・ 派手さはないが、良質な人間ドラマ。
ロビン・ウィリアムスの訃報を知って、「グッド・ウィル・ハンティング/旅路」(98)を改めて観直したファンも多いことだろう。その主演・共同脚本のマット・デイモンが、ガス・ヴァンサントに監督を依頼してプロデュースした本作。ベン・アフレックに替わってジョン・クランスキーが加わり製作・脚本、共演している。
本国では一昨年公開されたが日本公開はお蔵入りかと思っていた。このほど漸く陽の目を見たのは嬉しい。鑑賞したのは封切り直後のレディス・デーだったため初回は完売で、2回目の午後からだったが中高年の女性を中心に満席だった。
地味ながらエネルギー問題を背景にした良質なヒューマン・ドラマで、久しぶりハリウッドの良心を観た想い。
ペンシルバニア州(架空の)田舎町・マッキンリーは、良質なシェール・ガスが埋蔵されている。本業の農業は不振で頼る産業もない。大手エネルギー会社「グローバル」は採掘権を相場より安く買い占めるべく、スティーヴ・バトラーを派遣する。
アイオワ州農家出身の彼は、貧しい人々を救えるという信念を持ちこの仕事に挑もうとしていた。成功すれば出世も果せる幹部候補生としての自負もあり、ベテランの相棒スー・トマソンとともに取り掛かる。
マニュアルどおり町に馴染むため地元の雑貨店で作業服に着替え、地権者に契約を勧めつつ町議会議長を3万ドルで買収、全ては順調に進み始める。
シェール・ガスは石油・原子力のエネルギー代替え物質として今脚光を浴びているが、反面水質汚染・温暖化など環境問題や、地震発生の可能性など、懸念事項が囁かれてもいる。
住民説明会で異論を唱えたのは、フランク・イエーツという科学の教師。元ボーイング社の研究員だった彼は理論家で、化学物質の地下汚染を指摘し3週間後の住民投票を提案した。
環境問題をテーマにした作品はそのコンセプトが明快なものが殆どだが、本作はその問題に関わった人物ならどのような言動をすべきか?を観客ひとりひとりに委ねている。悩める主人公・スチーヴや地元住民達は、観客自身の問題でもあるのだ。
スチーヴはたとえ住民投票となっても環境活動家の反対運動があっても、自分の信念を揺るがすような出来事がなければ、グローバル社のエリート社員を目指し邁進したことだろう。
ガス・ヴァンサント監督は手堅い演出で、スウェーデン出身のリヌス・サンドグレンの映像は一見平和な緑の大地を美しい自然光で捉え、そこで暮らす人々の苦悩や喜びを包み込んでいる。
主人公のM・デイモンはまさに適役で、芸域は広いがアクションなしのこうゆう役柄(イワユルいい人)がお似合いだ。オスカー女優フランシス・マクドーマンドが演じた相棒のスーが、会社に忠実で家庭を大切にする大人の人物描写だけに、さらに若い主人公の純粋さが際立って見える。
地元住民の良識者イエーツ役のハル・ホルブルック、共同脚本で製作にも加わっている環境活動家役のジョン・クランスキーが重要な役柄で絡むのも程好いバランス。ほかに地元の雑貨店主役に扮したタイタス・ウェリバーが、それとなくスチーヴとスーに好意を持って協力するところも味わい深い。
ヒロイン・アリスを演じたのが、ローズマリー・デヴィッド。生まれ育った土地を引き継いだ独身女性の小学校教師は、スチーヴにとって最後まで気になる存在。
さまざまなヒトの人生を映しながら進むこのドラマの結末は、玉虫色で多少インパクトに欠けるきらいがある。それでも観終わって不満が残るような作品ではなく、何故か爽やかな気分にさせてくれた。そして改めてエネルギー問題を考えるキッカケにもなった。