晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「旅立ちの時」(88・米)80点

2023-09-17 12:35:22 | (米国) 1980~99 
・生い立ちとクロスオーバーするR・フェニックスの青春ドラマ。

 社会派監督シドニー・ルメットが逃亡生活している家族愛を描いたナオミ・フォナー原作・脚本により映画化した感動のドラマ。
 クリスティーン・ラーチ、ジャド・ハーシュが両親に扮し、17歳の長男を演じたリバー・フェニックスが好演、オスカー助演男優賞にノミネートされた。

 70年代反戦活動家だった両親はベトナム反戦活動中ビル爆破で犠牲者を出し逃亡生活を送っていた。
 長男ダニーは2歳から生活をともにしてニュージャージーの小さな町で音楽の才能を認められるが、その出仕から未来は思うようになるはずもなかった。

 ダニーを演じたR・フェニックスは「スタンド・バイ・ミー」(86)のクリス役で注目されたが本作の瑞々しい演技で<ジェームズ・ディーンと並ぶ永遠の青春スター>として強烈な印象を残している。

 R・フェニックスは10歳でデビューしているが、幼い頃両親がカルト宗教団体「ファミリー・インターナショナル」に入信していてその布教活動で南アを転々としている。
 まるで本作同様、両親の主義主張から子供たちがその犠牲になってしまう家族の在りようが実体験であったのだ。

 その生い立ちからくるのか?甘いマスクのなかにどこか寂寥感が漂いダニーの役柄にオーバーラップしてくる。
 恋人役ローラに扮したマーサ・プリンプトンともお似合いで実生活でもラブラブだったが長続きはしなかった。
 実生活では薬物使用過多により23歳の若さで亡くなってしまったリバーだが、4歳離れた弟のフォアキンが今や演技派の大スターとなって見事に彼の業績を引き継いでいる。本作で10歳の弟ハリーはその後どのような生活を送ったのだろう。

 ’70年代エネルギッシュな社会派として鳴らしたS・ルメット監督は、感動のラストシーンとともに枯れた演出で一家の未来を託す作品に仕上げている。
  



「遠い空の向こうに」(99・米)75点

2023-07-19 12:03:52 | (米国) 1980~99 


 ・ 実在人物の自伝的小説を映画化した感動の青春ドラマ。


 NASAの元エンジニアだったホーマー・H・ヒッカム・ジュニアの原作「Rokecket Boys」をジョー・ジョンストン監督・ジェイク・ギレンホール主演で映画化。原題「October Sky」は原作のアナグラムとなっている。

 舞台は1950年代ウェストヴァージニアの炭鉱の町に住む高校生ホーマー(J・ギレンホール)がソ連の人工衛星スプートニクに衝撃を受け、仲間4人で「ロケット・ボーイズ」を結成。ロケット開発に夢中になり何度の失敗や困難を乗り越えながら夢を諦めず挑戦するという感動のストーリー。

 炭鉱の町をテーマにした作品は良作が多く、古くはジョン・フォード監督「わが谷は緑なりき」(41)を筆頭に同時代では「ブラス!」(96)・「リトル・ダンサー」(00)など英国映画の名作が多い。日本でも「フラガール」(06)が有名だが、何れも花形産業だった炭鉱が時代に置き去りにされながら懸命に生きる世代と、そこから何とか抜けだそうとする若者たちの世代ギャップを捉えている。
 本作は何しろ英語の教科書にも載っているというほどの有名なハナシなので、友情・家族愛・善き理解者が周囲にいて敵役が殆ど登場しない。
 大きな壁となったのは、封鎖社会環境や頑固で保守的な父と愛情ある母の期待を背負った少年の心の葛藤。炭鉱の町で生きていくには父親のように炭鉱夫になるか、兄のようにスポーツで奨学金をもらって大学進学するしかすべがない。
 そんななか、ロケット遊びと誤解される彼らの善き理解者は教師ライリー(ローラ・ダーン)だった。<夢見るだけでは道は拓けない>、<内なる自分の声を聴け>に励まされ、頑固な父ジョン(クリス・クーパー)を説得、「国際学生科学技術フェア」への道を切り拓いて行く。

 山火事・父の怪我・難病の教師などいくつかの逸話を挟みながら感動のラストシーンへ。 初主演のギレンホールの初々しさと昔気質の父親C・クーパーの父と息子の絆は固いヒモに結ばれていた。きれいごと過ぎるキライはあるものの素直に受け入れて鑑賞できたのは事実をもとにしたドラマだったからだろうか?
 

 
 
 

「恋に落ちたら....」(93・米)70点

2023-07-12 16:48:50 | (米国) 1980~99 


 ・ キャスティングの意外性で魅せたラブ・コメディ。


 NYを舞台に繰り広げられたラブストーリー「恋に落ちて」(84・米)にあやかった邦題だが、原題は「Mad Dog and Gloly」。シカゴを舞台に冴えない中年刑事がグローリー(ユマ・サーマン)というギャングの情婦を巡って描いたラブストーリー・コメディ。マッド・ドッグとは皮肉を込めた彼のあだ名で主演はロバート・デ・ニーロ。
 ギャングのボスを演じたのがシカゴ出身のビル・マーレイで、シリアスなドラマならキャスティングは反対に入れ替えられたに違いない。

 ひょんなことからギャングのボス・フランク(B・マーレイ)の命を救ったシカゴ警察のウェイン(デ・ニーロ)はお礼に美女と1週間過すということに。迷惑がっていたが気弱なウェインはやむを得ず受け入れる。兄の借金4万ドルをカタに情婦となっているグローリーに同情するうち恋心が芽生えてしまう。

 モテない中年男が恋に目覚める様子はコメディの要素だが、ベッド・シーンがシリアス過ぎて笑えない。
 当時ゲイリー・オールドマンと破局したユマ・サーマンは22歳の若さ。本作出演の翌年「パルプ・フィクション」でブレイクするが、気立ての良いピュアな姿はのちの「キル・ビル」(03)とは違った魅力を発揮している。

 ウェインの相棒マイク(デヴィッド・カルーソ)、ボスの用心棒ハロルド(マイク・スター)が、それぞれはまり役で脇を固めているのも見逃せない。

 なんといってもタレ目で愛嬌のあるギャングのボスを演じたB・マーレイが随所で見せるとぼけた味は主演のデニーロを喰う存在で、何より主題曲「Just A Gigolo」がその証となっている。

 
 

「オールウェイズ」(89・米)75点

2023-05-15 15:34:21 | (米国) 1980~99 


 ・ S・スピルバーグ唯一の?ラブ・ファンタジー。

 スピルバーグが好きだったダルトン・トランボ脚本スペンサー・トレイシー、アイリーン・ダン主演による「ジョーと呼ばれた男」(43)のリメイクで、第二次大戦中若い部下の成長を願う上司のハナシから森林火災消火隊員が恋人の幸せを見守るパイロットのラブ・ファンタジーにアレンジして念願の企画が実現した。
 同類の作品に翌年公開された「ゴースト/ニューヨークの幻」がある。

 主人公ピートを演じた「ジョーズ」(75)以来の盟友であるリチャード・ドレイファスで恋人役の航空管制官ドリンダにホリー・ハンターが演じ、親友アルにジョン・グッドマンなどが共演、ともに好演している。
 
 特筆すべきは天使・ハップ役で特別出演したオードリー・ヘプバーンで、これが遺作となったこと。
 両親に連れられてイヤイヤ観た「パリの恋人」(57)でその美しさに魅了されファンになったスピルバーグと「ニューヨークの恋人」(81)以来映画出演依頼を拒否していた彼女が「E・T」(82)を観て彼は天才だと思ったオードリーの念願が叶った作品である。
 出演料(100万ドル)はユニセフに寄付した彼女の天使役はハマリ役といえる。
 公開時に60歳だった彼女は大分老けたなという印象だったが美しさは健在で、たった5分の出演にもかかわらずハップなしでは成立しない作品ともいえる。

 もうひとつ本作には欠かせないのが挿入歌「Smoke Gets In Your Eyes」(煙が目にしみる)。スタンダード・ナンバーだが筆者はプラターズのリバイバル・ヒットで知ってレコードを何度も聞いた想い出の曲だ。
 本編では2度印象的な場面で流れるが、映画と音楽のコラボを心得たスピルバーグと音楽のジョン・ウィリアムスに拍手を送りたい。

  

「鳥」(63・米)80点

2023-03-23 17:20:54 | (米国) 1980~99 


  ・ 衝撃だったヒッチの動物パニック映画の名作。

 ダフニ・デュ・モーリエの短編をアルフレッド・ヒッチコックが大ヒットした「サイコ」(60)の次回作として映画化を企画。
 エヴァン・ハンター(別名「87分署シリーズ」のエド・マクヴェイン)がヒッチのアイデアをもとにシナリオを書いた<突如、鳥の大群に襲われる人々の恐怖を描いたパニック映画>。

 サンフランシスコのバード・ショップでツガイを探していた男に興味を持った新聞社令嬢・メラニーが、ラブバード(オカメ・インコ)を手にボデガ・ベイにやってくる途中、一羽のカモメにヒタイを突っつかれたのがキッカケ。

 メラニーを演じたのはオーディションから選ばれたティッピ・ヘドレン。ボデガ・ベイに住む弁護士ミッチにはロッド・テーラー。グレース・ケリーとケーリー・グラントのロマンティック・コメディのようなスタートからダンダン雲行きがおかしくなってくる。

 ミッチは母(ジェシカ・ダンディ)と年の離れた11歳の妹キャシー(ヴェロニカ・カートライト)の3人暮らし。家族構成もチョッピリ謎めいている。

 心の奥に秘めた人間の心情を掘り下げることに長けたヒッチらしく、ドラマは息子に執着する母親像が垣間見えミッチのメラニーへの接近を快く思っていない。あたかも「サイコ」の続編のような屈折した家族愛が伏線となっている。

 人間に危害を与えることがないはずのカモメやスズメも大量に現れると恐怖の対象となっている。ましてカラスの大群が子供たちを襲うシーンなど一歩間違えると描きようによっては喜劇になりかねない。

 ヒッチは徐々に恐怖感を持たせるために様々なテクニックを用いて何故鳥が人間を襲うのかは謎のままドンドン観客を引き込んで行く。
 恐怖感を持たせるために突然大きな音を出すのではなく電子音による音響のみで鳥の鳴く声を再生し、映像も俯瞰のカメラやカットを重ねこだわりのカメラワークがフンダンに出てくる。なんでもCGで処理する今とは違って60年前は誰もやったことがないシーンをどうやって撮影したのか?スピルバーグが見学にきたのを閉め出したエピソードが物語っている。

 G・ケリーに去られ失意のヒッチが起用したT・ヘドレンはモデル出身の金髪の美女でこれがデビュー作。お気に入りで次回「マーニー」(64)でも起用したが2作のみで終止符。原因はセクハラで晩年(2016年)ティッピの自伝で告白されている。

 美女イジメ?で恐怖感を煽るシーンは電話ボックスに逃げたヒロインがカモメに襲われたり、ミッチの元恋人小学校教師アニー役のスザンヌ・プレシェットが殺されたり事欠かない。

 ネガティブな裏話はあるものの、鳥が突然人間を襲うという原因不明の恐怖感はどこか新型コロナを連想させ、エンディングまで煙に巻いたヒッチの才能とともに名画としての輝きは失われていない。


「ツインズ」(88・米) 65点

2023-01-25 11:19:49 | (米国) 1980~99 


 ・ キャスティングの妙で成立した奇想天外コメディ


 「ゴーストバスターズ」の監督アイバン・ライトマンがアーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デヴィートを起用。性格も容姿も真逆な双子の兄弟を演じたホノボノ・ムービー。

 似ても似つかぬ二人が演じる<35年ぶりの再会から母親探しの旅>は奇想天外なコメディだが、つい引き込まれ最後まで観てしまう。

 政府の肝いりで頭脳明晰で肉体も頑健な優秀な人間をつくるために、6人の優れた男性の精子混合と美しく才能豊かな女性の間に生まれたジュリアス(A・シュワルツェネッッガー)。
 研究対象として35年間孤島で育てられたが、双子の兄がいることを知り島を離れ探しに行くことを決意する。
 ひとりボートを漕ぎ大都会に出たジュリアスがようやく探し当てた兄・ヴィンセント(D・デヴィート)は、似ても似つかぬ風貌で小悪党だった。

 ボディビルダー出身で、80年代「ターミネーター」「コマンドー」などタフなアクションスターで鳴らしたシュワルツェネッガーがコミカル路線へ進出した記念すべき作品。のちの日本ではやかん体操のCMでもお馴染みだが当時シルヴェスタ・スタローンと並ぶ2大アクションスターの彼によるコメディは想定外。
 台詞に難のある彼を逆手にとった役柄で、自慢の肉体美と得意なアクションシーンを随所に挟む工夫が活かされている。
 
 D・デヴィートは「殺したい女」(86)、「鬼ママを殺せ」(87)など、ユニークな容姿・風貌を活かしたコメディ路線で名を売っていたひと。その達者な演技は小悪党ながら家族愛に飢えたカス男の哀しみが溢れ出てくる。

 このふたりの凸凹コンビによる騒動は人間愛に溢れ、最後でホロリとさせてくれる。

 童貞・シュワちゃんを誘う恋人役マーニーをのちのジョン・トラボルタ夫人のケリー・プレストンや、ノークレジットだが話題作「キリングミー・ソフトリー」(01)のヘザー・グラハムが若き日の母親役で彩りを添えている。

 古くは50年代のディーン・マーティン=ジェリールイス、トニー・カーティス=ジャック・レモンなど、コメディ路線はハリウッドの王道を行く設定。80年代後半は再びコンビものが隆盛の兆しを見せ、前年メル・ギブソン、ダニー・グローバーのバディ・ムービー「リーサル・ウェポン」が大ヒットし、同じ年のオスカー作品がダスティ・ホフマンとトム・クルーズが兄弟に扮したロード・ムービー「レインマン」だったのも時代を現わしていて興味深い。

「恋に落ちたシェイクスピア」(98・米/英)80点

2022-11-09 12:01:09 | (米国) 1980~99 


 ・ 英国の雰囲気満載でオスカー7部門獲得した米国映画


 マーク・ノートン プロデューサー のアイデアを劇作家のトム・ストッパードが脚本化した<若き日のシェイクスピアと豪商の娘ヴァイオラとの虚実を交えた恋愛悲喜劇>。スピルバーグ監督作品「プライベート・ライアン」を破ってオスカー作品賞を始め7部門を獲得した。
 舞台演出家で「Qeen Victoria 至上の恋」(97)のジョン・マッテン監督、シェイクスピアにジョセフ・ファインズが扮し、ヴァイオラを演じたグイネス・パルトロウが主演女優賞を獲得している。

 16世紀末のロンドンではカーテン座とローズ座のふたつの劇場がテムズ川の対岸で競いあっていた。ローズ座付き作家のシェイクスピアはスランプに苦しみながら新作喜劇「ロミオと海賊の娘エセル」を書き上げた。オーディションでトマス・ケントという青年に魅了され主役に抜擢する。
 その晩パーティで出会った豪商の令嬢ヴァイオラと出会ったシェイクスピアは一目惚れ、猛烈にアタック。実は彼女にはエリザベス女王も認めたウェセックス卿という婚約者がおり、トマスは彼女の変装だった。
 自分の恋から発想したシェクスピアは新作喜劇を悲劇「ロミオとジュリエット」に改編執筆する・・・。

 架空のメインプロットを諸々の史実を絡ませながらシェイクスピアの戯曲を引用、シェイクスピアに詳しくないひとにも楽しんでもらえる英国舞台劇の雰囲気満載の映画に仕上がっている。

 主演したG・パルトロウは透きとおるような色白の風貌と宝塚の男役のような不思議な魅力が相まってオスカー獲得となった。ウィノナ・ライダーから役を奪い取ったパルトロウ。ロミオ役を勝ち取ったヴァイオラと重なり、人気俳優ネッド・アレン役のベン・アフレックとも恋の噂があったり舞台裏は賑やかだった。「セブン」(95)で共演したブラピと破局し失意のなか本作で起死回生のヒット作の主演から「ダイヤルM」(98)、「偶然の恋人」(00)とスターダムへと駆け上がって行く。

 シェクスピアのJ・ファインズは兄レイフと比べ線が細いが、舞台出身俳優であることを活かしホンモノ感ただよう演技。

 競演した配役陣は枚挙に暇がない豪華な顔ぶれが揃っているのも見どころのひとつ。
 わずか10分足らずの出演で圧倒的な存在感を示し助演女優賞を受賞したエリザベス女王役のジュディ・デンチを始め、経営破綻寸前のローズ座支配人役のジェフリー・ラッシュ、「イングリッシュ・ペイジェント」(96)でレイフ・ファインズの恋敵役を演じたコリン・ファースがウェセックス卿役でもジェフの恋敵として登場。
 高利貸しで薬屋役をもらって喜ぶヒューフェニマンに扮したトム・ウィルキンソンやふたりの恋を陰から支える乳母にイメルダ・スタントンなどがそれぞれの出番で実力を遺憾なく発揮している。

実在の人物をモチーフにコミカルなテイストで歴史の1ページを切り取ったようなこのラブコメディは三谷幸喜が大好きだというが納得だ。
 
 

 


 

「ホワイトナイツ/白夜」(米・85)70点

2022-03-22 16:30:55 | (米国) 1980~99 


 ・ 東西冷戦時代を背景にした友情のものがたりと圧巻のダンスシーン

  ジェームズ・ゴールドマンの原案を「愛と青春の旅立ち」(82)のテイラー・ハックフォード監督が映画化した<東西冷戦時代、バレエとタップダンスの競演を柱にした男ふたりの友情ものがたり>。
 主演はミーシャことミハエル・バリシニコフで共演はグレゴリー・ハインズ、ポーランド人監督でもあるイエジー・スコリモフスキ。エンディングに流れたライオネル・リッチーの「セイユー・セイミー」がオスカー歌曲賞を受賞。

 芸術の自由を求めアメリカへ亡命したソ連のバレエダンサー・ニコライ(M・バリシニコフ)。ロンドン公演から東京へ向かう飛行機がエンジントラブルでシベリアへ不時着。命は助かったがKGBチャイコ大佐(J・スコリモフスキ)に身柄を拘束されてしまう。大佐は黒人タップダンサー・レイモンド(G・ハインズ)の家に同居させ監視役につける。レイモンドはヴェトナム戦争に従軍し自国の政策や人種差別に嫌気がさしソ連へ亡命、ロシア人の妻ダーリャ(イザベラ・ロッセリーニ=I・バーグマンの娘)と暮らしていた。

 最初は反発していた二人だが、お互いの踊りに対する真摯な気持ちにダンダン友情が芽生えてくる。

 冒頭、ジャンコクトーの戯曲「若者と死」でミーシャが踊るシーンで始まる本作は随所にダンス・シーンが入る。なかでもミーシャの11回連続ピルエットや二人のバレエとタップの共演などストーリーに欠かせないシーンはバレエやダンスに詳しくない筆者でも圧巻で見どころのひとつ。

 飛行機の不時着から白夜の脱出までのサスペンス劇に旧ソ連の芸術に対する異常さが感じられるのは、自由の国アメリカから観たソ連に対する批判も込められる。
 現にこの時代はロシアからの亡命が頻発し、主演のミーシャもその一人。ソ連にとって国家の英雄である芸術家やスポーツ選手はプロパガンダの道具となった。ロシアとなった今でもその傾向は続いていて、北京オリンピックでも騒動を起こしている。
 またキーロフ、ボリショイなどバレエの世界公演は外貨獲得の手段でもあったから、亡命のリスクも並存するキライがあった。

 ニコライの恋人だった元プリマドンナのカリーナ(ヘレン・ミレン=のちにハックフォード夫人)はソ連に残りレニングラード(現サンプトペテルブルグ)のキーロフ劇場の支配人として再会を果たしている。こんな美しい恋人とも別れ芸術の自由を求めたニコライ。ソ連に亡命して最初は大歓迎されたがロシア人妻と寂しい暮らしを余儀なくされているレイモンドとは対照的だ。

 ベリシニコフは「愛と喝采の日々」(77)に続く映画出演だが本作はバリバリの主演で自身と境遇の似通った主人公を熱演している。
 対するG・ハインズは西側から共産主義国へ亡命した悲哀を滲ませ、人種差別を承知で母国へ帰還しようとする。

 ラスト・シーンはハラハラ……ドキドキ感とご都合主義のハリウッドらしさが入り交じるが後味は悪くない。

 たとえフィクションとはいえ、本作はウクライナ侵略で世界中から非難を浴びているプーチン政権にとって耳の痛い映画であろう。
 

 

 

「めぐり逢えたら」(93・米)70点

2021-11-07 16:19:06 | (米国) 1980~99 


 ・ 語り尽くされた感のある王道のラブ・コメ。


 「邂逅」(39)をリメイクした名作「めぐり逢い」(57)をヒントに、一人息子と暮らす妻を亡くした男と婚約者のいる新聞記者の出会いをハートフルに描いたファンタジー・ストーリー。原題は「Sleepless in Seattle」
 監督は元ワシントンポスト記者で「恋人たちの予感」(89)の 脚本を書いたノーラ・エフロン。主演は若手コメディアンからの脱皮を図るトム・ハンクスと本作でラブ・コメの女王へと歩み出すメグ・ライアン。

 シカゴに住む建築家のサム(T・ハンクス)は妻を亡くし、シアトルへ8歳の息子ジョナ(ロス・マリンジャー)とふたりで移ってきたが傷心は癒えなかった。
 ボルチモアに住む新聞記者のアニー(M・ライアン)は婚約者ウォルター(ビル・プルマン)とともに実家の両親に引き合わせ、帰りのカーラジオで「シアトルの眠れぬ男」が亡妻の思い出を語るのを聴き涙する。

 「めぐり逢い」はパートナーのいる音楽家と運命的な出会いがあって、2月14日エンパイア・ステート・ビルで再会を約束するというストーリー。テーマ曲「An Affair To Remember」が印象的なすれ違いドラマの代表的な映画。

 本作では偶然というよりかなり強引な出会いだが<パパに新しい奥さんを>とラジオでリクエストする健気で微笑ましい息子の縁結びの行動で緩和されている。
 スヴェン・ニクヴィスト撮影監督による叙情溢れるシアトル、ボルチモアの街並み風景映像とともにスタンダード・ナンバーがオープニングから随所に流れ、ティファニー、プラザ・ホテル、エンパイア・ステート・ビルでエンディングとなるラブ・ストーリーにはもってこいの設定だ。

 今ではSNSで簡単に遠距離で交流が果たせるが、90年代では限られた人以外検索不能だった時代。職業柄のメリットでアニーは探り当ておまけに興信所まで使って人となりを知って取材するという境遇にあったものの、自分の心が揺れる中ストーカー状態に陥るためらいもあり最初の出会いは挨拶のみで失敗する。
 
 サムには恋人候補ヴィクトリア(バーバラ・ギャリック)、アニーには婚約者ウォルターがいるが観客にはお似合いではないことを予め伝えるシーンが用意されている。二人ともいい人だがヴィクトリアはけたたましい笑い声でジョナが懐きそうも無く、ウォルターは誠実だが面白みが無くアニーが心底からときめいていない。

 クリスマスからバレンタインまで冬のラブストーリーとして語り尽くされた感のある王道のラブコメは、時代とともに違和感を持つ若い人も多いと聞く。

 筆者には「めぐり逢い」を始め「危険な情事」「打撃王」「特攻大作戦」などの名画や、「時の過ぎ行くままに」「オーバー・ザ・レインボー」「スターダスト」が随所に流れるだけで懐かしい気分にさせてくれる作品として印象深い。

 N・エフロン、T・ハンクス、M・ライアンのゴールデントリオは「ユー・ガット・メール」(98)で再会を果たすが、本作でジュリア・ロバーツ、キム・ベイシンガー、ミシェル・ファイファー。ジョディ・フォスターなどの候補者に代わって主演したM・ライアンのロマコメの女王最盛期でもあった。

 
 


 

「アウト・ブレイク」(95・米) 70点

2021-10-11 12:14:48 | (米国) 1980~99 


 ・ 豪華キャストでバイオハザード(微生物災害)の恐怖を描いたサスペンス・アクション。


 エボラ出血熱の感染危機を描いたリチャード・プレストンのノンフィクション小説「ホットゾーン」を下地に映画化したサスペンス・アクション。ダスティン・ホフマン、レネルッソ、モーガンフリーマンなど豪華キャストで、監督は「U・ボート」(81)・「ザ・シークレット・サービス」(93)のウォルフ・ガング・ペーターゼン。

 ’67、アフリカ奥地モターバ川流域の小さな村で発生した原因不明の伝染病により、村人と米国傭兵部隊が犠牲となった。
 およそ25年経ったカリフォルニアで同じ症状の伝染病が発生、米陸軍伝染病研究所のサム・ダニエルズ大佐(D・ホフマン)がチームの指揮を執ることに・・・。

 ハリウッド王道である<軍隊が絡むヒューマン・ドラマ>の荒唐無稽なご都合主義との批判もありながら、なかなかスリリングで大いに楽しめた。

 主演のD・ホフマンは一見ミスキャストに思えたが、元妻レネ・ルッソへの未練を抱えながら未知の病原菌との闘いに挑むチームリーダーらしい正義漢を好演している。
 共演したレネ・ルッソは前作(ザ・シークレット・サービス)同様CDC(アメリカ疾病予防センター)で働くビューティフル・ウーマン役。M・フリーマンはサムの上司でもあり親友でもあるが研究トップとの板挟みで悩むおいしい役どころ。研究トップのドナルド・サザーランドは多少の犠牲を厭わず大義を重んじる指揮官で敵役を一手に引き受けている。
 研究チームにはケヴィン・スペイシーやキューバ・グッデング・JRが扮し、バイオハザード(微生物災害)に立ち向かうその役柄はいずれもはまり役。

 地下鉄サリン事件の翌月公開された本作。前半はエボラ出血熱を下地にしたリアルさもあって、フィクションながらウィルスが生物兵器として使われる恐怖を実感するエンタテインメント作品に仕上がっている。
 今回の新型コロナも武漢の研究所の動物が発症源では?との噂もあり、サルから感染拡大する様子もあながち荒唐無稽とはいえない。

 密猟されたサルから密売人とその恋人、ペットショップの店長、血液検査技師、映画館でくしゃみによる空気感染ととてもシリアスな感染爆発は、コロナ渦のいま観るには辛いものがある。
 正しい情報をもとに冷静な判断が必要だと感じつつ見終わった。