晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「さすらいのカウボーイ」(71・米)85点

2020-08-20 12:03:58 | 外国映画 1960~79


 ・ P・フォンダ主演・初監督作品は<幻の傑作>と言われた西部劇。


 「イージーライダー」(69)でニューシネマの寵児として脚光を浴びたピーター・フォンダが、デニス・ホッパーと別れ挑んだのは19世紀末西部を舞台に繰り広げる詩情豊かな人間ドラマだった。

 放浪の末7年ぶりに親友アーチ(ウォーレン・アーツ)ともども妻子のもとへ帰ってきたハリー(P・フォンダ)。突然戻ってきたハリーに妻のヴァーナ(ヴェルナ・ブルーム)は夫だとすぐには気がつかなかったが、働き手として二人を納屋に泊めることに・・・。
 二人が結婚したのがハリーが二十歳でヴァーナが30歳のとき。男女の仲とはいえハリーはヴァーナに母性愛を感じていた。娘が生まれ家庭を守るという責任感と田舎の農場で暮らすシガラミに耐えられなくなり、僅か1年半で家族から逃避していた。
 娘に父は死んだといっていたヴァーナだが直向きに働く二人を次第に受け入れ、夫婦の愛も取り戻すのを見届けたアーチはカリフォルニアへ旅立って行った・・・。

 撮影を担当したのはヴィルモス・ジグモンド。スローモーション、オーバーラップを多用し光と影の自然光を活かした静謐な映像が人生を彷徨う男たちとオーバラップして、「ギャンブラー」(71)とともに彼の映像の冴えが光る代表作となった。
 ギターとバンジョーの音色を全編に流したブルース・ラングホーンの音楽も一層西部の詩的な風景とマッチして自然美を醸し出していた。

 P・フォンダは自分のギャラを削ってまで「ワイルド・パンチ」(69)のW・ウォーツを指名して、男同士の友情を超える堅い絆を描いている。
 同時に妻役にV・ブルームに、従来の西部劇にはなかった去って行った夫への愛情と憎しみ・寂しさを持つ複雑な女の心情を見事に具現化させている。
 従来の西部劇に登場する女性像を覆す農場の女役で、そのためノーメイクや質素な衣装でリアル感を追求して彼女から反感を買ってしまってしばらく断絶状態になってしまうほど。
 生活の匂いがするリアルな心情を吐露する役柄はとても斬新で、彼女はこの好演から「荒野のストレンジャー」(72)の宿屋の女主人、「バッジ373」(73)の情婦など印象的な役に繋がっていく。
 
 この二人の的確な人物描写と臨場感たっぷりな銃撃戦などリアリズム追求のウェスタンは、公開時一部専門家の高評価に繋がったが興業的には失敗。<幻の傑作>と言われたが21世紀になってディレクターズ・カット版で復元され脚光を浴びるようになった。
 晩年まで活躍したP・フォンダだが、心血を注いで製作した本作は彼の代表作で余韻の残るラストシーンは筆者最大のお気に入り。疎遠だった父親が残した数々の名作西部劇にひけを取らない名作だ。

「新・ガンヒルの決斗」(71・米)70点

2020-08-15 12:58:48 | 外国映画 1960~79


 ・ H・ハサウェイ監督による最後の異色西部劇。


 30年代からあらゆるジャンルを手掛けた娯楽映画の職人監督ヘンリー・ハサウェイ最後の西部劇。ウィリアム・ジェームズの原作「ローン・カウボーイ」を脚色した本作の原題は「Shoot Out」。主演は「大いなる西部」(58)のグレゴリー・ペッグ。

 J・スタージェス監督の「ガンヒルの決斗」(58)とは無関係で、銀行強盗の刑期を終え出所したクレイ(G・ペッグ)が裏切った元相棒サム(ジェームズ・グレゴリー)への復讐のため向かった場所がガンヒルだったためこの邦題がついた。

 もうじき7才になる少女デッキー(ドーン・リーン)を連れてのロード・ムービーはむしろハサウェイ監督の「勇気ある追跡」(69)のテイストで、スタッフが同じなのも頷ける。

 本国アメリカの西部劇は70年代を迎えニューシネマ時代となって行く。その狭間で昔ながらの正義が悪を倒す西部劇とはひと味違う西部劇が作られたが本作もそのひとつ。

 G・ペックは西部劇出演も多いが、何と言っても「アラバマ物語」(62)を代表するアメリカの良心を具現化するインテリジェンス溢れる人物のイメージがある俳優。
 その彼が元銀行強盗で馴染みの女がアチコチにいる役柄は不似合いで、どうしてもいい人に見えてしまう。

 元恋人から現金と一緒に届けられた少女がもうじき7才というのは、実の娘かが極めて微妙な設定。足手まといになるのを承知でガンヒルへの旅は、まるで筆者がお気に入りの「ペーパームーン」風ロードムービーの趣。
 川で身体を洗い焚き火で暖めたり、ホットケーキを焼いたりするシーンは親子のキャンプのよう。一方野生のポニーを捕らえるが母馬に返したり、牧場のポニーを盗んでも母馬がいないから良いというデッキーがいじらしい。結局持ち主から15ドルで買うなど流石G・ペックのイメージは壊さない筋書きだ。
 デッキーを演じた天才子役D・リーンは達者な演技で準主役的存在だ。

 雨宿りで寄った未亡人ジュリアナ(パット・クイン)宅では復讐はどうでも良さそうな展開だったが、サムが雇った殺し屋ボビー(ロバート・F・ライオンズ)の3人組が邪魔に入る。
 ウィリアム・テルのマネをして子供の頭にリンゴを乗せ拳銃で撃つという悪趣味でハラハラさせるが、未亡人が自分の息子ではなくデッキーを選んだというところを見せる意図なので仕方なかったのかも・・・。

 サムはクレイとの決着はお金で解決しようとするが、ボビーのような悪党を雇ったことが間違いだった・・・。

 終盤の展開に甘さが目立ったのは残念だが、熟年を迎えたG・ペックの西部劇は暑い夏の昼下がりを充分楽しむことができた。

 

 


「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」(13・英)75点

2020-08-12 16:23:43 |  (欧州・アジア他) 2010~15


 ・ 何気ない日常の大切さを描いたR・カーティスの監督引退作。


 タイムトラベル能力を持つ青年が本当の愛や幸せとは何かを再確認していく姿を描いたSFロマ・コメ。古くは「Mrビーン」や「フォー・ウェディング」(94)、「ノッティング・ヒルの恋人」(99)や「ブリジット・ジョーンズの日記」(01)の脚本を手掛け、「ラブ・アクチュアリー」(03)で監督デビューしたリチャード・カーティス監督三作目にして引退作。

 イギリス南西部コーンウォールに住むティム(ドナルド・グリーソン)は両親と妹・キットカットの4人暮らし。21才の誕生日に父(ビル・ナイ)から一家の男はタイム・トラベル能力があると知らされる・・・。それは未来には行けないが過去に訪れた場所には可能というもの。

 家族との時間を大切にするため50才でリタイアし読書三昧の父の「<金儲けでなく自分の理想の人生のために>使いなさい。」という言葉を胸に、恋愛には不器用なティムは密かに恋に使うことを決意する。

 誰にも<時間を巻き戻せたら違う人生を選んでいた>と思う事柄が幾度となくあるが、その能力を持った主人公ティムの人生は?

 初恋の女性シャーロット(マーゴット・ロビー)とはすれ違うが、ロンドンで巡り会ったメアリー(レイチェル・マクアダムス)とは紆余曲折はあったものの見事プロポーズ成功!
 再会した小悪魔的な魅力のシャーロットからの誘いを断り、笑顔がキュートなメアリーをタイムトラベルを駆使してゲットするティムの涙ぐましい姿は微笑ましい。

 前半は妹への愛情や親友ハリー(トム・ホランダー)への友情が恋の行方を邪魔しながらも究極の選択を巧く乗り切ったティム。だが、どんな家族にも起こる不幸や波風はタイム・トラべル能力では回避できないことを知る。

 いささか後付ルールや矛盾はあるが、コーンウォールとロンドンの風景を軽やかな音楽で切り取ったシークエンスはオシャレな台詞のドラマ展開とともにSFは味付けであると納得させられる。

 後半は父と息子のドラマとなり、監督のテーマが浮き彫りされる。それは、何気ない一日を繰り返し過ごすことが人生最大の喜びであるということ。海辺の散歩と卓球が今日を生きることなのだ。
 素敵な父親を演じたティム・ロスの存在感が際立って見えた。

 新型コロナ感染拡大と猛暑の夏、改めて何気ない日常の大切さを本作で味わうことができた。

 




 
 

 

「理由」(95・日)75点

2020-08-07 17:43:08 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 


 ・ 宮部みゆきのミステリーを忠実に映画化した大林宣彦の豪腕ぶりを楽しむ。


 映画化が不可能といわれた直木賞受賞作品、宮部みゆきのミステリー小説を大林宣彦監督が豪華キャストで映画化。

 東京の下町荒川のタワー・マンションで4人家族の惨殺事件が発生。警察が調べてみると被害者たちはその部屋の住人ではなく、全く別の住人だったことが判明する。
 容疑者の男が簡易宿泊所にいると少女が交番に知らせてドラマが始まる・・・。

 今年4月に逝去した大林宣彦監督。その長いキャリアのなかでも節目となる異色作で、「異人たちの夏」(88)と並ぶ東京下町の風景を描写した筆者のお気に入り作品だ。

 登場人物は107人でノーメイク、出演順にクレジットが出てくる。今では故人となってしまった懐かしい著名人たち(永六輔・立川談志など)が特別出演しているのも話題のひとつ。

 大嵐の夜、マンションから墜落した男を発見した管理人(岸部一徳)が狂言廻しとなり、住民たちの証言がドキュメンタリー取材のようにカメラに向かって語られる。男は2025室から墜落したが、隣の住人2024室(久本雅美)、2026室(小林聡美・風見章子)の証言はコミュニティの希薄さが明確となって捜査は難航を極める。

 殺人事件であるが、警察が華々しい活躍をする犯人捜しのミステリーではないようだ。

 2025に住んでいたはずの小糸一家、容疑者として浮かび上がった石田直彦(勝野洋)とその家族、被害者の砂川とその妻里子・実は秋吉勝子(古手川祐子)、墜落死した八代祐司(加瀬亮)とその恋人・宝井綾子(伊藤歩)とその家族など、記憶を辿ることと再現シーンで複雑な事情を抱えながら事件に関わっていることが明らかになってくる。

 それは家族の基盤である住宅事情を背景にバブルの落とし子的存在の超高級マンションの売買に絡む殺人事件で、それぞれの人間の願望をあぶり出して行く。

 登場人物が非常に多いドラマだが、著名な俳優たちが演じているため人物を混同することもなくドラマの行方を追うことができるのはメリットで、これだけのキャスティングを組めたのは大林監督ならではのことだ。

 小林聡美、宮崎あおい、風吹じゅん、松田(熊谷)美由紀、伊藤歩、高橋かおり、裕木奈江、中江友里など大林作品出身女優が多数出演。重要な役柄の少女役には映画初出演の寺島咲を起用し、アイドル育成の手腕はいまだに健在だ。

 ノスタルジックなファンタジー満載の本作。ホラー好きらしいエンディングを含め、原作を忠実に映像化しながら宮部ワールドとはまるっきり違う大林カラー満載の160分だった。

「息子」(91・日)80点

2020-08-01 15:04:42 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 


 ・ 時代を切り取った山田洋次監督の最高傑作といわれた家族のドラマ。


 妻に先立たれ岩手の山村で暮らす父親と東京でフリーター生活をしている息子との対立と和解を描いた人間ドラマ。椎名誠の短編をもとに還暦を迎えた山田洋次が脚本化・監督し、朝間義隆が共同脚本、三國連太郎・永瀬正敏が親子役で共演。

 山田洋次といえば日本を代表する監督だが、絶えず<家族の幸せとは?>をテーマに描いてきた。なかでも本作は敬愛する小津作品を意識した傑作との評価が高く、筆者も好きな作品のひとつ。

 まだ60代で偉丈夫な三國に老いた老人役はミスキャストでは?と思わせるが、役にのめり込んだら人物に成り切ることには定評がある三國は背中で孤独な老人役を見事にこなして魅せた。

 「ミステリー・トレイン」(89)でジム・ジャームッシュ作品に出演して注目された永瀬は、心優しい東北出の純朴な青年だが自分に自信がもてず都会で彷徨う若者を等身大で演じている。その後も「隠し剣鬼の爪」(04)で山田監督、「あん」(15)で河瀬直美監督作品に主演、「パターソン」(16)でジャームッシュ作品に出演するなど、息の長い俳優として存在感をみせているのは流石。

 時代はバブル末期で夜もネオンが輝き喧噪に包まれ華やかな都会だが、主人公・哲夫のように片隅で暮らす若者や、下請け鉄工所で愚痴を言いながら慎ましく働く人々がいる。哲夫の兄は千葉のマンションに住む大企業のサラリーマンだが、家族を養いローンを払うため仕事一筋。都会に暮らす子供と過疎化が進んで行く農村を守ろうとする親世代の葛藤が絵に書いたように浮き彫りにされる。

 父親が戦友会に出席するため上京し戦友と再会し、息子の家族に立ち寄るという筋書きはまさに小津の世界を再現したような展開。
三國の演技は、長男の嫁・原田美枝子に気遣いしながら同居を遠慮する朴訥さで笠智衆とはひと味違う男の律儀さを出していた。

 出来の悪い哲夫が可憐な娘・征子を聾唖というハンデを乗り越え一途に愛し、結婚すると知り心から喜ぶさまは涙を誘う。征子を演じた和久井映見の笑顔も心に残る。

 哲夫の職場などで登場する、いかりや長助・梅津栄・佐藤B助・田中邦衛・レオナルド熊など達者な脇役陣、中村メイコ・ケーシー高峰・松村達雄・奈良岡朋子・浜村純などベテラン俳優たちが脇を固め、ドラマに厚みを出しているのは山田作品ならでは。

 古き善き家庭の在り方への郷愁を誘う幻想的なラスト・シーンにダメ押し感があるものの、円熟した山田演出を堪能できる作品だった。