晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ゆりかごを揺らす手」(92・米) 75点

2013-07-04 07:07:54 | (米国) 1980~99 

  ・極上のB級サイコ・スリラー。

   

 のちに「激流」(94)、「LAコンフィデンシャル」(97)を監督したカーティス・ハンソンのサイコ・スリラー。

 産婦人科医にセクハラを受けたクレア。夫の薦めで訴訟を起こしたが、事件が社会問題となって医師は自殺。その妻・ペイトンは財産を奪われた挙句ショックで流産し子供を産めない身体となってしまった。全てを失ったペイトンはクレア家に復讐するため、ベビー・シッターとして接近し、その本性を現して行く・・・。

 女の復讐劇は凄まじく、B級ながら心理描写が巧みなサスペンスとして楽しめた。主人公はクレアでアナベラ・シオラが演じている。優しい夫マイケル(マット・マイコイ)や幼い娘エマと男の子・ジョーイに恵まれ、半年前のことを忘れ幸せそのもの。趣味のガーデニングを楽しみ、友人夫婦とも食事を楽しむ絵に描いたような中流セレブだ。

 新しいベビー・シッターを紹介所から連絡を待っているとき出会ったのがペイトンだった。演じたのは「卒業白書」(83)でトム・クルーズと共演し恋人としても名を知られたレベッカ・デモーネイで、これが彼女の代表作となった。あまりにもハマり役だったためこの後役柄に恵まれず、最近飲酒運転がニュースになる以外本業での活躍が見られないのは惜しい気がする。

 2人を比較すると、悪意どころか社会的正義を発揮して、訴訟に踏み切ったクレアに何の罪もなく、慰謝料が目的でもない。なのに感情移入しづらいキャラクターのクレアに対し、逆恨みは場違いとは知りつつ、屈折した母性愛のペイトンに同情してしまうレビュアーが多いのも分かるような気がする。

 夫の重要な論文を破り捨てることを手始めに、精神障害者の使用人ソロモンを幼児性的虐待のワナに嵌め、友人の妻マリーン(ジュリアン・ムーア)とマイケルとの浮気を画策したり段々手が込んでくる。題名から連想して幼児を殺めてしまうのでは?という危惧で一杯だったが、ペイトンの最終目的はクレアから夫と子供達を奪うことだった。マリーンが劇中「ゆりかごを揺らす手は世界を支配する」という聖書の言葉を引用して注意を促していた。金髪の美人でベビー・シッターとは凡そ不釣り合いの?風貌はマイケルのオフィスに現れるとみんなの視線を集めるほど。好感を持たなかったソロモンとマリーンに敵意を剥き出しにしたのは成程と思わせるドラマの進行となる。

 終盤が「危険な情事」もびっくりという乱暴な結末となってしまったのが残念だが、アマンダ・シルバーの脚本やロバート・エルスウィットの映像、グラエム・レヴェルの音楽が殊更大仰ではないのも好感を持った。後に日本のTVドラマで「冷たい月」(中森明菜)「美しい隣人」(仲間由紀恵)など類似作品がいくつか放映されたのも頷けるほど、女性向け極上サスペンス。

 

「マイ・フェア・レディ」(64・米) 85点

2013-07-03 07:53:35 | 外国映画 1960~79
  ・吹き替えに泣かされ、オスカーを逃したオードリー。




ジョージ・バーナード・ショーの戯曲が’56ブロードウェイ・ミュージカルとして上演されて大ヒット。550万ドルで権利取得したワーナーが映画化した。

 どちらかというとミュージカル映画が苦手な筆者も、この作品は話題作として記憶に残っている。その最大の理由は、この年のオスカー作品・監督・主演男優賞など主要8部門を獲りながら主演女優賞をオードリー・ヘップバーンが逃したこと。おまけにミュージカルの初演でイライザを演じたジュリー・アンドリュースが「メリー・ポピンズ」で受賞している。その理由が歌の吹き替えにあるとか。

 オードリーのイライザは、下町の花売り娘から社交界の花形へ変身するさまが可愛らしく、とても35歳とは思えない。しかも単なるシンデレラ・ストーリーではなく、賭けや実験用として利用された人間としての哀しさや、愛するヒトへの想いを一途に演じている。

 主演のヒンギスの人選もケーリー・グラントに始まりローレンス・オリビエ、ピーター・オトゥールと次々に断られ、結局舞台で演じたレックス・ハリソンに落ちついた。結果はオードリーに引き立て役として程好いバランスとなっている。

 イライザの父ドゥリットルも舞台と同じスタンレー・ハロウェイが演じ、「運が良けりゃ」を気持ちよさそうに披露している。ミステリー・ファンにはBBCのシャーロック・ホームズ役でお馴染みのジェレミー・ブレッドが見られるのも楽しい。

 「踊り明かそう」「スペインの雨」「君住む街角」など、これぞミュージカルという名曲が聴きどころでもある。

「ミシシッピー・バーニング」(88・米) 70点

2013-07-02 07:50:26 | (米国) 1980~99 

 ・人種差別の根深さが伝わってくる社会派サスペンス。

 

 ’64年ミシシッピー州ジュサップ郡で公民権運動家3人が殺害された事件をモデルに、人種差別問題を描いた人間ドラマ。監督はサマザマな子供・若者たちを描いてきたアラン・パーカー。脚本のクリス・ジェロルモは、事件をもとにFBI捜査官2人の軌跡を中心に描くことで、ドラマティックな展開へとアレンジされている。

 公民権運動家3人が乗った車はスピード違反の名目でパトカーに追われ、銃殺されてしまう。この街では人種差別が公然と行われていて、FBI捜査に対し街のKKK(白人による支配の復活を掲げた秘密結社>や保安官らによってことごとく妨害されてしまう。KKKは、黒人のみならず黒人に味方する白人を「裏切り者」として最も憎んでいる。南部出身で叩き上げのベテラン捜査官アンダーソン(ジーン・ハックマン)は実情を知っていて適当に切り上げようとするが、東部出身で若手エリートのウォード(ウィレム・デフォー)は理想に燃える情熱家で事件に挑もうとする。その正義感にアンダーソンの心に火がついてくる。しかし捜査官に協力的な態度を見せると容赦なくリンチにあったり、家を焼かれたりする事件が後を絶たない。

 捜査官・アンダーソン役のジーン・ハックマンが地道な聴き込みで核心に迫って行く人間味溢れる役を好演している。若き日のウィレム・デフォーやフランシス・マクドーマンドが観られたのも良かった。

 本作ではFBIが黒人の殺し屋を雇い陰で糸をひく町長を脅したりするが、事実とは違うとのこと。FBIは公民権運動には非協力的で事件にも消極的だったという。それでは本作が成り立たないので、対照的な2人とそれに関わる街の人々とのドラマになっている。

 あくまでも史実とは違うことを観る必要があるとはいえ、’64年6月、全米に起きた<フリーダム・サマー>のキッカケとなったこの事件は、ここで描かれた内容と大差ないことに衝撃を受ける。さらに50年後の現在もKKKの存在があることの驚き。エンタテインメント性のあるドラマながら、人種差別の根深さが伝わってくる社会派の要素を失うことなく仕上がっていて見応えがあった。