晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「4カ月、3週と2日」(07・ルーマニア) 85点

2013-12-31 08:30:25 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ ルーマニアの時代背景を切りとった人間ドラマ。

     
 新鋭クリスティアン・ムンツウ監督・脚本によるカンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞作品。

 ’87、チャウセスク政権末期のルーマニアは財政危機で、何でも国策で決められていた。驚いたことに女性は45歳までに3人子供を産む義務を課せられ、もちろん避妊・中絶は禁じられていた。そんな時代背景を理解した上で観ないと、あまりにも理不尽な展開について行けない恐れもある。

 ドラマは大学生オティリア(アナマリア・マリンカ)がルームメイト・ガビツァ(ローラ・ヴァシリウ)の中絶に巻き込まれ、振り廻される長い1日を描いている。

 観客は冒頭のシーンで何が起こるか知らされていない。ホテルの予約や見知らぬ男ベベ(ヴラド・イヴァノス)を迎えに行くなどのワンシーン・ワンカットの大胆なカメラワークを観るうち、いつの間にかオティリアの行動に惹き込まれてしまう。

 ムンツウ監督は音楽を廃しオールロケによるドキュメンタリー・タッチでヒロインを追いかける。ルームメイトはどこか頼りなげで、オティリアが面倒を観ないでいられない。その割りに平気で嘘をついたり強かな面もみせたりもする。

 食料も儘ならない時代に、オティリアの恋人であるエリートのアディーは母(ルミニツァ・ゲオルジウ)の誕生日に親戚を呼んでパーティをしている。会話のシーンが如何にも時代背景を映し出していて、孤立しているオティリアの生活環境の違いも相まってとても興味深い。

 どう見ても胡散臭いベベのキャスティングが最初に決まっていたというほど、V・イヴァノスがイメージぴったりでハマり役。恋人のアディーといいこの時代の男たちは身勝手で、ラスト・シーンは観客の判断に委ねているが、割り切れなさを感じざるを得ない。当時大学生だったムンツウ監督は、女性として人間の普遍的テーマを残しておきたかったのだろう。

 

「トゥヤーの結婚」(06・中国) 80点

2013-12-30 08:24:23 | (欧州・アジア他) 2000~09

・ トゥヤーが流す涙の意味は?

     
 「月蝕」のワン・チュアンアン監督が、砂漠化が進む内モンゴルを舞台に、母の姿を重ねた人間ドラマを作った。脚本ルー・ウェイ、撮影ルッツ・ライテマイヤーで、ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作品。ヒロイン、ユーナンは美しさより直向きさと逞しさが目立つトゥヤーを3カ月の準備で作り上げたという。

 半身不随の夫と幼い子供2人を抱え遊牧で暮らしを支えるには男勝りのトゥヤーにも生き延びるために<究極の選択=離婚して生活を面倒観てくれる人と再婚する>しかスベがなかった。生きるために再婚を選んだトゥヤーは夫と同居という途方もない条件をつける。これには、次々と現れる求婚者たちたちも難色を示すのが当たり前。

 なかでも石油採掘で金持ちとなった同級生ペロアは、ベンツで現れ夫を施設に入れ面倒をみようとする。子供たちのためには最善の方法にみえた。トゥヤー夫婦も一旦は納得したかに思えたが・・・。

 命綱の水を汲みに1日3度も行く過酷な現実を負いながら、じめじめした暗さはない。隣人で長年トゥヤーに片想いのセンゲーなど登場人物がユーモラスなのは、そこに暮らす人々が持つトキの流れを受け入れる感受性と乾いた大自然の偉大さのせいなのか?

 登場する男たちのひ弱さが、凛としたヒロインを一層引き立たせることとなった。ユーナン以外の登場人物が、現地の素人なのに驚かされる。生活向上のために強制移民させられる消えゆく内モンゴルの風景を映像として残したい監督の思いが伝わってくる。

 そしてトゥヤーの流す涙の意味が限りなく重い気がしてならない。

  

「英雄の条件」 (00・米) 70点

2013-12-29 08:32:44 | (米国) 2000~09 

 ・ 国家への忠誠心と軍人の誇りとは?をテーマにしたフリードキン監督。

      
 「エクソシスト」以来沈黙していたウィリアム・フリードキン監督が、久々にメガホンを取った法廷サスペンス。トミーリー・ジョーンズ、サミュエル・L・ジャクソンの両ベテラン俳優による友情物語でもある。

 戦争に関わる法廷劇では「戦火の勇気」「将軍の娘 グレン・キャンベル」などがあったが、9.11以降作れなかった<イエメンの群衆殺害>が題材。原題を直訳すれば「交戦規程」となり、群衆は武装集団だったことを前提に先に発砲したのはどちらか?を法廷で裁くハナシに進んで行く。本作は、あくまで国家への忠誠心と軍人の誇りを前面に押し出し、ベトナム戦争以来の親友である2人の信頼関係を描いている。

<以下 ネタバレです>

 国家の威信を賭けた裁判を命令した大統領補佐官(ブルース・グリーンウッド)や命を救ってもらったイエメン米大使(ベン・キングスレー)が、典型的な保身者であるのも皮肉な描き方である。若きエリート検事役・ビックス少佐(ガイ・ピアース)が、辛うじて法的追求をしてバランスを取っているが、二流弁護士のT・L・ジョーンズに敗訴するのは、如何にもハリウッドらしい。

 アラブ人・ベトナム人の描き方があまりにも一方的で<アメリカの正義が世界のルール>であるというところが違和感を感じるが、星条旗に命を賭ける軍人は英雄なのだ。

「ナイル殺人事件」(78・米) 80点

2013-12-28 08:21:58 | 外国映画 1960~79

 ・ A・クリスティの世界を映像で堪能!

        
 アガサ・クリスティの探偵ポアロ・シリーズ「ナイルに死す」をジョン・ギラーミン監督、ピーター・ユスティノフ主演で映画化。A・クリスティ作品の映画化は、先に「オリエント急行殺人事件」、後に「地中海殺人事件」があるが、筆者はこの作品がもっともオーソドックスなミステリーで一番好みだ。

 「探偵<スルース>」のアンソニー・シェーファーの脚本が素晴らしく、多彩な登場人物が見事に整理されている。原作を読んでいなくても犯人は凡そ見当がつくが、そのプロセスを映像で見せる過程が面白い。

 ポアロ役のP・ユスティノフは原作のイメージとは若干違うように感じたが、この映画での違和感は全くない。共演者も豪華で、ミア・ファーロー、ロイス・チャイルズ、オリビア・ハッセーの若手や、デヴィッド・ニーヴン、ジョージ・ケネディ、ジャック・ウォーデンなどのベテラン男優陣で色とりどり。ベテラン女優陣が個性豊かで「クリスタル殺人事件」でマープルを演じたアンジェラ・ランズベリーや、ベティ・デイヴィスとマギー・スミスの掛け合いが際立っていた。

 エジプトでのロケがフンダンに登場して、観光旅行した気分にも浸れるのも楽しい。

「明日への遺言」(07・日) 80点

2013-12-27 07:53:46 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 真のリーダーとは?を問う法廷闘争ドラマ。藤田まことの熱演が光る。

     
 大岡晶平原作の「ながい旅」を小泉堯史監督で映画化が実現した。太平洋戦争末期に、米軍による市街地爆撃兵を処刑した戦犯・岡田資中将の法廷闘争物語。家族に愛され部下に慕われる日本人男性の理想像を、岡田資に託した小泉の15年越しの執念が実った。

 その殆どのシーンが法廷だが、静かな法戦に挑む岡田中将を演じた藤田まことの凛とした姿勢に、リーダーとしての美学を観た。実在の人物を演じた藤田にとって、歌の司会・コメディアン・必殺シリーズなどのTVを経た長い芸歴の集大成といってもいい。

 人柄に打たれた裁判官が<報復>による処刑では?と救いの言葉をも否定している。<報復>と言えば米軍による裁判では死刑にならずに済んだのに。映画を通してB級裁判でも、このような公平な裁判があったのを知った。

 国際法では禁じられている無差別爆撃がつい最近まで堂々と行われ、それを戦争終結の手段だから仕方ないと割り切ってあたかも合法のように大量殺人が行われていた矛盾。幼くて記憶にはないが、筆者の幼児期には東京大空襲があったと親から聴かされているので、決して他人事ではない。東アジアが緊張感を増す今日だからこそ、若い人たちにも観て欲しい作品である。

 

「ブラッド・ワーク」(02・米) 80点

2013-12-26 07:53:03 | (米国) 2000~09 

 ・ 地味だがC・イーストウッドの世界

     
 犯罪記者出身の作家マイク・コリナー「わが心臓の痛み」を、クリント・イーストウッドが製作・監督・主演した元FBI捜査官のスリル満点のサスペンス。

 イーストウッドファンである筆者は、封切り当時2週間しか上映されないと知って、慌てて映画館に飛び込んだ記憶が蘇えった。「LAコンフィデンシャル」の脚本家でもあるブライアン・ヘルゲランドは、地味ながらスリル・アクション・ロマンスがほど良く配置されていて、心臓移植という特殊なテーマをシリアスにし過ぎずに手堅く纏める手腕はお見事。

 心臓移植がテーマの作品に「ジョンQ-最後の決断ー」や「21グラム」などがあるが、本作は大上段に扱わないのにテーマはしっかり訴えている。これは「トゥルー・クライム」で死刑・冤罪を扱ったのと同じで、老境に差し掛かったイーストウッドならではのテーマでもある。

 脇を固める出演者は仲間・相棒のバディにジェフ・ダニエル、依頼人にワンダ・デ・ジーザス、州警察保安官にティナ・リ・フォード、ロス市警刑事にポール・ロドリゲスなどとかなり地味なキャスティング。前半登場する女医に扮した「アダムス・ファミリー」でお馴染みのアンジェリカ・ヒューストンは、名監督ジョン・ヒューストンの娘でオスカー女優ならではの演技を披露してくれている。

 ロス固有の人種の多様性と、犯罪捜査の裏事情が織り込まれ、バランスもシッカリ取れている。終盤、犯人逮捕のアクションシーンがサービス過剰気味で冗長に感じたのが残念!

     

「ステート・オブ・グレース」(91・米) 75点

2013-12-25 06:09:47 | (米国) 1980~99 

 ・ スタイリッシュなアメリカン・ノワール作品

     
 フィル・ジョアノー監督、デニス・マッキンタイア脚本によるNY、アイルランド系ギャングの若者達の物語で、スタイリッシュなノワール作品。ショーン・ペン、ゲーリー・オールドマン、エド・ハリス、ロビン・ライト、ジョン・タトゥーロ、ジョン・C・ライリーと名前を見るだけで期待できそうなキャスティング。

 随所に見所はあるものの、期待に反しストーリーは平凡。個性的な出演者たちも見せ場は少なく、のちの夫婦S・ペン、R・ライトのラブシーンとG・オールドマンの一直線な猪突猛進ぶりが目立つ程度。エンニオ・モリコーネの音楽もいつもの冴えが窺えなかった。

「ライフ・オブ・デビッドゲイル」(03・米) 80点

2013-12-24 10:32:29 | (米国) 2000~09 

 ・ 重いテーマながらサスペンス・ドラマとして楽しめる。

     
 アラン・パーカー監督による<死刑と冤罪>をテーマにしたサスペンス。社会派として重いテーマを取り上げているが、むしろ死刑の是非は観客に委ね、サスペンス・ドラマとして仕上がっている。

 死刑囚に扮したケヴィン・スペイシーは、死刑廃止運動家で大学教授でありながら妻とは上手く行かず、酒におぼれ女学生の誘いに乗って裁判を起こしてしまう不安定な男を情感たっぷりに演じている。その分彼の個性が、この死刑囚は只者ではないと思わせてしまって、最後の展開に意外性を感じさせない。

 雑誌記者のケイト・ウィンスレットは、メディアの正義を信じるこのドラマのキーになるが、頑張っているもののK・スペイシーにおされ気味。謎のカウボーイ・ハットの男(マット・クレイヴィン)が存在感たっぷりで、このサスペンスを盛り上げている。

 テキサスは死刑が最も多い州で、ブッシュ大統領が州知事時代に最も多かったとか。そんな背景を知っているうえでこの映画を観ると、視点が違って見えるのかも。

「かもめ食堂」(05・日) 80点

2013-12-23 08:10:10 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 多忙な日常から、癒しの空間を与えてくれる。

     
 女性に人気がある作家でエッセイストである群ようこが書き下ろし、「バーバー吉野」で注目された新鋭・荻上直子の監督3作目。

 フィンランドの静かな港町・ヘルシンキにある日本食堂を、ひとりで経営するさちえ(小林聡美)。日本のソウル・フード(おにぎり)を始め食文化を丁寧に映し出している。おにぎりもコーヒーも他人が作って(煎れて)くれたほうが美味しいというのに納得させられる。

 異国で出会った3人の女性は訳ありのようだが、ここでの出会いで癒されて行く。日頃悩みを抱えている孤独な女性の共感が得られるような作品。

 共演のもたいまさこ、片桐はいりも独特の存在感を持った女優だが、今回は小林聡美の清潔な美しさが際立ってみえた。全てフィンランド・ロケの醸し出す、ゆっくりと時間が過ぎる雰囲気が画面から伝わってくる。

 「過去のない男」を始めとするカウリスマキ監督の常連俳優であるマルック・ベルトラが出演してるのもファンには堪らない魅力。彼が煎れた死ぬまでに一度飲みたいというコーヒーを飲んでみたくなる。

「夏の夜は三たび微笑む」(55・スウェーデン) 80点

2013-12-22 07:57:46 | 外国映画 1946~59

 ・ 珍しい、ベイルマンのお洒落なコメディ。

      
 スウェーデンの巨匠イングマール・ベイルマンによる4組の男女が交錯する人生模様を描いたお洒落なコメディ。哲学的なテーマで難解な作品で知られるベイルマンが、製作会社から興行として成り立つコメディを作れと強要された曰くつきの作品。カンヌ映画祭で「詩的ユーモア賞」を受賞しただけあって、洗練された笑いと、まったりした雰囲気が後味の良いコメディである。

スウェーデンの夏は白夜で、恋を語るにはもってこい。弁護士と若い後妻、弁護士の息子とメイド、弁護士とかつて付き合いがあった女優、そして女優を愛人としている伯爵とその妻。4組の男女が、女優の母の住む豪邸での夕食会で一党に会す。

 女優の母が「ワインは各自の責任で飲み、それに応えるもの」というなど、吟味された台詞が散りばめられているが、あまり気にしなくても物語から置いて行かれることはない。分かり易いプロットで人生ゲームのような複雑な人間関係を明快に振り分けている。

 自殺を試みた弁護士の息子が失敗し、ぶつかったノブが隣の部屋からベッドが移動してくるというドタバタも、事前にその仕掛けを理解させる用意周到さ。

 終盤、ロシアン・ルーレットで決闘する弁護士と伯爵のシーンなど、趣向たっぷりの盛り上がりもあって楽しませてくれる。