晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「仮面の男」(98・英)65点

2019-10-31 14:31:20 | (欧州・アジア他)1980~99 

・ 17世紀フランスのルイ14世と鉄仮面伝説をもとに描いた歴史ロマン


 アレクサンドラ・デュマの原作をもとに、太陽王ルイ14世とバスティーユ牢獄に幽閉されたいた仮面の男伝説、老いた三銃士とダルタニアンの物語を描いた大河ロマン。脚本のランダル・ロマン監督デビュー作で、レオナルド・デカプリオが二役を演じている。

 フランスの英雄・三銃士の勇ましい物語は英国のロビンフットと並び何度も映画化され、筆者も子供の頃観て知っているが、本作はそのスピンオフもの。

 「タイタニック」(97)で一世を風靡したデカプリオの次回作で確か邦題は「デカプリオの・・・。」だったような記憶がある。しかもルイ14世と双子の弟フィリップの二役を演じるのが最大の売り。

 フィリップ演じる仮面の男の正体は諸説あって、マザラン宰相の会計係ユスタージュ・ドージェだという最新説が真実だとも言われるが、本作のように<王の双子>のほうが謎めいていてロマンがありそう。

 改めて観るとデカプリオは非道で傲慢な王ルイ14世と心優しい双子の弟フィリップの二役を目つきの違いで演じ分け、単なる美青年スターではない俳優の片鱗が窺える。

 ただ主役はどう見てもダルタニアン(ガブリエル・バーン)だ。側近として国を導くに相応しい王の教育係として仕え、王妃アンヌ(アンヌ・パロー=ニキータの女優)との秘めた恋に悩むという役柄で、物語の中心を担っているからだ。

 王の悪政に老いた3銃士が立ち上がり、双子の弟と入れ替えようとする一見荒唐無稽なストーリーだが、扮した名優たちの頑張りで騎士道絵巻としての品格が保たれたようだ。

 恋人クリスティーヌをルイ14世が奪ったため戦地で息子ラウルを失ったアトスに扮したジョン・マルコヴィッチ。イエズス会首領として信仰に身を委ねるアラミスにジェレミー・アイアンズ、女好きで豪放磊落なポルトスにジェラール・ドパルデュー。個性豊かな三人がしっかり脇を固め、<One for all. All for one>が復活!

 筆者が子供の頃正月とお盆に観たオールスターキャストによる東映時代劇のように絢爛豪華な勧善懲悪ストーリーだった。

「ジョーカー」(19・米)75点

2019-10-26 14:25:02 | 2016~(平成28~)

 ・ バットマンのヴィラン誕生秘話をもとに描いた社会派エンタテインメント。

 原作コミック「バットマン」のヴィラン(悪役)として登場し映画でもジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトら名優たちが演じてその名をはせた<ジョーカー>。ゴッサムシティで人々を恐怖に陥れた悪のカリスマの誕生秘話を、ホワキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督・共同脚本で描いたオリジナル・ストーリー。

 社会から疎外された孤独だが心優しい純粋な心の持ち主がどのようにして悪のカリスマへ変貌していったか?フィリップス監督は初期に手掛けたドキュメンタリーで培った力で<ジョーカー>を独自の目線で描いている。

 原作コミックからのファンには物足りないかもしれないが、今までいわゆるアメコミというものを敬遠していた人にも独自のドラマとして充分楽しめるつくりとなっている。

 監督が意識したのはM・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演の「タクシー・ドライバー」(76)、「キング・オブ・コメディ」(83)。そのためTV司会者マレー・フランクリン役にデ・ニーロが決まったとき大喜びしたという。

 ジョーカー役には当初から「ザ・マスター」(12)以後毎年異色の役柄を演じてのりにのっているJ・フェニックスをイメージしていた。自分をとことん追い詰めそのキャラクターに成り切ろうとする姿勢に惚れ込んでの起用は本作でも遺憾なく発揮され、骨と皮ばかりの肉体改造による外見と苦悩や問題を抱えた内面を演じ切った怪演は本作最大のみどころ。

 架空都市ゴッサムシティは現代にも通じる矛盾を抱えていて、一握りの大富豪が支配する貧富の格差に苛まれ、貧しい人々の鬱憤は人種差別や暴力へと顕在化して行き、一歩間違えると暴動になりかねない。

 そんなとき地下鉄で酔ったビジネスマン三人を殺害したアーサーは謎の道化師として貧しい人々の英雄と化して行く。発作的に笑い出す病気を抱えながらコメディアンの夢を追う大道芸人が起こした偶発的な事件だった。

 カウンセリングの閉鎖と服用役を絶たれ現実と妄想が行き交う中、好意を抱いたアパートの隣人ソフィー(ザジー・ビーツ)、愛する母ペニー、憧れのマレー・フランクリンとの関わりが絶望となったときアーサーはジョーカーへと変貌していく。

 どこまでが幻想でどこからが現実か?または、ほとんどが幻想か?観客を試すようなストーリーはラスト・シーンまで惹きつけて止まない。

 「ロックンロールPART2」の曲にあわせ階段で狂ったように踊るアーサーは間違いなくジョーカーへ変身した瞬間だ。

 さらに「That’s Life」が流れるたびに孤独な男のつぶやきが聞こえてくる。

 ベネチアでスタンディング・オベーションが鳴り止まず金獅子賞を受賞した本作。来年のオスカーはどうなるのだろうか?
 

「グリーン・ブック」(18・米)80点

2019-10-22 16:20:18 | 2016~(平成28~)


 ・王道のハリウッド路線を踏襲したヒューマンなバディ・ムービー。


 60年代アメリカ南部を舞台に、NYマフィア御用達「コパカバーナ」の用心棒と黒人ピアニストの二人が旅する2ヶ月間で、徐々にお互いの理解を深めて行く姿を描いたヒューマンドラマ。実話に基づいたストーリーを主人公の息子ニック・バロレンガと監督のピーター・ファレリーおよびブライアン・カリーの共同脚本により映画化。オスカー作品・脚本賞とピアニストに扮したマハーシャラ・アリが2度目の助演男優賞を受賞した。

 「ロード・オブ・ザ・リング」3部作でその名を知られたヴィゴ・モーテンセンは「ヒストリー・オブ・ザ・バイオレンス」(05)「イースタン・プロミス」(07)などバイオレンス俳優のイメージが強く、今回の主人公には不向きでは?と思っていたが見事に変貌して魅せてくれた。

 M・アリも知的で繊細な天才ピアニスト役で「ムーンライト」の麻薬の売人役とは正反対の役柄をこなし監督の期待に応えている。

 そもそも監督自身も「メリーに首ったけ」などコメディ路線を歩んできた人。まさに観客の先入観を覆した三人による映画だ。

 昨今の映画は時空をシャッフルして観客を誘うシナリオが多い中、場違いな二人が何故旅に出たのかを順を追って描いた分かりやすい筋立てで、回想シーンがなくても二人の生い立ちや過去が触れられているつくりも好感が持てる。

 オスカー受賞は白人目線の作品<白人救世主>との評価もあって、スパイク・リーを始めハリウッド批判の声も高い。

 それでもこの時代、有色人種の一般公共施設の利用禁止<ジム・クロウ法>によって、黒人のための「グリーン・ブック」なるものが存在したことすら知らない筆者をはじめとする世界の人々には充分胸に迫るものがある。

 ギャグで笑わせながら、人間の尊厳や友情を育んだロード・ムービーは心温まるエンディングを迎える。

 筆者にとって自覚意識のない差別を改めて自戒するような映画だった。

「パリ、嘘つきな恋」(18・仏)70点

2019-10-13 12:03:08 | 2016~(平成28~)


 ・ F・ビュボスク監督・主演の爽やかな大人のラブコメ。


 人気コメディアン、フランク・デュボスクが初監督で脚本・主演もこなした大人のロマ・コメ。

 恋を遊びとしか考えない中年プレイボーイが、ふとした偶然で車椅子生活のふりをしたことから本当の恋におちていくハナシを、ユーモアたっぷりに描いたラブ・ストーリー。

 健常者が障害のふりをするというのは、一歩間違えるととても後味の悪いだけでなく尊厳を傷つけるものになりかねない。ましてそれをネタに女性と付き合うというキワドイ物語をデュボスクは実に爽やかに描いて見せた。

 フランスでは有名なコメディアンというが筆者は初見でどういう芸風かしらなかったが、本作の主人公のような<女好きで虚言癖がある気取り屋に扮して笑いを取る一人芝居のコメディアン>とのこと。

 まさに日頃の芸風をそのまま映画化したような本作だが、相手のヒロインが車椅子生活者の美女であることがユニークなところ。
妹・ジュリーの勘違いから紹介された姉・フロランスでバイオリニストでテニスも得意なアスリート。演じたアレクサンドラ・ラミーがとてもポジティヴで内面から滲み出る優雅さが主人公ジョスランをいつしか虜にしてしまう。

 ジョスランは大手シューズの代理店経営者で裕福なうえバブル期にはよくいた一見いい男で女性を魅了する条件は揃っている。結婚恐怖症はどうやら両親の離婚が原因か?遊びなら引く手あまたなのに本当の恋には疎く、親友の医師マックス(ジェラール・ダルモン)や秘書マリー(エルザ・ジルベルスタイン)を巻き込んで大騒動。ジョスランに片想いのマリーに扮したE・ジルベルスタインがコメディ・リリーフとして好い味を出していた。

 おまけに認知症の父(クロード・ブラッスール)のルルドへ行けと言われる始末。

 ふたりのデート・シーンがプラハの夜景やキャンドルが点るディナーなど女性のハートを奪うロマンチックなシーンがあり、水中のラブシーンなど見どころも随所にちりばめられている。

 ジョスランの嘘がいつバレ、二人の恋の行方は?という本筋は定番ながら、<私のことを女性としてみてくれた>というフロランスの言葉が、差別・偏見という壁を乗り越えた爽やかなラブストーリーとなった。

「ドント・ウォーリー」(18・米)70点

2019-10-10 12:28:36 | 2016~(平成28~)


 ・ 風刺漫画家J・キャラハンの自伝をガス・ヴァン・サントで映画化。


 名優ロビン・ウィリアムズが14年自死したため念願叶わなかったが、ガス・ヴァン・サントの脚本・監督、主演ホアキン・フェニックスで映画化が実現した。

 オレゴン州ポートランドで、胸から下が麻痺の車椅子生活を送るジョン・キャラハン。アーティストとしての才能が開花し、生きる原動力となっていく。アルコール依存症からどのように立ち直っていくのか?その回復プロセスを追っていく。

 キャラハンを演じたのが今最もホットな「ジョーカー」の主演俳優、ホアキン・フェニックス。「誘う女」(95)以来2度目の監督作品の出演となった。
代表作だった「ザ・マスター」(11)でも個性的な演技で注目を浴びたが、彼自身主人公同様アル中や自動車事故スキャンダルを経験していて、役柄にのめり込む姿勢は相当なもの。今回、自伝やインタビュー録画などを反芻し、車椅子の使い方や筆裁きなど細部にわたって演じて本人そっくりとの評判だ。

 キャラハンが講演会で語るシーンで始まる本作は、半身不随になった日のこと、ヘルパーに八つ当たりして酒に溺れる日々、実母への想いに号泣、禁酒会セラピーへの参加、漫画の才能に目覚め美大に通い街行く人へ作品を見せるなど、地元新聞に掲載され脚光を浴びるまで数々のエピソードをシャッフルしながらの構成だが、ストーリーが混乱することはない。

 監督は過度な悲壮感溢れる愛と感動の物語にせず<自暴自棄になって人生最悪と思っている主人公が、周りの人や環境で立ち直れるのだ>というプロセスを丁寧に描こうとした。

 そのため、キャラハンの個性であるタブーを恐れない皮肉で辛らつな風刺漫画のような強烈な生きざまは幾分抑制され、スピリチュアルな方向が垣間見える。

 禁酒会セラピーのシーンがかなり比重が高く、主催者ドニー(ジョナ・ヒル)の言葉で老子や神が出てきて「身勝手な信念より神を」「弱さを自覚したものほど強い」「失いたくない大切なものは失っていく」など教訓的な言葉も多い。

 ガールフレンド・アヌー役のルーニー・マーラも公私混同のような・・・。

 無理を承知でロビンのキャラハン役を観てみたかった。

 
 

 

「ウエスタン」(68・伊/米)85点

2019-10-06 12:08:05 | 外国映画 1960~79


  ・ S・レオーネの詩情溢れる西部劇の傑作。

 西部劇はもう作らないと思っていたイタリア製西部劇の巨匠セルジオ・レオーネが、ハリウッドから製作依頼を受け挑んだ本作。本家ハリウッドへのオマージュを込め、ベルナルド・ベルトリッジ、ダリオ・アルジェントとともに案を練り上げた。

 ヴィスコンティ作品「山猫」(63)の西部劇版とも言われ、開拓時代末期の西部を舞台に時代の流れについて行けず滅び行くガンマンの姿を描いている。ヒロインにクラウディア・カルディナーレが扮し、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソン、ジェイソン・ロバースの共演。

 最初に登場するのがハーモニカ(C・ブロンソン)。悪党三人が待つ駅での決闘場面はオープニングの名シーンとして伝説化している。あっけなく殺される三人にはジャック・イーラムなど個性派俳優が扮しているが、当初レオーネはイーストウッド、リーヴァン・クリーフ、イーライ・ウォーラックのカメオ出演を打診していたというほど渾身のオープニングだ。

 次に登場するのがフランク(H・フォンダ)。アイリッシュ開拓者マクベイン一家を皆殺しにする冷酷無比のガンマン。名前を知られただけで子供を殺す男を、アメリカの良心H・フォンダが演じただけでも必見の価値がある。

 ヒロイン、ジル(C・カルディナーレ)はニューオルリンズからマクベインの再婚相手で登場する。過去を捨て新天地で暮らそうとする意志の強い女性だ。約束の駅に迎えにこないため、馬車で山村へ向かうシーンを俯瞰のカメラで捉えるワンカットが素晴らしい。モニュメント・バレーをバックにした目を見張る雄大な風景はウェスタンならでは。

 台詞を極力抑え、名コンビ、エンニオ・モリコーネのテーマ音楽に乗ってドアップとロングショットを駆使したシーンごとにレオーネならではのコダワリを感じる。

 ほかにも、強盗団のボスでありながらヒロインに想いを寄せ手助けするシャイアン(J・ロバース)、海に憧れる鉄道王モートン(ガブリエル・フェルゼッティ)などキャラの濃い男たちが彩りを添える。

 鉄道が駅馬車から取って代わろうとする時代。ガンマンが無用の長物になっていくさまを綴っていくドラマの終焉は、男同士の決闘で帰結する。

 謎の男・ハーモニカがフランクと決闘するシーンではハーモニカの正体が明らかになるフラッシュバックを交えながらハイライトへ持って行くレオーネの真骨頂。ここでは格上のフォンダがブロンソンを見事にカバーしている。

 列車が開通する俯瞰のロングショットにタイトル「Once Upon a Time in the West」が流れるエンディングが時代の変革を実感させる記憶に残るシーンとなった。

 冗長とも思える165分は、オープニングとエンディングの素晴らしさと名優たちの好演で浄化され、至福の時間でもあった。