・<リンカン郡の死闘>をチザムの視点で描いた西部劇。
西部劇の無法者として名高いビリー・ザ・キッドが関わったニューメキシコ・リンカン郡の死闘。ここに牧畜王国を築き、<ぺコスの王者>と呼ばれた実在のジョン・チザムを主人公にした西部劇。チザムを演じたのは貫録充分のジョン・ウェインで、監督は「シェナンドー河」(65)、「大いなる男たち」(69)のアンドリュー・V・マクラグレン。
プロローグで馬に乗ったJ・ウェインのシルエットが映った途端、テーマ・ミュージックとともにその世界に引き込まれる。大牧場主・チザムは古くからの手腕でぺコス河一帯に10万頭の牛を所有している。当時は現金より牛が価値を決める時代だった。かたや新興勢力のローレンス・マーフィー(フォレスト・タッカー)が、経済・司法・政治の権力者を抱き込みながら台頭しつつあった。
衝突のキッカケは英国人牧場主タンストールの所有する牛を、マーフィーが奪ったことに意義を立てるために、州知事に直訴の途上で保安官助手らに射殺されたこと。タンストールと親しかったチザムは保安官助手を捕まえ裁判にかけようとするが、放浪していたところをタンストールに牧童として雇ってくれ堅気になろうとしていたボニーことビリー・ザ・キッド(ジョフリー・デュエル)が怒りのあまり射殺。もうひとりの敵・エヴァンスを倒すことに躍起となる。
ここにチザム対マーフィーの対決の構図が明らかになる。史実はチザムとビリーは必ずしも信頼厚い仲ではなかったようだ。本作では姪のサリーが東部からやってきてそのパーティでビリーと仲良くなるが、チザムが快く思わずそれとなく忠告している。その結果サリーはビリーの牧童仲間だったパット・ギャレットと結ばれることになる。西部劇ファンならその後チザムの推薦で保安官となったP・ギャレットがビリー・ザ・キッドを射殺するのは周知のとおり。
実在のチザムは正義漢溢れる大ボスとはいえないところもあったようだが、J・ウェイン扮するチザムはバッファローの大群を暴走させ乗り込む正義の男そのもの。マーフィーとの1対1の殴り合いまでしてJ・ウェイン健在ぶりを見せている。
「勇気ある追跡」(68)でオスカーを獲得したJ・ウェインの出番は、スターで見せる正統派西部劇としては思ったより少なく、この種の作品の円熟期であることも予感させる。
西部史に名高いリンカーン郡戦争の中、ニューメキシコの広大な原野に牧畜王国を築き上げ、冒険と波乱の生涯を送ったチザム(ジョン・ウェイン)の実録の映画化作品だ。
チザムの親友のジェームズ・ペッパーにベン・ジョンソン、彼らと対立する黒幕の親分ローレンス・フィーにフォレスト・タッカー、連邦保安官パット・ギャレットにグレン・コーベット、無法者ビリー・ザ・キッドにジョフリー・デュエルという配役で、西部劇ファンとしては嬉しくなる顔ぶれだ。
この映画は銃撃戦やスタンピードという牛の大暴走などの見せ場も多く、西部開拓史上に名高い人物たち、特に、後に宿命の対決をすることになる無法者ビリー・ザ・キッドと名保安官パット・ギャレットの若き日の姿(といってもビリー・ザ・キッドは21歳でその生涯を閉じた)が、描かれているのも興味深い。
しかも、ビリー・ザ・キッドと言えば、左ききのガンマンとして有名だが、この映画では史上初めて右ききで登場してくる。
彼の写真が実は裏焼きだったので、ずっと左ききだとされてきたが、右ききが本当だったのだ。
かつて二挺拳銃のジョニー・マック・ブラウンをはじめ、ロバート・テイラー、オーディー・マーフィー、ポール・ニューマンと、歴代の左ききのビリーはみな魅力的だったが、それだけに、この映画の右ききのジョフリー・デュエルが扮しているビリーが少し見劣りするのは仕方がないだろうと思う。
この映画は実録とは謳っているが、実説とはかなり違っているものの、とにかく、牛の大暴走場面あり、ガン・プレイあり----と、西部劇ならではの見せ場を次々と盛り込むサービスぶりで、かなり爽快感が味わえるのは確かだ。
ベテランのアンドリュー・V・マクラグレン監督が悠々たるタッチで西部劇の楽しさ、面白さを詰め込んだ作品になっていると思う。