晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『ブラック・ブレッド』 85点

2012-06-30 13:21:33 |  (欧州・アジア他) 2010~15

ブラック・ブレッド

2010年/スペイン=フランス

少年時代の<こころの傷>を鋭く描写したビジャロンガ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

エミリ・テシドールの原作をスペインのデヴィッド・リンチといわれるアグスティー・ビジャロンガが脚色・監督し、スペインのアカデミー賞(ゴヤ賞)を受賞している。
スペイン内戦直後、フランコ独裁政治下のカタルーニャ地方。冒頭観客はイキナリ何者かに襲われ石で頭を殴られた男と少年が馬車とともに崖下に落とされるシーンを見せつけられる。11歳の少年アンドレウは友達のクレットが崖下で瀕死状態であるのを発見。最後の言葉が<ピトルリウア>で、それは村に伝わる<洞窟に住む怪物の名>だった。
内戦後の傷痕を深く抱えた大人たちを純粋な少年がどのように受け止め大人への第一歩を踏み出すのか?ミヒャエル・ハルケの「白いリボン」を思わせるストーリー展開は、大人たちの生きるためのウソや嫉妬心・虚栄心が次々と炙り出されスリリングだ。
貧しい農民は「黒パン」しか食べられないが、農場主は「白パン」を食べさせてくれる驚きと憧れ。物語が進むうち、純粋だった少年は徐々に大人の世界を覗き見るハメになる。祖母の家へ同居することになって出会った従姉のヌリアは、両親を亡くし事故で左手を失っているので生きるスベを本能的に知っている。大人への架け橋役として何かと教えてくれるが、身勝手で狡猾な大人社会の現実を見聞するだけだった。少年には修道院で療養生活を送る<心に翼を持った青年>のことば(「望めば別の世界へ飛んで行ける」)が深く心に刻まれる。
一貫して<心に傷を負った少年の物語>を追い続けてきたビジャロンガ監督。救いは翼を羽ばたかせ新しい世界へ飛び立とうとする少年の成長ぶりを予感できたことだろう。ただし大人になった主人公は見たくないような複雑な気分にも...。
オーディションで選ばれた主役の少年フランセス・クルメは、利発そうな尖った風貌が功を奏して、従姉ヌリアの14歳にしては妖艶なマリナ・コマスと好対照となっている。著名な俳優は町長に扮したセルジ・ロペスだけだったが却って気を散らさず物語に集中できた。これはひとえにビジャロンガ監督の技量の凄さでゴヤ賞を争った「私が生きる肌」(P・アルモドバル監督、A・バンデラス主演)との違いだろう。


『毎日が夏休み』 75点

2012-06-29 10:45:54 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

毎日が夏休み

1994年/日本

少女マンガを大人も楽しめるメルヘンへ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

大島弓子の少女マンガを金子修介が脚色・監督した大人も楽しめるメルヘン。その翌年からの「ガメラ」シリーズでブレークした金子監督が3年掛かりで映画化しているだけあって、原作の雰囲気を壊さないような配慮をしながらオリジナリティがしっかりと感じられる。このあたりは<三丁目の夕日>とは大違い。
東京郊外、新興住宅地に住む中学生・林海寺スギナは元気に家を出るがイジメが原因で登校拒否。公園で弁当を広げると義父・成雪に出会ってしまう。父も出社拒否をしていた。
こんな冒頭から暗いテーマを抱えていながら妙に明るい2人に違和感を感じてしまう前にこれはライト・コメディなのだという心構えが必要だ。
2人に振り回されながら意外に落ち込まずついて行く母良子。成雪も良子もバツイチでの再婚だが、一家はそれなりにバランスが取れていたはずがこれで家庭崩壊か?
このドラマは2人が「何でも屋」を始めそれを楽しく真剣にやることで道が開かれるのでは?という非現実的な方向へ進んで行く。そこに成雪の元妻・紅子と良子の元夫・渡が絡む。
作りようによってはマルっきり違うトーンの作品に成りかねないストーリーを監督はほのぼのとした大人も楽しめるメルヘンとして完成させた。
ヒロイン・スギナを演じた佐伯日奈子はこれが映画デビューで17歳とは思えない初々しさがぴったりハマって、ぎこちないナレーションまで計算ずくのよう。成雪の佐野史郎は原作のようなハンサムではないが、浮世離れしたエリートの感じと妙に人生を悲観せず一所懸命ぶりが好感を持たせる。
脇を固める風吹じゅん、高橋ひとみ、益岡徹、黒田福美、小野寺昭など真面目にファンタスティックな世界に身を置いての演技は、軌道すれすれだが外してはいなかった。ワンシーンながら先生役の戸田恵子は見事!
公開時がバブル期ならもっとヒットしたに違いない。時代によって評価は変わるが5年遅きに失した感がある。


『さよならをもう一度』 80点

2012-06-24 11:37:13 | 外国映画 1960~79

さよならをもう一度

1961年/アメリカ

中年女性の哀しみをリアルに描いたアメリカ製フランス映画

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

終始自由恋愛と結婚をテーマにした小説を書いたフランソワーズ・サガンの「ブラームスはお好き?」をサミュエル・A・テイラー脚色、アナトール・リトヴァク監督で映画化した米国製ラブ・ストーリー。若いころ観たとき、パリの街角に住んで仕事をする主人公ポーラとロジエが何故英語を話すのだろうか?と不思議に思った作品。
国籍は別にして、イングリッド・バーグマンは自称40歳で美貌の室内装飾家。イヴ・モンタン扮する5年越しの恋人でトラック販売会社の重役・ロジエとは互いに自由を束縛しないという約束。今とは10年ぐらい年齢のギャップのある40代の女性にとって衰え始める美貌は将来の不安を感じ始める時期。そんなとき現れたのが25歳のアメリカ人資産家の息子・フィリップ。職業は弁護士だが、1日をどうやって過ごそうか考えるだけの日々で若い女性には飽き飽きしていた。アンソニー・パーキンスは前年「サイコ」で精神異常の青年役で主演して注目を浴びたが、本来こういう役がぴったりで、ベスト・アクトといってよい。
メインテーマは中年女性の恋の揺らめきだが、若い男との恋は良くも悪くも残酷な状況にいる己に気付かされる。ポーラには百戦錬磨のプレイボーイと世間知らずで一途な若い男との究極の選択しかなかったのだろう。ヒロインの哀しさが車のワイパーでは払いきれない涙に象徴されている。
ブラームスの交響曲3番ヘ長調3楽章がさまざまなアレンジで奏でられ、ディオールのコスチュームに身を包んだバーグマン。体型が変わりつつある中年女性の哀しみがリアルで2人の男が引き立て役として上手く噛み合っていた。


『ギルティ 罪深き罪』 70点

2012-06-22 11:54:14 | (米国) 1980~99 

ギルティ 罪深き罪

1993年/アメリカ

エンディングの安易さがモッタイナイ

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★☆☆70点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★☆☆70点

「十二人の怒れる男」(57)で監督デビューした法廷劇の巨匠シドニー・ルメットが演出したサスペンス。
レベッカ・デモーネイ扮する辣腕女弁護士ジェニファーが、ドン・ジョンソン扮する依頼人デイヴィッド・グリーンフィルの裁判に関わり、秘密保持や倫理規定に縛られ、危機に陥るサスペンス。
非ハリウッドの旗頭として長年NYを舞台にした社会派として80年代初頭まで次々と話題作を演出し続けてきたルメットも、その後は力量を持て余し気味で本作も往年の切れ味がない。原因はB級サスペンスを得意とするラリー・コーエンのシナリオにある。B級必ずしもダメだとは思わないが、ルメットのような骨太な演出家にはそぐわなかった。
それでも中盤まではどのような展開を見せるのか興味を持たせてくれたのはこの監督の底力か?残念だったのはアクション・サスペンスと紛うエンディングの安易さで、肩すかしをくらった感じ。
主演のR・デモーネイは「揺りかごを揺らす手」で印象深い演技派だが、弁護士役のイメージが合わなかったのかインパクト不足。相手役のD・ジョンソンは本作では最も重要な役柄。TV「特挿刑事マイアミ・バイス」シリーズで売り出したが冷酷な2枚目役の本作では可もなく不可もなくという感じ。のちの「刑事ナッシュ・ブリッジス」で再び刑事役で名をあげたが私生活では不倫が原因で妻メラニー・グリフィスと2度も離婚したように本作の役柄が似合うハズ。私生活と演技は必ずしも一致しないということを証明。
昨年没したルメットは晩年まで監督を続け、21世紀に入っても精力的に映画製作に携わったが往年の名作には及ばず本作もそのひとつ。


『幸福の黄色いハンカチ デジタルリマスター』 80点

2012-06-20 16:07:48 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

幸福の黄色いハンカチ デジタルリマスター

1977年/日本

記念すべき第1回日本アカデミー賞総なめ作品

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

「寅さんシリーズ」で大ヒットを重ね松竹の看板監督として第1人者となった山田洋次が、71年ニューヨークポストに掲載されたコラムをヒントに朝間義隆と共同で脚本化した北海道を舞台に繰り広げられるロード・ムービー。記念すべき第1回日本アカデミー賞を総なめにした作品でもある。
失恋した印刷工だった欽也はその傷を癒すためFRファミリアで北海道へやってくる。釧路でひとり旅の朱実を車に乗せ網走まで行く途中、中年の男と道連れとなる。
奇妙な3人の網走から夕張への車の旅は、若者の成長と一人の男の再生のドラマとなって行く。ベタなストーリーと言われながら、観ていると思わず男の心情に引きこまれ応援せざるを得なくなり、<黄色いハンカチの掲揚>を願わずにいられない。
最大の功績は新鮮なキャスティングにある。山田作品に初登場の高倉健・武田鉄矢・桃井かおりという異色の3人に、お馴染みの倍賞千恵子が見事にマッチング。2組のカップルの時代感覚のギャップが融合する予定調和は観客をホッとさせてくれる。
当時、健さんは東映専属を離れ「君よ憤怒の河を渉れ」で再スタートして次回作を模索中、武田鉄矢も時代に取り残されそうになっていた時期で、鮮やかな復活劇を遂げたことで今日があるといっても差し支えない。
作品としては3年後の「遥かなる山の呼び声」や「駅/STASION」のほうが出来が良いと思うが、この作品がなければ後の健さんも金八先生も存在しなかった。
いまは廃鉱となった夕張を始めオールロケに徹して作り上げた本作は、昭和の高度成長期に取り残された人々が足跡を残した懐かしさを覚える。


『遥かなる山の呼び声』 85点

2012-06-18 14:35:27 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 




遥かなる山の呼び声


1980年/日本






ラストシーンが2つある山田洋次の傑作





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
85



ストーリー

★★★★☆
85点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
80点





「幸福の黄色いハンカチ」(77)の山田洋次・高倉健・倍賞千恵子のトリオが3年後再集結したラブ・ストーリー。「家族」(70)「故郷」(72)に続く民子3部作とも呼ばれているが設定は「幸福の...。」に近く、西部劇「シェーン」をヒントに山田・朝間義隆の共同脚本によるオリジナル。
北海道東部の中標津で零細酪農を女手ひとつで経営している風見民子と納屋に泊らせたのがキッカケで知り合った男・耕作との物語。
任侠映画の大スター高倉健がブランクのあと出逢った前作「幸福の...」に続いて、必要なこと以外はしゃべらず、黙々と自分の役割を果たす不器用な男のイメージをそのまま引き継いだ本作はさらにバージョンアップ。素情すら明かせない耕作が、できればこのままいつまでもここで暮らしたいと願ってもできない辛い過去の秘密があった。
民子は女独り暮らしの家に訪ねてきて牛のお産を手伝ってお金まで渡して帰って行く耕作を見て、気味の悪い人だと思いつつ案外親切な人だと好感を持ったハズ。だから夏になって働かして欲しいと再びやってきたとき内心は嬉しかったに違いない。そして息子の武志がいち早くなついて傍を離れない。
山田作品には達者な脇役が主役を盛り立てる役割を果たしているものが多いが、本作もこと欠かない。隣のおばさんに杉山とく子、しつこく言い寄って嫌われる料理店経営の顔役にハナ肇、九州から新婚旅行で訪ねてきた従弟の武田鉄矢、弟を密かに訪ねてくる兄・鈴木瑞穂など悪人は誰もいない。特別出演の畑正憲(獣医)、渥美清(人工受精師)も和ませてくれるが、とくにハナ肇は山田人情ドラマの先駆者で、今回も良い役廻りを果たし観客の涙腺を緩ませてくれ、キャリアは伊達ではないことを証明した。
なんといっても倍賞千恵子の演技が最高だ。不幸な境遇にもめげず芯が強く、はかなさを感じさせる女をやらせたら絶品。素顔とはまるっきり違う性格なのにこんなに観客を引きずりこませるさり気ない表情は山田演出のなせる技か?
最初は用心していた男が使用人として慣れてきても「奥さんとしか呼ばれない」もどかしさ、そして「もう他人とは思っていないから」といって背中を見せる演技は上手いとしかいいようがない。
息子・武志役の吉岡秀隆は監督の秘蔵っ子だがこのデビュー作が最高の演技といっても過言ではないほどの名子役ぶりだった。
北海道の四季を丁寧に追いかけて、零細酪農の厳しい生活が窺える道東の風景がこのドラマにはぴったりだ。






『ガン・ファイター』 80点

2012-06-17 16:53:07 | 外国映画 1960~79




ガン・ファイター


1961年/アメリカ






R・アルドリッチ、D・トランボがK・ダグラスの魅力を際立たせた





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





ハワード・リグスビーの原作を「スパルタカス」の脚本を描いたダルトン・トランボが脚色、「ヴェラクルス」のロバート・アルドリッチが監督した西部劇。2人の共通点は<赤狩り>でハリウッドを追われ苦労しながら名誉回復して蘇り大活躍したこと。そのキッカケとなった両作品に出演していたのがカーク・ダグラスである。
主演はロック・ハドソンで、妹の亭主を殺した男を追ってメキシコへきた保安官。そのお尋ね者をK・ダグラスが演じている。
元南軍兵士のジョン・ブレッケンリッジがメキシコからテキサスへ牛1000頭をつれて行く途中トレス・サントスの酒場でトラブルに巻き込まれ射殺されてしまう。雇われていたストリブリング保安官とお尋ね者オマリーの2人が町に向かったが間に合わなかった。
2人は国境を超えるまで互いの因縁を抑え牧童たちを従え未亡人ベルと16歳の娘ミッシーを助けながらテキサスへ向かう。
決着を付けなければならない2人はベルを巡ってもライバルだった。娘のミッシーはオマリーに想いを寄せ、レディを装う。4人の複雑な関係が、骨太な作品が真骨頂のアルドリッチにしては極めてオーソドックスに進んで行ったのはトランボの脚本に忠実だったためだろう。ミッシーの意外な事実もさり気なく描写してドロドロした感じではない。感心させられたのは砂嵐のなか牛が疾走する迫力ある映像で、さすが本格西部劇を思わせる。
アルドリッチは主演のR・ハドソンよりK・ダグラスを魅力的に仕立てていて、恋人ベルを訪ねるが夫がいて想いを打ち明けられず、未亡人になってもライバルに奪われそうになる設定。衣装も黒ずくめでスタイリッシュなベストもお洒落。主題歌「黄色いドレスの少女」まで唄わせている。長身で正義漢溢れる保安官役の2枚目R・ハドソンが、まるで敵役のようだ。
2人に愛されるベル役のドロシー・マローンも美しいがミッシー役のキャロル・リンレーがとてもキュート。
リオグランデ河のほとりでの終盤は見応え充分なこれぞ西部劇ロマンで、かつて<陰鬱な西部劇>と批評されたアルドリッチらしくない作品だった。アルドリッチ、トランボのファンにとっては<らしくない物足りない作品>ともいえる。






『荒野のガンマン』 70点

2012-06-16 12:58:31 | 外国映画 1960~79

荒野のガンマン

1961年/アメリカ

S・ペキンパーの監督デビュー作

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆65点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★☆☆70点

音楽 ★★★☆☆70点

A・S・フライシュマンの原作を本人が脚本化してサム・ペキンパーが監督した西部劇。これがデビュー作である。同年ディズニー映画「罠にかかったパパとママ」で元夫婦役を演じたモーリン・オハラとブライアン・キースが主演している。
元北軍兵士のイエローレッグは帽子を被ったまま決して脱ごうとしない。南北戦争時負傷したとき南軍兵士に頭の皮を剥がされそうになったのが原因。酒場で絞首刑になりそうな男を救ったが、それが元南軍兵士タークでイエローレッグの復讐相手だった。
スタートは期待感充分だったが、何故かイエローレッグとターク、タークの相棒拳銃使いビリーの3人が銀行強盗を企む辺りから雲行きが可笑しくなる。それぞれの思惑があって成立するのだがストーリーに無理が出てくる。
主人公のイエローレッグは身体に銃弾が残っていて右肩が上がらず拳銃が巧く使えない。それが原因でダンスホールで働くキットの息子を誤って射殺してしまう。キッドは大切な息子の遺体を亡き夫の墓の隣に埋めることに執念を燃やす。
イエローレッグがアパッチの襲撃を守るため護衛について行くのは分かるが、それぞれ思わくがあったタークとビリーが同行するのは強引だった。
この4人の目的が違う旅がメインテーマでドラマが進む。ヒロイン、キットを狙うビリーと復讐相手タークの悪役振りが愛嬌がありすぎて敵役としては線が細いのが難。
そういえばクレジットにモーリン・オハラが先に出るほどブライアン・キースも主演にしてはいま一つ物足りなかった。パパとママのイメージが邪魔になってしまったのかも。モーリン・オハラの美貌と、随所に西部劇の巨匠・ペキンパーらしさを見つけるのを楽しむ作品か?


『悪の花園』 80点

2012-06-15 16:49:19 | 外国映画 1946~59

悪の花園

1954年/アメリカ

シネマスコープの大画面にB・ハーマンの音楽が見もの

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

ゲイリー・クーパー、スーザン・ヘイワード、リチャード・ウィドマークの三大スターが競演する異色の西部劇。前年モンローウォークを生んだ「ナイアガラ」のヘンリー・ハサウェイが監督して上手くまとめている。
元保安官のフッカー、イカサマ賭博師で自称詩人のフィスク、若い賞金稼ぎのデイリーそれにメキシコ人のヴィセンテという男4人が、夫が鉱山に閉じ込められたという男勝りのリーに雇われメキシコからカリフォルニアへ旅する物語。
G・クーパーといえば2年前「真昼の決闘」で2度目のオスカーを獲ったアクション・西部劇の大スターで、だまって立っているだけで魅了したというほど。相手役のS・ヘイワードはハリウッド記者から「世界で最も愛すべきスター」に選ばれた赤毛の美女。R・ウィドマークはハサウェイ監督の「死の接吻」でデビューし冷徹な殺人鬼を演じ場をさらったほどの個性派で独自の世界を築いてきた名優。
この3人が揃えば期待が膨らむのは当然だが、必ずしも成功したとは言えない。それは人間の駆け引きに焦点を当てた割に役割が明確で大体ストーリーが読めてしまうためだろう。シナリオにもう一工夫欲しかったがR・ウィドマークがキザな言動でドラマを牽引していた。
「悪の花園」とは先住民の聖地で鉱山はそのエリアにある。よく女ひとりで抜けられたとも思うが崖の1本道を抜けるしかない。最大の見せ場はスリリングな山道での先住民を迎え撃つ場面。シネマスコープの大画面に巨匠バーナード・ハーマンの音楽がマッチして見応え充分。
映画史的には最後の名台詞が有名だが、いま改めて見ると哲学的?でハマり過ぎの感は否めない。


『トウキョウソナタ』 75点

2012-06-14 11:44:46 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

トウキョウソナタ

2008年/日本

家族の危うさと平穏を描写した黒澤清

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

日本滞在経験のあるオーストラリア監督・脚本家マックス・マニックスの脚本をもとに黒沢清・田中幸子の師弟コンビが筆を入れた黒沢清の家族ドラマ。
健康器具販売会社の総務課長・佐々木竜平の一家4人の人間ドラマで、ちょっとした出来事やキッカケで家族は危うくなったり平穏さを取り戻したりする。そんな何処にでもある平凡な家庭をベースに、起きるハプニングは起きて欲しくないことばかり。
竜平は突然リストラされ家族に内緒でハローワーク通い。長男の大学生・貴は学業もアルバイトも身に入らず、米軍入隊を志願して竜平を慌てさせる。次男の小学生・健二は義侠心が厚く友人の家出に付き合った末バスの無賃乗車で警察に留置されたりするが、ピアノ教室の先生に憧れ内緒で教室へ通う行動派。妻の恵は良妻賢母の専業主婦だが、自宅に強盗が入って思わぬトラブルに巻き込まれる。
実際はこんなことが起きるはずはないものの、断片的には思わず同調するシークエンスがあって、妙なリアル感も漂わせる。とくに大都会で懸命に暮らす人々の閉塞感が画面に溢れていた。
黒沢清は日本を代表する監督のひとりだが、筆者は苦手でこの作品が初見。カンヌ・ある視点部門の審査員賞を受賞していて演出家としての才能は認めるが筆者には肌合いが合わなかった。俳優とくに長男・小柳友、次男・井之脇海の演技を上手く引きだした手腕は流石だが、香川照之、小泉今日子、役所広司などの演技はあくまで当事者任せの感あり。普通なら香川と役所の役柄は入れ替えた方がリアルだと思ってしまうのを敢えて逆にしたのだろうか?
滑り出しはこれから一家はどうなるのだろうと思いながら竜平と健二の行く末に興味を持たせてくれたが、役所広司が出てくるあたりから雲行きが怪しくなった。一歩間違えれば始末に負えない作品になりかねない。そのあたりを心得ての演出だと思うが...。