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晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「友だちの家はどこ?」(87・イラン) 80点

2022-09-06 16:38:51 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 日本で最初に紹介されたイラン映画の名作。


 イラン映画で著名な「運動靴と赤い金魚」(97/マジット・マジティ監督)より10年前製作された本作は、アジア映画ファンにはお馴染みのアッパス・キアロスタミ監督の長編4作目。
 「そして人生はつづく」(92)、「オリーブの林をぬけて」(94)を含めコケール・トロジー(ジグザグ道)三部作とよばれる。

 カスピ海近辺の村コケールに住む8歳の少年アハマッド。友だち(モハマッド・レダ・ネマツァデ)のノートを間違えて持ち帰ってしまった。宿題を紙に書いてきて先生に叱られ、今度やったら退学だと言われ泣きじゃくっていたモハマッド。
 隣の村ポテシュから通っているが家を知らないアハマッドはノートを返すため村を必死に探し歩く...。

 79年革命後、おもに宗教上の理由で検閲が厳しくなったイラン映画。子供を主演に起用してドキュメンタリー風フィクションによるメッセージを巧みに織り込んだ作品も多く、その先駆け的な存在でもある。

 当時のイランはこんな文化・風習だったのか?と考えさせられるシーンが多く、現在もその伝統は引き継がれているのかもしれない。グローバル・スタンダードの視点からはかなり逸脱している。
 先生の叱責はかなり一方的だし、母親は家事に忙しく子供には杓子定規な対応、四日に一度は殴って言うことを聴かせると自慢げにいう祖父の理不尽なしつけなどパワハラのオンパレードだ。
 アハマッドはそんななかでも直向きに友だちの家を探すために奔走する。日本のTV人気番組「はじめてのおつかい」にも似たそのいたいけな様子は観客の共感を得るにはもってこいの状況である。

 北東部マスレ村でのオールロケで出演したのは全員村の人たちで、アハマッドとモハマッドは実の兄弟が演じている。
 子供が主役の作品も手掛けている小津安二郎の大ファンを自認するキアロスタミ監督。元グラフィックデザイナーの出身でローアングルからの構図はとても美しく、アハマッドが往復するジグザグ道は撮影用に踏み固めて作ったという。

 自然の風景と風の音や犬の鳴き声などリアルなBGMをもとに村の暮らしぶりをリアルに描写した本作。
 賢いアハマッドの取った行動でこゝろが癒やされるラストシーンが秀逸だ。
 小津が描いた日本の家族とどこか共通するところがあるような気がする。

 

「メンフィス・ベル」(90・英/米)60点

2022-08-12 12:32:00 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 爆撃機に搭乗した10人の青春群像劇。


 第二次大戦で英国に駐在した米国第8空軍所属の爆撃機B-17F愛称メンフィス・ベルに搭乗した10人の若者たちが任務遂行する姿を描いた青春群像劇。
 巨匠ウィリアム・ワイラーによる同名のドキュメンタリー映画のリメイクで、こちらはフィクション。娘のキャサリンが製作に加わっている。監督はマイケル・ケイトン=ジョーンズ。

 メンバーは操縦士で真面目なリーダーのデニス(マシュー・モディーン)、詩人で成績優秀な無線士ダニー(エリック・ストルツ)、陽気な副操縦士ルーク(テイト・ドノヴァン)、医大生の爆撃手ヴァル(ビリー・ゼイン)、甘い歌声の後尾銃座クレイ(ハリー・コニック・ジュニア)など。なかにはまだ19歳で自称・持て男の愛称ラスカル(ショーン・アスティン)など、生まれも育ちも様々な若き乗務員たち。
 クレイグ・ハリマン大佐(デヴィッド・ストラザーン)のもとにドイツ・ブレーメンの飛行機生産工場への爆破指令が出た。メンフィス・ベル25回目最後の出撃が決まった。出撃前のダンス・パーティでは普通の若者だが、無事任務遂行が完了すれば隊員たちは帰国できるとあって、不安を隠し将来の夢を語り合い勇気をふるう。

 メンフィス・ベルが米空軍博物館に展示されるほど有名なのは、戦時国債引き受け募集キャンペーンに利用されたため。ワイラー監督のドキュメントもプロパガンダ映画である。
 従って本作でも広報担当ブルース・デリンジャー大佐(ジョン・イスゴー)が若者たちを英雄に仕立てるための準備は怠りない。もちろんメンバー全員が24回も搭乗経験があるわけでもない。
 「父親たちの星条旗」で英雄に仕立て上げられた若者同様だが、本作ではあくまで若者賛歌でハリマン大佐が遺族からの手紙をデリンジャーに読ませるシーンやエンディング・クレジットで「全ての国の戦死者に捧げる」と述べる程度で戦争の悲惨さは抑制気味である。

 みどころは本物のB-17機を使ったリアルな特撮映像とアメリカの正義や良心、搭乗篤い友情を描いたスリリングなエピソード。
 ダニーが「僕は いずれあの雲の上で死ぬだろう・・・。」とイエーツの詩を朗読を詠んだあと出撃。ユージン(コートニー・ゲインズ)がお守りを無くしパニクったり、空中での激しい銃撃戦がありルークが敵機銃撃後僚友機に激突したり死への恐怖が迫ってくる。
 ブレーメンの工場が視界不良で黙視できず、無差別爆撃を回避するため旋回して爆弾投下を選んだデニスの大英断。
 帰還中も旋回銃座が破壊されラスカルの落下危機をバージ(リード・ダイアモンド)が助ける。
 ダニーが負傷して二週間通っただけの医大生ヴァルに託される。必死の手当のあと命を優先して落下傘付きでドイツ人に託すか連れて帰るかで意見が別れる。
 第4エンジンが被弾停止によるあわや炎上を急降下で消火したり、いよいよ着陸というとき片方の車輪がでないなど波乱万丈。
 全てが事実ではないが昼間爆撃を任務としていた初期の作戦では似たようなエピソードは事欠かないことだろう。

 戦争末期45年2月にはドレスデン、3月には東京で無差別爆弾投下をしたアメリカの正義は戦争終結のためだという。
 前にも述べたが筆者はB-29の焼夷弾投下により1歳2ヶ月で死んでいたかもしれない。真面目なリーダーであったデニスのモデルがB-29の搭乗員だったことを知って益々複雑な想いでこゝろの整理がついていない。
 いま中東やウクライナでミサイルが投下され一般人が命を失う現実を観るにつけ、無事帰還で拍手するような作品には色眼鏡で観てしまう自分がいる。

 
 

 
 

 
 

 

「アンダーグラウンド」(95・仏/独/ハンガリー/ユーゴスラビア/ブルガリア)85点

2021-09-03 12:02:16 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 激動のユーゴ50年を切り取ったブラック・ファンタジー


 セルビア生まれのエミール・クストリッツア監督が「パパは出張中」(85)に続いて二度目のカンヌ・パルムドール賞を獲得したコメディ・ドラマ。20世紀ユーゴの50年に亘る混乱を描いている。
 キャッチコピーに<20世紀最高の映画 歴史に翻弄された人々の痛々しさ>とあるが本当だろうか?

 物語りは三部構成で

 第1章は1941年4月 ベオグラードにナチスドイツ軍が侵攻。パルチザンとして活躍するマルコとクロによる女優ナタリアを巡る愛の物語と、戦乱をエネルギッシュに生き抜く人々の奮闘記。

 第2章は’43年~ユーゴスラビア社会主義共和国におけるチトー大統領時代。大統領側近として出世するマルコとナチス将校の愛人だったナタリアが結婚。負傷したクロはマルコの策略で終戦も知らず地下室で仲間たちと暮らす20年。やがてクロと息子のヨヴァンそして動物園の飼育係だったマルコの弟イヴァンと猿のソニが地下を抜け出す。

 第3章はチトー大統領が死去して民族紛争が続くなか、’90年初頭国連軍が介入。武器商人として暗躍するマルコは妻ナタリアとともに国際指名手配されるはめに。クロは内戦軍の指揮官となって行方不明の息子ヨヴァンを探し続け、イヴァンは内戦の中に放り込まれてしまう・・・。

 本作の完成時は旧ユーゴスラビアが7つの国と地域の分裂状態にあり、民族同士が複雑に絡み合うボスニア紛争のころ。国際社会の思惑も重なって解決の糸口が見えない状態だった。
 
 シュールでエネルギッシュ、フェリーニを想わせるコッテリ感のある作風の監督クリストリッツアは持ちうる才能を十二分に発揮。
 40歳の天才監督を支えたのはジプシー音楽にすさまじい民族エネルギーを感じさせたゴラン・グレコヴィッチ、踊り狂う人々をときには激しくときには優しく捉えたカメラのヴィルコ・フィラチ、喧噪と混乱を絶妙に表現した美術のミリアン・クレノス・クリアコヴィッチなどのスタッフたち。
 さらに義賊から政府要人、武器商人と変遷しながら人を欺くことで生き抜いてきたマルコを演じたミキ・マロイノヴィッチ。同胞クロへの想いは持ち続けていた。粗暴だが家族想いで人を信じやすい一途なクロに扮したラザル・リトフスキー。車椅子の弟を庇いながら本能によって生きてきたナタリアのミリャナ・ブレゴヴィッチなど現地の名優たちである。
 
 激動の50年間を人々が持つ強烈な民族のエネルギーで生き抜くさまを、コミカルに・そして激しく・ときには優しく描いていく。そして終盤では奇想天外なファンタジーに潜む祖国を失った悲哀と憤りがフツフツと湧き出してくる。
 苦痛と悲しみと喜びを幾重にも体験し、啀み合い欺瞞や裏切りもあった。<許す でも忘れない>というエンディングは感動を呼ぶ。

 <セルビア人擁護><民族独立否定>との批判の嵐があって40歳の若さで一度は筆を折ったクストリッツア監督(その後復活)。170分の長編だったが長さを忘れて見入ってしまった。5時間14分の完全版も観てみたい。20世紀最高の映画かどうかはそれからにしたい。
 

 

 

 

「炎のランナー」(81・英/米)75点

2020-07-14 12:08:24 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 100年前の実話をもとに、二人のランナーを通してオリンピックとは?を改めて想う。


 東京オリンピックの開催が新型コロナの影響で不透明のなか、’24パリ・オリンピックで活躍した二人のランナーを通して当時の英国がどのような時代だったかを描いた人間ドラマ。監督はヒュー・ハドソンで作品・脚本・作曲・衣装デザインのオスカー4部門受賞。

 あまりにも有名なヴァンゲリスによる流麗なテーマ音楽にのって始まるこのドラマは二人の実在人物が中心で、英国ケンブリッジ大学の短距離走者エイブラハム(ベン・クロス)とリデル(イアン・チャールソン)。二人は良きライバルだが、走ることの意義は好対照である。
ユダヤ人のエイブラハムは、排他主義が深く根強い英国において栄光を勝ち取ることで真の英国人であることを認知させる必要があった。
対するリデルはスコットランド人牧師として神のために走るという篤い想いからであり、いずれも<英国の栄誉のため>は副次的なものであった。

 近代オリンピックの精神は参加することに意義があると言われてきたが、100年前から国家高揚のためであったことは間違いない。加えて英国にはアマチュアイズムが建前として根強く、人種の壁も厚いものがあった。 
代表には選ばれたもののリデルに敗れたエイブラハムは、どうしても勝ちたいとイタリア系のプロコーチ、サム・ムサビーニ(イアン・ホルム)に指導を受け学内で批判されるが敢然と拒否、その必死さは並大抵ではなく相当なもの。

 オリンピックの実話をもとにしたドラマというと涙と感動を前面に押し出したストーリーを思い浮かべるが、本作は趣が少し違っていた。
若者たちの友情や進路の悩み・恋愛も描かれるが、むしろオリンピックを通して英国社会の歪みを浮き彫りにした辛口な味付けが印象的。それはエンディングでも表れていた。

 100年後パリで再び開催されるオリンピック。その意義や出場国の多彩さは隔世の感がある。オリンピックにまつわるドラマはこれからも続いて行くことだろう。

 追記:筆者のブログPV数が100万に達しました。つたない映画プレビューを読んで頂き本当にありがとうございました。これからもマイペースで綴って参りますので,機会がございましたら覗いて頂ければ幸いです。

 

「キリング・フィールド」(84・英)80点

2020-05-31 12:00:49 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 70年代カンボジアで、米国人記者と現地助手が体験した衝撃のドラマ。


 NYタイムズ記者シドニー・ジャンバーグが70年代カンボジア内戦を取材した体験と、通訳兼ガイドを務めたディス・プランの二部構成ドラマ。監督は本作でデビューしたローランド・ジョフィで、オスカー3部門(助演男優・編集・撮影)受賞。

 前半は、73年8月プノンペンに着任したNYタイムズ記者ジャンバーグ(サム・ウォーターストン)の奮戦記。この頃カンボジアは米国が後ろ盾のロン・ノル政権時で、反米・救国が旗印のクメール・ルージュの革命勢力が勢いを増しているときである。
 米軍によるニエクロン空爆が事実かを確かめるためリーヴス少佐やキンケード領事の証言をもとに現地の情報を本国に送る奮闘ぶりが描かれる。ダンダン劣勢になる政権のもと多数の犠牲者が出るなか、ジャンバーグやカメラマンのアラン(ジョン・マルコヴィッチ)、英国人記者スエイン(ジュリアン・サンズ)の三人は病院取材中捕らえられ危険な目に遭うが、助手兼ガイドのプランに助けられる。
 フランス大使館に避難するが戦況悪化で出国を余儀なくされ、プランも同行しようとするがパスポートの偽造がバレ残ることに・・・。
 帰国したジャンバーグはピューリッツア賞の授賞式スピーチでプランに感謝の意を表すが、同僚のアランから<自分のためにプランを残したのだろう>と非難されてしまう。

 その頃プランは階級差のない共産主義社会を目指すクメール・ルージュによる、農業集団での強制労働についていた。大衆にとって解放者だと思っていたクメール・ルージュは弾圧者だったのだ。

 後半はプランが体験する悲惨な逃亡劇を追いながら、200万人とも言われる大量殺戮がどのように行われたのかの一端が窺えるエピソードが描かれていく。のどかな美しい田園風景がキリング・フィールである矛盾が胸に迫って白骨が野ざらし状態である惨状は思わず眼を覆ってしまった。
 知識人や大都市住民を強制労働させ、医師や宗教従事者を容赦なく処刑し、子供たちを洗脳教育して親をスパイするなど革命の混乱ぶりは歯止めが掛からない。
 プランは空腹のあまり牛の血を吸っているところを見つかり炎天下に放置されたり、村の長にハウスボーイとして雇ってもらいながら命を繋いでいく。
 その長も処刑に異論を唱え銃殺され、プランは息子を連れ脱走するがその子も地雷で命を落としてしまう。

 プランを演じたハイン・S・ニョールは元医師で演技経験は皆無だったが、自ら強制労働の体験を活かしての迫真の演技で見事助演男優賞を受賞した。その後ロス在住中、強盗事件で亡くなったのも背景があったのでは?と憶測されている。

 76年秋 タイの難民キャンプで再会した二人。バックにカーラジオから流れた「イマジン」聞こえてくる。

 本作は米国人記者とカンボジア人助手との感動的友情物語と解釈すべきか?
 
 現実は<国際社会が関わり見放された国カンボジア>は大量の犠牲者が出て、未だに地雷に怯えながら暮らしている人々がいる。

 <専制政治と内政干渉という今も世界が抱える問題>を改めて考えさせられる作品だ。

 

 

「終電車」(80・仏)80点

2020-03-07 13:52:46 | (欧州・アジア他)1980~99 

・C・ドヌーヴの美しさが際立つトリュフォー最大のヒット作。
 ゴダールと並んでヌーヴェルヴァーグを代表するフランソワ・トリュフォー監督晩年の作。
ナチ占領下のパリで、モンマルトル劇場の支配人・演出家の夫に代わって劇場を守る妻の女優マリオンを巡る物語。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ、若い俳優ベルナールにジェラール・ドパルデュー、夫ルカはハインツ・ベンネントが扮している。
 題名は夜間外出を禁止され地下鉄の終電車に殺到する混乱の時代を象徴した邦題で、ヒロインを巡る三角関係を描きながらも「逢びき」(45)のリメイクでデシーカ監督の「終着駅」(53)を連想させるような切ないメロ・ドラマとは一線を画している。筆者は、夫がベルナールとの初対面で「妻は君に夢中だ」という台詞を聴くまで女好きのベルナールの片想いだと思っていたほど。
 トリュフォーはかつての愛人・ドヌーヴの美しさを引き出すことはお手のモンで、髪型や真っ赤な口紅やマニキュアと脚線美は勿論、彼女にとってその多面性が抑制された表情とともに<元祖クールビューティ>に相応しい歴代最高の演技となった。
 マリオンは実在人物ではないが、ユダヤ人だったため地下に隠れていたルカ、単なる女好きではなかったまだスマートだったドパルデュー扮するベルナール、親独派演劇評論家ダグシア役のジャン=ルイ・リシャールのリアルな人物像もモデルがいたようだ。
 オープニングでの「サンジャンの私の恋人」はじめ「素敵なあなた」など随所に流れるシャンソンが時代を感じさせ、当時のパリの雰囲気が醸し出されていたのもこのドラマに相応しい。
 なによりオシャレだなと感じたのはマドンナを中心にルカとマドレーヌが手を繋いだ幕切れは如何にもトリュフォーらしい。エンディングに流れるキャスティング紹介は、フランス映画の伝統を引き継いだ役柄映像によるものでファンにはとても嬉しい手法だ。



「仮面の男」(98・英)65点

2019-10-31 14:31:20 | (欧州・アジア他)1980~99 

・ 17世紀フランスのルイ14世と鉄仮面伝説をもとに描いた歴史ロマン


 アレクサンドラ・デュマの原作をもとに、太陽王ルイ14世とバスティーユ牢獄に幽閉されたいた仮面の男伝説、老いた三銃士とダルタニアンの物語を描いた大河ロマン。脚本のランダル・ロマン監督デビュー作で、レオナルド・デカプリオが二役を演じている。

 フランスの英雄・三銃士の勇ましい物語は英国のロビンフットと並び何度も映画化され、筆者も子供の頃観て知っているが、本作はそのスピンオフもの。

 「タイタニック」(97)で一世を風靡したデカプリオの次回作で確か邦題は「デカプリオの・・・。」だったような記憶がある。しかもルイ14世と双子の弟フィリップの二役を演じるのが最大の売り。

 フィリップ演じる仮面の男の正体は諸説あって、マザラン宰相の会計係ユスタージュ・ドージェだという最新説が真実だとも言われるが、本作のように<王の双子>のほうが謎めいていてロマンがありそう。

 改めて観るとデカプリオは非道で傲慢な王ルイ14世と心優しい双子の弟フィリップの二役を目つきの違いで演じ分け、単なる美青年スターではない俳優の片鱗が窺える。

 ただ主役はどう見てもダルタニアン(ガブリエル・バーン)だ。側近として国を導くに相応しい王の教育係として仕え、王妃アンヌ(アンヌ・パロー=ニキータの女優)との秘めた恋に悩むという役柄で、物語の中心を担っているからだ。

 王の悪政に老いた3銃士が立ち上がり、双子の弟と入れ替えようとする一見荒唐無稽なストーリーだが、扮した名優たちの頑張りで騎士道絵巻としての品格が保たれたようだ。

 恋人クリスティーヌをルイ14世が奪ったため戦地で息子ラウルを失ったアトスに扮したジョン・マルコヴィッチ。イエズス会首領として信仰に身を委ねるアラミスにジェレミー・アイアンズ、女好きで豪放磊落なポルトスにジェラール・ドパルデュー。個性豊かな三人がしっかり脇を固め、<One for all. All for one>が復活!

 筆者が子供の頃正月とお盆に観たオールスターキャストによる東映時代劇のように絢爛豪華な勧善懲悪ストーリーだった。

「眺めのいい部屋」(86・英)70点

2019-04-21 12:24:04 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 20世紀初頭、英国令嬢の恋をノスタルジックに描いたJ・アイヴォリー監督作品。


 英国の令嬢が旅先のイタリアで出会った青年と恋に落ち人生に目覚めるというE・M・フォースターの小説をジェームズ・アイヴォリー監督で映画化。オスカー3部門(脚本・美術・衣装)を受賞した。

 ハニーチャーチ家の令嬢ルーシー(ヘレナ・ボナム=カーター)は、独身で年上の従姉妹シャーロット(マギー・スミス)を付添婦としてイタリアを旅行中、英国人旅行者ジョージ(ジュリアン・サンズ)に出逢い徐々に惹かれて行く。

 階級社会の英国では自由恋愛など許されるはずなく、帰国した彼女は上流階級の男セシル(ダニエル・ルイ=ルイス)のプロポーズを受け婚約する。そんな矢先、ジョージと再会する・・・。

現代では考え方が陳腐と思われがちなストーリーだが、近作「君の名前で僕を呼んで」の脚色でオスカーを獲得したアイヴォリーの格調高い演出で、古き善き時代の英国上流社会の情景が再現されている。

 花の街フィレンツェの美しい風景の映像に、プッチーニの<私のお父さん>が流れる冒頭から異次元に引き込まれる。他にも麦畑のキスシーンでは<ドレッタの夢>が使われ、情熱の国での心情が伝わてくるなどそのものズバリの演出。

 ヒロインH・ボナム=カーターは後にティム・バートン作品やハリー・ポッターなどでお馴染みな多彩な女優だが、本作はデビュー間もない頃。テキシス首相の曾孫という名家の出身らしい血筋を生かした上流社会の清楚な令嬢役で今では貴重な作品となった。

 ジョージを演じたJ・サンズは如何にも監督好みの金髪美青年だが、貴族社会に従順な婚約者セシルに扮したD・ルイ=ルイスの繊細な演技が光っていた。

 3人を囲む演技陣ではベテラン、マギー・スミスのヤキモキする付添婦役が独身女性の複雑な心理状況を表現、三流小説家ラヴィッシュに扮したジュディ・デンチとのやりとりも見どころのひとつ。

 何かと物議を醸したジョージ(J・サンズ)、ビーフ牧師(サイモン・キャロウ)、ルーシーの弟フレディ(ルパート・グレイブス)の3人が全裸で池ではしゃぎ回るシーンは新しい時代の到来を暗示するためのものだが、監督の力が入りすぎの気もする。そのため変なぼかしが入って、却って品性を失ってしまったのは残念!

 優雅な美しい衣装、本物感漂う緻密な美術、フィレンツェや郊外のロンドン田園風景など、時代のリアルな再現に挑んだアイヴォリー監督の力作は、プッチーニ、ベートーベン、シューベルト、モーツアルトの調べとともに小説のページをめくるようなラブ・ストーリーだ。


 

 
 

「初恋のきた道」(99・中/米)80点

2019-04-09 12:03:30 | (欧州・アジア他)1980~99 


・ 中国伝統の詩的な物語を映像化したC・イーモウ監督。


 中国華北部の美しい風景をバックに父の死で故郷へ戻った息子が、両親の若かった頃を回想する物語。パオ・シーの原作を「あの子を探して」のチャン・イーモウが監督した<しあわせ3部作の2作目>。ベルリン国際映画際の銀熊賞(審査員グランプリ)受賞作品でチャン・ツイイーの出世作。

 都会で働く青年ルオ・ユーシェン(スン・ホンレイ)が父の訃報を聞き、故郷の三合屯へ戻ってきた。残された母チャオ・ディ(チャオ・ユエリン)は昔ながらの葬儀をしたいと言ってユーシェンを困らせる。
 頑なに伝統の葬儀をしたい母の想いには、村で初めての自由恋愛で結ばれた若き日の二人の恋物語があった。

現在(’58年頃)をモノクロでスタートするこの物語は、息子の回想からカラーに変わる。チャオ・ディ(チャン・ツイイ-)が都会から赴任してきた20歳の教員ルオ・チャンユー(チョン・ハオ)との出逢いに遡って行く。
 その40年前の中国農村は学校もない村が珍しくない時代。よそ行きのピンクの服を着たチャオ・ディは、遠目で若い教員ルオ・チャンユーを憧れの目で視る。

 18歳にしては幼い風貌だが、その可憐さには目を奪われ彼女のアップだけでどんな気持ちだったかが推測できる。重ねて四季折々の風景が彼女の所作に重なって、それだけで物語りが進行するのが心地よく、誰でも身覚えのある初恋というものを想い出させてくれる。
 カラー部分は原作にはないため、監督の思い入れが詰まっているシーン。この直後ハリウッド・スターとなるチャン・ツイイーはこれがデビュー作で、台詞はほとんどなく<視る・走る・待つだけの演技>で観客のハートをわしづかみしてしまう。

 邦題「初恋のきた道」はズバリだが、原題は「私の父親と母親」である。純愛物語でもあるが、40年後の母と息子を通して家族や親子の物語でもある。
 
 文革時代で引き裂かれそうになった両親が結ばれ、僻地の村で教育に一生を捧げた父とそれを一途に愛した母の姿が目に浮かぶ。時代の変遷とともに都会で暮らす息子が行った両親への親孝行が涙を誘う。祖国愛に満ちたイーモウ監督の力作だ。

「愛と哀しみのボレロ」(81・仏 )70点

2019-01-14 12:29:22 | (欧州・アジア他)1980~99 

・ 戦争で翻弄されながら生き抜いた芸術家たちへのオマージュを描いたルルーシュの渾身作。

「男と女」(66)の名匠クロード・ルルーシュが、フランシス・レイとミシェル・ルグランの音楽とともに、1930年代から81年まで、パリ・モスクワ・ニューヨーク・ベルリンでの4家族を描いた185分の大河ドラマ。

36年モスクワ・ボリショイ劇場で出会ったタチアナとボリス、37年パリ・キャバレー・リドで出逢ったアンヌとシモンの二組夫婦を中心に、パリのナイト・クラブ歌手エブリーヌとナチの軍楽隊長カールの出会い、ニューヨークを中心に活動する音楽家で楽団指揮者のグレン一家が絡む壮大なストーリー。

物語が進んで行くとその逸話からボリスの息子セルゲイが伝説のダンサー<ルドルフ・ヌレエフ>、エブリーヌがシャンソンの女王<エディット・ピアフ>、カールが帝王<ベルトフォン・カラヤン>、グレンが楽団指揮者<グレン・ミラー>がモデルであることが分かるが、勿論ルルーシュのオリジナル。

登場人物も多く、NHKの大河ドラマと違いいきなり登場してもクレジットは入らないから、目を凝らしていないとおいて行かれそう。
おまけに、シモンとその息子ダビットをロベール・オッセン、ボリスとその息子セルゲイをジョルジュ・ドン、タチアナとセルゲイの娘タニアをリタ・ポールブールド、グレンとその息子ジャックをジェームズ・カーン、ジャックの妻スーザンとその娘サラをジェラルリン・チャップリン、エブリーヌとその娘エディットをエヴリーヌ・ブイックスが演じるというややこしさ。

筆者もキャスティングと役柄をオサライして漸く理解できたので、とても初見では大筋を追うだけで精一杯だった。お蔭で3時間を超える大作だが、4大都市の象徴的な観光名所映像とともに流れる映画音楽の巨匠ふたりの音楽と大音響の音量に酔いしれだれることはなかった。

人間は何度でも過ちを繰り返すという警鐘を鳴らすようなエッフェル塔前のトロカデル広場でのボレロが圧巻の、ドルジュ・ドンの踊りとともに終焉を迎える。

ルルーシュの偉大なる失敗作?!ともいわれる本作は、戦争で翻弄されながら生き抜いた芸術家たちへのオマージュでもあり、今後も再評価される時代があることだろう。