晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「キリング・フィールド」(84・英)80点

2020-05-31 12:00:49 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 70年代カンボジアで、米国人記者と現地助手が体験した衝撃のドラマ。


 NYタイムズ記者シドニー・ジャンバーグが70年代カンボジア内戦を取材した体験と、通訳兼ガイドを務めたディス・プランの二部構成ドラマ。監督は本作でデビューしたローランド・ジョフィで、オスカー3部門(助演男優・編集・撮影)受賞。

 前半は、73年8月プノンペンに着任したNYタイムズ記者ジャンバーグ(サム・ウォーターストン)の奮戦記。この頃カンボジアは米国が後ろ盾のロン・ノル政権時で、反米・救国が旗印のクメール・ルージュの革命勢力が勢いを増しているときである。
 米軍によるニエクロン空爆が事実かを確かめるためリーヴス少佐やキンケード領事の証言をもとに現地の情報を本国に送る奮闘ぶりが描かれる。ダンダン劣勢になる政権のもと多数の犠牲者が出るなか、ジャンバーグやカメラマンのアラン(ジョン・マルコヴィッチ)、英国人記者スエイン(ジュリアン・サンズ)の三人は病院取材中捕らえられ危険な目に遭うが、助手兼ガイドのプランに助けられる。
 フランス大使館に避難するが戦況悪化で出国を余儀なくされ、プランも同行しようとするがパスポートの偽造がバレ残ることに・・・。
 帰国したジャンバーグはピューリッツア賞の授賞式スピーチでプランに感謝の意を表すが、同僚のアランから<自分のためにプランを残したのだろう>と非難されてしまう。

 その頃プランは階級差のない共産主義社会を目指すクメール・ルージュによる、農業集団での強制労働についていた。大衆にとって解放者だと思っていたクメール・ルージュは弾圧者だったのだ。

 後半はプランが体験する悲惨な逃亡劇を追いながら、200万人とも言われる大量殺戮がどのように行われたのかの一端が窺えるエピソードが描かれていく。のどかな美しい田園風景がキリング・フィールである矛盾が胸に迫って白骨が野ざらし状態である惨状は思わず眼を覆ってしまった。
 知識人や大都市住民を強制労働させ、医師や宗教従事者を容赦なく処刑し、子供たちを洗脳教育して親をスパイするなど革命の混乱ぶりは歯止めが掛からない。
 プランは空腹のあまり牛の血を吸っているところを見つかり炎天下に放置されたり、村の長にハウスボーイとして雇ってもらいながら命を繋いでいく。
 その長も処刑に異論を唱え銃殺され、プランは息子を連れ脱走するがその子も地雷で命を落としてしまう。

 プランを演じたハイン・S・ニョールは元医師で演技経験は皆無だったが、自ら強制労働の体験を活かしての迫真の演技で見事助演男優賞を受賞した。その後ロス在住中、強盗事件で亡くなったのも背景があったのでは?と憶測されている。

 76年秋 タイの難民キャンプで再会した二人。バックにカーラジオから流れた「イマジン」聞こえてくる。

 本作は米国人記者とカンボジア人助手との感動的友情物語と解釈すべきか?
 
 現実は<国際社会が関わり見放された国カンボジア>は大量の犠牲者が出て、未だに地雷に怯えながら暮らしている人々がいる。

 <専制政治と内政干渉という今も世界が抱える問題>を改めて考えさせられる作品だ。

 

 

「群盗荒野を裂く」(66・伊)75点

2020-05-23 12:10:45 | 外国映画 1960~79


 ・ 社会派ダミアーニ監督によるマカロニ・メキシカン。


 「禁じられた恋の島」(62)のダミアーノ・ダミアーニ監督が挑んだ1910年代メキシコを舞台にしたマカロニ・メキシカンもの。政府の武器を強奪して革命軍に売る野盗団の頭と謎のアメリカ人の不思議な生業を描く。ジャン・マリア・ヴォロンテ、ルー・カステルの共演。

 G・M・ヴォロンテといえば「荒野の用心棒」(64)、「夕陽のガンマン」(66)での敵役で有名なイタリアの名優。本作でも粗野な夜盗団の頭エル・チュンチョに扮し、政府の輸送列車を襲い武器を強奪して目的のためには殺人をためらわない。無知で女好きだが革命軍のエリアス将軍を尊敬し、貧しい村の人々のために大地主を追放、村人に軍事訓練したりする情に厚い人物で、単なる悪党とは違っている。
 
 ルー・カステルは「ポケットの中の握り拳」で注目された若手で、本作ではダンディなスーツ姿のアメリカ人・ビルに扮している。酒タバコや女も興味がない目的不明不明の男で、チュンチョから信用され<坊や>と呼ばれ同行する。

 「続・荒野の用心棒」でも流れたエンニオ・モリコーネのテーマ・ソングに乗って、この二人が道中寄り道しながら武器を届けるアクション・ドラマだが、社会派ダミアーニは単なる大活劇には収めず、意外なエンディングを用意していた。

 ビルの正体が判明し、その気になったチュンチョの頭には亡くなった弟や村人たちの姿が蘇ったのかもしれない。少年に「その金でパンを買うんじゃない。ダイナマイトを買え!」といって走り去る姿は反政府に挑もうとする勇ましい革命家に映って見えた。

 のちに「警視の告白」(71)などシリアスなドラマとしてイタリアの巨匠となっていくダミアーニと、「マリオ・リッチの死」(83)、「首相の暗殺」(86)などで名優と呼ばれるヴォロンテのコンビによる本作は、70年代に多く作られた<メキシコ革命もの>のお手本となっている。

 

 

 

 

「深夜の告白」(44・米)85点

2020-05-17 15:11:11 | 外国映画 1945以前 


 ・ B・ワイルダー×L・チャンドラーによる元祖・倒叙型サスペンス。

 ジェームズ・M・ケイン原作「倍額保険」をレイモンド・チャンドラーとの共同脚本でビリー・ワイルダー監督が映画化したフィルム・ノワールの代表作。

 夜、疲れ切った男がオフィスに戻り、ディクタフォン(事務用録音機)に告白するシーンで始まる生命保険殺人事件。倒叙型サスペンスの先駆けといわれる本作は、ヒッチコックも感心し、ウッディ・アレンが絶賛したという傑作だ。

 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の原作者でもあるJ・M・ケインが’27年に起きた「ルーズ・スナイダー事件」をもとにした原作をハード・ボイルド作家R・チャンドラーの華麗な台詞回しが飾り、ワイルダーのテンポの良い構成が巧く噛み合った脚本が秀逸。

 保険外交員ウォルター(フレッド・マクマレイ)が訪問先の人妻フィリス(バーバラ・スタンウィック)から夫に内緒で障害保険に入りたいと相談される。
 一旦拒絶するがフィリスの美しい魅力に囚われウォルターは完全犯罪を目論み夫殺害の共犯者へと墜ちて行く・・・。

 いまなら毎週のようにTVドラマで観られるプロットだが、戦時中の75年以上前の作品だったのには驚かされる。まだ30代だったワイルダーだが脚本家としては未熟なチャンドラーの長所を消すことなく、テンポ良く無駄のない構成で最後まで観客を捉えて離さない。この時代表現規制があり殺人・不倫ドラマでありながらダイレクトなシーンがないが、巧みな演出と音楽(ミクロス・ローザ)・映像(ジョン・サイツ)で見事にカバー。

 主演したF・マクマレイはもともとコメディのイメージが強い人だったが、初めてシリアスなドラマを好演、新ジャンルを開拓した。筆者にはTVドラマ「パパ大好き」の家庭的な善き父親役の印象深い。

 ヒロインB・スタインウィックも純情な役が多かったが、金髪のカツラを被っての挑戦したファムファタールぶりが話題となった。アンクレットの足下で登場したりバスタオル姿だったりするが、男を利用しながら欲望を果たそうとする女であることが分かってくるストーリー展開によるもの。この時代こういう役柄を嫌う女優が多いなか果敢に挑んだ彼女の功績が大きい。

 フィリスの同僚で敏腕調査員キーズを演じたのがギャング映画でお馴染みのエドワード・G・ロビンソン。弁舌爽やかに事件を追い、どんどん真相に迫って行く姿が小気味良い。「殺人の共犯は特急列車と同じ。終点の墓場まで誰も途中下車できない」と犯罪心理を見抜いている。
 一方共犯相手を親友フィリスとは思わず、娘ローマの恋人ニノだと思っていた。その勘違いはエンディングで明らかになる。

 キーズにディクタフォンで告白したフィリス。いつもタバコの火を点けてくれたフィリスに、最後はキーズが点けてあげる。二人の信頼の絆は友情を超えるものであった。

 
 

 

「バジル大作戦」(65・米)65点

2020-05-14 16:57:38 | 外国映画 1960~79


 ・ 大画面での戦車部隊が迫力溢れる戦争ドラマ。

 ジョン・トーランド原作による第二次大戦末期・アルデンヌ高原での戦いを、「史上最大の作戦」(62)のケン・アナキン監督で映画化。ヘンリー・フォンダ、ロバート・ライアン、チャ-ルズ・ブロンソン、テリー・サラバス、ロバート・ショウなど豪華キャストと戦車部隊の戦いが話題となった。

 ’44年12月ベルギー・アルデンヌの戦い。ドイツ軍はブリュッセルとアントワープ占領を狙い戦車部隊を機動させるが、途中燃料不足のためムーズ川手前の米軍ガソリン集積所を狙い進行する。対する連合国アメリカ軍は大量の戦車に圧倒され撤退を余儀なくされ捕虜の虐殺など悲劇が起きる・・・。
 バルジ(突出部)の攻防を、登場人物も戦闘内容も史実を踏まえながらも大胆に脚色した戦争スペクタル。 

 当時上映する劇場が限られたパノラマ大画面で繰り広げる戦争アクションは大迫力だった記憶があるが、普通サイズで再見するとそれ程でもなく粗が目立ってしまう。改めて映画技術の変化はこの半世紀で著しいものがあるのを感じる。

 筆者は戦争オタクではないので戦車については殆ど無知だが、ドイツ軍のティガーⅡは最強で、米軍のM中4はとても相手にならないしろものだったとのこと。映画では本物ではなく、それぞれM47パットンとM24軽、一部ミニチュアで代用したという。それでも大量の戦車部隊の映像は珍しく、それだけで本作が高評価を受けた時代だった。

 エピソードを交えながらの人間ドラマが描かれているのが本作もうひとつの魅力。
 ただ独り独軍の反撃を予想した米軍偵察隊将校カイリー大佐(H・フォンダ)と、反攻作戦に全てを賭ける独軍将校へスラー大佐(R・ショウ)を中心に、戦争ドラマならではの人間模様が描かれる。

 とくに敵軍であるへスラー大佐の描き方が米国映画には珍しく丁寧で、その凜々しい軍服姿で<パンツアー・リート(戦車の歌)>を歌うシーンなど、エリート軍人らしい凜々しいオトコとして描かれている。
 さらに捕虜の少年兵を命乞いする父親を銃殺指令したり、従卒兵コンラート伍長(ハンス・クリスチャン・ブレヒ)の息子の誕生日プレゼントで曹長に昇進させたり、規律を重んじる合理性と優しい人間性を併せ持つエピソードが随所に窺われ主役を喰うほど個性的キャラクター設定である。英国俳優R・ショウにとっても「007・ロシアより愛をこめて」(63)と並ぶ代表作となった。

 米軍のヒーローは冷静な指揮官・グレイ将軍(R・ライアン)、捕虜になりながら小隊を率いガソリン集積所奪取を目指すウォレンスキー少佐(C・ブロンソン)、恋人の敵討ちに燃えるガフィ軍曹(T・サラバス)など分散されていたため、カイリー大佐の奮闘ぶりが際立たなかった。
 女優ではガフィの恋人ルイーズ役のピア・アンジェリが光った。当初ジャンヌ・モローに打診したが出番が少なく断ったため回ってきた役だったが、ジェームズ・ディーン最愛の女優である彼女がオトコばかりの戦争ドラマに唯一咲いた花のようで印象に残った。

 コンラートがへスラーに向かって言う<軍服のために世界を殺す>というシークエンスと、再び流れるパンツアー・リートとともに独軍捕虜兵の隊列で幕を閉じる167分。戦勝賛歌が多いこの時代の米国映画には珍しく<反戦の意義を込めた戦争大活劇>でもあった。

 

 

 

「カリートの道」(93・米)70点

2020-05-08 17:32:14 | (米国) 1980~99 


 ・ 2度目のタッグを組んだデ・パルマ×A・パチーノの米国版ヤクザ映画。

 エドウィン・トレスの同名小説の続編「それから」をもとに、ブライアン・デ・パルマ監督と「スカーフェイス」(83)以来2度目のコンビを組んだアル・パチーノ主演で映画化。

 NY麻薬ビジネスで名を馳せたチャ-リーことカリート・ブリガンテの40代を描いたサスペンス・アクション。

 麻薬犯罪から足を洗おうと決意し、恋人ゲイル(ペネロープ・アン・ミラー)とバハマで暮らすことを夢見るカリートは、捜査当局からマークされ、新興マフィア・ベニー(ジョン・グレイザモ)とのイザコザに巻き込まれるなど命の危険にさらされる・・・。

 息絶え絶えのカリートがバハマで暮らす夢を見ながら過去を回想するシーンから始まるこのドラマは、義理と人情に縛られながら足を洗おうとする日本のヤクザ映画によくあるパターン。

 デ・パルマ得意のハンディカム長回しとクレーンショットを多用した終盤ハイライトが見どころだ。クライマックスの地下鉄での逃亡と「アンタッチャブル」(87)でも魅せたNYグランドセントラル駅のエスカレータでの銃撃戦はデ・パルマの真骨頂。

 50代になったA・パチーノは前年の「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」で新境地を魅せ、ギラギラした面も程良く抜け渋味が出てきた。自分の衰えを密かに感じながらも、恩義を感じた相手の頼みを断れず深みに嵌まっていくオトコの葛藤を哀愁たっぷりに演じている。

 コカインに溺れるクレイジーな弁護士で怪演したのはショーン・ペン。自毛を抜いたパンチ・パーマの風貌はカメレオン俳優の面目躍如。

 中盤で中だるみも感じるが、ラストがより一層際立つための伏線で必要だったのかも・・・。

 ジョー・コッカーが歌う主題歌<You Are So Beautiful>がラブ・シーンとエンディングで流れ感傷を誘い、心に染み入ってくる。

 「アンタッチャブル」(87)と「ミッション・イン・ポシブル」(96)という大作の狭間でデ・パルマ本領発揮の144分を楽しんだ。

 
 

 

 

「チャップリンの殺人狂時代」(47・米)80点

2020-05-05 16:52:26 | 外国映画 1946~59


 ・ アメリカ追放のキッカケとなったチャップリン渾身の社会風刺作品。

 「独裁者」(40)から7年後、チャーリー・チャップリンがチョビ髭山高帽の放浪紳士姿から変身し連続殺人の犯人役を演じたブラック・コメディ。オーソン・ウェルズ原案で原題は主人公の名前「ムッシュ ヴェルドゥ」。

 20年代実在したフランスの殺人鬼アンリ・デジレ・ランドリューをモデルに映画化を考えていたA・ウェルズがチャーリーに主演しないかと誘ったのがキッカケ。
 チャーリーは断り、2年後英国の殺人鬼ウェイン・ライトを加味したストーリーをもとに映画化したので事実上チャーリーのオリジナルである。製作・監督・脚本・音楽・主演とまさにワンマン映画だ。

 30年勤めた銀行員アンリ・ヴェルトラはリストラされ、足の不自由な妻と幼い一人息子のため、身分を偽り裕福な中年女性を騙し次々と殺人を続けていた・・・。庭の煙突からの煙が不気味だ。
 折しも北フランスのワイン商家の婦人セルマが行方不明となり直前銀行から多額の預金を下ろしていたため、家族が警察に捜索願いを出す。担当したのはモロー刑事(チャールズ・エヴァンズ)で12件の行方不明事件と同様の犯人ではないかと目星をつける。

 自前の口髭でスーツやキャプテン姿で登場するチャーリーは殺人鬼とはほど遠いが、殺人はビジネスと割り切り奪った金は素早い指裁きで札を数える姿はとても鮮やか。

 マリー・グロネイ婦人(インベル・エルソム)に結婚迫られ毒殺やボート上での突き落としに失敗したり、結婚披露パーティで重婚しているアナベラ(マーサ・レイ)と鉢合わせのドタバタシーンは無声映画時代からお得意としたところ。

 虫も殺せぬ優しい紳士がバラの花束を贈り近づいて殺人を犯しながら、出所して居所のない若い未亡人(マリリン・ナッシュ)を毒殺の実験台にしようとして失敗、お金を渡して帰すヴェルドゥ。根は心優しい男であることも見せ、「街の灯」「ライムライト」など一連のラブ・ストーリーを思い出す。

 時代に翻弄され無一文となり妻子を失い目を覚ましたヴェルドゥ。軍需産業経営者の愛人となった若い未亡人と再会したが罪を悔いて裁判を受け絞首刑が決まる。

 神の救いも拒否し<ひとり殺せば悪党、一〇〇万人殺せば英雄>という名台詞となる。

 戦勝間もないアメリカで、反戦を堂々と謳い上げ、おまけに無神論者の主人公を映画化したとして作品は上映禁止の憂き目にあってしまった。

 欧州や日本では大ヒットしたが興行的には大赤字となったチャーリーは赤狩りという追い打ちが待っていた。

 名誉回復したのはベトナム戦争後の70年代。オスカー特別賞で来訪時チャーリーは万雷の拍手で迎えられる。

 「独裁者」同様、イデオロギーがストレートに出て青臭いという評価もあるが、本作でチャーリーの集大成を観る想いだ。

 

 

 
 

「仁義」(70・仏/伊)70点

2020-05-02 16:18:39 | 外国映画 1960~79


 ・ 仏・ノワールのJ=P・メルヴィル監督×A・ドロン主演、第2作。

 「サムライ」(68)に続きジャンピエール・メルヴィル監督がアラン・ドロンを起用したフレンチ・ノワールはジャン・マリア・ヴォロンテ、イヴ・モンタン共演という豪華キャストによるフレンチ・ノワール。

 出所したばかりのコレー(A・ドロン)の車のトランクに偶然、脱走容疑者ヴォーゲル(G・M・ヴォロンテ)が隠れたことで二人の奇妙な友情が芽生え、元警官ジャンセン(Y・モンタン)も加わり宝石店強盗を企てる。ヴォーゲルを追う初老のマッティ刑事(ブール・ヴィル)との対決を描いた男たちの挽歌。

 口ひげを蓄えたA・ドロンは少し渋味が出てきて相変わらずダンディ。
「荒野の用心棒」(64)、「夕陽のガンマン」(66)でC・イーストウッドを向こうに回して荒々しい敵役を演じたG・M・ヴォロンテが相棒だが、もともとメルヴィルはJ=P・ベルモンドを想定していたが実現しなかった。そのため出番は多いが、髭のないヴォロンテは良くも悪くも強いアクが抜けた感じで、いまひとつ精彩に欠けていた。
 中盤から登場したシャンソン「枯葉」で有名なY・モンタンはアル中で悪夢に苛まれる個性的なスナイパー役で、そのダンディな佇まいはA・ドロンを喰うほど。

 スタイリッシュな三人に対し、もともとコメディアンだったブール・ヴィルは、犯人を執拗に追い捕らえるためには手段を選ばない刑事役。3匹の猫と暮らす孤独な面もある役柄で印象深い。これが遺作となったことで記念碑的作品となった。

 名実ともに仏・ノワールの代表的存在となったメルヴィル。そのスタイルはますます顕著となって台詞・音楽を極力排除。そのためミシェル・ルグランの音楽が気に入らずエリック・ド・サルマンを起用、そのジャズ風音色が鉛色のメルヴィル・ブルーにマッチして、名手アンリ・ド・カエによる映像とともにパリ郊外の風景やパリの夜景などシックな雰囲気にマッチしている。

 原題は「赤い輪」で<人は赤い輪のなかで運命的に出会う>というブツダの言葉から取っているとあるが真偽のほどは不明。邦題の「仁義」はヤクザ映画のイメージでつけられたのだろうが、元は孟子の思想で<博愛と、ことの理非を区別する徳>を意味し、目的は違っても仲間を信頼し裏切らない登場人物たちを描いていて、あながち見当違いともいえない。

「無垢に生まれるが、長くは続かない」という哲学的な言葉で幕を閉じる140分。本国フランスでは記録的大ヒットとなったが、日本では冗長であると20分カット版で上映されたが不評だった。

 70年代を迎えて絶頂期の仏ノワールも終焉のときが近づいてきたのを感じる。