晴れ、ときどき映画三昧

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「動く標的」(66・米) 75点

2013-07-06 07:53:05 | 外国映画 1960~79

  ・豪華キャストで魅せるP・ニューマンのハード・ボイルド。

 

 ロス・マクドナルドの探偵小説「ルー・アーチャー」シリーズからポール・ニューマンが主演したハード・ボイルドの佳作。

 旧友の弁護士の紹介で私立探偵ルー・ハーパー(P・ニューマン)が受けた仕事は、大富豪サンプスンの失踪事件で依頼主は夫人(ローレン・バコール)。義理の娘や自家用飛行機パイロット、愛人関係にあったかつての人気女優とその夫や「バー・ピアノ」の歌手など謎めいた関係者が次々と現れる。

 ハード・ボイルドの代表作といえばレイモンド・チャンドラーの「フィリップ・マーロウ」シリーズ。映画化も数多くされていてハンフリー・ボガート、ロバート・ミッチャムなどが演じている。対してルー・アーチャーはP・ニューマンの2作のみ。おまけに主人公の名前が<アーチャー>から<ハーパー>に変えられている。これは製作会社が「ハスラー」(61)、「ハッド」(62)とP・ニューマンのヒット作はHがついているという理由だからとのこと。原作ファンには違和感があったことだろう。

 原作のアーチャーは「身長188cm、体重86kg、青い瞳に黒い髪、顔は細長く<コヨーテが笑ったような、痩せて飢えている顔つき>」で、ニューマン演じるハーパーとはイメージが違うが、原作に拘りのない筆者にはカッコ良く好印象のキャラクターだった。

 ハーパーはしがない私立探偵で、妻(ジャネット・リー)とは別居中。離婚話が中途半端なまま独り暮らし。序盤でコーヒー豆が切れていて昨日棄てたドリップをゴミ箱から拾って不味そうに飲むシーンはハードボイルド・ファンには堪らない魅力。今を時めく・村上春樹が高校時代10回も観たという西海岸のトラッド・ファッションはニューマンの真骨頂だ。いつもガムを噛んでいて、ポルシェ356スピードスターのオンボロで疾走する主人公をカッコイイと感じるかで、本作が好き嫌いの分岐点があるような気がする。

 ストーリーは登場人物が多く、ご都合主義が目立って本格的ミステリーの趣はない。最大の見所は、ニューマンを始めとする豪華キャストだ。L・バコールは下半身マヒでありながら貫録十分で夫の失踪にビクともしない。J・リーは離婚話をしながら夫に見せる女心の微妙さ。かつての人気女優シェリー・ウィンタースは、昔の面影がないすっかり落ちぶれた哀感が漂う中年女。かつての大女優競演はオールドファンには必見だ。

 なかでもS・ウィンタースは「陽のあたる場所」(52)でM・クリフト、E・テーラーを相手にしてオスカー主演女優賞候補となり、「アンネの日記」(59)で獲得(助演女優賞)した名女優。役柄とはいえここまで曝すとは女優魂は凄まじい。

 大富豪の娘役パメラ・ティフィンの水着姿や歌手役のジュリー・ハリスの歌もあって、女優陣の競演は地味なハードボイルドに彩りを添える華やかさ。

 ウィリアム・ゴールドマンの脚本は手堅く、コンラッド・L・ホールの撮影はスタイリッシュで、ジョニー・マンデルの音楽は軽快だ。序盤の痺れるような主人公の紹介シーンとラストシーンの洒落た余韻はジャック・スマイト監督にとって出世作ともいえる。本作が後の「エアポート’75」(74)、「ミッドウェイ」(76)など大作を手掛けるキッカケとなったかもしれない。 


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