晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「長いお別れ」(19・日)75点

2019-11-28 16:19:05 | 2016~(平成28~)

・ 認知症の父とその家族の7年間を描いたヒューマン・ドラマ。


 中島京子の同名小説を、家族をモチーフにしたドラマに定評があり「湯を沸かすほどの熱い愛」(16)でブレイクした中野量太監督が大野俊哉との共同脚本で演出。
父を山﨑努、長女・竹内結子、次女・蒼井優、母・松原智恵子という豪華キャストによる家族構成で繰り広げられる7年間をエピソードを交えて描いている。

 遊園地で幼い姉妹が回転木馬に乗れず困っているところへ、傘を持った老人が現れタイトルとなるプロローグ。タイトルは認知症のことをアメリカでは「Long Goodbye」と言われることで、現れた老人は東昇平(山﨑努)だった。

 ’07年、郊外の瀟洒な住まいで昇平の妻・曜子(松原智恵子)が夫の転勤でカリフォルニアにいる長女・麻里と惣菜店に勤める芙美に父の誕生祝いに戻って欲しいと電話するシーンから始まる。
 父の70歳の誕生日は認知症を発症していることを告げる日となった。

 物語は09年夏、11年夏、13年の秋・冬の4構成で、ゆっくりと記憶を失っていく父とふたりの娘の悩み多き歩みを丁寧に描いて行く。それぞれの世代が我がことのように思えるリアルな設定だが、もし我が身になってみると現実はこんなきれい事ではスマナイと思うのでは?

 監督はそれを承知の上、だからこそときに笑いを誘うシーンをエピソードごとに入れ、帰る場所のある家族の大切さを気づかせてくれる物語として作り上げている。

 併せて我が家にいても「帰る」という父を、家族を愛おしく思うというプロローグの回収により人間の尊厳について訴えているようだ。

 名優・山﨑努の成り切り演技は勿論のこと、俳優陣は宛て書きではないかと思うほど見事なキャスティング。なかでも松原智恵子はチャーミングな年の取り方で真面目で厳格な夫を支える育ちの良い専業主婦を好演。<ごきげんよう>の挨拶が似合う女優は八千草薫亡き後彼女が唯一無二の存在だ。

 残された人間がそれぞれどう生きるか?がテーマでもある本作は、アメリカで引き籠もりの崇(杉田雷麟)の人生にも少なからず引き継がれることを願いたい。
 

 

「芳華 ーyouthー」(17・中)70点

2019-11-24 13:08:14 | 2016~(平成28~)

 ・激動の70年代、中国文芸工作団で青春時代を過ごした若者たちの近代史。


 毛沢東時代の中国で、歌や踊りで兵士たちを慰労・鼓舞する歌劇団・文工団で過ごした若者たちを描いた青春群像。文工団に所属していた名匠フォン・シャオカン監督が同じく団員だったゲリン・ヤンの原作・脚本により念願の映画化。<4000万人が涙した>というキャッチフレーズのとおり本国で大ヒットした。

 物語はゲリン・ヤンがモデルと思われるシャオ・スイツの追想による語りで進行していく。

 1976年、17歳のホウ・シャオピン(ミャオ・ミャオ)が踊りの才能を見込まれ文工団に入団する。シャワーを毎日浴びることができる喜びを味わう貧しい家の可憐な少女は、先輩たちのイジメもアリながら親身になってくれる舞台制作係のリュウ・フォン(ホアン・シュアン)に密かに憧れていた。
 毛沢東の死、文化革命の終焉という時代が大きく変わろうとする中、若い団員たちも多大な影響を被ることに・・・。

 前半はシャオピンとフォンの愛の物語を軸に、踊りの花形スイツ、歌姫ディンディン、寮長で司会とアコーディオンのシューウェンの女性たち、それに幹部の息子でトランペットのツァンらの青春の日々が描かれる。
 シャオカン監督は、リアル感を大切にしながら懐かしさと映画としての美しさを優先し、同時代を過ごした観客に郷愁を誘う作りに徹している。

 筆者にはチャンツイイを彷彿させる三つ編みのシャオピン以外識別がつきにくい状態でありながら、どんな環境であっても若い頃はみな同じだなという気持ちで観ていた。

 ところが、79年に起きた中越戦争となった途端、6分間ノーカットの戦闘や野戦病院の生々しいシーンとなり趣きが一変する。わずか一ヶ月の戦いは何故起きどのような結果だったかは描かれないのが残念だが、フォンとシャオピンが不幸な結果となることで、如何に理不尽な戦争だったかは充分伝わってくる。
解団公演で戦争の英雄となったシャオピンが月明かりで踊るシーンが秀逸だ。
 
 その後<’91>青年期となったリウ・フォンとシューエン、スイツの再会で境遇の違いを知り涙を誘う再会があって、その4年後に本作のエンディングを迎える。

 中国の名監督といえばチャン・イーモウだが、「戦場のレクイエム」(07)、「唐山大地震」(10)とヒット作を生んだシャオカン監督。
カットされたシーンもあったのでは?と思わせる制約の多いこの国で、もどかしいこともアリながら許される極限までの表現に挑戦したことで、中国映画史に残る監督として名を残すことになるだろう。

 

「僕たちは希望という列車に乗った」(18・独)80点

2019-11-19 12:40:59 | 2016~(平成28~)

・ なぜ、越えなければならなかったのかー


 ディートリッヒ・ガルスカのノンフィクション「沈黙する教室」をドイツの気鋭ラース・クラウメ監督が脚本化した事実をもとにした青春ドラマ。

 ベルリンの壁ができる5年前の東ドイツ。エリート高校のクラスメイト全員がハンガリー市民蜂起の犠牲者を悼み2分間の黙祷をしたことから、家族まで巻き込んで<社会主義国家への反逆事件>へとことが大きくなってしまう。

 何処にでもいる普通の18歳の少年たちが、純粋な気持ちで起こした行動が政治的タブーを犯したことで首謀者は誰かという犯人捜しになり、密告してエリートへの階段を上るのか、仲間を裏切らず大学進学を諦めるのか究極の選択に迫られる・・・。

 この時代のドイツはナチスドイツからの崩壊後東西が分裂、ソ連の傀儡政権である東ドイツは理想的社会主義国家として語られていた時代。大学へ進むことでエリート階級への道が約束されていた。

 物語は労働者階級出身のテオ(レオナルド・シャイヒャー)、エリート階級出身のクルト(トム・グラメンツ)、養父である神父のもとで育ったエリック(ヨナス・ダスラー)の三人を中心に、その家族の暮らしや過去を交えながらこの時期の東ドイツならではの複雑な背景も浮き彫りにしながら進行していく。

 検閲はあったものの東西の行き来は比較的簡単だったベルリンでテオとクルトは祖父の墓参りを理由にコメディ映画「ジャングルの裸女」を観る目的で入った映画館で観たニュースがキッカケだった。

 50年以上前筆者の高校時代、18歳以上の成人指定映画を観るかどうか迷ったことや、担任教師が授業中安保問題を話題にして学校の噂になったことを想い出す。

 友情・恋・家族・進路と悩み多き高校時代は大人への階段へ歩み出す第一歩。周りの大人たちのアドバイスを鵜呑みにするのではなく自分で考えることの大切さを教えてくれる。

 それは一度しかない自分の人生を選択する自由を持つことの大切さでもある。

 原作者のガルスカは本作でのクルトで、のちに高校教師となり晩年の06年出版し映画の完成を見届け18年亡くなったという。

 今もなお香港で起きている<自由と連帯問題>。普遍的テーマがここにある。 

「シェナンドー河」(65・米)70点

2019-11-13 12:01:44 | 外国映画 1960~79

・ アメリカ的反戦と家族愛のヒューマン・ストーリー。


 ジョン・フォードの助監督を務め後継者と言われたアンドリュー・V・マクラレン監督が南北戦争中・米国南部バージニア州を舞台に家族の絆を描いたヒューマンドラマ。主演は<アメリカの良心>ジェームズ・スチュアート。

 広大な農場を経営しているアンダーソン家のチャーリーは妻に先立たれたが、6男1女と次男ジェームズの妻ジェニーが暮らす大家族。北軍が近くまで迫っていたが、戦争には関わらず頑なに中立を守り続けていた。

 頑固な父とその子供たちの暮らしは絶対父権の大家族制そのもので、ユーモア溢れるホームドラマ調でスタートする。妻の遺言で行く礼拝は墓参りを兼ねていて、賛美歌も徴兵に加担する説教も無視する。
 「マーサ、この戦争について私はよく知らない。どんな戦争だって勝つのは葬儀社だけだ・・・。」ジェームズ・リーバレットの脚本は反戦姿勢で語られていく。

 中盤、末っ子のボーイが拾った南軍兵士の帽子をかぶっていたため北軍に捕らえられてしまうあたりから空気が一変しする。家族のためには武器を持って戦うという如何にもアメリカ的正義で、チャーリーは長男夫婦と初孫を残し息子たちとボーイ救出に向かう。南軍将校サムと結婚したばかりで男勝りの娘アンもついて行く。

 アンに扮したのはこれがデビュー作となったキャサリン・ロスで、2年後の「卒業」「明日に向かって撃て!」(69)でニューシネマのヒロインとなっていく。

 一家だけで捕虜輸送列車を襲って救われたのがサムだったり、長男ジェイコブを撃った16歳の南軍歩哨少年を赦したり、ボーイを救ったのは黒人の少年ガブリエルだったというご都合主義が気になってしまったのは筆者の言いがかりか?

 留守中、略奪者に荒らされた農場やジェームズ夫妻が命を奪われ一家を戦争の悲劇が襲うなど終盤にかけて描かれたのは戦争の空しさが溢れ出ていた。救いは幼子アーサが無事だったこと。

 19世紀初頭の民謡がもととなったテーマソングが流れ、予定調和ながら新しい時代の幕開けを感じさせるエピローグだった。

 

 

「希望の灯り」(18・独)80点

2019-11-08 12:04:55 | 2016~(平成28~)

・ままならない人生にも、美しい瞬間がある。


 ドイツのクレメン・マイヤーの短編小説「通路にて」をトーマス・シュトューバー監督が映画化。原作のC・マイヤーが脚本を担当し、主演は「未来を乗り換えた男」の若手フランツ・ロゴフスキ。

 <ベルリンの壁崩壊>のきっかけとなった旧東ドイツの都市・ライプチヒ。その大型スーパー・マーケットを舞台に、ドイツ統一によって取り残された人々の日常を描いたヒューマン・ドラマ。

 飲料在庫管理係として採用されたクリスティアン(F・ロゴフスキ)はとても寡黙で腕と首にはタトゥーをしている。朴訥だが心優しい職場の先輩ブルーノ(ペーター・クルト)に見守られながら日々を送るようになる。
ある日、菓子担当のマリオン(サンドラ・ヒュラー)の謎めいた魅力に惹かれていく・・・。

 長編三作目の監督は81年生まれの30代だが、社会の片隅にいる人々を穏やかに綴った作風はアキ・カリウスマキかジム・ジャージッシュのよう。
 台詞は極端に少なく、ブルーグレーの色調が夜の巨大スーパーとアウトバーンの無機質な風景を彩る。

 どうやら悪の仲間から抜け出し更生しようとしている20代のクリスティアンと、既婚者ながら家に安らぎがない30代のマリオンには職場が安息の場らしく、50代のブルーノはトラック運転手だった頃の郷愁に苛まれながら働いている。

 他の仲間も心の悩みを抱えながら職場で懸命に生きる人々で、決して深入りしないのも彼らの距離感だ。

 職場の花形はフォークリフトで、縦横無尽に空間を<美しく青きドナウ>にのせてリズミカルな動くさまは、まるで生きていて踊るようだ。

 孤独な若者が道を誤らないためには周りの大人の影響が大きく、クリスティアンとブルーノは疑似親子のよう。マリオンも娘のような感覚で見守っていたのかもしれない。

 終盤の悲劇は唐突でもあったが、ブルーノにはクリスティアンの成長とマリオンを見守る役目を彼に託した安堵感があったのかもしれない。

 ささやかながら仕事の役割分担を任され、出逢いや別れを経験しながら暮らす日常にも人生があるという視点が愛おしい。


 

「誰でもそれを知っている」(18・西/仏/伊)75点

2019-11-05 12:21:08 | 2016~(平成28~)

 ・ イランの名匠がスペイン田舎町で起きた誘拐事件を描いた人間ドラマ。


 「別離」(11)、「セールスマン」(16)で米国アカデミー外国語映画賞を2度受賞したイランの名匠アスガー・ファルバルディ監督のオリジナル脚本による最新作。

 スペインのマドリード郊外の田舎町で起きた16歳の少女誘拐事件をもとに、母親とその家族・友人たちを巡る人間模様を描いたサスペンス風ドラマ。
 ファルディバル監督が15年前スペイン旅行したときにみた行方不明者の写真がヒントとなったという。
 ペネロス・クルス、ハビエル・バルデムの共演によるオール・スペインロケをイラン人監督がどのように描いたか?
 実の夫婦でもあるスペインのスターふたりが元恋人役で共演するだけでその関係がストーリーの中心となるのは想定通り。その分ミステリー要素ではマイナスとならざるを得ない。

 冒頭、新聞の誘拐事件切り抜きのシーンで始まるが、明るい日射しのスペイン田舎町を走るラウラ一家の帰郷シーンとなり、登場人物紹介がお祭りムードのなか繰り広げられる。

 お祝い騒ぎの最中、娘・イレーネが行方不明になる。
 まもなく高額の身代金要求のメッセージがラウラの携帯に届き、誘拐と判明する。

 どうして幼い息子ではなく、イレーネなのか?脅迫メッセージがラウラだけでなく幼馴染みのパコの妻ベアにも届いたのか?

 極上のサスペンスものと思って期待して観たらどうやら犯人捜しのミステリーではなく、ムラ社会で起きる人間の影の部分をあぶり出す人間描写が見どころのようだ。

 40代になっても美しいP・クルスがラウラに扮し、娘のためにナリフリ構わず奔走する熱演が目を惹くが、パコが知らなかった秘め事まで言うなんて・・・。

 秘密を知らなかったのはパコ夫婦だけで、家族はもちろん村人たちは噂噺で周知の事実だったとは?!

 パコに扮したJ・バルデス、妻ベアのバルバラ・レニー、ラウラの夫アレハンドロにリカルド・ダリンという豪華俳優を起用しているだけに脚本の破綻からリアリティに乏しいのが残念!

 ファルディバル監督には、次回作に期待したい。