晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『グリーン・ゾーン』 75点

2010-05-30 12:59:12 | (米国) 2010~15

グリーン・ゾーン

2010年/アメリカ

反米・反戦?それともプロパガンダ?映画

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ワシントン・ポスト記者ラジャク・チャンドラセカランのノンフィクションをもとにボーン・シリーズ2・3作目を手掛けたポール・グリーングラスが監督。マット・デイモンを主役に据え政治的メッセージを含んだエンタテインメントたっぷりなアクション映画となった。
アメリカではイラク戦争がテーマの映画は歓迎されず、なかなか成立しないなかブッシュ政権交代後ようやく公開されている。「ハート・ロッカー」が人間ドラマとして見事な開花をみせたのに対し、本作品はいかにもハリウッドらしいノンストップ活劇が見せ場の対照的テイスト。
まだイラクが大量破壊兵器を隠し持っていると思われていた開戦後4週間のころ。MET隊隊長のミラー(M・デイモン)が出動3度目も空振りで兵器は見つからず、誤報ではないかと疑いを持つ。国防総省情報局のパウントストーン(グレッグ・キニア)とCIAのブラウン(ブレンダン・グリーン)の諜報合戦の狭間で、ミラーが情報源を探り当てるため核心へ迫ってゆく。
グリーングラス作品の「ユナイテッド93」や「ハート・ロッカー」を撮影したバリー・アクロイドのハンディ・カメラや空撮の臨場感は観客をいやがうえにもその場に引き込む迫力満点。
ミラーにはモデルがいたらしいが、単独で情報源を探すという現実離れした行為は説得力に欠ける。イラク人通訳フレディが「イラクのことはイラク人が決める」という台詞が胸を打つが、欺瞞だらけのこの戦争の悲劇を訴えるには弱い。情報操作というジャーナリズムの問題やアメリカのイラク介入という本質的なことが指摘されないまま、ボーン・シリーズ・イラク編にみえるのがこの映画の功罪か?
主演のM・デイモンはアメリカの正義を代弁するカケガエのない俳優となった。


『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』 80点

2010-05-27 12:10:40 | 外国映画 1960~79




続・夕陽のガンマン 地獄の決斗


1967年/イタリア






イーストウッドとレオーネの名無しのガンマン完結編





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
70点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
85点





前2作よりスケールアップしたセルジオ・レオーネとクリント・イーストウッドの名無しのガンマン完結編。「続・夕陽の・・・」といっても登場人物や時代設定は無関係で原題は「善玉・悪玉・卑劣漢」。’08韓国のキム・ジウン監督「グッド・バッド・ウィアード」はリメイク。
題名のとおり善玉・ブロンディ(C・イーストウッド)と悪玉・エンジェル・アイ(リーヴァン・クリーフ)卑劣漢・トゥーコ(イーライ・ウォラック)の3人が南北戦争末期に20万ドルを巡り争奪戦を繰り広げるストーリー。
「夕陽の・・・」が2人が賞金稼ぎで奇妙な友情を成立させながら盛り上げていったのに対し、今回は3人となってそのバランスがますます微妙になってゆく。おもったよりイーストウッドの印象は出番の割に薄く、主役はE・ウォーラックのよう。生い立ちから無頼になるが執念深く欲張りなのにどこか愛嬌があり魅力的な人物設定となっている。
L・V・クリーフは冒頭に凄みのある殺しの場面があり期待を抱かせる。しかし終盤の決闘までほとんど見せ場がなくファンには物足りない使われ方だった。
なにしろ3時間の長編で、得意のクローズアップと絵画的なカットが盛りだくさんな映像美。ニューメキシコからテキサスへの壮大なロードムービーは、贅沢なシーンが沢山出てきて退屈させない。タランティーノはこの作品をバイブルとしていて、マカロニ・ウェスタンの最高傑作というヒトが多い。「世の中には2種類の人間がいる。」という台詞がでてくる。ロープを巻く奴とそれを切る役目の奴だった2人の関係は、最後に拳銃を構える奴と墓を掘る奴になって、シャレたエンディングへと向かう。
ただシナリオの出来は良いとはいえず、バランスの悪さが目立って不満が残ってしまう。エンニオ・モリコーネの音楽は益々扇情的となって評価が高いが、個人的には前2作のシンプルさのほうが気に入っている。






『荒野の用心棒』 85点

2010-05-26 10:48:28 | 外国映画 1960~79

荒野の用心棒

1964年/イタリア


魅力的なダーティ・ヒーローの誕生

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆90点

黒澤明の「用心棒」をお手本にしたセルジオ・レオーネがボブ・ロバートソンという英語ネームで製作し、スパゲッティ・ウェスタンの第一作。日本では淀川長治の命名でマカロニ・ウェスタンと呼ばれ、多くの西部劇ファンを魅了した。
’58から始まったTVシリーズ「ローハイド」のロディ役で人気を博したC・イーストウッドが、ハリウッドでは他の出演ができないときに声が掛かり、彼の出世作ともなった。レオーネはヘンリー・フォンダを主演に起用したかったが、無名の監督のイタリア製西部劇にOKするはずもなく、チャールス・ブロンソン、ジェームス・コバーンと断られイーストウッドに廻ってきたという。
エンニオ・モリコーネの「さすらいの口笛」が流れ、葉巻をくわえたポンチョ姿でひげ面のジョーが現れただけで詩情溢れる空気がながれ、独特の世界が広がってくる。魅力的なダーティ・ヒーローの誕生である。お手本だった三船敏郎は凄みの中に愛嬌があり、アウトローの否定というメッセージがあったが、イーストウッドは孤高を漂わせ和製ヒーローでは「木枯らし紋次郎」に近いイメージ。「何故マリソル(マリアンネ・コッホ)親子を助けるのか?」ときかれ「昔助けられなかった女がいたから」という台詞は象徴的。
ロホ一家のラモン(ジャン・マリア・ヴォロンテ)との対決まで若干中だるみがあるが、我慢すれば最高のラスト・シーンが待っている。
製作の翌年日本で公開され大ヒットしたが、アメリカではその2年後にようやく公開。「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」と並んでドル箱3部作となった。


『マディソン郡の橋』 85点

2010-05-22 15:45:16 | (米国) 1980~99 

マディソン郡の橋

1995年/アメリカ

性別・年代で評価が分かれそう

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

ロバート・ジェームズ・ウォーラーのベスト・セラー小説を映画化したため公開前から話題になった。おまけにアクション専門と思われていたクリント・イーストウッドの製作・監督・主演で、どのような出来になるか興味深々だった作品。
ストーリーとしては充分理解できる年齢だった15年前の公開時にみたときは、<典型的な不倫ドラマ>の印象が強く、メリル・ストリープの達者な演技とお気に入りのC・イーストウッドには不向きだという記憶しかない。同じM・ストリープ主演の「恋におちて」は同じ不倫ものでも共感できたのは、舞台がアイオワとマンハッタンではムードが違うのだろうぐらいの理解だった。
今回改めて観てみたら、まるっきり印象が違っていたのに我ながらびっくり!自分の人生経験が増したというより、最愛の人との惜別ドラマが実感できるようになったからか?どんな映画でもあることだが、性別・年代で評価が顕著に分かれそうな作品だ。
イーストウッド監督作品では凡作だとおもっていたが、65歳にして枯れない演技に感服。後の監督作品の充実ぶりは、この作品が基盤となったような気がする。


『プレシャス』 85点

2010-05-20 11:37:22 | (米国) 2000~09 

プレシャス

2009年/アメリカ

あざとさのない描写に好感をもった

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

作家で詩人のサファイアの幻想的な原作「PUSH」を「チョコレート」(ハル・ベリー主演)のプロデューサー、リー・ダニエルズが監督した。
自身もハーレム育ちのダニエルズ監督は、貧乏・不幸を背負った境遇から抜け出そうとする少女がたくましく生き続ける姿が、感動の無理強いをすることなく描かれていて好感をもった。これは脚本のジェフリー・フレッシャーによるもので、アカデミー脚本賞も納得。
主演の超肥満体少女・プレシャスのキャラクターが圧巻だ。いとしいとか尊いとかいうミドル・ネームとは正反対で、父親に性的虐待を受け2人目の子供を妊娠し高校を退学。生活保護を受ける母親から憎まれ続け、逃げ場のない家庭に育ちながら、その風貌とはうらはらにどこか優しさとユーモアのある性格。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたズブの素人ガボレイ・シティパが持つ性格を投影しているのだろう。
彼女が現実で不幸なことが起きたとき、想像の世界では幸せなひとときを過ごしている。その幻想的な映像は「嫌われ松子の一生」のようなミュージカル仕立てで不思議な空間を生み出す。
もうひとつの救いは、劣悪な環境から脱出するためサポートする仕組みとそこで働く人たちだ。その代表的な存在はフリー・スクールのミズ・レイン(ポーラ・ハットン)。原作のサファイアはフリー・スクールの教師を経験してそこに学んだ生徒をモデルに作品を書いたという。レイン先生はサファイアがモデルなのだ。演じたP・ハットンは学ぶこと・人を愛し愛される喜びの素晴らしさを伝える重要な役。その凛とした美しさは一服の清涼剤であり、教育者がいかに大切かをうったえている。
もうひとりはソーシャル・ワーカーのミセス・ワイズ(マライア・キャリー)。クランクイン直前までヘレン・ミレンが演ずるはずだった役で、急きょ起用されたM・キャリーはノー・メイクで地味ながらカケガエのない大切な受け身役を演じて、女優としての力量を発揮している。アカデミー賞助演女優賞を受賞した母親メアリー役・モニークの、凄みある演技から一転した終盤の独白場面を受け止めるやりとりは不思議な感動を呼ぶ。
現実は甘くないことを承知で<希望をもつことの幸福感をメッセージするあたたかな作品>に仕上がった。


『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』 75点

2010-05-18 14:34:49 | (米国) 2000~09 

マイ・ビッグ・ファット・ウェディング

2002年/アメリカ

異文化交流の難しさと大切さ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

トム・ハンクス夫人のリタ・ウィルソンが夫にプッシュして生まれたラブ・コメディ。主演したニタ・ヴァルダロスが自身の体験をもとに演じたひとり芝居を脚本化している。多民族国家アメリカの一端を垣間見る想い。
ギリシャ移民のポルトカラス一族で育ったトゥーラ(N・ヴァルダロス)は30歳の独身で家の料理店の手伝いをする地味な存在。ある日店に来たWASPの高校教師イアン(ジョン・コーベット)を見て固まってしまう。
一大決心したトゥーラがコンピュータを習いオシャレに気を使い大変身。再会して恋愛、結婚の約束まではとんとん拍子だがそれからが大変。「ビッグ・ファット」とは<大仰な>という意味だとか。異国で苦労して成功し、パルテノン神殿のような家に住み、親戚を大事にするギリシャ人気質をもつ一家には結婚は一大イベントである。知識層を代表するアングロサクソン系のイアンからみるとギリシャの宗教・習慣・家族意識の違いは驚くことばかりで異文化もいいところ。映画はラブ・コメディらしくユーモアたっぷりで描かれているが、事実は紆余曲折があったにちがいない。
トゥーラの父・ガスは「世の中のすべてはギリシャ語が語源で、ギリシャ人かギリシャ人に憧れるひと」だと信じる頑固者。娘の結婚相手もギリシャ人で子供をたくさん産んで育てることが幸せだと願っている。そのためにはビッグ・ファットな結婚式は当然の出費なのだ。これはイタリアや中国・日本の地方文化にも色濃く残っている風習だ。私も親戚の法事で経験があるが、あったこともない親戚が大挙して出席したのには、驚いた。映画ではイアン一家が何の抵抗もなくあっさり受け入れてしまう。このあたりが、この映画の弱さだろう。
ギリシャは地中海に面したのどかな国という印象だったが、ユーロの異端国家として財政危機で世界に注目される今、この映画をギリシャ人気質として見ると皮肉な現象として写ってしまう。


『マルタのやさしい刺繍』 80点

2010-05-16 11:43:57 | (欧州・アジア他) 2000~09

マルタのやさしい刺繍

2006年/スイス

オールド・スタイルながらチャーミングなストーリー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

スイスの国民的女優で<グレート・レディ>と呼ばれるシュテファニー・グラーザーが、夢に向かって頑張る80歳の女性を演じたハート・ウォーミングな物語。撮影時は86歳だったそうだが、凛としていて女性に勇気と元気を与えてくれそうな憧れの存在。35歳の女流監督・ベティナ・オべルリが祖母のハナシをもとに製作したので女性の応援歌として爽快な作りとなっている。
原題は「遅咲きの乙女たち」というだけあって、マルタとその仲間たちが周りに頼らずやりたいことをやろうというオールド・スタイルながらチャーミングなストーリー。
ところは穴あきチーズで有名なスイスのエメンタール地方。その美しい風景は映像を見ているだけで心がなごむ。伝統を大切に守ってきた保守的な美しい村。そこにランジェリー・ショップを開くだけで村中が大騒ぎになるのは21世紀の今でも想像できる。まして80歳の未亡人で息子が神父なのだ。仲間の女性も当初は眉をひそめるが自称・アメリカ帰りのリージ(ハイジ=マリア・グレスナー)だけは大賛成して手伝ってくれる。
男たちの設定が類型的なのが気になる。神父は不倫をしていて妻の目を盗んでは密会。農場を経営するフリッツは村のリーダーで保守の権化で教会の合唱隊をシンボルとしている。
しかし時代の波はこの村にも影響を与え、いつまでも昔のままではない変化が現れる。老人ホームで暮らすフリーダ(アンネマリー・デューリンガー)はパソコン教室に通いインターネット販売でマルタをサポート。フリッツの母ハンニ(モニカ・ブクサー)は車椅子の夫の病院送迎のために教習所に通い免許を取り、マルタの商品発送をしてくれるようになる。
出来過ぎの感はあるが、シリアスなテーマ(高齢化に伴う老人介護)をオブラートに包みながらハッピーな気分を味あわせてくれる作品に仕上がっている。


『第9地区』 80点

2010-05-15 15:52:28 | (米国) 2000~09 

第9地区

2009年/アメリカ

極上のB級SFもの

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「ロード・オブ・ザ・リング」のピータージャクソンが製作した後味が爽やかなB級SFもの。SFは苦手なジャンルで好んでは観ないが、評判が良いのでロードショー最終日にあわてて駆け込んだ。評判通り極上だった。
南アで28年暮らす難民エイリアンという設定がユニークで、アイデアの勝利といえる。ここで起きる差別はアパルト・ヘイトを思わせるが、一般市民や俳優が演じるインタビューを交えたフェイク・ドキュメンタリーが効果的で疑う間もなく展開に引き込まれてゆく。
主人公の多国籍政府エージェント・MNUの現場責任者であるヴィカス(シャルト・コプリー)が小市民なのもよい。妻(ヴァネッサ・ハイウッド)を愛し組織の一員として出世を喜び、真面目に仕事に励む平凡な男が、歴史を変える重大な変化に遭遇する。その瞬間から差別する側からされる側になることによるシュールな視点の相違が面白い。ヴィカスの行動は手持ちカメラによるダイナミックな映像でアクション・シーンもそれなりに見せる。
エイリアンは昆虫と甲殻類を合わせたようなグロテスクな外見ながらまことに人間らしく、略奪もするし好物の猫缶を人間から得るために武器と交換してしまう。その武器商人になるのがナイジェリア・ギャングなのもいかにもヨハネスブルグならでは。何故エイリアンと会話が可能なのか?そもそもスラム化した第9地区から第10地区へ移住させるのにサインをさせるのか?など突っ込みどころはあるものの、テンポよく繰り広げられるアクションとクリストファーというエイリアン親子との交流ドラマに思わず見入ってしまう。これからヴィカスがどうなるんだろうと展開が気掛かりで、流れに身を任せ行方を見届ける気になる。そして意外なエンディング...。
主人公を演じたシャルト・コプリーは本業がプロデューサーでブロムカンプ監督の盟友とのことだが、俳優としても充分通用する演技ぶりに感心させられた。脚本も手掛けた新鋭・ブロムカンプは次代を担う監督になるかもしれない。


『カジノ』 80点

2010-05-07 10:56:48 | (米国) 1980~99 

カジノ

1995年/アメリカ

70年代のラスベガスに実在した3人のドラマ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「グッドフェローズ」でNYのマフィアを描いたニコラス・ビレッジとマーティン・スコセッシが5年ぶりに舞台を70年代ラスベガスに移して実在する3人を通して描いたドラマ。
3人とはエースことサム・ロススティーン(ロバート・デ・ニーロ)ジンジャー(シャロン・ストーン)ニッキー(ジョー・ペシ)。マフィアの一員アンディからラスベガスのカジノを任されビジネスとして成功させたエース。しがない女賭博師からその美貌でエースに見染められ、結婚し贅沢を極めたジンジャー。エースの幼なじみでラスベガスで悪の限りを尽くすニッキー。
3人の栄光と挫折を丁寧に描いた179分の長編で、その長さを感じない力作だがドラマとしては散漫な印象は拭えない。当時エースのモデルとなったレフティことフランク・ローゼンタールが現存していたせいか、優秀な雇われ経営者という光の部分にスポットが当てられ影の部分はほとんど描かれていない。そのためジンジャーを金で縛るだけの嫉妬深い男としての印象が強く、ナレーションもあって物語の狂言回しとしての役割となってしまった。同じナレーションを務めたニッキー役のジョー・ペシは、得意の役柄で演技を超えた迫力で周りを圧倒する。
愛する男レスター(ジェームズ・ウッズ)のために金を湯水のごとく使い破滅の一途をたどるジンジャー役のシャロン・ストーン。名優2人が押され気味になるほどの熱演が光っていた。
70年代のラスベガスには一度行ったことがあるが、こんな舞台裏があったとは知る由もない。泊ったホテルも覚えていないが、きらびやかなイルミネーションとエレベータに立っているガードマンが拳銃を持った用心棒のような男だったことが印象に残っている。
アメリカンドリームを一瞬だけ味わい消えていった3人のドラマは、ほんの4半世紀前の話だけに興味深かった。


『17歳の肖像』 85点

2010-05-01 13:12:42 | (欧州・アジア他) 2000~09

17歳の肖像

2009年/イギリス

一見陳腐な青春映画だが、時代を切り取った秀作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

英国の辛口ジャーナリストで、「デーモン・バーバー」と異名をとるリン・バーバーの回想録をニック・ホーンビィがシナリオ化している。監督は「幸せになるためのイタリア語講座」のロネ・シェルフィグ。邦題から一見陳腐な青春映画を連想するが、原題は「教育」で時代の香りを映し出したなかなかの秀作である。わずか6週間あまりしかも低予算で撮影したとは思えない丁寧なつくり。英国の閉塞感が伺える60年代前半のロンドン郊外に住む中流社会の暮らし振りを写した映像に確かなものを感じる。
主演のジェニーを演じたキャリー・マリガンは、ちょっと背伸びした好奇心旺盛な女高生からドレス姿の大人びた女性へ変わろうとする危うさを見事に使い分けている。オスカー候補も納得するが撮影当時22歳には見えないほど初々しい。<21世紀のオードリー>と呼ばれたが違うタイプに成長するだろう。相手役のデイヴィットを演じたのは米国俳優のピーター・サースガード。絵画や不動産を扱うセレブだが、得体のしれない30代男を演じ観客をハラハラさせる。手慣れた交際術と身勝手さのなかに、一抹の寂しさを滲ませる達者な演技はなかなかのもの。
ほかにも口やかましいが本当は娘想いの父にアルフレッド・モリーナ、ハイミスのお手本のような教師で生徒に深い愛情を持つスタッブスにオリヴィア・ウィリアムスなど、脇役にしっかり役割を与えたシナリオはそれぞれ共感を呼ぶ。
ジェニーに多大な刺激を与えた豪邸に住むカップル、ダニー(ドミニク・クーパー)とヘレン(ロザムンド・パイク)。ヘレンはファッション・化粧以外は興味がなく外見だけの幸せは長続きしないと思うが、ジェニーがその華やかさに憧れるのも無理はない。ヘレンを演じたR・パイクはオックスフォード大で英文学を専攻したインテリだが、実際とは正反対の役を演じているのも面白い。
もうひとり、時代の象徴の人物がいる。オスカー女優エマ・トンプソン演じる校長である。彼女は時代の変革とは無関係なひとで、名門大学へ行く意義を「教師か公務員になれる」としか伝えられなかった。退屈な人生を送るか?魅力ある人生かを決めるのは、周りの大人ではなく体験を通して自身で学びながら決めることなのだ。だが大人たちは、うわべだけでそれを判断しては間違いであることも教えてくれている。