
・ 日本で最初に紹介されたイラン映画の名作。
イラン映画で著名な「運動靴と赤い金魚」(97/マジット・マジティ監督)より10年前製作された本作は、アジア映画ファンにはお馴染みのアッパス・キアロスタミ監督の長編4作目。
「そして人生はつづく」(92)、「オリーブの林をぬけて」(94)を含めコケール・トロジー(ジグザグ道)三部作とよばれる。
カスピ海近辺の村コケールに住む8歳の少年アハマッド。友だち(モハマッド・レダ・ネマツァデ)のノートを間違えて持ち帰ってしまった。宿題を紙に書いてきて先生に叱られ、今度やったら退学だと言われ泣きじゃくっていたモハマッド。
隣の村ポテシュから通っているが家を知らないアハマッドはノートを返すため村を必死に探し歩く...。
79年革命後、おもに宗教上の理由で検閲が厳しくなったイラン映画。子供を主演に起用してドキュメンタリー風フィクションによるメッセージを巧みに織り込んだ作品も多く、その先駆け的な存在でもある。
当時のイランはこんな文化・風習だったのか?と考えさせられるシーンが多く、現在もその伝統は引き継がれているのかもしれない。グローバル・スタンダードの視点からはかなり逸脱している。
先生の叱責はかなり一方的だし、母親は家事に忙しく子供には杓子定規な対応、四日に一度は殴って言うことを聴かせると自慢げにいう祖父の理不尽なしつけなどパワハラのオンパレードだ。
アハマッドはそんななかでも直向きに友だちの家を探すために奔走する。日本のTV人気番組「はじめてのおつかい」にも似たそのいたいけな様子は観客の共感を得るにはもってこいの状況である。
北東部マスレ村でのオールロケで出演したのは全員村の人たちで、アハマッドとモハマッドは実の兄弟が演じている。
子供が主役の作品も手掛けている小津安二郎の大ファンを自認するキアロスタミ監督。元グラフィックデザイナーの出身でローアングルからの構図はとても美しく、アハマッドが往復するジグザグ道は撮影用に踏み固めて作ったという。
自然の風景と風の音や犬の鳴き声などリアルなBGMをもとに村の暮らしぶりをリアルに描写した本作。
賢いアハマッドの取った行動でこゝろが癒やされるラストシーンが秀逸だ。
小津が描いた日本の家族とどこか共通するところがあるような気がする。