晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ブラック・レイン」(89・米)70点

2015-09-28 16:21:16 | (米国) 1980~99 
 ・ アメリカから見たバブル期の大阪を舞台にした刑事アクション。                   
                    
                    

 「ブレード・ランナー」(82)のリドリー・スコット監督による刑事アクション。

 NYで逮捕した日本人ヤクザを大阪に護送中逃げられ、言葉の通じない日本で犯人を追う2人の刑事と府警の警部補との交流を描いている。

 大阪が舞台となっているため、多くの日本俳優が出ているハリウッド作品は貴重な存在。なかでも出番はそれほど多くないが、ヤクザ佐藤を演じた松田優作の代表作であり、遺作としても有名だ。

 日本(人)が出てくるハリウッド作品は中国と紛らわしいものが多く、怪しげな日本人が出てガッカリすることが多いが、本作は粗があまり目立たないのが心地よい。

 主演はNY市警の刑事ニックにマイケル・ダグラスが演じている。離婚して慰謝料に苦労していて、調停委員に調査されているグレーな部分を持つが、犯人逮捕には執念を持つ。バイク乗りには絶対の自信がある個性的な刑事役を気持ちよさそうに演じている。

 相棒チャーリーには売り出し中のアンディ・ガルシアが扮し、ニックの良きサポート役となっていて旬な二大俳優の共演が最大の売り。

 当初監督は「ロボコップ」(87)のボール・バーホーベンだったが、黒澤映画と新宿歌舞伎町好きのR・スコットに変更となった。

 当初舞台を東京・歌舞伎町を想定していたが許可が下りず急遽大阪に変更、思ったより綺麗な街並みにガッカリしたという。どうやら香港の下町をイメージしていたきらいもあり、新日鉄堺の自転車シーンはまるで中国のよう。監督は否定しているが、4半世紀前のハリウッドは日本と中国の区別がはっきりしていなかったのでは?

 スコット監督は松田優作の個性豊かな存在感に驚き、続編の可能性まで考慮したストーリー変更までしたが、残念ながら病魔に侵されていた彼は期待に応えられなかった。せめてデ・ニーロとの企画まで存命であればと無い物ねだりをする気にさせる鬼気迫る演技であった。

 映画の出来は平板だが、出演者の演技は本物揃い。なかでも脇に廻った高倉健の演技には感心させられた。日本のトップスターでありながら、自己主張することない抑えた演技で名脇役ぶりは流石。

 ガルシアとの掛け合いで「What’d I Say」を歌うシーンは邦画では絶対見られない。また「日本人は力を合わせて経済力をつけた。いまアメリカにあるのは、映画と音楽だけじゃないか」というセリフにバブル期ならではの自信を感じる。


 やくざの親分・菅井には若山富三郎が扮している。貫禄たっぷりの関西弁の迫力は、アメリカ人には伝わらなかったと思うが、題名ともなっている<B29爆撃のあと、黒い雨が降ってきた経緯を語る姿>は重厚な存在感ある俳優として印象に残ったことだろう。

 R・スコットならではの光と影の幻想的な映像はヤン・デ・ポンのカメラが支え、ハンス・ジマーのやるせないメロディで東アジアの異国情緒を醸し出していた。

 21世紀のいま、こんな映画は良くも悪くも作れないだろう。
 

「私に会うまでの1600キロ」(14・米) 75点

2015-09-25 17:13:05 | (米国) 2010~15

 ・ 悩んでいる人へ、一歩踏み出す勇気を与えそうな映画。


                   

 メキシコ国境からカナダ国境まで全長4260キロの米国三大長距離自然歩道のひとつPCT(パシフィック・クレス・トレイル)。

 そのカリフォルニア州モハべ砂漠からオレゴン州神の橋までの1100マイル(1600キロ)を、独りでヒッチハイクと歩きで3か月かけて踏破した女性シェリル・ストレイドの自叙伝「Wild」をもとに、リース・ウィザースプーンが製作・主演、「ダラス・バイヤーズ・クラブ」(13)のジャン=マルク・ヴァレが監督して映画化した。

 過去の喪失体験から抜け出すために旅をするという映画は類似作品<「奇跡の2000マイル」など>もあるが、本作はかなり無謀な行動。

 冒頭靴が合わず爪を剥がしあまりの痛さに絶叫する主人公シェリル。フラッシュバックで回想シーンを挟みながら彼女の半生が浮かび上がってくるコラージュ描写が観ていて飽きさせない。

 脚本のニック・ホーンビイ、撮影のイブ・ベランジェによるマルク・ヴァレ演出は、ともすれば単調な展開を人間描写と大自然の美しさ・厳しさを的確に捉えてくれる。

 どうやらシェリルはトレッキングの経験は皆無らしく、巨大なバッグに必要だと思うものを一杯詰め込み背負いきれずヨタヨタと歩き始める。

 テントの組み方も初心者、コンロも燃料違いで使えない。後悔の連続の独りで旅をスタートするが、ヒッチハイクで食事の世話を受けたり、親切なハイカー仲間と出会ったり、一人ではないことを実感する。

 若い女の一人旅は良いことばかりではないのも当然。危ない眼にもあったり、蛇やコヨーテの恐怖に出会ったり。結局人生そののもだ。

 キッカケは大好きな母ボビー(ローラ・ダーン)を病気で失い自暴自棄となり、夫がいるにも拘らず薬と男に溺れ、生活破綻したこと。

 普通最愛の肉親を失ったからといって、優しい夫を裏切るような生活に陥るというのは理性的には考えられない。<どんなに苦しい時も、常に明るく振る舞い、いいことだけを見つめて生きる母親>を失って、彼女の人生と自分の人生を重ねたとき、リセットせざるを得ない状況になったのだろうか?

 母の大好きだった作家の本を読み続け、美しさの中に身を置く旅でもあった。行きずりの情事があったり、純粋な少年の歌声に聴き入ったり、思わぬ人との出会いと別れを体験しながらの旅は、彼女をどう変えたのだろうか?

 何かをしたいと思いながら決断を躊躇する大半の人々に、一歩踏み出す勇気を与えるための映画かもしれない。

 当座心当たりのない筆者には、R・ウィザースプーンの熱意とL・ダーンのはまり役が、サイモン&ガーファンクルの「コンドルは飛んでゆく」のメロディとともに印象に残る作品だった。
                   

「マダムと泥棒」(55・英) 85点

2015-09-22 09:30:35 | 外国映画 1946~59

 ・ 60年前作られた、上質な英国ブラック・コメディの傑作。

                 

  50年代ロンドン郊外イーリング自治区の撮影所で製作された代表的なコメディで、イーリング・コメディともいわれる。

 監督は2年後アメリカに渡って、「成功の甘き香り」を監督したアレクサンダー・マッケンドリック。

 地元警察で「空飛ぶ円盤を友人が観た」と報告に来た老婦人ウィルバーフォース。キング・クロス駅近くに住むお人よしの未亡人で、自宅にマーカス教授という男が間借りに現れる。

 弦楽五重奏団の練習という名目だったが、実は現金輸送車を狙う強盗団のリーダーだった・・・。

 <映画というものは見せられている映像とセリフの言葉の意味が相反していると、より面白く説得力のあるものになる>というA・マッケンドリック。ウィリアム・ローズのオリジナル脚本をもとに、より登場人物の心情が浮かんでくるように描いた監督の手腕が光る。

 期待に応えたのが主役のマーカスを演じたアレック・ギネスをはじめとする芸達者な英国俳優たちとウィルバーフォース夫人に扮した75歳のケイティ・ジョンソン。

 目つきが鋭く強面のルイスにハーバート・ロム、メンバー中最も若いハリーにピーター・セラーズが扮している。のちの<ピンクパンサー>シリーズの名コンビとなる2人。まだ新人だったP・セラーズは尊敬するA・ギネスとの共演に感激したという。

 どことなく風格があるが、見掛け倒しの少佐・コートニーにセシル・パーカー、大男でメンバーから力だけの戦力と蔑視されているワンラウンドにダニー・グリーン。それぞれ見た目が違う5人だが、とても音楽家には見えない。

 練習曲ボッケリーニの「メヌエット」はレコードでごまかしながら、現金輸送車から大金を奪う計画は着々と進む。

 ウィルバーフォース夫人は疑うこともなく、いそいそとお茶を入れたりお節介を焼くが、その都度体裁を保ちながら対応する5人は微笑ましく、これぞ英国式の上質コメディを感じさせる。

 すんなりとはいかないまでも強奪は大成功するが、5人は無事逃げ果せるかが見所で、殺人シーンも残酷描写は一切ない。納得のエンディングにも拍手を送りたい。

 半世紀後、コーエン兄弟によってリメイクされた<「レディ・キラーズ」(04)トム・ハンクス主演)>が、こんな素敵な映画を7年間に約70本も制作したというイーリング・スタジオ所長のマイケル・バルコンに畏敬の念を抱いた作品だ。
 
 

「マジック・イン・ムーンライト」(14・米) 80点

2015-09-20 15:24:39 | (米国) 2010~15

 ・ 「マイ・フェア・レディ」を想わせるW・アレンのロマンティック・コメディ。

                   

 御年80歳に近いウディ・アレン。毎年エネルギッシュに作品を作り続けていて、C・イーストウッドと並ぶ長いキャリアを誇る監督だ。

 20年代南仏コートダジュールを舞台にした、英国人マジシャンと米国人霊媒師とのロマンティック・コメディ。

 中国人奇術師ウェイ・リン・スーという名で象を消したり、人体切断をしてベルリンの客を驚かせているスタンリー(コリン・ファース)。旧友マジシャンのハワード(サイモン・マクバーニー)の頼みで霊媒師のトリックを見破ることを請け負って南仏コートダジュールへ向かう。

 合理主義者で無神論者でもあるスタンリーが出会ったのは、若き霊媒師ソフィ(エマ・ストーン)。出会った途端東洋の匂いがすると言ったり、富豪未亡人の夫の霊を呼びだしたり、スタンリーの叔母・ヴァネッサ(アイリーン・アトキンス)の若き日の悲恋を言い当てたり、トリックを見破るスキが見つからない。

 何とか正体を見抜こうとするスタンリー。アールデコの衣装と帽子が似合う、キュートで霊能力者とは思えないソフィ。 おまけに富豪の御曹司はソフィに首ったけで、ウクレレ片手に恋の歌を歌ってプロポーズ。

 婚約者がいる合理的な主人公が、初めて不合理な恋に出会う戸惑い。それをお見通しの叔母が粋な計らいで気付かせるところがW・アレンの真骨頂。

 いつもの主人公が速射砲のような長台詞は少しテンポが遅いが、自分の分身のような皮肉屋で悲観論者は相変わらず。おまけにいつも旬な女優が登場して、恋模様を繰り広げるパターンも。今回はC・ファースとE・ストーンという新鮮なコンビが、不可能な理屈を超えたラブ・ストーリーに不自然さを感じさせない。

 作品はW・アレンのオリジナルだが、実在のモデルがいたのも驚きだ。マジック・ファンなら知っている20世紀初頭に活躍したハリー・フーディニーで、脱出マジックを得意としていて象や人体切断も彼の発案。サイキック・ハンターとして霊媒師たちに恐れられたが、霊媒師マージェリー・クランドンのトリックはなかなか見抜けず、雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」で事実を認めたことがあるという。

 W・アレンは今までも手品をモチーフにした作品は多いが、どこか「マイフェアレディ」(64)のヒギンズ教授と花売り娘イライザに似た展開は彼の手品だったのか?

 ほかにも「成金泥棒」(55)、「マンハッタン」(79)を想わせるシーンもあって、映画ファンを懐かしがらせる。

 コートダジュールやプロバンスの海と家屋敷・庭園、ニースの天文台、ダンスパーティとクラシック・カーを散りばめたノスタルジックな恋物語は<瞬間移動マジック>で幕を閉じる。

 シニカルな笑いとクラシックやジャズの名曲を隠し味に、恋のマジックを堪能した98分だった。

 

 
 
 
     

「バンク・ジョブ」(08・英) 80点

2015-09-10 13:02:47 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ お転婆娘のために、英国最大の銀行強盗事件となったというクライム・サスペンス。

                   

 「13デイズ」(00)「ザ・リクルート」(03)「世界最速のインディアン」(05)と堅実にヒット作を生んでいるロジャー・ドナルドソン監督が、’71ロンドンで実際に起こった銀行強盗事件をもとに映画化したクライム・サスペンス。

 ウォーキー・トーキー強盗ともいわれ、事件は連日トップニュースで報じられた貸金庫を狙った300万ポンド、宝石、金の延べ板強奪事件だったが、数日後報道は一切途絶えた。

 それは政府による<D通告(国防機密報道禁止令)>が発令されたからだった。

 本作は事件をもとに、何故D通告が発令されたか、その真実とその後を解き明かすという大胆なストーリーで製作サイドは<9割が事実>というもの。

 この手の映画は「黄金の七人」(65)「ミニミニ大作戦」(69/03)など類似作品も多いが、ほとんどが名うてのプロ集団。

 ところが本作は全員素人なのがユニークで、予備知識がなければエンド・クレジットを見るまで、これが実在の事件をもとにしたとは思えない。

 強盗のリーダーはテリー(ジェイソン・ステイサム)で、赤字を抱え借金取りに怯えるガレージ経営者。モデルで昔馴染みのマルティーヌ(サフロン・バロウズ)から、装置交換のため警報が解除される銀行の貸金庫を狙うという誘いを受ける。

 集まったのは自称カメラマンのケヴィン、映画エキストラのデイヴ、詐欺師のガイ少佐、掘削専門のバンバス、ガレージ従業員エディの5人。

 何故か映画は七人の集団が最も相応しいようで、本作も七人の素人強盗団。その素人が綿密に?計画を練ったのが、バンクの二軒先のテナントを借り12メートル先の貸金庫の地下に穴を掘って奪うというもの。

 無線傍受を受けたり素人ならではの想定外もあるが、金庫破りは緊張感とユーモアのうちにラッキーにも成功する。

 本題はこれからで、そこには大金以外に裏社会のポルノ王・ロウ(TVポアロでおなじみデヴィッド・スーシエ)による汚職警官への贈賄記録、MIー5高官と下院議員のSMクラブ隠し撮り写真、そしてマーガレット王女の淫らな写真が隠されていた。

 ここで、強盗団はヤード以外に悪徳警官、政府高官、裏社会と4者に追われる羽目になる。クライマックスはパティントン駅での4つ巴の場面。

 テリーは最大の武器である秘密写真やメモを使って、海外脱出のためのパスポートを入手し、あとから狙われないための最善の策を思いつく。J・ステイサムはいつもの武闘派とは違って知恵者ぶりを発揮しているところが新鮮だ。

 MI-5を伴ったマウントバッテン卿がテリーから写真を受け取る。「あのお転婆娘・・・。」というつぶやきを残して。

 事実が全て明らかになるのは、2054年だという。見届けることはできないので、本作の9割を想像するしかない。

 マイケルXは実在の人物で、レノン・ヨーコ夫妻が支援していたというのも驚き。マーガレット王女と浮名を流したミック・ジャガーが、カメオ出演していたのはもっと驚いた。


 
 
 

「大統領執事の涙」(13・米)75点

2015-09-08 13:21:18 | (米国) 2010~15

 ・ ハウス・ニグロという蔑視に耐えた男と家族の30年間。

                 

 「プレシャス」(09)のリー・ダニエルズ監督が、実在のホワイト・ハウス執事ユージン・アレンをもとに、7人の大統領に仕えた主人公とその家族30年間の軌跡を描いたフィクション。

 始まりは南部の綿花畑で働く主人公・セシル(アムル・アミーン)の母が農園主に犯され、父が銃殺されるという波乱な人生の予感がする衝撃的なシーン。母を演じたのがマライア・キャリー、黙ってセシルを家の雑用係にした女主人にヴァネッサ・レッドグレイヴが扮していて贅沢な布陣。

 都会に出たセシルが食べ物に困りガラスを割ってパンを盗んだとき、出会ったのがボーイとして雇ってくれたメイナード。何かと世話を焼いてくれ教訓は「何も見ない、何も聞かない」。

 教えを忠実に守ったホテル勤めのセシル(フォレスト・ウィテカー)は、ホワイトハウスの配膳係として働く機会を得て、家庭を持ち2人の男の子に恵まれる。

 ハウス・ニグロという蔑視にも無反応を心掛け、仕事第一の人生を邁進して行く。まるで日本のサラリーマンに似て、家庭を大切にすることはしっかり仕事をして稼ぐこと。

 そのため妻のグロリア(オプラ・ウィンフリー)は夫にかまってもらえず酒に溺れてしまうことも。ギャンブラーの隣人ハワード(テレンス・ハワード)に絡まれたりもする。

 歴代大統領とセシルの触れ合いは、米国社会のドキュメントをフラッシュで見せてくれるとともに、その人物像が浮かび上がって面白い。

 57年、34代大統領アイゼンハワー(ロビン・ウィリアムズ)は、白人のみの学校にアフリカ系アメリカ人が入学できないのは憲法違反だとアーカンソー州リトル・ロックのハイスクールに共学制を指令。

 61年、35代ジョン・F・ケネディ(ジェームズ・マースデン)は、<良家のお坊ちゃん>という陰口の中赴任し、キューバ危機を経て黒人社会への配慮理解があり、暗殺という衝撃の幕切れ。赴任の挨拶でキャロラインが落とした人形をセシルが拾ってあげるシーンが微笑ましく、血のついた服のままソファで慟哭する 夫人が痛ましい。

 64年、36代リンドン・ジョンソン(リーヴ・シュレイバー)は、部屋の電気がついていると消すように言う何かと細かい処を気にする小心者。

 69年、37代リチャード・ニクソン(ジョン・キューザック)は、執拗に大統領に固執する男。

 そして86年、40代ロナルド・レーガン(アラン・リックマン)は、ナンシー夫人(ジェーン・フォンダ)の配慮もあり、セシル夫妻をパーティに招待する。素直に喜ぶ妻に対し、セシルは空虚な気持ちで引退を決意。
 
 その間セシルの長男ルイスは、白人社会への反発からキング牧師の活動に参加。父の職業に反感を持つルイスに「執事は威厳ある態度で、人種間の憎しみを溶かす素晴らしい仕事」と諭される。

 その後、65年マルコムXの講演会で「血の日曜日」などアフリカ系アメリカ人に対する偏見は続く。

 黙々と白人社会の象徴・ホワイト・ハウスで働く父と反政府運動に身を投じた長男の亀裂は、時間とともに埋まって行く。その間次男・チャーリーのベトナム戦争での死という深い悲しみもある。

 08年・初のアフリカ系大統領が実現した今も、人種差別が終わっていない。その面会のため老いたセシルがホワイト・ハウスへ訪れるところでドラマは幕となる。

 いわばてんこ盛りのアメリカ近代史を132分に纏めた編集力と、F・ウィテカーによる30年間の見事な変遷ぶりが印象に残る。

 オスカー候補といわれながら「それでも夜は明ける」が受賞している。オバマ大統領就任に力を添えた人気司会者O・ウィンフリーが出演していて、プロパガンダ映画と誤解されたのも影響したのかもしれない。

 

 

「ザ・インタープリター」(05・英/米)65点

2015-09-03 12:27:36 | (米国) 2000~09 

 ・ 国連本部を舞台にオスカー俳優N・キッドマン、S・ペンの競演。

                   

 「愛と哀しみの果て」(85)でオスカーを獲得しているシドニー・ポラック監督の遺作。製作総指揮にアンソニー・ミンゲラの名があり、「めぐりあう時間たち」(03)のニコール・キッドマン、「ミスティック・リバー」(04)のショーン・ペンというオスカー俳優の初共演で自ずと期待が高まる。

 廃墟の競技場に現れた車には、男3人が乗っていた。サッカーに興じていた少年たちに導かれた2人が見つけたのは多数の遺体だった。少年の声で外に出ると、年上の少年が銃を持っていた。銃声で車に乗っていた男は草村からカメラのシャッターを押し続けるのが精一杯だった。

 一転NY国連本部では、さまざまな国の言葉が飛び交っていて、シルビア(N・キッドマン)はアフリカ・クー族の言語通訳を特技としている。折しも独裁者として名高いマトボ共和国ズワーニ大統領(アール・キャメロン)が国連本部で演説することになったが、偶然彼を暗殺しようとする計画を聞いてしまった。

 さっそくFBI、CIAが乗り出すが、シークレット・サービスの捜査官ケラー(S・ペン)は直感的にシルビアに秘密があるのでは?と疑いを持ち調べ始める。

 とても、好調な滑り出しである。襲われた3人の男とシルビアの関係がどのような展開を見せるか?興味津々。
 
 次第に彼女の過去と隠された陰謀が明らかになるにつれて、どこか物足りなさを感じるようになり、ベタなラブロマンスになりそうな雰囲気。

 ケラーがシークレット・サービスの護衛官でありながら、シルビアにプライベートな妻の不慮の事故を語り同情を誘うようなシーンに??流石に2人は境遇が違ってポリシーを擲って愛に生きるという流れはなかったのでホッとする。

 シルビアは危険を顧みず、ブルックリンに亡命している革命家クマン・クマン(ジョージ・ハリス)を訪ねバス爆発で危うく命を失いそうになったりする。このあたりは、かなりの緊張感。

 言葉によって平和解決を信じてやまなかったシルビアと、力で解決することは必要だと信ずるケラー。ラスト・シーンは2人が入れ替わったのでは?というあたり、現代社会が抱える諸問題と国連という組織の限界を暗示している。

 アナン事務総長に直談判して国連本部ロケを実現したS・ポラックは、9.11後米国が報復の正義を掲げることに、問題提起したかったのだろう。切り口は良かったが、却って無難な結論になってしまったのが想定外だったことだろう。

 N・キッドマンの美しさが際立ち、S・ペンの心情表現に酔った作品だった。