気がさしながら刑事に昇格するにはボスのキャズ(ウェズリー・スナイプス)のオトリ捜査をしなければならないタンゴ(ドン・チードル)。犯罪多発地区の現場で働く3人の警察官。それぞれが報われない仕事を抱えながら過ごす7日間はイースト・ブルックリンでの撮影によって、とてもリアルでドラマチックに繰り広げられる。原題はズバリ「ブルックリンズ・ファイネスト(ブルックリンの警察官)」で「クロッシング」は邦題。3人はすれ違っても面識はなく、偶然のできごとが多層構造となり終盤で見事に帰結するので邦題も悪くはない。
3人のうち最も悲惨なのはサルで年棒が2万ドルで信仰深く現状を打破するためには広い家に引っ越すしかない。「欲しいのは神の赦しではなく神の助けだ」という悲痛な叫び。「トレーニング・デイ」でデンゼル・ワシントンを追及し逮捕した若き正義漢を演じたE・ホークが演じただけに運命的なものを感じてしまう。
R・ギアは相変わらず芸域の広さを魅せ、等身大の警官が奥底に潜んでいた善を退職した日に発揮した何処までも孤独な男を渋く演じている。
D・チードルは潜入先のボスから命を救われた恩義があり兄のように親しみを感じてしまう人間的な警官。上司ウィル・パットンとその上司敏腕捜査官エレン・バーキンとの3者の関係は組織にがんじがらめになる辛さを描写してとても切ない。
それぞれのドラマは過去にも良く取り上げられているテーマながら3つの話が同時並行的に進むと厚みが俄然違って見える。
ボスのキャズが「NYの犯罪が減ったのはジュリアーニ市長の功績ではなく子供たちがゲームに夢中になって外出しなくなったからだ」という台詞が妙に説得力があった。
男のドラマで女優の出番は少ないがエディが通う娼婦チャンテルに扮したシャノン・ケインの自立した女が新人ながら印象に残った。


『突撃隊』 80点

2010-11-09 11:03:55 | 外国映画 1960~79

突撃隊

1962年/アメリカ

小品ながら職人芸のD・シーゲルと強烈な個性のマックイーン

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

第2次世界大戦も終わろうとするジーグ・フリード要塞線予備軍の人間模様を描いた戦争ドラマ。
ドン・シーゲル監督の出世作とも言われ、小品ながらアイデアたっぷりな描写の職人芸で魅せる。主演はスチーヴ・マックイーンで、酒がもとで降格された反抗的な兵士役(リーズ)を強烈な個性で演じ、彼が大スターへの道を歩みかけた雰囲気が滲み出ている。
戦利品収集家のコービー(ボビー・ダーリン)、部下から頼られるパイク軍曹(フェス・パーカー)、技術専門兵ヘンショー(ジェームズ・コバーン)、リーズと対立するリーダーのラーキン軍曹(ハリー・ガーディノ)など兵士たちの人間模様も描きながら、最大のヤマ場へ。わずか6人で援軍が来るまで要塞を守る極限の状態でリーズがとった行動が、決してハッピーエンドではない強烈なエンディングとなる。
コミカルなシーンも随所に見られ、岡本喜八を思わせるところも。同年秋に放送開始したTV人気番組「コンバット」に似た設定でもある。音楽がレナード・ローゼンマンのせいか?


『バード(1988)』 80点

2010-11-08 14:23:23 | (米国) 1980~99 

バード(1988)

1988年/アメリカ

ビパップの創始者に入れ込んだC・イーストウッド

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆90点

「アメリカ文化はジャズとウエスタンしかない」という自論のクリント・イーストウッドが映画化をしようと製作・監督するまで6年間かかったというビパップの創始者チャーリー・パーカーの伝記映画。イーストウッドがゴールデングローブ監督賞、F・ウィテカーがカンヌ映画祭の主演男優賞を受賞している。ドラッグと酒に溺れたジャズマンの物語だけにしたくないというイーストウッドの想いが画面から滲み出ている。
主演はチャーリー・バード・パーカーにフォレスト・ウィテカー、その妻チャンにダイアン・ヴェノーラ。ヘロイン中毒死した父、コンテストでシンバルを投げつけられた少年時代のトラウマを引きずりながら、ビバップの殉教者として孤高の世界を歩むバード。その繊細な神経を理解して守り続けた妻との人間ドラマに仕上がっている。ディジー・ガレスピーとの友情や、当時の人種差別や音楽評価が地域により差があることなど、2時間40分という長さは逸話をフンダンに入れ込んで、編集でのカットが忍びなかったのだろう。それだけ思い入れのある作品だが、ジャズファン以外には間延びして見えてしまう。
画面が暗く目を凝らさないと良く見えない映像もつらいが、音源をパーカー自身の演奏を取り出しレイ・ブラウン、ロンカーターなど錚々たるメンバーが演奏したものを被せている音楽は感動もの。監督業に専念したC・イーストウッドのこだわりがここにも見える。