晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「バニー・レイクは行方不明」(65・英)80点

2020-09-26 12:10:28 | 外国映画 1960~79


 ・ 名匠O・プレミンジャー監督が描いたサイコ・サスペンスの傑作。


 4歳の少女行方不明事件を巡る異様な事件を描いたサイコ・サスペンス。製作・監督のオットー・プレミンジャーがイスリン・パイパーの原作を推理作家モーティーマー夫妻に脚色を依頼、謎解き後もハラハラ・ドキドキのモノクロ107分。
 「枢機卿」(63)のキャロル・リンレー、キア・デュリア、ローレンス・オリビエが共演している。
 
 アメリカからロンドンへ越してきたアン(C・リンレー)は4歳の娘バニーを保育園に迎えに行くが何処にもいない。預かったはずの保育園では誰も知らないと言われ、ジャーナリストの兄スティーヴン(K・デュリア)に助けを求める。
 ふたりで園内を必死に捜すが、何処にも見当たらず警察へ連絡する。捜査に当たったニューハウス警視(L・オリヴィエ)は関係者を事情聴取の結果、そもそも娘は架空の存在でアンの妄想では?という疑念を抱く・・・。

 お馴染みの行方不明ものは古くは「バルカン超特急」(38/ヒッチコック監督)、近年では「フライト・プラン」(04/J・フォスター主演)、「フォーガットン」(J・ムーア主演)などあるが、いずれも謎解き後落胆しかねない残念なときが多いが、本作は最後までガッカリさせない。

 「サイコ」(60 A・ヒッチコック)、「コレクター」(65 W・ワイラー)と並ぶ心理サスペンスの傑作と言われるだけはある。

 シナリオの巧さとデニス・クープによる長回しのカメラワーク陰影のある映像がドラマの緊迫感を持たせるのに貢献し、サディスティックなプレミンジャー演出に堪えたC・リンレー、K・デュリア。
 加えて中盤以降登場する冷静沈着な警視にL・オリヴィエ、引っ越し先の如何にも嫌らしい大家に劇作家であるノエル・カワード、一風変わった保育園創始者にマーティタ・ハントを配し、観る者の眼を離させない。

 密室や人形・ブランコなどキイになる設定や小物がサスペンス感を盛り上げ、殺人事件ではないのにこれだけ恐怖感を表したドラマは一級品で、今後も本作を凌ぐものはなかなか出てこないのでは?

 ソール・バスのタイトルデザインがオープニングとエンディングに使われたオシャレなサスペンスは、日本では劇場公開されず幻の傑作といわれたが、近年TV放送されサスペンス・ファンを喜ばせた。
 筆者もその一人だが、たったひとつ注文をつけるとすれば、<アンは何故わざわざロンドンに越してきたのだろう??>

「ボーダー」(81・米)70点

2020-09-22 14:31:26 | (米国) 1980~99 


 ・ J・ニコルソンのイメージ・ギャップを楽しむヒューマン・ドラマ。


 名優ジャック・ニコルソンがテキサス州エルパソの国境警備隊員に扮したサスペンス・ドラマ。監督はトニー・リチャードソン。ハーヴェイ・カイテル、ウォーレン・ウォーツなど個性派が脇を固めていて期待大。

 ニコルソン扮する警備隊員に、派手好みで浪費家の妻と貧しいメキシコ人女性を対照的に絡ませ、さらに私腹を肥やす警備隊員たちの姿を俯瞰で捉えることで不法入国の実態を描いている。

 テキサスの農業従事者にとって、メキシコ人の安い労働力なくして立ち行かないため不法労働者は必要不可欠な存在。経済状況が苦しく治安が悪いメキシコから安全なアメリカへ逃れようとするメキシコ人。今でも40年前と実態は好転していないのだ。

 そのボーダーラインで任務についている警備隊員はいたちごっこを容認するか、それにつけ込んで私腹を肥やすのか二者択一状態で主人公はどちらなのか?

 主人公のチャーリーは「シャイニング」(80)、「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(81)のJ・ニコルソンのキャラクターから当然一筋縄では行かないだろうと推測するが、意外にも善悪をわきまえたいい人だった。

 同僚の隣人キット(H・カイテル)から悪事の誘いを頑なに断り、幼い弟ファン(マニュエル・ビエスカス)と乳飲み子を抱えたマリア(エルピディア・カリーロ)の救済に尽力する姿は何か企みがあるのでは?と勘ぐる程。
 おまけにレッド隊長(W・ウォーツ)まで賄賂を貰っていることを知りカモに餌やりをしていたロス警官時代からカモを射撃する立場になりかねない状態へ。原因は後払いをいいことにウォーターベッドやら家具まで世俗的な贅沢に走る妻マーシー(ヴァレリー・ペリン)の浪費から。

 想定外なことに、<たまにはいい人間でありたい>とマリアの赤ん坊を人身売買から救い、マリアに何の見返りも要求しない。終始ライ・クーダーのマリアッチが優しく語りかけるヒューマン・ドラマと変身していった。

 貧富の差や正義の喪失を描いた社会派ドラマか?それともB級アクション・ドラマか?この頃のJ・ニコルソンのイメージとは違う役柄に浸った110分だった。

「ネバダ・スミス」(66・米)80点

2020-09-16 16:08:41 | 外国映画 1960~79


 ・ 絶頂期のS・マックイーンを味わえる復讐西部劇。


 ハワード・ヒューズをモデルにした「大いなる野望」(64)でネバダ・スミスを演じたのはアラン・ラッドで、彼の遺作となった。
 本作はそのスピンオフ作品で、主演は「大脱走」(63)、「シンシナティ・キッド」(65)でトップスターとなったスティーヴ・マックイーン。同年「砲艦サンパブロ」でも主演した彼の絶頂期でもある。監督は「ナイアガラ」「勇気ある追跡」のヘンリー・ハサウェイ。

 1890年代ゴールドラッシュに湧いたアメリカ西部。16歳のマックス・サンド(S・マックイーン)はある日現れた3人のならず者に白人の父と先住民の母を惨殺され、深い悲しみと激しい憎しみを背負い復讐の旅へ出る。
 
 世間知らずの少年が、復讐のために様々な出来事を重ねながら大人への成長物語を辿るマックイーンの魅力満載アクション西部劇に仕上がっている。

 序盤、30代半ばで16歳の少年を演じるのは流石に無理があるが、ドラマ進行と共に馴染んでくるのは彼独特の風貌と身のこなしの若々しさだろう。
 「拳銃無宿」TVシリーズや「荒野の七人」(60)でガンマンのイメージが濃い彼が、鉄砲鍛冶屋のジョナス・コード(ブライアン・キース)に銃の扱い方を教わるシーンはファンにとってとても新鮮。コードに出合い処世術のイロハを教わったマックスは、何度も危ない目にあいながら犯人を一人づつ追い詰めて行く・・・。

 S・マックイーンはスタントを使わずアクションをこなすことで有名だが、本作でも牧場の柵を外し牛を暴走させるシーンではあわや下敷きになるのでは?というシーンや、牛若丸のように柵の上を跳び回るなど本領を発揮している。
 さらに刑務所でのシークエンスはのちの「パピヨン」(77)を連想させる泥まみれの演技をみせ、終盤は颯爽としたガンマンの姿で幕引きとなる。

 大人への成長物語には序盤のジョナス・コードを始め、それぞれ大切な出合いと別れがあった。
 先住民の娘ニーサ(ジャネット・マーゴリン)やルイジアナの農民の娘ピラー(スザンヌ・プレシェット)との出逢いと別れは仇を討つことしか念頭になかったマックスには恋愛感情を持てない非情さが滲み出ている。
 命が危ういとき助けてくれたザツカルディ神父(ラフ・ヴァローネ)に<人としての在り方>を諭されたマックスは、ネバダ・スミスと名前を変えて最後の主犯トム・フィッチ(カール・マルデン)の悪党仲間となっていた。
 トドメを刺さなかったのは<殺す価値もないから>と言ったのは本音だろうか?

 「アラスカ魂」(60)、「西部開拓史」(62)、「エルダー兄弟」(65)など数々の西部劇を手掛けたH・ハサウェイがS・マックイーン主演で監督するとこうなるだろうと思える集大成の130分だった。
 その後、晩年の「トムホーン」まで彼の西部劇作品が観られなくなったのも頷ける。

 
 

 

 

「拳銃王」(50・米)80点

2020-09-10 15:48:01 | 外国映画 1946~59


 ・ 西部劇へ新風を送ったH・キング監督G・ペック主演によるリンゴ伝説。


 伝説の早撃ちガンマン、ジョニー・リンゴをモデルにグレゴリー・ペックが主演した西部劇。監督は「頭上の敵機」(49)でコンビを組んだヘンリー・キング。

 35歳になったジミー・リンゴは穏やかな生活を送りたいと妻と息子のいるカイエンへ戻ってくる。途中酒場で絡んできた若者エディ(リチャード・ジャッケル)をやむなく倒したため、三兄弟に追われる身となっていた。
 町は早撃ちガンマンを観ようと子供たちが酒場を取り囲み、婦人会は保安官に町を出て行くよう陳情にくるなど騒然とする。
 悪評が一人歩きする伝説のガンマンの平穏な暮らしを願う苦悩を描いた西部劇は、G・ペックのイメージと相俟ってガンマンの決闘シーンが最大の見せ場という従来作品とは違って、男の孤独に苦悩する姿を描いている。

「駅馬車」(39)で若きリンゴを演じていてたジョン・ウェインが出演を望んでいたが実現しなかった。G・ペックが演じることで、見かけは強そうに見えないどこにでもいそうな男が早撃ちガンマンであるというギャップが本作の魅力となった。
 無法者には見えない悪役は似合わない良い意味で彼の大根役者ぶりが効を通した感じで「35歳で時計を持ていない」流れ者の哀しみが伝わってくる。

 キング演出は当時の西部はこんな感じだったのでは?と思わせるリアルな描写で観客を惹き込んで行く。

 共演者には元ワル仲間で保安官マークを演じたミラード・ミッチェル、昔なじみの酒場の主人マックにカール・マルデンが扮し、それぞれ個性溢れる名脇役ぶりを発揮している。
 女優陣では今は学校の教師となっている元妻のヘレン・ウェスコットが無難な演技、戦前のスターであるジーン・パーカーが酒場の歌手で出演して話題を呼んだ。

 ジミーは酒場で出会ったある農夫が嬉しいことがあったので女房に断って一杯だけ飲んで行くという日常に憧れたが流れ者のガンマンにはナイモノネダリだった。
 銃による撃ち合いは冒頭だけという斬新な西部劇はラストシーンも異色で、後ろ姿のガンマンは町のチンピラ、ハントだった。評論家川本三郎はリンゴでは?という新設を説いて西部劇ファンが論議する事態となったが、うがち過ぎでは?
 
 主人公と時間の絡みがハラハラ・ドキドキさせる「真昼の決闘」(52)同様、緊迫感を味わえる西部劇の良作である。 

「ミッドナイト・イン・パリ」(11・米/スペイン)80点

2020-09-04 12:18:31 | (米国) 2010~15


 ・ 20年代パリへタイム・スリップした男のラブ・コメディ。


 ウディ・アレンが三度目のオスカー脚本賞を受賞したラブ・コメディはパリが舞台。NY大好きなW・アレンだがこの頃バルセロナ、ロンドンとヨーロッパに移り、デビュー当時29歳のとき8ヶ月滞在したパリへの憧れをそのままに映画化。
 主演はオーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、レア・セドゥーなど多彩な女優が共演。

 ハリウッドの売れっ子脚本家の主人公ギル(O・ウィルソン)は処女小説を完成させるべくパリ移住を決意。婚約者イネズ(R・マクアダムス)とその両親の観光旅行に便乗し憧れのパリにきていた。
 知ったかぶりの大学教授ハリー(マイケル・シーン)夫妻と名所観光をするうち、二人の心は離ればなれに・・・。

 オシャレなジャズのBGMでまるで観光映画のようなパリの名所旧跡が映されるオープニングの素晴らしさは「マンハッタン」(79)に匹敵するぐらい、ウディならでは。

 おまけにギルがサンテティエンヌ・デュモンヌ教会の12時の鐘とともにプジョーのクラシック・カーが現れ、アナーキーなゴールデン・エイジの20年代にタイム・スリップ。フィッツ・ジェラルド夫妻、コール・ポーター、ジャン・コクトー,ヘミングウェイと出逢い、ピカソ・モジリアーニと暮らしていたアドリアナ(M・コティヤール)に惹かれて行く。

 さらに馬車が現れ、アドリアナが憧れる19世紀末のベル・エポック時代へ。ロートレック、ドガ、ゴーギャンがルネサンス時代への憧れを語る。
 21世紀のカリフォルニアに暮らすギルの憧れは20年代のパリだが、アドリアナはカンカンで賑わう19世紀末に憧れ、ベル・エポック時代の芸術家はルネサンス時代への憧れを語っている。

 いつもの速射砲のような台詞やシニカルな笑いの味は薄く、ウディ好きには物足りない本作は、毛嫌いしていた人や知らない人には受け入れられ彼最大のヒット作となった。

 とはいえハリウッド嫌いの主人公はウディ本人の心情を描いていて、高級ホテルで派手な買い物と名所の観光に明け暮れるアメリカの金持ちや、うわべの知識をひけらかし中身のないインテリへの皮肉はしっかり届いている。

 パリのサロン女主人ガートルード・スタインにキャシー・ベイツ(クレジットの最初に名前がある)を始め、エキセントリックなダリにエイドリアン・ブロディなどを配し、ヘミングウェイやフィッツジェラルド夫妻、ピカソなどそっくりさんを起用、サルコジ元大統領夫人(カーラ・ブルーニ)やフランスのコメディアンガット・エルマリ(探偵)など登場人物で飽きさせないキャスティング力は流石。
 女優陣ではR・マクアダムスが割を食い、フランス女優M・コティヤールでパリの雰囲気をたっぷり惹きだし、出番の少ないR・セドゥーが美味しいところをさらっていった。

 現在が楽しいことばかりではない現実から逃避して懐古趣味に浸りがちだが、今も悪くないと気づくギル。ゴッホの星月夜ではなかったが、アレクサンドル三世橋で雨がお似合いのカップル誕生でエンディングを迎える。
 男性版シンデレラともいうべきギルには、主役なのにクレジット7番目に登場するO・ウィルソンがはまり役で、ソプラノ・サックスが流れるBGMとともにハッピー・エンドが待っていた。