晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『未来を写した子どもたち』 85点

2008-11-28 15:11:36 | (米国) 2000~09 

未来を写した子どもたち

2004年/アメリカ

ドキュメンタリーの持つ重み

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

NYの写真家ザナ・ブリスキがインド・カルカッタの売春窟で出会った子供達を救うため、写真教室を開いた経緯を写真仲間のロス・カウフマンと一緒に映画化。’05年米アカデミー賞最優秀ドキュメント賞を受賞している。
ここで生まれた子供達は親の仕事、即ち女の子は客を取り、男の子は世話をする以外生きる道がなく、末来を夢見ることがあってもそれを実現する道は閉ざされている。10歳から14歳の子供達はそれぞれ個性豊か。みんな家族を愛し何処か自分をあきらめている。
部外者のザナに心を開いてくれた子供達を何とか救いたいと思い立ち写真教室を開く。カメラを持った子供達はイキイキと街の様子を撮りまくる。
NYでの写真展で一躍評判となりカルカッタでもマスコミの注目を浴びるが、彼らの生活は何も変らない。ザナは教育の大切さを実感し、学校へ行かせるために家族の説得や手続きを粘り強く努力する。
写真家らしく丁寧な映像で子供達の表情もそれぞれ個性的。キルダン(ヒンズー教の詠唱)は売春窟の音楽には相応しくないという論議があったようだが、インドの感性を伝えるのに充分効果的。
カースト制が根強く、折りしもムンバイでテロ行為があったインドで、この映画の子供達は今も生活している。
8人の子供の行く末は、フィクションのようにはゆかないのがドキュメンタリーの持つ重み。是非10年後、20年後の彼らを追いかけて観てみたい。


『レッドクリフ Part I』 80点

2008-11-22 16:41:20 | (米国) 2000~09 




レッドクリフ Part I


2008年/アメリカ=中国=日本=台湾=韓国






まさに「雅俗共賞」の物語








総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
80点





<三国志で有名な「赤壁の戦い」まで>を「フェイス/オフ」「M:iー2」のジョン・ウー監督が念願の映画化。中国を中心に米・日・韓・台・香の6ヶ国(地域)共同制作で、アジアのスターが勢揃いしている。
西暦208年の漢末期・曹操(チャン・フォンイー)軍に追われる劉備(ユウ・ヨン)軍は人民を守りながら敗走するうち、劉備の妻子と離れ離れになってしまう。勇敢な部下である趙雲(フー・ジュン)は単身で救いに戻り、生まれたばかりの吾子を連れ帰るが、妻は吾が子を救うため井戸へ身を投げてしまう。劉備軍の天才軍師・孔明(金城武)は唯一曹操に屈服しない呉と同盟を結ぶために若き君主・孫権(チャン・チェン)を訪れる。そこには孫権が兄とも慕う周瑜(トニー・レオン)がいる。
三国志ファン待望の製作費100億円の超大作だが、予備知識がなくても楽しめるよう冒頭簡単なナレーションや人物紹介のクレジットが入っていたり、とても親切な作りとなっている。そこはNHK大河ドラマを想わせ、製作のテレス・チャンがいう<知識人も大衆も共に楽しめる「雅俗共賞」作品>の風情である。
若い頃読んだ吉川英治の「三国志」を期待したが趣きが違っていて、周瑜と孔明の友情を主題とした<ジョン・ウー版三国志>として楽しめた。何よりも数千人のエキストラや200頭の馬を使った戦闘シーンが圧巻だ。有名な「九官八卦の陣」ではハイスピード・カメラやVFXを駆使しまるで大画面でゲームを楽しむような感覚に陥り息つく閑もない。
三国志には必ず固有のファンがいるためか、関羽・張飛などの将軍達夫々に見せ場を作ってくれていてサービス精神満点。甘寧がモデルと思われる甘興役の中村獅童も頑張っていた。おまけに周瑜とその美しい妻・小喬(リン・チーリン)とのラブ・シーンまであって、観客を飽きさせない。
トニー・レオンは孔明のほうがイメージに合うが、人徳があり尚且つ勇敢な周瑜役をこなして堂々たる主演振り。悪役ながら曹操役のチャン・フォンイーが人間味溢れる存在感たっぷりな演技で流石。PART2も楽しみである。






『シティ・オブ・ゴッド』 85点

2008-11-14 13:37:56 | (欧州・アジア他) 2000~09

シティ・オブ・ゴッド

2002年/ブラジル

子供は環境と教育が大切であることを教えてくれる

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

’60後半~70年代のリオデジャネイロでファヴェーラと呼ばれるスラム街に起きたストリート・チルドレンの物語。事実を元にしたパウロ・リンスの長編を、「ナイロビの蜂」のフェルナンド・メイレレスがカチア・ルンヂとの共同で監督した。ベルリン国際映画祭に出品して話題を呼んだ。
逃げ出した鶏を追いかける一見無邪気な少年達。捕まえてくれと言われ捕まえようとした新聞社でアルバイトをしているブスカベ(アレシャンドレ・ロドリゲス)の後ろには警官隊が...。
彼のナレーションで10年前に遡り、少年ギャング「優しき3人組」のハナシへ。その3人組にモーテル襲撃を提案したのが生まれながらのワルで幼いリトル・ダイス(ドグラス・シルヴァ)だった。
後にリトル・ゼ(レアンドロ・フィルミノ・ダ・オラ)と名前を変え、街へ戻ってくる。
実在した少年達の群像劇を、大半がオーディションで選ばれた200人の素人によって演じられていることで、不自然さを感じさせない作りに貢献している。リオの乾いた空気に展開されるエンドレスの仁義なき戦いは、編集のテンポの良さと相まって、不思議な明るさ?があり青春ドラマの風情もある。
ブスカベが片思いするアンジェリカ(アリン・ブラガ)と、リトル・ゼの親友べネ(フィリピ・ハーゲンセン)との交流は、ブラジル版「明日に向って撃て!」を思わせる。
「子供は環境と教育によってどの様にも変化する」ことを改めて感じさせる映画である。


『伊豆の踊子(’63)』 80点

2008-11-13 12:01:42 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

伊豆の踊子(’63)

1963年/日本

6作品中最高の出来

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

川端康成原作を4度目の映画化。西山克己監督、吉永小百合・高橋英樹のフレッシュ・コンビによる主演。
一高生・川崎(高橋英樹)は孤独感を癒すため伊豆の一人旅に出る。修善寺で出逢った旅芸人の一行栄吉(大阪志郎)と親しくなり、下田まで同行することに。年下の踊子・薫(吉永小百合)は14歳で一目で気になる存在だが、鬼ごっこをするサマはまだ子供だった。
大正時代の学生は今とは違って超エリートで、旅先での扱いは一般人とは違うもてなし振り。それに対し旅芸人は身分の低い扱いでとても恋愛対象にはならない。
川崎のほのかな恋心と、少女から女へ移ろうという薫の心情がとても良く描かれている。サユリストならずとも、無邪気で明るい笑顔と可愛らしい踊り、そしてイジラシイ表情はヒロインとして百点満点。田中絹代・美空ひばりを初め山口百恵など歴代のアイドルが演じたなかでも最高の出来だと思う。
そして脇役が豪華。浪花千栄子と大坂志郎はこの映画を原作のもつ文芸作品の空気をしっかり伝えてくれた。高橋英樹の川崎は爽やか過ぎるキライはあるものの、清潔感溢れる印象で及第点。他にも酌婦のお咲に南田洋子・お清に十朱幸代など出演シーンは少ないが、女の哀れを伝える重要な役どころを演じているのも見逃せない。
ただプロローグとエピローグの宇野重吉と浜田光夫のシーンはなくても良かったのでは?


『キューポラのある街』 80点

2008-11-12 11:19:58 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)




キューポラのある街


1962年/日本






サユリストにとって不朽の名作








総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
90点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





 早船ちよ原作で浦山桐郎の監督デビュー作品。この年のブルーリボン作品賞と17歳の吉永小百合が史上最年少で主演女優賞を受賞。全国のサユリストを感動させた。
 舞台は埼玉・川口市で、キューポラとは鉄の溶鉱炉で鋳物工場が林立している。ジュン(吉永小百合)は中学3年生で父・辰五郎(東野栄治郎)は鋳物職人、弟タカユキ(市川好郎)はガキ大将。
 ジュンはクラスの優等生で、おまけに可愛いマドンナ的存在。階級や人種、男女格差をものともせず元気はつらつで、どのクラスにも必ず実在していた。担任の野田先生(加藤武)ならずとも高校進学を応援したくなる。
 朝鮮景気が終わってリストラにあい一家は苦凶に陥る。職場の最若手・克己(浜田光夫)は組合が助けてくれるというが「アカの世話になるわけにはいかねえ」と断り酒に明け暮れる。
 戦後の復興から経済成長期とはいえ、今とは比べものにならない程貧しかった時代。在日朝鮮人が多く住んでいた東京・板橋で育った筆者とオーバー・ラップしてしまう。
 共同脚本の今村昌平が後に述懐するように<在日朝鮮人の北鮮帰国運動を「地上の楽園」と美化してしまったこと>に不自然さは拭えないが、ジュンとタカユキの貧しいながら逞しく成長してゆく青春ドラマとして記憶に残る作品。






『ボーダータウン 報道されない殺人者』 80点

2008-11-09 13:37:15 | (米国) 2000~09 

ボーダータウン 報道されない殺人者

2006年/アメリカ

社会派サスペンス・ドラマの難しさ

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

アメリカ国境地帯のメキシコ・フアレスに起きた連続女性殺人事件をもとにしたグレゴリー・ナヴァの製作・監督・脚本による社会派サスペンス・ドラマ。
シカゴの新聞記者ローレン(ジェニファー・ロペス)は上司(マーティン・シーン)の命令で、メキシコで起きた女性殺人事件の取材をする。気乗りしなかったが海外特派員を交換条件に現地・フアレスへ。そこは無法地帯で唯一地元のエル・ソロ紙が真実を伝えようとしていた。代表は元同僚で恋人だったアルフォンソ・ディアス(アントニオ・バンデラス)で、6年振りの再会だった。
エル・ソル紙へ助けを求めにきた少女エヴァ(マヤ・ザパタ)を知るうち、その理不尽さに驚かされる。
国境地帯にはNAFTA(北米自由貿易協定)によりTV・PC工場があり先住民が、住む安い労働力が1日3交代で働くことで成り立っている。
そこに働く女性を狙ってレイプされ、殺され行方不明となった女性はこの15年で5000人という驚くべき数という事実。何故警察や政府は放って置くのだろう。G・ナヴァはこれを取り上げることで、ヒューマン・ドラマとして多くの人に観て欲しいと願って映画化したに違いない。
中盤までその雰囲気は充分だったが、地元の財閥サマランカ家のパーティで出会った工場経営者とのラブシーンなどJ・ロペスならではのサービスショットあたりから迷いが見られ、まことに惜しい作りとなってしまった。
アメリカでは上映されずメキシコでも妨害があったというこの作品の製作にも加わったJ・ロペスの熱演には、拍手を送りたい。


『さくらんぼ 母ときた道』 80点

2008-11-08 12:46:15 | (欧州・アジア他) 2000~09

さくらんぼ 母ときた道

2007年/日本=中国

貧しくても豊な大自然に囲まれた母子愛に涙

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「初恋のきた道」の脚本家パオ・シーと日本育ちの新進監督チャン・ジャーベイによる、母子愛の物語。
80年代中国・雲南省の静かな農村住むグゥオワン(トゥオ・グウォ・チュアン)とインタウ(ミャオ・プウ)夫婦。夫は足が不自由で、妻は知的障害を持ちながらも、日々慎ましく暮らしていた。夫婦にはまだ子供に恵まれなかったが、ある夜些細なケンカが原因で家を追い出されたインタウは女の赤ん坊を抱いて戻ってきた。名前をホンホンと名付けられ村長(マーリー・ウェン)の理解のもと育てることになった。
一人っ子政策のこの時代の農村では男の子が欲しいあまり、女の子を捨てることが多かったという。夫婦も突然の環境変化で一端は人の手に渡るが、インタウの盲目的な母性愛に負け引き戻すなど紆余曲折がある。
パオ・シーが育った村にいたおばあさんをヒントに母と子の絆を描いたオリジナルだが、盛り上げたのは豊な大自然の風景とそこに暮らす人々の自然の営みがリアルなこと。夫のグゥオワン役を初め小学生になった娘ホンホンなど地元のオーディションで選ばれたことも、臨場感をさらに増す結果となった。村人達の暖かい見守りと対照的な子供の残酷な冷やかしがドキュメンタリーを観るようだ。
そして特筆に価するのは、美人女優ミャオ・プウ初の汚れ役。体当たりの演技でこなしていて、素直な感動を呼ぶ。
前半の流れが丁寧なあまり後半とのバランスに多少の難があったのと、エンディングがあっけないのに疑問もあるが、涙なくしては見られない感動作。


『赤ひげ』 85点

2008-11-04 12:12:41 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

赤ひげ

1965年/日本

黒澤ヒューマニズムの集大成作品

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

山本周五郎「赤ひげ診療譚」の原作を黒澤明が映画化。三船敏郎とのコンビ、モノクロ作品としても最後となった。原作にある庶民の貧困からくる切なさ、必死に生きるその姿を映しながら黒澤ヒューマニズムを存分に発揮した3時間5分の長編。
最新の阿蘭陀医学を学び、御番医になる筈だった若き医師・保本登(加山雄三)は小石川養生所に呼ばれ通称赤ひげ・新出去定(三船敏郎)に患者を診るように言われる。そこは貧困から医療費が払えない庶民をタダで診療する幕府直轄の診療所だった。一刻も早く退出したい保本は診療もせず酒浸りとなるが、別棟にいる娘(香川京子)の病状を巡り赤ひげの医師としての眼力を見直す。
蒔絵師の六助(藤原鎌足)の臨終を看取り、職人佐八(山崎努)の看病をするうち徐々に「病気の原因が貧困と無知からくる」という赤ひげの言葉に吸引されて行く。最初の患者が岡場所から引き取った少女おとよ(二木てるみ)だった。
「医は仁術」を実践する理想の老医師と若いエリート医師の交流を通して、現代の医療制度への警鐘とも受け取れる内容。<人間の死と向き合い尊厳を改めて問う>黒澤作品共通のテーマを、戦後日本映画のピーク時に黒澤組が渾身の力を籠めて完成させた。その後5年のブランクがあったのも頷ける程、隅々まで行き届いた作りである。
出演陣も若大将シリーズで大スターとなった加山雄三と内藤洋子のコンビが新鮮だが、それ以外はお馴染みの芸達者達。何れも黒澤明に選ばれた人達だ。
大女優・杉村春子、田中絹代を始め団令子、香川京子、桑野みゆき、根岸明美など枚挙に暇が無い。男優も志村喬、笠智衆、東野英治郎、三井弘次、左卜全、渡辺篤が夫々見せ場を作ってくれる。秀逸だったのは二木てるみと頭師佳孝の2人の子役。
ただ「赤ひげ」が強きを挫き、弱きを助け、力もあり、欲が無い理想の人間過ぎて、現実味に欠けてしまう。ヴェネチュア国際映画祭の男優賞作品なのだが...。