晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「さよなら、人類」(14・スウェーデン他)70点

2016-02-28 18:15:49 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 哲学的・不条理なR・アンダーソンの「リビング・トリロジー」最終章

                  

 14年東京国際映画祭で「実存を省みる枝の上の鳩」という題名で上映され、高評価だったという。筆者は未見だったが、ギンレイ・ホールにて鑑賞。

 ロイ・アンダーソン監督は寡作で長いキャリアの割に長編は本作で5本目。何しろ構想15年・撮影4年というから、スピード時代の現代とは時間の流れるテンポが違う。

 題名のとおり<博物館で、枝に止まっている鳩の剥製を眺める男>のシーンから始まるこのドラマは、39シーン全てが固定カメラ1シーン・1カットで撮影されていて絵画的。監督自身が所有する専用スタジオでの撮影によるものというから驚きだ。

 次に、3つのショート・ストーリーは<死>についてのシュールなコメディが展開する。

 1.家庭でワインを開けようとして、心臓発作で死ぬ男
 2.臨終間際に宝石を手放さない老女
 3.船内で食事を注文した直後亡くなった男のサラダとビールを、客に勧めるウェイトレス

 流石に声を出して笑うシーンではないが、決して想定外とも言えない哲学的な場面が淡々と続く。

 狂言回し役で登場するのが、面白グッズを売り歩く冴えない中年セールスマン、サム(ニルス・ウェストブルム)とヨナタン(ボルガー・アンダーソン)の2人。

 人を楽しませるためにやっているという割に、時代遅れのグッズは面白くも楽しそうでもない。ダメ男2人以外に、何をやっても思いどおりにいかない人々のエピソードが万華鏡のように時空を超えて登場する。

 中でも現代のカフェに18世紀スウェーデン国王・カール12世が現れるシーンには目を見張る。騎兵隊が行進するバックが延々と続くなか、国王がバーテンの青年に言い寄ったりする。

 さらに囚人たちを巨大オルガンに入れて蒸し焼きするシーンを、正装した老年男女がワイン片手に眺める衝撃的な場面も登場する。

 人間とは何と愚かで、滑稽な生き物であるかを様々なエピソードで綴っていく不条理ドラマ。CM出身のR・アンダーソンは限りある人生の瞬間瞬間を切り取って見せる手法はCM的でもある。

 ヴェネチア映画祭で金獅子賞を獲得した本作は、真に哲学的で「リビング・トリロジー」(生きることを描いた映画)最終章に相応しい。

 

「人生スイッチ」(14・米) 75点

2016-02-26 18:26:00 | (米国) 2010~15

 ・ ユニークなブラック・コメディはアルゼンチンならではのラテン系のノリ!

                   

 「オール・アバウト・マイ・マザー」(98)、「トーク・トゥー・ハー」(02)のペドロ・アルモドバル監督が気に入ってプロデュースしたアルゼンチン映画で、監督・脚本は39歳のダミヤン・ジフロン。

 6話からなるオムニバスは、兎に角ユニークで結末がどうなるか目が離せない。それぞれ副題があり、

 1.おかえし 
   ファッションモデルが乗った飛行機には彼女の元カレと縁のある人ばかりが乗っていた

 2.おもてなし
   郊外レストランに現れた男は、ウェイトレスの父を自殺に追いやり、母を誘惑した高利貸

 3.エンスト
   山道を新車で走る男が前を走るポンコツ車を追い抜き、一言浴びせた言葉から事件が始まる 

 4.ヒーローになるために
   ビル爆破解体職人が、ケーキ店の前で駐車禁止区域外なのに車がレッカー移動されていた 

 5.愚息 
   裕福な暮らしをしている家の息子が、飲酒運転で妊婦を轢いてしまい父親は弁護士と相談

 6.HAPPY WEDDING
   盛大な結婚披露宴で花嫁は招待客に花婿の浮気相手を見つける 屋上で泣いていると

 何れも他人のことなら結構話のタネになる状況だが、筆者がこの場面に遭遇したら?笑っている場合じゃないことばかり。

 今月類似体験したのは、4の駐車違反。筆者の場合はたった20秒助手席の妻がシートベルトを外したとき隠れていた警官に違反切符を切られたこと。違反には違いないが、本音ではその運の悪さに感情を抑制することの難しさを実感していた。

 これをきっかけに主人公の職人は、職を失い妻と離婚訴訟となり再度レッカー移動されとった行動は途方もないことだった。感情の赴くままに歯止めが効かなくなるとそこまでするか?というラテン系のノリ。

 「主人公を演じた「瞳の奥の秘密」(10)のリカルド・ダリンが溜飲を下げてくれた。

 1・2・3・5話は、何れもエスカレート具合が半端ではなく、人の命に関わるオチで本当なら大事件。

 その点6話は、エンディングに相応しい盛り上がりで、この順番はなかなか上手く考えられていた。

 オスカー外国語映画賞にノミネートされた本作。見終わってスッキリしたのが何とも不思議な映画だった。
 

「冬の華」(78・日)70点

2016-02-22 13:05:16 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

 ・ 「駅/STASION」へのプロローグとなった、高倉・降旗・倉本トリオ。

                   

 「昭和残侠伝」・「網走番外地」シリーズコンビの降旗康男監督、高倉健主演が東映に復帰、TVドラマで縁のあった倉本聰が脚本を書いた異色の詩情あふれるヤクザ映画。

 親分を裏切った叔父貴を殺した秀次(高倉健)は、15年の刑に服役。その間、叔父貴の娘・洋子(池上季実子)を気に掛け、<ブラジルの叔父>と偽り<あしながおじさん>を続ける。

 服役を終えて堅気になろうとしながらも、破滅していく切ない男の姿を描いている。

「第三の男」アントン・カラスのチター、「禁じられた遊び」ナルシソ・イエペスのギターを想わせる全編に流れるクロード・チアリのギター・メロディが詩情を煽るが少し過剰気味も。

 横浜・馬車道のクラシック喫茶で、チャイコフスキーのピアノ・コンチェルト第一番を聴きながら<叔父さま宛に手紙を書く>洋子の姿は、従来のヤクザ映画には見られないシークエンス。

 それを遠目で観ながら、黙って立ち去る俊次は義理堅く不器用な昔気質のヒーローそのもので、倉本が高倉のイメージをそのままシナリオにしているよう。

 その後もイメージはヒット作「駅/STAISION」(81)へと繋がっていく。
 
 高倉を慕う俳優たち田中邦衛(好演)・小林稔持・夏八木勲・山本麟一・今井健二らが脇を固め、池部良・藤田進・小沢昭一・大滝秀二などのベテラン、北大路欣也・賠償美津子・三浦洋一など若手が競う健さん最後の東映ヤクザ映画のエピローグ作品でもあった。
 

「日本侠客伝」(64・日) 70点

2016-02-20 10:35:02 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

 ・ 義理人情の世界をたっぷり描いた、マキノ節全開!

                   

 高倉健のヒット・シリーズ「日本侠客伝」11作の記念碑的な第1作。監督はシリーズ9作を手掛けた巨匠・マキノ雅弘。

 深川木場の材木を一手に取り仕切っていた運送業者・木場政組。新興の沖山運送が政治家や軍と手を組み、何かと争いのタネとなっていた。

 争いを好まぬ組長の死をキッカケに、沖山兄弟(安部徹・天津敏)は木場政組の取り潰しを画策し、利権争いが益々激化していく。

 小頭・辰巳の長吉(高倉健)を始めとする昔気質の任狭に生きる男たちと、それを支える女たちの一途さが切なく描かれていてマキノ・ワールド満載。

 「人生劇場 飛車角」で、ハマリ役・宮川を好演し主役に抜擢された高倉健。本来主演する筈だった中村錦之助がスケジュールを理由に断ったため、シナリオが大幅に書き換えられて除隊した組員・長吉として開始20分後の登場となった。

 錦之助は、木場政の客員ヤクザ・清治役で特別出演扱いとなり、先代に借りた恩を返すため理不尽な沖山へ単身乗り込んで惨死する。このパターンはシリーズに受け継がれ、鶴田浩二、若山富三郎、池部良など大物俳優が担うことになる。

 マキノは切った張ったの大立ち回りより、<男と女の微妙な色恋沙汰を描くのが得意>で、本作も3組のカップルを登場させている。

 長吉といろは亭の娘おふみ(藤純子)の純愛、長吉を想う辰巳芸者・粂次(南田洋子)への赤電車の鉄(長門裕之)の一途な恋、清治と命懸けの駆け落ちをして一人娘(藤山直美)と暮らすお咲(三田佳子)。

 いずれも切ない別れが待っていてこの伏線があってこその刃傷沙汰が映えてくる。

 兎に角豪華キャストで、木場政組には田村高廣、大木実、松方弘樹が登場するが「次郎長三国志」の監督だけあって夫々見せ場があるのは流石。

 幼少の頃から東映時代劇で育った筆者にとって、本作を契機に<昭和任侠もの><実録ヤクザ映画>へ舵を切って行く東映映画との決別を予感させる作品でもあった。

 

 

「ナイトクローラー」(15・米) 80点

2016-02-18 12:25:21 | (米国) 2010~15

 ・ J・ギレンホールの怪演が評判となったD・ギルロイの初監督作品。

                   

 ナイトクローラーとは報道スクープ専門映像パパラッチのこと。そのアンチ・ヒーローをジェイク・ギレンホールが怪演して話題を呼んだ本作は、脚本家ダン・ギルロイの初監督作品。

 ロスでコソ泥でその日暮らしをしていたルイス。過剰な程の自信家で、自称<勤勉で志は高く、粘り強い人間>だ。

 偶然、遭遇した事故現場でナイトクローラーの存在を知る。映像は視聴率至上主義のローカルニュースTV局に流れ、刺激が多いほど喜んで視る視聴者に支えられている。

 盗んだマウンテンバイクをビデオ・カメラと警察情報傍受用の無線機に変え、真似事から始め段々エスカレートして伸し上がって行くさまは、悪のわらしべ長者の趣きだ。

 主演したルイス役のJ・ギレンホールは何処にでもいそうな目立たない青年だが、何処か都会の闇に潜んだ不気味さを併せ持つ。痩せこけたコヨーテのイメージのため、昼夜逆転の生活と減量に挑み、眼だけ異様なサイコパスとなっている。

 殺風景なアパートで四六時中ネットで情報を必死で追う孤独な男は、アイロン掛けや観葉植物に水やりをする普通の男でもある。

 そんな歪んだ現代社会が生んだ主人公をリアルに演じたギレンホールの演技が光る。

 D・ギルロイのストーリー・テーラーぶりは長いキャリアで定評があったが、監督としても力量があることを示している。

 昼と夜の別世界・LAの情景を見事に映し出したロバート・エルスウッドの映像やカー・アクション監督マイク・スミス、愛妻レネ・ルッソの熟女プロデューサー役など善きサポート役の存在も見逃せない。

 裸一貫から起業して成功するには、倫理や道徳を無視してひたすら前進するしかない悲劇性を孕んだ異端の起業家は、この先はどうなっていくのだろう?

 魅惑的な大都会LAの夜景の中を疾走するナイトクローラーという存在を通して、D・ギルロイは現代の格差社会への警鐘を鳴らしている。
 

 

「ジュリア&ジュリー」(09・米)65点

2016-02-14 15:33:05 | (米国) 2000~09 

 ・ 50年の時空を超えてアメリカ家庭料理を映画で蘇させた、故N・エフロン。

                   

 ノーラ・エフロンといえば、「めぐり逢えたら」(93)、「ユーガットメール」(98)のロマ・コメで一世を風靡した監督だが、脚本家一家で育ち「恋人たちの予感」(89)の脚本でブレイクしたヒト。12年71歳で亡くなっているのでこれが遺作だろうか?

 本作は、本場のフランス料理をアメリカ家庭に広めた功労者ジュリア・チャイルドと、彼女の524あるレシピをブログに掲載し作家となったジュリー・パウエルを、同時並行的に描いたコメディタッチのハートフル・ドラマ。

 料理ショーTV番組で一躍有名人となったジュリアに扮したのは、オスカー常連女優のメリル・ストリープ。

 半世紀を経てそのレシピを再現して評判を呼びブロガーで成功を収めた作家志望のジュリーを演じたのはエイミー・アダムス。

 2人は「ダウト~あるカトリック学校で~」(08)に続いての出演だが、今回は出会うことがないので厳密には共演とはいい難いのかも・・・。

 50年の時空を超えて2人がどのように料理と向き合ったかが交互に描かれ時代背景の比較がされていて興味深い。

 外交官の夫ポール(スタンリー・トゥッチ)とパリ在住時に、<食べることが大好きな>外交官夫人がフランス料理学校ル・コルドン・ブルーに入って料理を学ぶ。

 男社会に混じり負けン気を発揮し頑張って友人3人と料理本出版までこぎつけたジュリア。その本が評判を呼んでTVの料理番組で米国中のお茶の間へ。少々のミスを気にしない料理紹介はその気さくな人柄から大評判となる。

 ジュリアになり切ったM・ストリープはカメレオン女優の本領発揮で、大柄でチャーミングなジュリアはこんな人に違いないと思わせる。

 方や、ジュリーは夫エリック(クリス・メッシーナ)とNYのアパート住まいをしながら、市民相談係で働く作家志望の女性。憧れのジュリアのレシピを料理し、毎日ブログにアップすることで夢を叶えようと思いつく。

 如何にも今風でその前向きな行動力は共感を呼びそうだが、ジュリアと比較するとかなりの劣勢。

 半世紀前にアメリカの家庭に<牛肉のワイン煮の味>を知らしめ、ボナペティ!と高らかに詠ったジュリアの素晴らしい人生賛歌の映画となった。

 
 
 

 

「マイ・インターン」(15・米) 70点

2016-02-13 17:50:19 | (米国) 2010~15
 ・ N・マイヤーズ監督・脚本による、都会派ハートフル・ドラマ。

                   

 「恋愛適齢期」(03)、「ホリデイ」(06)、「恋するベーカリー」(09)のナンシー・マイヤーズ監督が、NYブルックリンを舞台に30代のワーキング・ウーマンと70歳のシニア・インターンとの交流をハートフルに描いたドラマ。
 
 結婚して家庭を持ちながらファッションサイトのCEOとして頑張っているヒロイン・ジュールズ役はアン・ハサウエイ。丁度彼女の出世作「プラザを着た悪魔」の9年後を描いたよう。ひと昔前ならジュリア・ロバーツがやりそうな役柄だが、リース・ウィザースプーンが降板したためオーディションで勝ち取ったとのこと。

 一方、相手役が40年勤めた会社を定年退職した妻に先立たれた独身老人のベン。シニア・インターンとしてジュールズの部下として配属されたベンを演じたのが大御所ロバート・デ・ニーロ。

 オシャレな最先端のファッション産業を立ち上げ若き経営者として拡大し、専業主夫の夫と一人娘と幸せな家庭を持つという夢のような暮らしのジュールズ。

 定年後社会との接点をどう保つか?いろいろ試行錯誤した挙句、シニア・インターン制度で社会復帰したベン。

 どちらの視点で観ても、共感を得られそうな絶妙なウエイトは、マイヤーズ監督の手腕によるものだろう。

 日頃映画は疑似体験と思っている筆者だが、本作は自らの体験とベンを比較しながら観た。

 自分を見失わず時代に付いて行こうと若いスタッフに溶け込み、若い女性上司に説教臭くならないように節度を持ってさり気なくアドバイスする、余りにも理想的なベン。筆者も晩年はそうありたいと願ったが、現実には程遠い存在であったかもしれない。覆水盆に返らず・・・。

 若い頃から個性豊かで普通の男を演じることは殆どないデ・ニーロが、こんな穏やかな役をさり気なく演じたことがとても感慨深い。
 
 マイヤーズが当初キャスティングしていたジャック・ニコルソンだったら、趣きの違う作品になったことだろう。見比べて観たいが無理なハナシで、想像するしかない。
  
                  

「彼は秘密の女ともだち」(14・仏)70点

2016-02-06 17:29:23 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・らしく生きること=人間賛歌を、絶妙な語り口で描いたF・オゾン。<ネタバレあり!>

                   

 フランスを代表する監督のひとりであるフランソワーズ・オゾンによる20年越しの企画が実現し映画化された。

 幼馴染みの親友が亡くなり、その夫の秘密を知った主人公が、封印していた本能に目覚め本当の自分を見出していく姿を描いた人間ドラマ。

 ルース・レンデルの原作<女ともだち>はミステリーだが、題材をもとに独特の語り口でシリアスさとユーモアの配合を巧みにブレンドした女性のドラマに仕立て上げた。

 主人公クレールは貞淑な妻であり仕事を持つ女性として暮らしていたが、親友ローラを失いその夫と幼い娘を一生面倒見ることを葬儀のスピーチで誓う。

 その夫ダヴィッドには秘密があった。その秘密とは<異性装者>で、カツラを付けワンピース姿で娘にミルクをやっている姿を偶然見てしまったクレール。

 ローラという、互いの最愛の人を失ったクレールとダヴィッドには奇妙な連帯感が生まれ、物語が思わぬ方向へ動き出し、二転三転して行く。

 女装したダヴィッドにはヴィルジニアという別名がつけられ、クレールはダヴィッドではなくヴィルジニアと秘密を共有することで、本能に目覚めて行く。

 クレールに扮したアナイス・ドゥームスティエは、ソバカスだらけのスッピンで黒や濃紺のパンツ姿から鮮やかなワンピースに装いを変え、みるみる輝きを増していく。

 本作で最も重要なダヴィッド=ヴィルジニア役は名優ロマン・デュリス。そのしぐさは女性っぽいが扮装はオカマそのもので、お世辞にも美形とは言い難い。

 しかし決して外出しなかった彼女?が、クレールと街へ出る度に女らしく変身していくさまは、男らしく生きることができないダヴィッドに否応なく共感させられてしまう。


 

<ここからネタバレ!!>

 
 クレールの<らしく生きる>こととは優しい夫ジルとの暮らしではなく、ヴィルジニアだったというラストシーンに付いて行けない筆者がいた。