晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『理由(1995)』 75点

2011-10-30 12:55:25 | (米国) 2000~09 

理由(1995)

1995年/アメリカ

キャスティングで魅せるサスペンス

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

ショーン・コネリーがエグゼクティブ・プロデューサーとして製作にかかわり主演したサスペンス。死刑反対のハーバード大教授ポール・アームストロングにS・コネリー、犯人逮捕に確信の警官タニー・ブラウンにローレンス・フィッシュバーン、事件の鍵を握る連続殺人鬼ブレア・サリバンにエド・ハリス、少女誘拐殺人犯として死刑が確定しながら無実を訴えるボビー・アールにブレア・アンダーウッドはイメージどおり?のキャスティング。
ポールはフロリダに飛んで8年前の事実を調べ、曖昧な証拠を崩し真犯人はブレア・サリバンであることを証明してゆく。ここまでは差別化社会が根深い南部の現実を観るような社会派サスペンスの香りが画面いっぱいに広がる。
ところが102分の作品なのにまだ40分以上残っていてもうひと波乱がありそうな雰囲気。あとはいかにもハリウッド・エンタテインメントのオンパレード。インテリ教授が妻子のためにはジェームス・ボンドに早変わりである。年の離れた妻にケイト・キャプショー、可愛い娘にスカーレット・ヨハンソンとくればキャスティングにこと欠かない。
この急展開のキッカケとなったのは殺人鬼サリバン。100マイル移動する毎にひとり殺すという残忍さと刑務所内でも殺人ができると豪語し両親殺しを実証する。これだけでもう1本映画が作れそうだ。エド・ハリスの狂気溢れる演技は、その芸域の広さに感心させられた。キャスティングで魅せるサスペンスである。


『ベニスに死す ニュープリント版』 85点

2011-10-29 11:32:05 | 外国映画 1960~79




ベニスに死す ニュープリント版


1971年/イタリア=フランス






よみがえった伝説の名画





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
85



ストーリー

★★★★☆
75点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
90点




音楽

★★★★☆
90点





ノーベル賞作家トーマス・マンの原作を、耽美派の巨匠ルキーノ・ヴィスコンティが音楽と映像を融合させ謳いあげた傑作。マーラー生誕150年・没後100年を迎えニュープリント版で伝説の名画がよみがえった。
舞台は20世紀初頭、ベニス(ヴェネチア)の避暑地リド。高名な作曲家で指揮者のグスタフフォン・アッシェンバッハ(ダーク・ボガート)が独り傷心を癒やすため蒸気船エスメラルタ号で向かうが、北アフリカからの熱風・シロッコがグスタフの心まで沈みがちにさせる。
ヴィスコンティは主人公を原作の作家からマーラーを想定した音楽家に変えたことにより<交響曲第5番ハ短調アダージェット>が活き、観客を抒情的な官能の世界へと引きずり込んでゆく。
<芸術とはたゆまず作り上げるもの>という信念のグスタフ。偶然ホテルから観た少年タジオの天性の若さと美を前に得た恍惚と羨望。「エリーゼのために」を片手で弾く美少年は、かつて娼婦との関わりや友人・アルフレートとの音楽を巡る論戦など忌まわしい思い出と重なる。
’71公開時は50歳の男が15歳の少年に恋焦がれるというストーリーは異常なモノとしか映らず、この作品の本質はさっぱり分からなかった。今改めて観ると友人・アルフレートがグスタフに向かって「純潔は努力で得られるものではない。君は老人だ。この世で老人ほど不純なものはない。」という言葉が胸にささって、若さと美が手に入らないグスタフの哀れさが良く分かる。これが少年ではなく少女だと違う意味になってしまうのでやはり美少年が相応しいと納得した。
虚脱感と気持ち悪いほどの滑稽さを少しオーバーに演じたD・ボガート。そして原作でいうところの「ギリシャ芸術最盛期の彫刻作品を想わせる金髪碧眼の美少年」のビヨルン・アンデルセン。この2人の恍惚と絶望がヴィスコンティの世界だ。アダージェットがまるでこの作品のテーマ曲のようにぴったり流れるエンディングはとても残酷だ。






『マザー・テレサ:母なることの由来-デジタル復刻版-』 75点

2011-10-21 13:28:16 | (米国) 1980~99 

マザー・テレサ:母なることの由来-デジタル復刻版-

1986年/アメリカ

強さとユーモアを持ったマザー・テレサの生きザマ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★☆☆70点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

マザー・テレサの生前11年前、アメリカのプロデューサー、アンとジャネットのペトリ姉妹が5年間の活動をドキュメント化した86年の復刻版。没後10周年を記念して劇場公開されている。
ユーゴスラビア・スコピエ(現マケドニア)で裕福な商家生まれのアグネスがどうして修道女となり、最も貧しいヒトのため働くようになったかが写真やリチャード・アッテンボローのナレーションで語られ、それを実践した5年間のフィルムが生々しく淡々と映される。それは単なる想いでは果される行為ではなく、まさに神の啓示だろう。
カルカッタでの悪疫と飢餓に苦しむ路上のヒトに手を差し伸べ、大都会NYで貧困ゆえに孤独になってゆくヒトに語りかけ、中東戦争の最中ベイルートに残された脳性マヒの子供たちを救援するなど、何事にも信念を持った言動には凡人の私にはとても人間とは思えない強さを持つ。
そこには<最も貧しいヒトのために働く>という崇高な精神が宿っていてその行動は極めてシンプル。施設のセントラル・ヒーティングやマットを断った映像はつきっきりで同じ行動をしながらフィルムを回し続けた姉妹ならではの映像だ。
意外だったのは「世の中から貧困がなくなったら何をしていますか?」という記者の質問に明るく「失業者です。」と答えるさりげないユーモア。強さとユーモアを持って世界から尊敬されたマザー・テレサの一端を見せてもらった。


『マンハッタン無宿』 70点

2011-10-20 15:20:30 | 外国映画 1960~79

マンハッタン無宿

1968年/アメリカ

D・シーゲルとC・イーストウッドの出会い

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

ドン・シーゲルが製作・監督しクリント・イーストウッドが主演し意気投合した作品。大ヒット作「ダーティ・ハリー」が生まれるキッカケともなったことで名を残している。
犯人護送のためにNYに現れたカーボーイ・ハットでウェスタンブーツを履きループ・タイ姿のアリゾナの保安官補。大都会の喧騒に揉まれながら仕事を果たそうとするストーリーは、のちの人気TVシリーズ「警部マクロード」のもととなっている。
60年代末のNYらしくサイケやゴーゴーなど懐かしい時代風俗やパンナムビルなどの風景が見られるのも嬉しい。
なんといってもC・イーストウッドの魅力がすべて。オートバイより馬が似合いそうなイデタチで無表情ながら女好きで非情なガンマンの風情。「テキサス」ではなく「アリゾナ」からきたという故郷に対する誇りを失わないのもユーモラスだ。D・シーゲルは得意のロング・ショットとUPを巧みに使い彼の魅力を引き立たせている。
相手役にはNYの警部補マクリーに扮したリー・J・クラークが複雑な警察機構を象徴して重厚な存在感を魅せている。この手の作品には欠かせない相手役女優のNY警察保護係ジュリーにスーザン・クラークが少し物足りないのが作品の弱さにつながっているのかもしれない。


『NINE』 75点

2011-10-19 17:25:30 | (米国) 2000~09 

NINE

2009年/アメリカ

ミュージカル映画化の限界?

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆80点

「シカゴ」のロブ・マーシャル監督がブロードウェイ・ミュージカルを故アンソニー・ミンゲラの脚本で映画化。個性的な演技派ダニエル・デイ=ルイスを主演したうえ絢爛豪華な女優陣を起用してミュージカルファン以外にも注目を浴びた作品だ。
オープニングで全員が登場して役柄をイメージさせるシーンで期待が膨らむ。周知のとおりトニー賞受賞のミュージカルはイタリアのフェリーニ監督の「8 1/2」をもとにしているが難解なシークエンスは皆無といっていい。
9作目の脚本が書けないイタリアの名監督グイドが記者会見場を逃げ出し海辺のホテルへ逃避して人生に影響を与えた女性たちの幻想と現実の世界で彷徨う。
これだけの大女優を絡ませてメリハリをつける難易度が伺え、まるでプロモーション・ビデオのような歌と踊りのオンパレード。舞台なら当たり前の登場だが、映像だともう少し工夫があってもと思ってしまう。
驚かされたのはペネロペ・クルスの愛人役カルラ。歌はともかく踊りの扇情的なことに驚かされる。対する貞淑な妻ルイサ役のマリオン・コテイヤールが美しくイメージ一新され歌も2曲披露している。踊りは肉体的に不利な感じは否めなかったが頑張ったというところ。出番は少なかったがファッション雑誌記者ステファニー役のケイト・ハドソンが印象に残る。ミュージカルにはない「シネマ・イタリアーノ」は本当に楽しそうに唄って踊って芸域を拡げた。
ジュディ・デンチの衣装デザイナー役も意外な健闘ぶりでベテランの奥行きの深さを思い知らされたしマンマ役のソフィア・ローレンに至っては出てきただけでその貫録と若々しさにただただ驚嘆させられる。9歳のグイドに性を教えた浜辺の娼婦サラギーナ役のファギーは本職のアイドル歌手らしく「ビー イタリアン」は圧巻。
さまざまな名シーンがありながら映画としての完成度はいまひとつ。グイドの悩みが絵空事にみえてしまったし、ニコール・キッドマンはよく出たなというほど見せ場がなかった。
救いは俳優達の競演ぶりが一堂に見られたことと難解でなかったこと。A・ミンゲラの脚本をもってしてもミュージカル映画の限界を観た気がした。


『シャングリラ』 70点

2011-10-17 12:19:14 | (欧州・アジア他) 2000~09

シャングリラ

2008年/中国=台湾

魅惑的な題名に惹きつけられる

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆65点

キャスト ★★★☆☆70点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

題名のシャングリラとは’33英作家ジェムズ・ヒルトン「失われた地平線」に出てくる架空の理想郷で、フランク・キャプラ監督によって映画化もされている。ところが’01に雲南省チベット族自治州の中甸県が観光誘致のため香格里拉(シャングリラ)と改名して現実のものとなった。
女性プロデューサーのローラにより女流監督10人が選ばれ、雲南を舞台とした<雲南影響>のうちの1本。監督はティン・ナイチョンで主演は「ラスト・コーション」ヒロインの友人役を演じたチュウ・チーイン。
前置きが長くなったが魅惑的な題名を付けた経緯がこのドラマには大変重要な意味を持つ気がしたから。
台北に住む幼い息子トントンを交通事故で亡くし、そのことを引きずったままの母ジー・リン(チュウ・チーイン)。息子が好きだった宝探しのヒントに梅里雪山(メイリー・シェシャン)の絵がキッカケで現地を訪ねる。
そこはまさに大都会から観ると浮世離れした別世界。7000メートル近いカワカブ山を頂いた雪山と氷河の山々。森林と湖に囲まれた大自然。彼女が癒されたのは台湾から追いかけてきた若い男アレックス(ウーチョン・ティエン)よりも大自然に現れた息子の幻影との対話だった。
もう少し登場人物、特に夫やアレックスの描写を必然性あるものにして欲しかったが、自然美を堪能できたことで心が癒されたいヒトにとってはどうでもいいことなのかもしれない。


『トンマッコルへようこそ』 80点

2011-10-14 12:07:06 | (欧州・アジア他) 2000~09

トンマッコルへようこそ

2005年/韓国

韓国ならではのファンタジーな反戦映画

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

チャン・ジンの舞台劇「ウェルカム・トンマッコル」を映画化。自身が製作・脚本化していてCM出身のパク・クァンカンが監督デビューした作品でもある。
同一民族が分断されたままの韓国でしか描けないファンタジーな反戦映画だ。
トンマッコルとは「子供のような純粋な村」で架空の戦争とは無縁な桃源郷。そこへ迷い込んだのが朝鮮戦争中の連合軍米軍兵士と韓国軍兵士2人、そして人民軍兵士3人でまさに呉越同舟。
どこかで観たような雰囲気は宮崎アニメの世界を想わせる。音楽が久石譲なのも監督が宮崎ファンだと知って納得。だが作りは実写なので戦争シーンはファンタジーより生々しい。その分手榴弾で食糧倉庫が爆発してポップコーンとなり空から降り注いだり、巨大なイノシシが村を襲ったりCG・SFXを駆使した映像が中和してくれる。
原案は「JSA」と共通で親北思想を折り込んであり、さらに反米思想も仄めかしたプロパガンダ作品といわれそうなストーリー。南北共同軍は架空のハナシだが、アメリカという仮想敵国があってこそという矛盾を感じざるを得ない。だが監督は誤爆によって多数の民間人を犠牲にした米軍という組織と、村に迷い込んだヒトの良さそうな米軍パイロットのスミスとの落差を感じる韓国軍ピョ少尉の体験を通して<国家と個人の違いを描きたかった>のでは?。その表現にはユーモアな工夫が随所に織り込められており一味違った奇妙な雰囲気を味わせてくれる。
韓国軍ピョ少尉を演じたシン・ハギュン、人民軍リ中隊長を演じたチョン・ジェヨン、メルヘンな村の少女を演じたカン・ヘジョンを始め芸達者な脇役を揃え不思議な世界に観客を引きずり込んでくれる。


『ミケランジェロの暗号』 85点

2011-10-03 15:59:59 |  (欧州・アジア他) 2010~15

ミケランジェロの暗号

2010年/オーストリア

極上のエンタテインメント・ストーリー 

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

脚本も手掛けたパウル・ヘンゲの原作「私の最良の敵」を「ヒトラーの贋札」のヴォルフガング・ムルンベルガーが監督した極上のエンタテインメント・ストーリー。
邦題から想像すると「ダヴィンチ・コード」を連想するが、ミケランジェロ幻の絵画<モーゼのデッサン>はドイツとイタリアの外交の道具として扱われるモチーフのひとつで、暗号は存在場所を意味する。
本作はナチス・ドイツに翻弄されるユダヤ人の悲劇という定番の図式を超えた、悲惨な時代に逞しく生き抜こうとするユダヤ人画廊一家をユーモアも交え描いた人間ドラマだ。
ベルリンへ向かう小型機がパルチザンの空放火で墜落、画廊の息子ヴィクトルが命拾いしてケガをしたSS隊員を助ける...。
ヴィクトルを演じたモーリッツ・ブライブトロイは顔に似合わずユーモアがあり、家族思いの生命力に溢れた主人公を演じている。
SS隊員は家族同様に育った親友だったルディである。演じたのはゲオルク・フリードリヒで使用人の息子だが密かにヴィクトルへ劣等感をいだいていた。機会があれば逆転の機会を窺っていて絵画の在りかを知ることでSS隊員として認められるが、根っからの悪ではなく何処か心優しい人物でもある。アーリア人のルディがSS隊員の制服を脱がされユダヤ人収容所の制服を着せられるとぴったりで誰もアーリア人とは思わなかったのはまさにキャスティングの勝利。それほど当事者でもユダヤ人とアーリア人の区別はつかなかったということだ。
ヴィクトルの父が名画を隠した場所は「視界から私を離すな」という遺言からミステリーの謎解きは分かってしまうが、最後まで楽しめるサスペンスに仕上がったのは流石である。