晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『アレクサンドリア』 80点

2012-10-28 13:22:29 | (欧州・アジア他) 2000~09

アレクサンドリア

2009年/スペイン

4世紀の出来事をドキュメンタリー映像で魅せたアメナーバル

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

「アザーズ」(02)、「海を飛ぶ夢」(05)で寡作ながら異色作を手がけ、世界で注目を浴び続ける気鋭の監督アレハンドロ・アメナーバルがローマ帝国時代の歴史劇に挑んだ。4世紀末のアレキサンドリアに厖大な蔵書があった図書館を舞台に、真理を求め学問に賭けた女性・ヒュパティアの人生を描いている。西洋史に詳しい人ならエジプトのアレクサンドリアには政治・経済・文化の中心都市で、ヒュパティアが女性哲学者として実在したことを知っているが、殆どは70万巻の蔵書とともに資料は残っていない。肖像と幾つかのエピソードは残っており博識な美しい面影と誇り高い人間性が窺い知れる。
物語はヒュパティアを囲んで彼女を愛し続ける奴隷のダオス、生徒で求愛し断られるが最後まで彼女を守ろうとするオレステス、生徒でオレステスと親友のシュネシオスの3人が絡んで行く。ダオスは架空の人物だが当時の奴隷制度を象徴する人物として描かれておりこの物語の語り手的存在でもある。オレステスは後のエジプト長官、シュネシオスは後のキリスト教主教となる実在のヒトだが、オレステスが人間的魅力に溢れる人物として描かれている。後にアレクサンドリア総主教となるヒュパティアを弾圧するキュリロスが登場するが流石に中途半端は否めない。代りに図書館で破壊行為をするキリスト教修道兵たちがクロアリのように見える俯瞰映像が印象に残る。
アメナーバルは歴史劇に良くある壮大なアクション・スペクタルや大恋愛劇とは違って、俯瞰で捉えるカットを織り込みながらリアルなセットとCGの融合でまるで観客を4世紀のドキュメンタリー世界へと誘う。それは<権力者による異文化や宗教の異端を許さないことは争いを生み、真理を追究しようする学問の進歩を妨げている>という普遍的テーマを心に訴えてくる。
ヒロインのヒュパティアを演じたのはレイチェル・ワイズ。肖像ではもっとふくよかな印象だが、学問一筋な真摯で毅然とした姿勢はイメージどおり。彼女にとって不幸なエピソードも描かれるがアメナーバルはかなりソフトな映像となっているのが救いだった。
それにしてもカソリック大国でありながらスペインで大ヒットし、英語で作ったにも関わらず英語圏とくにアメリカでは受け入れられなかったのがこの作品の不思議でもあり想像通りでもあった。日本公開は不幸にも東北大震災にぶつかってしまったが、大ヒットとはならなかったことは想像できる。アメナーバルの次回作は果して何時どんな作品になるのだろう。


『フリーダム・ライターズ』 75点

2012-10-26 12:04:32 | (米国) 2000~09 

フリーダム・ライターズ

2007年/アメリカ

H・スワンクの熱意が伝わる熱血教師役

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

実在の教師だったエリン・グルーウェルのベストセラーをヒラリー・スワンクが製作総指揮・主演した学園ドラマ。若き高校教師役が人種の違いや貧困による非行を乗り越え前向きに生きる生徒たちとの交流を描いている。原作は生徒たちの日記から彼らの心の変遷が伝わるオムニバスだが、映画化にあたっては教師の立場から描かれている。リチャード・ラクラヴュネーズの脚本・監督は誠に手堅く、人一倍ドラマチックには描かれていない。このあたりは同じ実話をもとにし高校教師のミッシェル・ファイファー主演・「デンジャラス・マインド」とは大分趣きが違う。
「ボーイズ・ドント・クライ」「ミリオンダラー・ベイビー」と個性的な役で若くして2度オスカーを獲得しているH・スワンク。その後あまり恵まれず中途半端なときこの役が回ってきただけに、本作への思いは並大抵ではない熱意が伝わってくる。
ロス暴動から2年後の’94.ロングビーチの公立校に赴任してきたエリン(H・スワンク)は203教室を担当するが、このクラスは人種毎に固まり荒廃している特殊クラスだった。教科主任マーガレット(イメルダ・スタウントン)の割り切った注告を無視して生徒たちと真っ向で向き合う熱血教師ぶりが始まる。
ラインゲームで互いの憎しみ・苦しみを語り合い互いに理解を深めて行くサマを手始めに、アンネの日記を読ませ死と背中合わせの生徒たちの感想を引き出したり、日記帳に自分の気持ちを書かせたり創意工夫のオンパレード。これが素直に受け止められホロコーストの見学やアンネを匿った女性を学校に呼んで講話を聴くなど実話とは思えぬ好循環を見せる。
私生活では夫スコット(パトリック・デンプシー)の理解が限界を超え、行き過ぎを諫めていた父スチーヴ(スコット・グレン)が協力をするようになり「お前は自慢の娘だ」というまでになる。
キレイごとと出来過ぎの感は否めないが、社会の縮図である203教室に奇跡が起こり大学に進み教師となった生徒が3人も出たと知り、<理想を持って現実を動かすこと>を実践したエリンには拍手を送りたい。
反面、傷口の舐め合いや生徒の私物化では?という疑問も湧いてしまう。
文科省推薦があっても良いほど教育の大切さを謳った作品だったが教育委員会に直訴したり親の意見を説得したり、教科主任の指導を無視して私費で授業したりする熱血ぶりは理想的な教師とはいえないのだろう。筆者の高校時代、担任教師が安保問題を取り上げただけで問題になった体質が今も変わっていないから無理もない。日本での公開は単館でしかも短期間で終了してしまったので、見逃したヒトも多かったのでは?


『ファンシイダンス』 75点

2012-10-24 10:40:58 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 




ファンシイダンス


1989年/日本






周防・元木の本格デビュー作





プロフィール画像

shinakamさん


男性






総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★★☆
75点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
75点




音楽

★★★★☆
75点





岡野玲子の人気漫画を周防正行が脚本化して自ら監督した本格デビュー作。今でこそ<僧職男子>として若い女性に注目される僧侶だがバブル期のこの時代は若い世代には未知の世界。おまけに頭を剃るだけで抵抗があり、主演俳優に難儀したという。そこで起用されたのが、シブがき隊から独立して俳優志向の強かった本木雅弘だった。
寺の跡取りでロックバンドのボーカリストだった塩野陽平が、禅寺で修行を送る1年間を描いた青春ドラマ。
普段の生活とはまるっきり違う修行生活のウラオモテを軽いコメディタッチで描きながら、シリアスな部分もシッカリと伝える周防タッチが窺える。本作が興行的には失敗しながらDVDで人気が出て「シコふんじゃった」から「Shall We ダンス?」へとブレークしていった経緯もあって周防ファンにとっては貴重な作品でもある。
同じ修行僧の弟・大沢健、珍来・田口浩正、英俊・彦麻呂たちのそれぞれの修行振りや先輩僧の光輝・竹中直人、徳井優の人間模様も現実離れしながらもこの世界を新鮮に描写している。修行僧のリーダー(首座)を命じられた陽平が法線式という禅問答は分からないながら何か格式ある儀式であることを教えてくれる。
今とは別人のような鈴木保奈美が初々しく、女僧侶の昌慧・甲田益也子の気品が彩りを添える。本木雅弘の初主演は今後の活躍が期待できることを充分証明した作品である。






『ワーロック(1959)』 80点

2012-10-23 14:42:24 | 外国映画 1946~59

ワーロック(1959)

1959年/アメリカ

正統派3大スターによる異色西部劇

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

リチャード・ウィドマーク、ヘンリー・フォンダ、アンソニー・クインの3大スターが出演した異色西部劇。原作がピューリッツア賞候補となったオークリー・ホールで監督が赤狩りでイギリスへ逃れていたエドワード・ドミトリクで本作が復帰作。
無法のカウボーイたちに悩まされて連邦保安官が定着しない町・ワーロック。町の人たちは自衛手段として、西部を渡り歩くクレイ(H・フォンダ)を雇うことにした。問題は10年来の友賭博師のモーガン(A・クイン)が一緒であること。騒ぎの要因になることを心配するが背に腹は代えられない。何となく黒澤映画に似た展開だったが、カウボーイ仲間だったジョニー(R・ウィドマーク)が連邦保安官補に名乗りを上げ、新しい流れになる。マーシャルのクレイとシェリフのジョニーがカウボーイに対処するがその処方は食い違いがあった。
正義と悪がハッキリしていて正義が悪を決闘で倒すという正統派ウェスタンとは毛色が大分違う。人間関係も若干複雑でカウボーイにはジョニーの弟ビリーがいるし、秩序を重んじる奴もいる。クレイとモーガンは刎頚の友だがクレイに恨みをもつリリー(ドロシー・マローン)とモーガンは恋仲だった。さらにクレイが町の女鉱山主ジェシー(ドロレス・マイケルズ)と結婚を決意する。嫌われ者のモーガンの居場所がなくなってしまうことで、事件が起こる。
黄金の拳銃を持つ凄腕のクレイが颯爽としているが、ワイアットアープのようなヒーローとしては描かれていないところに評価が分かれる。時代は強いものが力ずくで統治するのではなく法と秩序のもと民意を尊重する時代に変わろうとしているのだということが根底にあるようだ。社会派で鳴らした監督らしいがその分、何回かある決闘シーンに今ひとつ歯切れが良くない印象が残ってしまったのが残念だ。
3大スターがバランスよく配置された割に、タイトルで筆頭に名前が出てきたR・ウィドマークがベテラン2人に喰われてしまったのも計算外だったかも。


『博士の異常な愛情』 85点

2012-10-22 15:31:26 | 外国映画 1960~79

博士の異常な愛情

1964年/イギリス=アメリカ

ネタバレ

パイ投げシーンをカットした訳

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

ギャング映画でデビューしたスタンリー・キューブリックが一躍脚光を浴び、のちに巨匠と呼ばれるようになって再評価された曰くつきの作品.。日本での初公開は東京オリンピックで盛り上がっているときで、1週間も持たず終了。もちろん筆者もリアルタイムで観ていない。
東西冷戦の最中、米空軍基地のリッパー将軍が精神異常をきたし敵を攻撃せよというR作戦の命令を出したことで、政府高官・軍の上層部が本性を現し利己的な言動をするさまをシニカルに描いたコメディ。核戦争の緊張と恐怖がテーマだけに冒頭「映画はフィクションであり現実には起こり得ない」というクレジットが流れ、シリアスな展開を予想してしまうと戸惑ってしまう。コメディといっても腹を抱えて大笑いできる代物でなく人間の愚かさを強調するとともに、「偶然とか不測の事故が重なって<核戦争>を引き起こすことになりかねない」という皮肉たっぷりのストーリー。
<核戦争>を<大惨事>や<大恐慌>に置き換えると半世紀経って今抱える問題にも共通する人為的なミスがキッカケで国や世界が大騒ぎになるという現実を想うとこの作品の普遍性を感じる。
ピーター・セラーズがドイツから帰化したストレンジラブ博士、大統領、英国のマンドレイク大佐という別人の3役を見事にこなしている。これはキューブリックがP・セラーズだけにはアドリブを許し自在に演じさせた成果でもあろう。なかでも邦題のもととなったストレンジ・ラブ博士のナチス信奉者ぶりはチャップリンの独裁者に匹敵する名(迷?)演。
また将軍タージトソンを演じたジョージ・C・スコットの風格あるタカ派将軍が、嬉嬉として殺人行為を勧める異常さを恐怖感を持たせるのは彼のイメージを上手く使っている。
原作は「赤い警報」というシリアスな小説。作者のピーター・ジョージと共同脚色をしたがシリアス過ぎて面白くないと思い、コメディ化を考えコメディ作家テリー・サザーンを加え書き直した経緯があったという。そのバランスを上手く採って完成した作品だけに、撮影済みだった<エンディングでの会議室でのパイ投げシーン>がラッシュ試写でカットされてしまった。キューブリックはスラップスティック・コメディにしたくなかったのだろう。
ラスト・シーンは日本人にとって単なる人間の愚かさを笑い飛ばすには残酷なスチュエーションだ。ヴェラ・リンの「また会いましょう」の歌声がやけに哀しくて笑えない。


『I am Sam アイ・アム・サム』 75点

2012-10-21 15:00:05 | (米国) 2000~09 

I am Sam アイ・アム・サム

2001年/アメリカ

<愛こそすべて>のファンタジック・ムービー

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

ジェシー・ネルソン監督2作目でクリスティン・ジョンソンとの共同脚本。女性監督ならではの極細やかな人物描写で観客の涙を誘うファンタジック・ムービー。
知的障害者のサム(ショーン・ペン)はホームレスの女性との間に生まれた娘ルーシー(ダゴタ・ファニング)を溺愛するが、児童福祉ソーシャル・ワーカーから子育ては不適切との判定を受け引き離される。どうしても取り戻したいサムは施設の仲間から弁護士を雇うことを勧められ、エリート女性弁護士のリタ(ミシェル・ファイファー)に弁護を頼みに行く。
観客は障害者と子供の組み合わせだけで充分なのに、現代では忘れられがちなサムの<ひたむきな姿>をこんなカタチで見せられれば惹き込まれずにはいられない。サムを演じたショーン・ペンの役の入れ込みようは尋常ではなく、従来のイメージを払しょくする娘命の良きパパぶりを表情・仕草で魅せる。D・ファニングは賢くて愛らしい娘・ルーシーを見事に演じ、本作で天才子役の名を欲しいままにした。いま美しいハイティーンになっているがこれから大女優へ育って欲しい。
この2人の引き立て役に廻ったM・ファイファーも見逃せない。負け知らずを自負するエキセントリックな弁護士だが、家庭では夫の浮気と息子の養育に悩んでいる。サムの依頼も体良く断るつもりが、周りの目を意識してボランティアだといって引き受ける。美しい笑顔が嫌悪や諦めから嬉しい本当の笑顔になったときが素敵だ。彼女の存在が裕福で知能指数が高くても子育ては充分ではないことを暗示している。
この3人を中心にルーシーが生まれたときから何かと世話をしていた外出恐怖症の隣人アーニー(ダイアン・ウィースト)、里親・ランディ(ローラ・ダーン)が良き理解者として登場する。敵役となったのは検事ターナー(リチャード・シフ)。知能指数が7歳程度のサムとルーシーの将来を考えたら、いくらシステムがシッカリしている米国でも常識を踏まえ親子で暮らすことは無理なハズで、裁判は親子を切り離す。それでも<愛こそすべて>と思わせる硬い絆があってこそ廻りも癒されるのだろう。想い入れをもって観ている観客はそんな当たり前の結論を望んでいない。観客の期待に応えてこそ本作は成り立っている。
映画評論家には散々な評価にも関わらず、映画は大ヒットしたのも頷ける。ビートルズのエピソードが散りばめられ、バックにカバー曲が流れこのファンタジック・ムービーを盛り立てている。


『ミセス・ダウト』 80点

2012-10-20 12:16:52 | (米国) 1980~99 




ミセス・ダウト


1993年/アメリカ






R・ウィリアムズ夫妻のプロダクション第一作





プロフィール画像

shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





ロビン・ウィリアムズと妻マーシャ・ガーセスが設立したプロダクションの初作品。14年連れ添った夫婦だったが、夫・ダニエルの子供のような振る舞いに愛想を尽かした妻・ミランダが離婚宣告。ダニエルは子供達に会うために家政婦に変装し潜入するファミリー・コメディ。監督は「ホーム・アローン」2作でホームコメディを得意とし、後に「ハリー・ポッター」シリーズを手掛けたクリス・コロンバス。
R・ウィリアムズの女装振りが最大の見どころ。メイクアップによる60歳の女性・ダウトファイアー夫人は英国の家政婦だったという設定で話しぶり・仕草・歩き方までサマになっていてダスティ・ホフマンの「トッツィー」以来の名変装だ。この際妻や子供たちが気付かないのは変だということは抜きにして、得意のモノマネやジョークが速射砲のように満載で中盤までは快調な流れで進んで行く。
ミランダ役はオスカーを2度も獲っているサリー・フィールド。インテリア・デザイナーのキャリア・ウーマンなので瀟洒な邸宅に住んで家政婦を雇うのも頷ける。撮影に使われたサンフランシスコの家は、いまだに観光名所になっているほど。おまけに大学時代のボーイフレンドが独身の2枚目で大金持ちのスチュワートで後の4代目ボンド俳優ピアース・ブロスナンが扮している。どう見ても勝ち目のないダニエルがミセス・ダウトとして恋の邪魔をするのが中盤のハイライト。子供たちは素直で可愛く、幼いナタリーに扮したマーラ・ウィルソンは翌年「34丁目の奇跡」でも名演技を披露している。
終盤は心温まるハッピー・エンドへ向かうのではと思わせたが、米国での離婚の現実が下敷きにあって、養育権や面会の条件など離婚訴訟の様子がキッチリと描かれているあたりは流石である。おまけに喫煙や動物愛護など、道徳面でも家族揃って鑑賞するにはもってこいの隠し味もある。日本人にはリスニング練習には最適な作品かもしれない。






『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』 80点

2012-10-19 11:11:12 | (米国) 1980~99 

セント・オブ・ウーマン 夢の香り

1992年/アメリカ

低迷期を乗り越えたA・パチーノのオスカー獲得作

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「ミッドナイト・ラン」のマーチン・ブレスト監督による名門ハイスクールの奨学生と盲目の孤独な陸軍退役軍人との年齢差を超えた心の絆を描いた人間ドラマ。気難しく人間嫌いな現役を引退した男と将来性豊かな青年(少年)との心温まる交流はショーン・コネリーの「小説家を見つけたら」(00)にも見られるが、個性溢れる俳優の演技力が問われる作品だ。主演のアル・パチーノは期待に応え70年代の華々しい活躍から80年代での低迷期を払拭し、7度目のオスカーノミネートで主演男優賞を獲得している。
栄光の時代自分の犯したミスで盲目となり退役を余儀なくされたフランクは女好きでもあった。それは彼が生きてゆく上で唯一のエネルギーだった。盲目ゆえに香水には詳しく、英国御用達のフローレスやフランス・キャロンのフルール・ドゥ・ロカイユーが出てくる。なかでも中盤に出てくるNYプラザ・ホテルでのオーク・ルームで出会った女性・ドナ(ガブリエル・アンウォー)とのタンゴを踊るシーンは圧巻。キッカケは米国ハンドメイド・ソープの香りだった。
タンゴ・シーンで使われた曲は「ポル・ウナ・カベサ」でタンゴファンなら誰でも知っている名曲だが、歌詞は競馬で首差で負けた馬に例え、恋の駆け引きに負けた男の歌で、ドナとは一期一会だったところが象徴的。
純粋なハイスクール奨学生・チャーリーを演じたのはクリス・オドネル。自身の利益か友情かを迫られ思い悩む如何にも青春ドラマ風なのが物足りなさを感じないでもないが、彼の高潔さとそれを我が身に置き換え尊重するフランクの思いやりが後味の良いエンディングへと繋がっている。
157分は冗長な気もするが、フランクとチャーリーの人生を重ね合わせるには必要な時間だったのかも。ひとつだけフェラーリの運転には無理があったのでは?


『マッケンナの黄金』 80点

2012-10-12 10:31:22 | 外国映画 1960~79

マッケンナの黄金

1969年/アメリカ

インディージョーンズのお手本となったスペクタクル西部劇

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「ナバロンの要塞」のJ・リー・トンプソン監督、グレゴリー・ペック主演のグランド・キャニオンを舞台に繰り広げられる黄金の鉱脈を巡る一大スペクタクル西部劇。
先住民・アパッチ族に代々守られている秘密の谷に黄金の鉱脈が隠されている伝説をもとに一攫千金を狙う者たちのアドベンチャー物語。先ずはホセ・フェリシアーノの主題歌に載ってシネラマの大画面に映るグランドキャニオンの雄大な景観に圧倒される。主演はお尋ね者コロラドを追ってきた保安官マッケンナ。偶然先住民の老人に狙われ手違いで射殺したことで谷への道を知ってしまう。お尋ね者コロラド一味を始め、冒険家・新聞編集人・町の長老・宣教師などの鉱脈探しに夢中になる人々と騎兵隊・先住民達が絡み、必死の攻防戦が繰り広げられる。マッケンナを巡ってコロラドに父親を殺された判事の娘・インガと先住民の娘・ヘシュケとの恋のさや当てまであって盛りだくさんなストーリーは娯楽大作としては文句のつけようがない。マッケンナのG・ペックはどんな作品でも誠実な男の役が多いが本作でもポーカー好きが玉にキズの正義の人がハマり役。対するコロラドを演じたのは「アラビアのロレンス」のオマー・シャリフ。悪役ながらリーダー・シップもあり決してむやみに人殺しをしない。黄金を手に入れたらパリでの生活を夢見るロマンチストなのが面白い。ほかにも騎兵隊の曹長ながらしたたかなテリー・サヴァラス、マッケンナのポーカー仲間だった道案内人にイーライ・ウォラックなど個性派が絡む。エドワード・G・ロビンソン、リー・J・コップ、アンソニー・クエイル、レイモンド・マッセイ、バージェス・メレデスなど芸達者が出ているが残念ながら出番が少なく、あっという間に消えて行く。コロンビアが買い取った峡谷を破壊しての特撮に圧倒されるが、インディ・ジョーンズのお手本になったと言われるだけあって当時としては度肝を抜かれるスケールだ。


『蒲田行進曲』 80点

2012-10-11 11:01:54 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

蒲田行進曲

1982年/日本

風刺の効いた人情コメディ

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

直木賞作家つかこうへいの戯曲を自ら脚色し深作欣二監督起用による人情コメディ。角川映画が名実ともに評価された記念すべき作品でもある。
京都太秦の東映京都撮影所は時代劇「新撰組」の撮影中。主演は、土方歳三役のスター倉岡銀四郎(風間杜夫)。坂本竜馬役の橘(原田大二郎)とはライバルで絶えず大部屋俳優の取り巻きに囲まれている。銀四郎の取り巻きのひとりヤス(平田満)は銀ちゃん命の俳優バカ。落ち目の女優で銀ちゃんの恋人でもある小夏(松坂慶子)は子供を宿していた。
銀ちゃんは華のあるスター俳優で人情も篤いが、気が小さくて感情の落差が激しいし、ヤスは大部屋暮らしでなんでも銀ちゃんのイイなりになり甲斐性がない。小夏の、銀ちゃんとヤスというタイプの違う男の間で揺れ動く女ごころが愛おしい。
もとは東映の大部屋俳優・汐路章の<階段落ち>の体験からヒントを得た戯曲なので、大スター至上主義の時代劇で隆盛を極めていた当時の映画製作の裏話が面白くて哀しい逸話のオンパレード。映画化に当たって東映が拒否したのは興行上の理由もあるが、プライドを傷つけられたこともあるのでは?銀ちゃんはスター中村錦之助を思わせるし、ライバル大川橋蔵との競演はオールスター映画以外はなかった。元夫人・有馬稲子の述懐にあったがヒトのいい錦ちゃんは撮影終了後毎日自宅にスタッフを呼んで大盤振る舞いしたという。ヤスも、<階段落ち>を引き受けて一世一代のスター気分を味わってみたくなったのだろう。
題名は蒲田にあった現・松竹の撮影所の所歌で、戦前の五所平之助監督「親父とその子」の主題歌として使われている。東映に断られた角川が松竹に配給を頼んで公開にこぎ着け大ヒット、この年の賞を総なめしたのは皮肉な現象だ。桑田佳佑の作詞・作曲で中村雅俊の挿入歌「恋人も濡れる街角」もヒットしている。
風間・平田は舞台そのままの勢いでテンポのある熱演が彼らの出世作となり、大根の陰口がささやかれていた松坂が大女優へのキッカケとなった作品でもある。脇では「おれの映画だ」といいながら俳優に気を使う監督役の蟹江敬三、息子を知り尽くし小夏に頭を下げるヤスの母役の清川虹子がきらりと光る流石の演技。
ヤクザ映画を始めエネルギッシュな演出に定評のあった深作欣二の底力を改めて感じる。