・ 哲学的・不条理なR・アンダーソンの「リビング・トリロジー」最終章
14年東京国際映画祭で「実存を省みる枝の上の鳩」という題名で上映され、高評価だったという。筆者は未見だったが、ギンレイ・ホールにて鑑賞。
ロイ・アンダーソン監督は寡作で長いキャリアの割に長編は本作で5本目。何しろ構想15年・撮影4年というから、スピード時代の現代とは時間の流れるテンポが違う。
題名のとおり<博物館で、枝に止まっている鳩の剥製を眺める男>のシーンから始まるこのドラマは、39シーン全てが固定カメラ1シーン・1カットで撮影されていて絵画的。監督自身が所有する専用スタジオでの撮影によるものというから驚きだ。
次に、3つのショート・ストーリーは<死>についてのシュールなコメディが展開する。
1.家庭でワインを開けようとして、心臓発作で死ぬ男
2.臨終間際に宝石を手放さない老女
3.船内で食事を注文した直後亡くなった男のサラダとビールを、客に勧めるウェイトレス
流石に声を出して笑うシーンではないが、決して想定外とも言えない哲学的な場面が淡々と続く。
狂言回し役で登場するのが、面白グッズを売り歩く冴えない中年セールスマン、サム(ニルス・ウェストブルム)とヨナタン(ボルガー・アンダーソン)の2人。
人を楽しませるためにやっているという割に、時代遅れのグッズは面白くも楽しそうでもない。ダメ男2人以外に、何をやっても思いどおりにいかない人々のエピソードが万華鏡のように時空を超えて登場する。
中でも現代のカフェに18世紀スウェーデン国王・カール12世が現れるシーンには目を見張る。騎兵隊が行進するバックが延々と続くなか、国王がバーテンの青年に言い寄ったりする。
さらに囚人たちを巨大オルガンに入れて蒸し焼きするシーンを、正装した老年男女がワイン片手に眺める衝撃的な場面も登場する。
人間とは何と愚かで、滑稽な生き物であるかを様々なエピソードで綴っていく不条理ドラマ。CM出身のR・アンダーソンは限りある人生の瞬間瞬間を切り取って見せる手法はCM的でもある。
ヴェネチア映画祭で金獅子賞を獲得した本作は、真に哲学的で「リビング・トリロジー」(生きることを描いた映画)最終章に相応しい。