晴れ、ときどき映画三昧

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「モロッコ」(30・米) 80点

2013-07-08 05:43:46 | 外国映画 1945以前 

  ・スタンバーグ監督、ディートリッヒ主演によるハリウッド初作品。

     

 ドイツ初トーキー「嘆きの天使」(30)のジョセスフォン・スタンバーク監督が、ハリウッドで再びマレーネ・ディートリッヒ主演で映画化した究極のラブ・ストーリー。ベノ・ヴィグニーの戯曲「エイミー・ジョリー」の原作をジュールス・ファースマンが脚本化している。

 「嘆きの天使」で安キャバレーの女ローラ・ローラに扮し、一躍世界に名を知られるディートリッヒ。その退廃的な美しさと脚線美、セクシーな歌声そのままで本作のヒロインエイミー・ジョリーを演じている。役柄に合わせダイエットして奥歯を抜いてさらに退廃的な美しさを増した感がある。

 モロッコへ渡る船旅に乗り合わせた大富豪の芸術家ベシエール(アドルフ・マンジュー)と謎の美女エイミー・ジョリー(M・ディートリッヒ)。エイミーは新天地モロッコのクラブ歌手として働くためだが、何処か退廃的な雰囲気。ひとめ惚れしたベシエールが困るようなことがお役に立ちたいと名刺を手渡すが、「ありがとう」と受け取った名刺を千切って海へ捨ててしまう。

 クラブで歌うシーンが圧巻。シルクハットの男装の麗人姿で上客の夫人にキスするシーンはアメリカでは大変話題となったとか。タキシードで煙草をくわえた姿は宝塚の原点を観る想い。戦後の幼い美空ひばりが「悲しき口笛」で歌っている姿も連想させる。変わって林檎売りのコケティッシュな姿では、自慢の脚線美が目を奪う。

 観客の中にいた外人部隊兵士のトム・ブラウン(ゲイリー・クーパー)に声を掛けられたエイミーはこっそりと家の鍵を渡す。

 こうして2人の恋が始まるが、撮影中スタンバーグは同い年の2人が仲良くなるのに嫉妬したらしい。スタンバーグは富豪の紳士ベシエールに自身を託していたような節がある。ベシエールに「彼女の幸せがイチバンなんだ。」と言わせているのは監督自身の本音だったのだ。

 当時のG・クーパーは主演でありながら明らかに格下で、監督はジョン・ギルバート、フレドリック・マーチをキャスティングしたかったようだ。不良でキザだが純情な男トムは適役のG・クーパーは本作を機に大スターの道を歩むことになる。

 クラブでのシーン以外にも後のラブ・ストーリーのお手本になるような名シーンが数多くあって、2本指での挨拶、鏡にルージュで描いた伝言、真珠がバラける音などなど・・・。究極は何といってもラスト・シーンだろう。戦後の「第3の男」(49)と並ぶ名シーンといわれているが同感だ。エンディング・タイトルの後にも映像と音声があったのは恐らく最初の作品だったのでは。現実味がないなどと言わずに、その余韻に酔いしれて欲しい。