晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『サクリファイス』 70点

2012-03-30 11:51:27 | (欧州・アジア他)1980~99 

サクリファイス

1986年/フランス=スウェーデン

独自の哲学思想で人生の在りかたを示唆したタルコフスキー

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

旧ソ連時代の映画詩人アンドレイ・タルコフスキーの遺作。題名は<自己犠牲や献身>という意味だが、独自の哲学思想に基づき人生の在りかたを示唆している。
ダヴィンチの「東方の3賢人の礼拝」のタイトルバックとともにJ・S・バッハの<マタイ受難曲のアリア「憐れみ給え、我が神よ」>が流れ生命の木にスポットがあたり、映像は1本の木に変わって物語が始まる。どこか陸前高田の1本松を連想させる。ひとりの老人と少年がいて哲学的な老人の独り言が始まる。どうやら親子らしく少年は言葉が話せないらしい。遠くからやってきた自転車の男は郵便配達夫らしいが、「永劫回帰」とか「輪廻」とか会話が難解だ。宗教や哲学に殆ど無関心な筆者には美しい情景カットに見とれるしかない始まりだ。
乏しい知識を駆使して見続けるうち、どうやら言葉が話せなかった少年はノドを手術していて、父親・アレクサンドラは「白痴」のムイシキン侯爵役の名優だったらしく大学教授をしながら隠遁生活をしているらしい。妻と年頃の娘も同居しているが夫婦仲は良くない。
今日はアレクサンドラの誕生日で親友の医師と郵便配達夫もお祝いを持って駈けつける。
ここからは「水・炎・空中浮遊」で主人公の夢と現実、夢から夢へとハナシが進み、カンヌの審査員を唸らせた色彩と独特の世界観で観客を呑み込んで行く。
少年のプレゼントは小さな家で、家族が見ていたTVが突然核戦争を伝え停電し、パニックに。
無神論者だったアレクサンドラが、<総てのものを放棄するから愛する者を守って欲しい>と神に祈る。
タルコフスキーは日本ビイキで「主人公が前世は日本人だった」「日本の木を植え」「着物を着せ」「JVCのデッキから法竹音楽が流れる」という傾注ぶりがなんだかクスグッタイ。
<はじめに言葉ありき>という聖書の言葉や、枯れ木に水をやることで<毎日同じことを同時刻に儀式のように行えば世界は変わる>という信仰の薦めなど我が子に人生を説いた遺言であり、改めて3.11以降の日本人へのメッセージとも受け取れるのは穿ち過ぎだろうか。


『ブラインドサイト ~小さな登山者たち~』 75点

2012-03-29 11:40:33 | (欧州・アジア他) 2000~09

ブラインドサイト ~小さな登山者たち~

2006年/イギリス

お涙ちょうだいの感動ドキュメントではない

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

盲目のドイツ人教育者サブリエ・テンバーケンはチベットに「盲人学校」を設立している。盲人初のエベレスト登頂に成功した有名な米国登山家・エリック・ヴァイエンマイヤーに感動して手紙を書いたことがキッカケで、6人の少年少女が7000Mのラクパリ山頂を目指すことに。健常者が登るのでも大変なラクパリ山。プロ集団がサポートするとはいえとても無理な企画と思える。サブリエは登山中に<本当に子供たちのためにしているのか?>悩み始める。
そもそもサブリエは<みんなで楽しく一緒に楽しく登ること>という教育者の観点だし、エリックは<何かを成し遂げるこそ素晴らしい>というスポーツマンの観点で参加している。このスリ合わせが不十分なため、究極の判断をするとき大人たちの対立がそのまま映像化されるところが生々しい。
チベットは高原なるが故の直射日光や栄養不足・衛生状態などの影響か?盲人の比率が高い。「前世に罪を犯した者が盲人になる」と言う迷信があって6人も差別的な扱いを受けている。
ルーシー・ウォーカー監督はチベットに3カ月滞在して、偏見ゆえに社会から差別化されてきた子供たちの生い立ちを交え描いて登山に挑む彼らの背景が見える。なかでもタシという19歳の少年。幸運という名前とウラハラにストリート・チルドレンで、おまけにチベット人ではなく中国人だった。カメラは果敢にも四川省の両親を探し当て再会を果たす。父親は街でハグレずっと探していたというが、人身売買の影が見え隠れする。中国とチベットの微妙な関係を想うととても複雑だ。
救いは幸せという名のキーラ。英国への留学が決まり、ゆくゆくはサブリエの片腕になりそうな笑顔が印象的だった。少なからずシナリオにあったはずの、お涙ちょうだいの感動ドキュメントではないが、色鮮やかな大自然と「ハッピー・トゥギャザー」を唄う子供に救われる想いがした。


『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』 80点

2012-03-24 16:31:25 |  (欧州・アジア他) 2010~15




マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙


2011年/イギリス






闘う女の老いと孤独に普遍性を感じた





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
75点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
75点





イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャー。<鉄の女>と呼ばれた孤高の政治家の若き日から首相時代を振り返りながら、老いと孤独に向き合う晩年を描いている。アビ・モーガンの脚本は夫デニスとの夫婦愛が前面に流れていて、伝記ものというより良くも悪くも<女性向け映画>。
最大の見どころは34歳で下院議員初登頂から認知症?(統合失調症)が公表された83歳のサッチャーを演じたハリウッドの名女優メリル・ストリープ。最多オスカー・ノミネート女優の異名を取る彼女が「ソフィーの選択」(82)以来2度目の主演女優賞を獲得。改めて写真を観ると本人そっくりとは言えないが、言葉づかい、身ぶり、姿かたちがサッチャーそのもの。年齢差40年の時系列も見事に映し出されている。これは本人の演技力とメイクアップなど技術スタッフのサポートのたまものだろう。
サッチャーのもうひとつの代名詞は「食料品店の娘」でかなり差別用語に近いもの。苦労してハーバード大を卒業後、父の教え「質素倹約」を掲げ下院議員選挙に出馬して落選。26歳で結婚、双子に恵まれるが家事をするだけの女になりたくないと34歳で初当選。ここまでかなりテンポ良く進み、若き日のマーガレットにアレクサンドラ・ローチ、夫のデニスにハリー・ロイドが扮して希望に満ち溢れた2人のシャル・ウィ・ダンスのシーンはとても好印象。
サッチャーの政治家としての歴史的評価は時期早尚だろう。下級階層出身の女性が11年間首相を務め、低迷していたイギリス経済を立て直しサッチャイズムと呼ばれる強硬なリーダーシップによる強い国家を求めた。反面格差社会を冗長させ内政を犠牲に。一律課税の「人頭税」で支持率を下げ、EU統合に消極的で降板するが、昨今ユーロの低迷で評価が見直されている。
監督は「マンマ・ミーア!」でのコンビ、フィリダ・ロイド。女性らしい丁寧な演出は存命中の有名人を映画化する難しさを上手く乗り越えた感がある。そのひとつにトップレディとしての特訓振りやスーツ・ファッション。勝利を得るためには闘志あふれる青いスーツ、晩年敗色濃い時期はエンジ色、官邸を去るときは真っ赤なスーツで足元には赤いバラの演出が印象的。
晩年の夫デニス役を演じたのはジム・ブロードベント。10年前に「アイリス」で認知症の妻を支える夫役でオスカー(助演男優賞)を獲得。今回も幻想の中で寛容な夫を演じ、その存在感の大きさを魅せる重要な役をさり気なく演じている。「家族の庭」でもそうだが、ヒロインの夫で良き英国人の役柄は最も得意なジャンルである。
サッチャーの孤独な闘いは今も続いている。認知症(統合失調症)の公表は娘のキャロルの出版によるものだが、映画化の是非論も含め何かと話題を呼んでいる。しかし本作でのM・ストリープの名演だけは不変であろう。






『おとなのけんか』 85点

2012-03-19 17:09:03 |  (欧州・アジア他) 2010~15

おとなのけんか

2011年/フランス=ドイツ=ポーランド

4人のけんかは、まるで国際紛争の縮図

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

大ヒットしたヤスナミ・レザの舞台「大人はかく戦えり」を80歳近いロマン・ポランスキー監督が豪華キャストで映画化。舞台よりさらに10分ほど短縮したリアルタイムの良質なシチュエーション・コメディに仕上がった。原題は「修羅場」だが邦題は秀逸。とくに<ひらがな>にしたのがいい。
ブルックリンの公園で11歳の同級生がケンカ。ザカリーがイーサンを棒で殴り前歯を2本折った。イーサンの親カウアン夫妻は、平和的に解決するためザカリーの親ロングストリート夫妻を自宅に招く。表面だけ取り繕う大人たちが徐々に本性を剥き出しとなってゆく。両家の話し合いはチクリあいから攻撃が始まりときには男対女、ときには3対1、敵味方がその都度変わり、我こそが一番正しいと主張し始めるさまがテンポ良くコミカルに描かれる。
4人のキャラクターがハナシの進展とともに実にきめ細やかに現れてくるのが見事。イーサンの母ペネロペ(ジョディ・フォスター)は本屋で働きながらアフリカのタルフール紛争について本を書いている。神経質でオランダからチューリップを1束20ドルで買って飾り、テーブルにはココーシュカやフジタの画集を置く見栄っ張り。父マイケル(ジョン・C・ライリー)は金物商でペネロペの尻に敷かれながら平穏平凡がモットー。アフリカの惨状について語り出す妻に閉口している。ザカリーの母ナンシー(ケイト・ウィンスレット)は見掛けや体裁を気にする投資ブローカー。謝りに来たのに携帯を離さない夫にいらいらしているうえ、ペネロぺのお手製のケーキに当たったのかダイナミックに嘔吐し、美術書を台無しにする。父アラン(クリストフ・ヴァルツ)は製薬会社の顧問弁護士。本件には無関心で、お構いなしに仕事の携帯をしてひんしゅくを買う。意外と飲食に卑しい。
こんな4人は携帯やハムスター、映画スター(ジェーン・フォンダ、ジョン・ウェイン)や副作用があるクスリや夫婦間のうっぷんで敵味方が変わる不毛の議論を重ね、感情的になってゆく。まるで国際紛争の縮図を観るようだ。救いはこんなバトルが繰り広げられても子供とは違って暴力は一切振るわないことだ。しかし子供はケンカを忘れたように仲直りできるのに、おとなは紛争が拡散してなかなか解決しないのが何とも皮肉な現象だ。
4人の名優は何れ劣らぬ好演だったが、ハナシをややこしくする張本人アラン役のC・ヴァルツが陰の主役。多忙をこれ見よがしにして大物を強調する尊大な態度と、携帯がないと「私の人生のすべてが入っていたのに」としょげ返る姿が印象に残る。
本編とは関係ないが、切ないラブ・ストーリーの<「タイタニック」3D版>の予告編が事前に流れる映画館で鑑賞。K・ウィンスレットの嘔吐があまりにも強烈で思わず苦笑してしまった。


『人生はビギナーズ』 80点

2012-03-18 14:18:54 | (米国) 2010~15

人生はビギナーズ

2010年/アメリカ

M・ミルズの思い入れが溢れるストーリー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

「サム・サッカー」のマイク・ミルズ監督による思い入れ溢れるプライベートなストーリー。主人公オリヴァーの父親が、75歳でゲイ宣言してから亡くなるまでの晩年をベースに、母との少年時代の想い出や、出逢った恋人とのロマンスを描いた人間ドラマ。
オリヴァー(ユアン・マクレガー)は38歳時のM・ミルズと思われ職業はグラフィック・デザイナー。同居していた父をガンで失い、犬のアーサーとの孤独な暮らしに哀しみは癒えない。5年前カミング・アウトしてからの父・ハル(クリストファー・クラマー)は、お洒落をしてパートナー・アンディ(ゴラン・ヴィシュニック)を得てパーティを楽しむなど残された人生を目一杯過ごしていた。ガン宣告を受けても冷静に受け止める姿がとても潔さまで感じてしまう。
少年時代、美術史家だった父との想い出は殆どなく、いつも母・ジョージア(メアリー・ヘイジ・ケラー)の傍にいた。何処か寂しげだったのがオリヴァーには分からず推測するしかなかった。ゲイを承知で55年に結婚した2人には愛情でゲイを治すことができないことに苦しみ抜いていたのかもしれない。またジョージアにはユダヤ人だということを隠していた辛さもあった。当時のアメリカはゲイもユダヤ人も不遇な時代だったといえる。
孤独なオリヴァーの前に現れたのがちょっと変わったフランスの女優アナ(メラニー・ロラン)。出逢いはパーティでの筆談でアナは喉頭炎だというが推測することに慣れているオリヴァーには不自由さはなく、2人は似たもの同士で意気投合する。
カットバックを多用し時間軸を入れ替えお洒落な展開でストーリーは淡々と進んで行く。後半は2人の恋の行方が中心となるが、予想どおり?行ったり来たりで遅々として進まない。リアルな人間の悩み・喜び・哀しみを感じながら生きてゆくオリヴァー一家の物語なので、メロドラマを期待すると梯子を外されそう。
本作のお目当てはC・プラマーの最年長オスカー(助演男優賞)獲得の演技もあるが、ごひいきのM・ロランだった。ミルズ監督はぴったりのキャスティングだといっていたが、正直期待外れ。ヒロインではないので止むを得ないが、父親が自殺予告の電話をしてくるのに電話にでないのは父から逃れたいのだろうか?背景が謎のままの役柄だった。
収穫はジャックラッセル・テリア犬のアーサー。<150もの単語が分かるけど、しゃべれない>というクレジットでオリヴァーと心の対話をする。字幕付きで台詞があり<もう結婚したの?>には思わず微笑んでしまう。ゴールデン・カラー(金の首輪)賞は「アーティスト」のアローに譲ったが堂々たる助演ぶり。
そのアーサーを含め、オリヴァーとの距離感がテーマの作品だった。人づきあいの苦手なオリヴァーには、晩年の父がほど良い距離感だったのだろう。これからはアナと良い距離感を持って生きて欲しいと思わせるエンディング・タイトルにM・ミルズらしい繊細さが窺える。


『スミス都へ行く』 80点

2012-03-17 12:38:27 | 外国映画 1945以前 

スミス都へ行く

1939年/アメリカ

アメリカン・スピリットを、ユーモラスに描いた政治ドラマ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

30年代アメリカを代表する監督のひとりフランク・キャプラ。ルイス・R・フォスター原作「ミネソタから来た紳士」を、オスカー受賞した「オペラハット」の兄弟編として企画している。急死した上院議員の代替えとして、田舎のボーイ・スカウト団長だった青年スミスは政界へ担ぎ出される。当時の米国議会の腐敗をユーモアたっぷりに描きながら議会制民主主義のありかた、アメリカン・スピリットを優しい目線で訴えている。
スミスはワシントンDCへ伝書鳩持参で行くほど純朴な男で、イキナリ迷子になるほどの田舎者。尊敬するリンカーン記念館を訪ね人民のための政治を誓う。スミスに扮したのは当時31歳のジェームズ・スチュアート。彼にとって本作を機にグレゴリー・ペックに先駆けアメリカの良心を代弁するスター俳優となった記念碑的作品だ。
政治腐敗に嫌気がさしていたサンダース秘書。スミスが登院するときは「初めて学校に送る母親のような気持ち」になり、その実直さに好意をもってゆく。演じたキャプラ監督お気に入りのジーン・アーサーは、都会女性が忘れていた純粋な男に出逢い、公私とも良きパートナーとなる女性を好演して、恋愛ドラマとしての要素を醸し出している。
スミスを子供のように思っているのはペイン上院議員(クロード・レインズ)。若いころ理想に燃えて議員になったが、地元の権力者ジム・テーラー(エドワード・アーノルド)の利権に反しては物事が進まないという現実に妥協してしまっている。テーラーの持つダム建設予定地にキャンプ場をつくる法案に反対せざるを得なくなり板挟みとなってしまう。「彼は正直者だが、バカではない。」というのが精一杯である。
地元の大新聞社も牛耳っているテーラーはメディアを利用してスミスを陥れるが、声を枯らして迫真の演説をして議場を占領する。日本ではかつて<牛歩戦術>で法案不成立の手法を採っていたが、アメリカではしゃべり続ける限り議場を占領できるというルールがあった。J・スチュアートはクスリを舌に塗って声を枯らしたという。チャップリンの独裁者に匹敵する名シーンというのは言いすぎか?
この演説を好意的に眺めていたのが上院議長(ハリー・ケリー)。こんな議長がいる限り米議会の民主主義は守られるが、当時の上院議員からリアリティに欠けると言って上映禁止騒ぎがあったという。からくりを揶揄されたメディアからも現実離れしていると不評だったが、上映すると大好評。観客はオスカー3度受賞の理想を追い続けたキャプラスク(キャプラ固有のヒューマニズム)に軍配を挙げている。


『第十七捕虜収容所』 85点

2012-03-14 17:41:51 | 外国映画 1946~59

第十七捕虜収容所

1953年/アメリカ

B.ワイルダー、異色の秀作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

戦争捕虜をテーマにしたドナルド・ビーヴァン、エドモンド・トルチンスキの舞台劇を「サンセット大通り」のビリー・ワイルダー監督がエトモンド・トルチンスキと共同脚色して映画化した。
ナチスの強制収容所のドキュメンタリーを手掛けた経験をもつ、ユダヤ系オーストリア=ハンガリー帝国生まれのB・ワイルダー。本作はサスペンスなのに登場人物をユーモアたっぷりに描いて深刻さを回避。ナチスを漫画チックな悪人に仕立てることでアイロニーな世界を創造した異色の秀作にしあがっている。
主演はウィリアム・ホールデン。収容所内で衛兵を買収して卵焼きを作ったり、酒・タバコ・葉巻・絹の靴下まで扱うデパートを営業したり捕虜仲間から異端児扱いされている。2人の脱走兵が成功するか賭けをして、しない方へ賭け独り勝ちすることからスパイでは?と疑われる。原作では<意気地なしだが愛国心に目覚め勇敢になる男>だが、本作では<悪人ではないが情に流されることなく、抜け目ない男>にアレンジされている。渋々出演したホールデンだが、見事オスカーを受賞している。受賞時のコメントが「サンキュー」だけだったのは有名なハナシ。
コミカルな役を一手に引き受けたのは舞台でも演じたアニマル役のロバート・ストラウス。戦争アイドルのベティ・グレイブルを熱愛し、女装した相棒ハリーと踊ったり、ロシア女性捕虜を覗きに行ったりする。奔放な行動は他の俳優が演じても、ウソ臭さが目立ってこうはならないだろう。
敵役の収容所長のシエル・バッハを演じたのは「ポギーとペス」の監督、オットー・プレミンジャー。左遷されながら出世を諦めていない大佐役をコミカルに好演している。
ジュネーブ条約で守られている捕虜とはいえリアル感に乏しいこの収容所生活は「芸術映画は作らない。映画を撮るだけだ。」と明言したワイルダーの手腕を如何なく発揮した娯楽映画の傑作として残り、収容所脱走もののお手本となっている。


『グラン・プリ』 75点

2012-03-12 16:07:53 | 外国映画 1960~79




グラン・プリ


1966年/アメリカ






レーシング・カーの迫力と世界のミフネを味わえるF1レース・ドラマ





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
75点





モーター・スポーツの最高峰F1グランプリで戦う4人のドライバーのレースとその舞台裏を描いたドラマ。ノンフィクションをもとに脚色したものをジョン・フランケンハイマー監督で映画化。ソウル・バスのタイトル・バックからモナコ・グランプリのオープニングは、モーター・スポーツファンには堪らない迫力。レーシングの醍醐味を充分堪能でき、おまけにホンダがモデルと思われるヤムラ・チームのオーナーに世界のミフネが扮し日本人にとって誇らしいストーリー展開が楽しめる。
主演はジェームス・ガーナー扮するBRMチームの米国人ベテラン・ドライバーのピート・アロン。ここ2年は不振でエース・ドライバーをイギリスのストッダード(ブライアン・ベッドフォード)に譲っている。よりによってアロンとストッダードのマシンが接触、アロンはクビで、ストッダードは重傷で入院。勝ったのは2度ワールド・チャンピオンになったマネッタ・フェラーリのエース・ドライバーのピエール・サルティ(イヴ・モンタン)。元2輪グランプリ・チャンピオンの若手ニーノ(アントニオ・ベッドフォード)を抑えての優勝だった。
男たちの戦いの裏に、ともに生きようとする女性たちが絡んでくるが、残念ながらインパクトに欠ける。雑誌編集者のルイーズ・フレデリクソン(エヴァ・マリー・セイント)とサルティのロマンスやストッダードの妻で元モデル・パット(ジェシカ・ウォルター)とアロンの不倫は、よくあることかもしれないがドラマとしては平板。ドラマとしてはレースに懸けるフェラーリやヤムラのスタッフたちの舞台裏を描いて欲しかった。J・ガーナーの役はスティーヴ・マックイーンが候補だったそうだが、直前での降板はストーリーが相応しくないと感じたのかもしれない。
最大の売り物はレーシング・シーン。250名以上の撮影隊が66年のF1レース9戦中6戦を撮影、雨中のベルギー、火を噴くロンドンでのレースは臨場感溢れる大迫力。マシンのフロントにカメラを搭載してドライバーの目線で観客にスピード感を味わせる映像と爆音は70ミリ画面で観て見たかった。
誇り高い日本の男と優雅な着物姿の女性の描写が緻密だったのは、ハリウッド初出演の三船敏郎の意向に違いない。






『グランド・ホテル(’33)』 80点

2012-03-11 15:36:55 | 外国映画 1945以前 

グランド・ホテル(’33)

1933年/アメリカ

G・ガルボとJ・クロフォードの幸せ探し

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

原作者ヴィッキイ・バウムがホテルで起こった実業家とタイピストのスキャンダルをもとに小説・戯曲化したのをMGMがオールスター・キャストで映画化。アカデミー作品賞を受賞した群像劇。
ベルリンの高級ホテル、グランド・ホテルに宿泊した5人の人間模様が描かれる手法が当時斬新で、限られた時間と場所での群像劇を称して「グランド・ホテル形式」と呼ばれるようになった。
一世を風靡したが落ち目となり自殺まで思い詰めるバレリーナ・グルシンスカヤ(グレタ・ガルボ)。彼女の真珠のネックレスを盗もうとしていた自称男爵、ウォレス・ビアリー(ジョン・バリモア)。死期が近ずいて最後の贅沢をしようと宿泊した会社の帳簿係、クリンゲライン(ライオネル・バリモア)。その会社の社長で合併工作に必死なプレイシング(ウォレス・ビアリー)。女優を夢見て金のために速記者として雇われたフレムヘン(ジョーン・クロフォード)。
ホテルに集まった登場人物は何れも幸福とは言えない5人。トキにはウソで自分を偽り背伸びしながら、トキには本音で惨めさをさらけ出す人生の縮図が見えてくる。
当初男爵にはジョン・ギルバート、帳簿係にはバスター・キートンが予定され、さらにケーリー・グラント、ジミー・デュランが出演するハズだったというから、MGMの力の入れ方は相当だった。
何しろG・ガルボは「肉体の悪魔」でJ・ギルバートの相手役で売り出して「神聖ガルボ帝国」とか「永遠の夢の女王」と言われた伝説の大スター。対するJ・クロフォードはチャールストン・コンテストで芸能界入り、「踊る娘たち」の歌と踊りで認められスター入りした苦労人。ともに27歳で特にJ・クロフォードにとってライバル意識は強く、本作が最初で最後の競演となってしまった。皮肉なことに役柄が2人の女優人生にオーバーラップしていて、その先も暗示しているのでとても興味深い。G・ガルボとJ・クロフォードの幸せ探しは、ホテルの回転扉を出てからまだまだ波乱万丈の続編ができそうだ。


『ポセイドン・アドベンチャー(1972)』 80点

2012-03-10 11:29:10 | 外国映画 1960~79





ポセイドン・アドベンチャー(1972)


1972年/アメリカ







パニックに陥った人間の心情を的確に表現した元祖パニックムービー





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
85点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





ポール・ギャリコの原作をロナルド・ニーム監督、ジーン・ハックマン主演で映画化したパニックムービーの傑作。低予算(500万ドル)ながら同年封切りの「ゴッド・ファーザー」なみの大ヒットとなり、2年後の大作「タワーリング・インフェルノ」に繋がった。NYからアテネに向かう豪華客船ポセイドンが巨大津波に遭って転覆、パニック状態のなか脱出を試みる牧師たち10人の友情と愛の再発見ストーリー。
アカデミー特撮賞、挿入歌(モーリス・マクバガンの「モーニング・アフター」)歌曲賞を受賞しているが、最大の成功要因はスターリング・シリファント、ウェンデル・メイズの脚本だろう。運命共同体となった10人のキャラクターを見事に織り込みながら、どのような行動をとったかが、臨場感をもって観客に迫ってくる。パニック映画の元祖と言われる由縁だろう。
リーダーのスコット(G・ハックマン)は牧師だが、<神の言葉より、自らの運命を切り開く>という信念の持ち主。アメリカ人らしい個人の意思を尊重する精神を大切にする思想に合致している。船に残った老牧師(アーサー・オコンネル)の「君の考えは強いものの考え方だ。信仰は弱い者を救わなければならない」という言動は結果的に裏目となった。東北大震災での津波災害に遭った今、とても考えさせられる設定だ。
文句ばかり言っていたマイク・ロゴ警部(アーネット・ボーグナイン)も特異なキャラクター。若い妻・リンダ(ステラ・スティーヴンス)は元売春婦で熱愛の末結婚したという変わり種だが、ここで夫婦愛を再確認。もうひと組の夫婦はローゼン夫妻で孫に会うための旅だった。ローゼン夫人(シェリー・ウィンタース)は元水泳選手で、潜水してスコットの危機を救い自分は犠牲となる。この映画のハイライトのひとつだが、最初はローゼン夫人が先に潜水しスコットを助けるという設定だった。G・ハックマンの提案で入れ替えたのが見事にハマって、S・ウィンタースの名演を引き立てている。ちなみに彼女は「陽のあたる場所」で溺死、「狩人の旅」で湖底での死など水難の相があった。
ほかにも中年独身男で雑貨商のジェームス(レッド・バトンズ)と足手まといの歌手ノニー(キャロル・リンレイ)のロマンス、17歳のスーザン・10歳のロビンの姉弟愛もあって、決死のサバイバルは緊張連続の目が放せない117分だった。