晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『白と黒のナイフ』 75点

2012-07-31 11:58:38 | (米国) 1980~99 

白と黒のナイフ

1985年/アメリカ

気軽に楽しめる法廷サスペンス 

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆80点

「スターウォーズ ジェダイの復讐」のリチャード・マーカンド監督、「フラッシュ・ダンス」のジョー・エスターハス脚本による法廷サスペンス。
法廷サスペンスの傑作にはB・ワイルダーの「情婦」があるが、その後秀作はあってもこれをなかなか超えるものは出てこない。本作も大どんでん返しが売りだが、スリリングな展開は楽しめるが、秀逸とは言い難い。辣腕女流弁護士と無実を願う容疑者との恋を絡めた二転三転のリーガル・サスペンス・ドラマだ。
舞台はサンフランシスコ。出版王の孫娘が惨殺されその夫・ジャック(ジェフ・ブリッジス)も負傷する。マーティン刑事(ランス・ヘンリクセン)の執拗な尋問に無実を証明するために女流弁護士テディ・バーンズ(グレン・クローズ)を雇い、舞台は法廷の場へ。
バツ一で2児の母、検事時代グラズニー地方検事(ピーター・コヨーテ)の部下だったテディ。無実の罪で自殺した男の情報をグラズニーが隠匿したことが原因で有罪にしたことを苦に企業担当の弁護士へ転身している。
その企業の若き経営者が依頼人で担当検事がグラズニーだという。ジャックがウソをついたら降りるという約束で弁護を引き受ける。
当初ジェーン・フォンダとケヴィン・コスナーを予定したという2人は地味ながらトレンディな味わいは充分持ち合わせながら恋に落ちて行くあたり、いかにもハリウッド・エンターテインメント。法廷シーンでの証人の証言や小道具のコロナ・タイプライターが効果的に使われ最後まで楽しめる。
なかでもG・クローズはトップ・ファッションに身を包み堂々とした辣腕弁護士ぶり。彼女にとってこの時代がピークで2年後の「危険な情事」で執拗なストーカーを演じて、その迫真の演技故怖い女性の役しか廻ってこなくなった。対するJ・ブリッジスは年齢に応じて芸域を広げ晩年オスカー俳優となるが、本作ではG・クローズの引き立て役に徹し、抑えの利いたプレイボーイを好演している。
検事役のP・コヨーテの存在感があまりないのはシナリオのせいか?代りに役得だったのは老探偵サム役のロバート・ロジア。スラングを連発しながら執拗な仕事ぶりや勘の良さを発揮してテディを陰日向で補佐する。オスカー・ノミネートも頷ける。
本作に最も近いのはシドニー・ルメットの「ギルティ/罪深き罪」(93)だが、8年前に本作があったことを想うとこの作品の出来の良さを改めて評価してもいいのかもしれない。


『コンペティション』 75点

2012-07-29 10:51:20 | (米国) 1980~99 

コンペティション

1980年/アメリカ

ピアノ・コンクールに賭けたラブ・ストーリー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆65点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★☆☆70点

音楽 ★★★★☆85点

ジョエル・オリアンスキーが監督・共同脚本化した音楽ドラマ。年齢制限があって今年がラストチャンスのポール(リチャード・ドレイファス)とコンクールで良く顔を合わすハイディ(エイミー・アーヴィング)の恋を中心に、競い合う若者6人の人間模様が描かれている。
舞台はサンフランシスコ。ヒルマン・ピアノ・コンペは若手ピアニストの登竜門で世界中からプロを目指して集まってくる。
ポールは父の夢であるピアニストを目指すが中西部のコンクールでも3位という中途半端な位置で、これがラスト・チャンス。ハイディには専任教師グレタ(リー・レミック)がついて躍起になっているが本人はその才能に気付いていない。背水の陣のポールは他のことで気が散ることは許されないが、ハイディにとって好意を持っているポールはライバルではなく憧れの存在。それぞれのコンペに挑む背景が分かるとなんとなく結果が予想されてしまいそうになる。
ドラマは結果をストレートには追わず決勝に残った他の4人にもスポットを当てながら進んで行く。NY在住で芸能タレント志望のジェリー、イタリア在住のアフリカ系御曹司マイケル、真面目なカナダ人マーク、旧ソ連の天才少女タチアナの4人である。このあたりの掘り下げがいまひとつの感があって、コンクールへの緊張感が盛り上がらなかったのが残念。
タチアナの教師が亡命したことがキッカケでコンペが延長されたり、ポールの父が重病だと知らされたりポールが不安材料を抱える経緯があってハイディに救いを求め<結果がどうなっても一緒に暮らそう>と誓い合う。肝心の2人の恋の行方もなんとなく中途半端。
圧巻だったのはピアノ演奏シーン。吹き替えとはいえ皇帝のポール、フロコフィエフの3番のハーディを始め6人の手さばきは最大の見どころ。
主演のR・ドレイファスの代表作は「陽のあたる教室」だが15年後のポールを連想させる役ドコロなのも興味深い。本作で記念すべき第1回ゴールデン・ラズベリー賞の主演男優賞にノミネートされたが脚本のできに起因するものだろう。


『タバコ・ロード』 80点

2012-07-26 10:58:21 | 外国映画 1945以前 

タバコ・ロード

1941年/アメリカ

日本公開が大幅に遅れたJ・フォードの隠れた名作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

大ヒットした「怒りの葡萄」に続いてダリル・F・ザナックがジョン・フォード監督を起用して映画化した農民一家のドラマ。もとはアースキン・コールドウェルの原作、ジャック・カークランドの戯曲で、舞台は7年半のロングランを記録している。
30年代のジョージア州。かつてはタバコ栽培で裕福だった土地もいまは荒れ放題。3代続いて守っていたレスター一家は7年も不作続きで極貧生活で食べ物まで困る状況なのに父ジーター(チャールズ・グレープウィン)はどこか楽天的。一家は子沢山だが何人子供が居たかは夫婦とも覚えていない。いまは年老いた母と夫婦それに23歳の娘、20歳の息子の5人暮らしだが、2人の子供は知的障害を持っているようだ。こんな悲惨な状況でおまけに地主が事業に失敗して100ドルないと大切な土地も守れなくなりそう。「怒りの葡萄」はシリアスなタッチで社会派ドラマとして名高いが、本作はなんとコメディ・タッチ。
まさに悲惨を画に描いたような家族の崩壊をスラップスティック・コメディとして誇張されたユーモアを滲ませるフォード演出は隠れた名作といってよい。労働意欲もなく束の間の幸せを夢見るジーターに対する辛辣な人間観察は、<人間の希望と絶望>がない交ぜになって、どこか温かい視線を観る者に訴えてくる。
のちにブレークする娘役のジーン・ティアニーは台詞もなく、出番も少ないのでウッカリすると見逃しそう。出戻り女のベッシーと息子デュードの結婚シーンはドタバタだが、2人の讃美歌で周辺が神妙にコーラスするなどどこか和みを感じさせる。
公開後47年後の88年に日本公開されたが、当時はGHQの意向で貧しいアメリカ人のドラマは相応しくないということで没になっている。同じプア・ホワイト(白人貧農)を扱っても「怒りの葡萄」にはイデオロギーがあったということでOKが出たという。
いまバイタリティ溢れる人間達を描いたこのドラマを改めて観ると、人間の欲は生きている限り果てしないものだと思う。


『間諜X27』 80点

2012-07-25 10:33:37 | 外国映画 1945以前 

間諜X27

1931年/アメリカ

スタンバーグがM・デートリッヒに惚れ込んで作ったスパイ映画

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

グレタ・ガルボと並ぶ戦前の大女優・マレーネ・デートリッヒのハリウッド2作目はスパイ映画。デートリッヒを見出したジョセフ・フォン・スタンバーグ監督とのコンビ3作目でもある。
第一次世界大戦中のウィーン。雨の夜、娼婦がガス自殺をして運び出される。それを観ていた娼婦がストッキングを直す仕草をすると、刑事が「お前もああなるぞ」と声を掛ける。娼婦は「生きることも死ぬことも恐れないよ」と返す。ヤリトリを観ていた男が客となり間諜(スパイ)になれと誘う。
冒頭から100万ドルの美脚といわれたM・デートリッヒが娼婦で登場する。スタンバーグが彼女のために作った映画と言われるほどのヒロインは、元将校の未亡人で娼婦に身を落とし祖国オーストリアに命を捧げようとコードネームX27のスパイとなる。
身柄がスパイなのでさまざまな扮装で現れるデートリッヒが楽しめる。娼婦、女スパイ、仮装パーティ・ドレス、田舎娘、軍服、そして囚人服と、まさに七変化である。なかでも仮装パーティでは顔の大半を隠しながら口だけで内通者ヒンダウ大佐(ワーナー・オーランド)を誘惑したり、髪をアップにしてノーメイクの田舎娘のメイド姿でロシア陣内に潜入したりその変化ぶりが観客を魅了して止まない。娼婦なのに下品ではなく気品すら漂う男に媚びない女を演じ<金のためには国を売らなかったが、愛のためには国を裏切った>凛とした姿が印象的。
相手のロシアのクラノウ大佐役を演じたヴィクター・マクラレンは、4年後の「男の敵」でオスカーを獲得しているが、本作ではデートリッヒの引き立て役に徹している。むしろ銃殺隊の若い中尉を演じたバリー・ノートンが娼婦姿のX27に魅了され紳士的に振る舞い、「戦争は殺人だ!」と叫ぶ印象に残る役をしている。製作時を考えるとドイツの監督として欧州の窮状をこの一言に込めたのだろう。ヒトラー政権が誕生したのは公開後2年後を想うと感慨深い。
デートリッヒはピアノと黒ネコとタバコを随所に活かした愛に生きた女を好演している。「ドナウ川の漣」を叩きつけるようなピアノ演奏や「ウィンナ・ワルツ」「月光」などのクラシックが彼女の心情を見事に表現した愛のドラマを盛り上げている。


『おしゃれ泥棒』 80点

2012-07-21 11:50:11 | 外国映画 1960~79




おしゃれ泥棒


1966年/アメリカ






年相応のオードリーがエレガント





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
75点




音楽

★★★★☆
80点





「大いなる西部」「ベン・ハー」などの大作だけでなく「ローマの休日」「噂の二人」でオードリーを魅力的に撮ることでも定評のあるウィリアム・ワイラー監督。これがコンビ最後となるが、37歳のオードリーを年相応にエレガントに魅せた作品。
大好きなパリを舞台に贋作画家の父を心配する娘・ニコル(オードリー・ペップバーン)。祖父の贋作であるヴィーナスの彫像を展示している美術館から盗みだすというコメディ。相手役は「アラビアのロレンス」のピーター・オトゥールでニコル邸へ名画を盗みに入った長身で金髪・碧眼の泥棒だ。泥棒なのにジャガー・ロードスターに乗ってホテル・リッツが定宿。
「おしゃれ泥棒」は邦題で原題は「100万ドルを盗む方法」だが、2人が美術館に忍び込み繰り広げるラブ・コメはまさに<おしゃれ>。
オードリーはアウトヴィアンキのカブリオレに乗って、ジバンシー・カルチエ・独特のヘアスタイルでまるでファッションモデルのようにさまざまなスタイルで登場。ネグリジェに長靴というコミカルなサービス・ショットまで楽しませてくれる。ただ当時の先端ファッションなのかもしれないが濃い化粧と顔を隠すサングラスはいま観ると奇異な感じ。帽子から靴まで真っ白な衣装や黒ずくめのドレスはオードリーだからサマになっているが他のひとにはマネができない。
磁石とブーメランでヴィーナスを盗むという如何にもアナログなシークエンスも何故か許せて楽しんでしまうのがこの作品の優れたところだろう。
2人の引き立て役にイーライ・ウォーラック、ヒュー・グリフィス、シャルル・ボワイエなどのベテランを配し抜かりがない。ジョン・ウィリアムズの音楽も心地良い。






『パリで一緒に』 70点

2012-07-20 16:58:46 | 外国映画 1960~79

パリで一緒に

1963年/アメリカ

パリ好きでオードリーのファンなら楽しめるかも。

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆60点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★☆☆60点

ビジュアル ★★★☆☆70点

音楽 ★★★★☆80点

「舞踏会の手帳」「望郷」などフランスの名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ「アンリエットの巴里祭」(52)のリメイク。「麗しのサブリナ」で共演したウィリアム・ホールデン、オードリー・ヘップバーンの10年振りの競演で全編パリで撮影となれば期待が大きく膨らむ。
「エッフェル塔を盗んだ娘」という映画のシナリオを執筆中の脚本家ベンソン(W・ホールデン)と雇われタイピストのガブリエル(A・ヘップバーン)があと2日で完成させる奮闘ぶりを描きながら、劇中劇で役柄を同時進行させるシュチエーション・コメディ。この手法が得意なリチャード・クワイン監督とジョージ・アクセルロッドの脚色だが成功したとは言えない。
なにしろカメオ出演が豪華で目が離せない。とくにトニー・カーティスがガブリエルの恋人で、役名はトニー・カーティス似の売れない俳優・フィリップ。劇中劇でも警官2で登場するドタバタでカメオとはいえない出番が多い。さらにマレーネ・デートリッヒが本人役、当時オードリーの夫・メル・ファーラーがジキルとハイドの仮装であらわれピーター・セラーズも。劇中の主題歌はフランク・シナトラ、挿入歌がフレッドアステアという嗜好。
ところが肝心のストーリーが少しも盛り上がらない。名画のパロディを次から次へと披露するため詳しい映画ファンにはそれだけで面白いのだろうが、筆者は不覚にも途中ウトウトしてしまった。劇中劇の2人はカサブランカのリックと望郷のギャビーなのはご愛嬌だが、シーンシーンでのパロディには笑えないものが多く、<素晴らしい映画とは?>という台詞までパロディか?と思ってしまった。
ジバンシーの衣装で相変わらずファッション・モデルのようなオードリーがパリで大活躍するのを観るだけで満足というファンなら楽しめるのかも。


『パリの恋人(1957)』 70点

2012-07-18 16:02:59 | 外国映画 1946~59




パリの恋人(1957)


1957年/アメリカ






元祖ファニー・フェイスの魅力がいっぱい





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shinakamさん


男性






総合★★★☆☆
70



ストーリー

★★★☆☆
60点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★☆☆
65点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
80点





「雨に唄えば」(52)のフレッド・アステア、「シャレード」(63)のオードリー・ヘップバーンが競演したミュージカル。3作ともスタンリー・ドーネン監督が手掛けている。
小さな本屋で働くジョー(A・ヘップバーン)がふとしたことでファッション・モデルにスカウトされ、マギー編集長(ケイ・トムスン)ディック・カメラマン(F・アステア)とともにパリへ向かう。ジョーの目的は心酔している<共感主義>を説くフロストル教授(ミシェル・オクレール)に会えることだった。
20世紀最高のミュージカルスター、F・アステアは御年57歳、晩年を迎えながらも洗練されたステップは健在。対するオードリーは主演4作目の27歳でミュージカル初出演。2人のミュージカルはオードリーがどうしても見劣りするだろうと思わせたが、思いのほか元バレリーナのオードリーの頑張りが目立った。
彼女のためにレオナルド・ガーシュが曲をつくり、原題の「ファニー・フェイス」は個性的でチャーミングな女性賛美の言葉として当時の流行語になったほど(日本では団令子が有名)。
ガーシュインの「ス・ワンダフル」も流れ往年のミュージカル・ファンも喜ばせるし、もうひとり、踊りの名手K・トムスンとアステアのこれぞミュージカルという唄と踊りは流石で全盛期を偲ばせる。オードリーの唄は決して上手くはないが、これも彼女の分身でファンには堪らない魅力のひとつ。
なによりパリの名所をバックに、様々な衣装で撮影されたモンタージュ技法による静止画像は秀逸。これはアステア扮するディックの実在モデルであるリチャード・アヴェドンによるもの。現在でもファッション誌には欠かせないアイテムとなっている。
ミュージカルが苦手な筆者にも楽しめる作品に仕上がっているので、食わず嫌いなヒトにも試しにご鑑賞あれ。






『ティファニーで朝食を』 75点

2012-07-17 17:36:18 | 外国映画 1960~79




ティファニーで朝食を


1961年/アメリカ






ファースト・シーンで好き嫌いがハッキリするラブ・ストーリー





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★★☆
75点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★☆☆
65点




ビジュアル

★★★★☆
75点




音楽

★★★★☆
85点





トルーマン・カポーティがマリリン・モンローを想定して書いたシリアスな人間ドラマが、オードリー・ヘップバーン主演でキュートなラブ・コメディに生まれ変わった。監督は「ピンク・パンサー」シリーズのブレイク・エドワーズ。
主題歌「ムーン・リバー」とともにイエロー・キャブでマンハッタン5番街ティファニーの前に降り立ったサングラスの女(A・ヘップバーン)が、ショウ・ウィンドウを眺めながらディニッシュとコーヒーの朝食を取るファースト・シーン。原作にはないこのシーンが好きか嫌いかでこの作品の評価はまるっきり違ってくる。
筆者は好みのシーンなので、どうしても点が甘くなるが、なにしろ50年以上前の映画なのに兎に角お洒落。孤独な生い立ちから逃れるためNYに出てきたヒロインのホリー。どうやらアッパー・イーストサイドのアパートに住むコールガールらしい。演じたオードリーは32歳でこの役には微妙な年齢だが、自身の生い立ちを想うあまり終盤の涙目は他人事とは思えなかったとか。彼女イチバンのお気に入り作品となった。
いつまでも妖精のようなエレガントな魅力のオードリーと、必死に自由を求めるために金持ちの男を見つけることに躍起になるホリーの役柄はイメージが合わないが、彼女が演じると純粋で傷つきやすい少女のような魅力へと変貌して行く。これはロスを舞台にしたジュリア・ロバーツの「プリティ・ウーマン」を観ても明らかだが、女優が演じるコールガールは本人のイメージが反映されるもの。M・モンローだったらまるっきり違った名作ができたかもしれないしラスト・シーンも原作に近いものになたことだろう。
オードリー、ジバンシー、H・マンシーニは60年代を象徴するファッションとして地盤を築き、ティファニーは高級宝飾店として世界に知らしめたことでも映画の影響力の大きさを感じる。とくにティファニーはクラッカー・ジャックのオマケの指輪にイニシャルを彫ってくれる度量を魅せたのだから。相手役の作家ポールに扮したジョージ・ペパードはヒロインに振り回される好青年ぶり。パトロンのフェレソン夫人(パトリシア・ニール)から自立する経緯も平板で可もなく不可もない印象。名のない猫が840匹から選ばれただけあってヒロインの生まれ変わりのような名演技が目立った。
我慢ならないのはミッキー・ルーニー扮するユニオシという日系人。黒ぶち眼鏡、出っ歯、チビという3拍子を揃え日本人蔑視も堂に入っていて何かとわめきたてるドタバタ調。監督の釈明は「理解不足」の一言。これが面白いと感じるセンスには共感できそうもない。






『ホステージ』 70点

2012-07-16 10:49:11 | (米国) 2000~09 

ホステージ

2005年/アメリカ

ダイハードは超えられなかったB・ウィルス

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★☆☆70点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★☆☆70点

ロバート・クレイスの傑作サスペンスに惚れ込んだブルース・ウィルスが映画化権を獲得、自ら主演し監督をフランスのフローラン・エミリオ・シリを起用した意欲作。
ロス警察の敏腕交渉人だったタリー(B・ウィルス)が人質を救えず失敗したトラウマを抱え、小さな町ブリスト・カミーノの署長に就任した1年後。
3人の若者が、会計士ウォルター・スミスの豪邸に押入り籠城する事件が発生する。
密室に閉じ込められた男の苦渋はダイハード・シリーズでお馴染みのB・ウィルス。本編は謎の組織に自らの家族を人質に取られ、人質になった会計士が握る機密資料を捜し当てなくてはならなくなる絶体絶命の男に扮している。
原作は登場人物も多く、組織のマネーロンダリングに協力する会計士の家族、3人の若者の背景やタリー一家の家庭不和など群像劇としての面白さがあった。本作は思い切ってタリーの影を背負った心情を中心に展開している。トラウマだった<人質を無傷で救い、犯人を殺さず事件を解決する>ことに孤軍奮闘した男が、家族のためにこの事件に挑むのを如何にドラマチックに描くかが焦点となっている。
全編スリリングで息もつかせぬサスペンスだが、強引な展開は粗さも見え隠れする。もう少し丁寧さが欲しかった。
あの「ダイハード」のイメージが、良くも悪くも浸透してしまったB・ウィルス。残念ながら本作はそれを超えられず、引きずってしまった。娘役のアマンダを演じたルーマー・ウィルスは前妻デミ・ムーアとの間にできた実の娘だが、とくに光るものは感じなかった。いまはどうしているのだろう。


『エジプト人』 80点

2012-07-13 14:46:05 | 外国映画 1946~59

エジプト人

1954年/アメリカ

M・カーティス監督の技量を持て余したエジプト古代史劇

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

ミカ・ワルタリの長編スペクタル小説を「カサブランカ」など名作を手掛けた巨匠、マイケル・カーティスが監督した古代エジプト王朝史劇。
前33世紀、王の子として生まれながら棄てられ養父母に育てられた「医師・シヌへの物語」。
プロデューサー、ダリル・F・ザナックの肝いりでマーロン・ブランドを主役に据えるべく準備を進めたが頑なに断られ、やむなく新人エドマンド・バードムを起用した。ジーン・シモンズ、ヴィクター・マチュアなど競演者が豪華な割にインパクトに欠けるきらいは否めないが、良く頑張っている。
波乱万丈の男の生涯を139分にまとめた力量はなかなかのものだが、脚本のせいかプロデューサーの意向なのかとてもアンバランスな構成が目立つ。
成人したシヌへと近衛隊長ホレムヘブ(V・マチュア)との友情、シヌヘを慕う酒場の女メリト(J・シモンズ)や召使の奴隷カプタ(ピーター・ユスティノフ)の絡みがある序盤は好調だが、バビロンの高級娼婦ネフェル(ベラ・ダーフィ)との絡みあたりからテンポが悪くなる。ネフェル役はあのマリリン・モンローが執心した純粋なシヌへが初めて知った恋の相手で、人生を狂わせる重要なシークエンスだが異様に長くアンバランス。ネフェル役のB・ダーフィーがザナックの愛人だったからというのは納得。M・カーティス監督の技量をもってしても仕上がりが中途半端で晩年の扱いが尻切れトンボだった。
とはいえ一大スペクタルとしての醍醐味は充分味わえ、バーナード・ハーマンとアルフレッド・ニューマンの音楽は古代王朝絵巻を飾るに相応しい壮大さと優雅さを備えている。
日本では評価はあまり高くないが、一見の価値は充分ある。