晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『未来を生きる君たちへ』 85点

2011-08-28 11:15:29 |  (欧州・アジア他) 2010~15

未来を生きる君たちへ

2010年/デンマーク=スウェーデン

人間の本質に切り込んだS・ピア

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「ある愛の風景」「アフター・ウェディング」「悲しみが乾くまで」と次々話題作を作り続けているデンマークの才女スザンヌ・ピアの最新作。原題は「復讐」英題が「より良い世界へ」で邦題が「未来へ...」であることがこの作品テーマを象徴している。アカデミー最優秀外国語映画賞受賞作らしく<家族愛と人類愛が交錯する人間の本質に切り込んだ>力作だ。
「ある愛の...」ではアフガニスタン、「アフター...」ではインドのスラム街を背景に、成熟した豊かな国デンマークと対比しながら<社会の矛盾に耐えながら生きることの大切さ>を表現したピア監督とアナス・トマス・イエンセンのシナリオ。今回はアフリカ難民を貧しさの象徴として取り上げ、成熟した社会の負の財産である家庭不和や苛め・人種偏見による暴力などを絡めながらデンマークの家族を対比させ、憎しみに満ちた世界にどう立ち向かうかを問いかけている。
アフリカ難民を救うスウェーデン医師・アントン(ミカエル・パーシュブラント)はデンマークの港町に住んでいる。妻の医師マリアン(トリーネ・ディアホルム)とは別居中だが、2人の息子、とくに兄のエリアス(マークス・リーゴード)からは慕われている。エリアスは学校でネズミ男とからかわれ苛めの対象となっているが我慢するしかすべがない。ロンドンから来た転校生クリスチャン(ヴィリアム・ユンク・ニールセン)はやられたらやり返す少年で、母を癌で亡くし最後まで介護しなかった父(ウルリク・トムセン)に不信感を募らせている。エリアスを苛めたリーダーをナイフで懲らしめたことがキッカケで2人は友達となる。
ある日公園で些細なことから子供の父親(キム・ボドゥニア)からイキナリ殴られたアントンは、子供たちに「バカな相手に報復することはバカな男のすることだ」と身をもって示そうとするがクリスチャンには納得がいかない。
アフリカの乾いた土と風の難民キャンプの風景とデンマークの緑と水の美しい情景が色鮮やかで別世界だがそこに住む人々の悩みの深さは同質だ。ビックマンと呼ばれる途方もない悪党に懲笑され思わず難民たちの報復を黙認したアントン。我が子には報復はエスカレートするばかりで歯止めが効かないことを諭す矛盾。負の連鎖を脱却できない社会を浮き彫りにして見せる。それでも親子のコミュニケーションの大切さと希望を持ち対処することの意味深さを訴えてくる。


『トレーニング デイ』 80点

2011-08-25 10:19:32 | (米国) 2000~09 

トレーニング デイ

2001年/アメリカ

2人の好演で見ごたえあるドラマになった

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

アフリカ系アメリカ人の正義を演じ続けたデンゼル・ワシントンが初めて悪役に徹した刑事ドラマ。演じたのはロス警察の麻薬取締課のベテラン刑事で警官から昇格した新人刑事との体験指導の1日を描いている。
新人の頃は正義漢が溢れていたベテラン刑事・アロンソはこの仕事をこなすには、あくどいことをしなければ成し遂げられないと新人刑事ジェイクを諭す。「オオカミを倒せるのはオオカミだけ」という自論を唱え、協力者でもあった麻薬王ロジャー(スコット・グレン)を殺害するが、ジェイクはだんだんアロンソへの不信感が募ってゆく。
ロスのストリートギャングには縄張りがあって取り締まるには毒を盛って制す姿が赤裸々に描かれるが、社会批判というより2人の人間ドラマという展開。それだけに2人の存在感がこの作品の最重要な焦点。D.ワシントンはこれでオスカー(主演男優賞)を獲っただけあって最初からハイテンションでその迫力は最後まで衰えない大熱演。日頃正義漢溢れる法律家や刑事を演じていた彼をこの役に設定しただけで成功は約束されていた。まるで道を誤らせた複雑な社会が悪なのでは?と一瞬勘違いさせるほど。
対するE.ホークはナイーブで頼りなさげだが、中盤からはなかなか芯の強いところを見せ、正義を全うしようとする。新人ならではの苦悩・葛藤を乗り越えD.ワシントンと堂々張り合っている。よくある設定で中だるみはあるものの2人の熱演で最後まで楽しめた。


『竜馬暗殺』 85点

2011-08-21 12:20:37 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

竜馬暗殺

1974年/日本

制作当時の世相を色濃く反映した青春時代劇

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

幕末の英雄・坂本竜馬が暗殺される3日間を切り取ったATG作品。制作のキッカケが黒田征太郎など新宿ゴールデン街の飲み仲間が企画したため、連合赤軍事件で世間から見放され革命を模索したセクト同士の勢力争い、内ゲバが絶えない70年代半ばと幕末を置き換えたような青春時代劇。
監督は奇才・黒木和雄で、先頃亡くなった原田芳雄の34歳時主演のゴールデンコンビ。何より驚いたのは製作費の低予算(800万)。17年前とはいえTVCMを作るのがやっとの額だ。
映画界が低迷して制作することすらできなかった<活動や>たちのエネルギーが溢れる作品で今観ても見応え充分。
司馬遼太郎の竜馬像を超えた斬新な解釈による清水邦夫・田辺泰志のシナリオ。粒子の粗いモノクロ・スタンダード映像による田村正毅の撮影、クラシックギターだけの哀感漂う松村禎三の音楽、大御所・野坂昭如の題字などそれぞれが採算抜きで結集した経緯が画面を通して覗える。
黒木監督は憧れの革命家・竜馬のイメージを台無しにしないならないようギリギリまで人間らしく描いて新時代を求め抗争と内紛が絶えない幕末の世相を見事に描いて見せてくれた。
主演した原田芳雄はギラギラとした女好きの人間らしさと飄々とした独自の魅力を振りまいて彼の代表作のひとつとなった。中岡慎太郎役で共演の石橋蓮司がいい。武闘派で竜馬と主張を異にしながら親友という微妙な立ち位置で、ときにはコミカルに演じる役柄は時代の渦に巻き込まれる青年像として印象に残る。もうひとり少年暗殺者・右太役に松田優作が出演しているが、巷間言われるほどの名演技はしていないように思えた。3人が女装して、ええじゃないかの騒ぎに紛れるシーンはこの作品のハイライトで見所でもある。
竜馬を暗殺した池田や事件の犯人は謎のままだが、この作品でも史実を踏まえ新解釈はない。その分ドキュメントのように丁寧な雰囲気が緊張感を呼び、畳に染みる血がモノクロならではのリアルさがあった。
<おりょう>も勝海舟も出てこないが、右太の姉で叶やに囲われた<はた>が竜馬の人間像を浮かび立たせている。<はた>を演じたのは中川梨絵。日活ロマンポルノの女優として名前はしっていたが、代役で出たというのに時代に翻弄されながら猥雑でしたたかな女を演じて主役級の大活躍だった。


『ハモンハモン』 75点

2011-08-14 13:39:23 | (欧州・アジア他)1980~99 

ハモンハモン

1992年/スペイン

6人の愛憎入り乱れる悲喜劇

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

いまスペインのトップ女優であるペネロペ・クルスのデビュー作で、昨年結婚したハビエル・バルデムとの初共演作品。監督は愛憎関係を濃厚に描きながら乾いたスペインの風土を映像化して独特の世界をつくるビガス・ルナ。
スペインの田舎にある大手下着メーカーに勤める娘シルビア(P・クルス)と御曹司ホセ・ルイス(ジョルディ・モリャ)は結婚を約束するが、マザコンのホセは母コンチータ(ステファリ・サンドレッリ)に反対され、煮え切らない。母は闘牛士を目指す若者ラウル(J・バルデム)を使って2人の仲を裂こうとするが...。
女手ひとつでシルビアを育てた母カルメン(アンナ・ガリエナ)、ホセの父マヌエル(ファン・ディエゴ)を含め、入り乱れる6人の愛憎関係は想像をはるかに超え、暴走気味で共感できる人物は皆無。開放的なラテン気質丸出しの性描写は隠微さは微塵もなく、エンディングの悲喜劇へ突入して行く。
10代だったP・クルスのしなやかで肉感的な魅力とJ・バルデムの肉食系男子ぶりが堪能できる貴重な作品となった。日本とは違う親子の緊密な関係が伺え、トルティーヤ・ハム・にんにく・赤ワインがドラマを盛り上げていたのは、いかにもスペイン映画らしい。


『ツリー・オブ・ライフ』 75点

2011-08-13 16:39:33 | (米国) 2010~15

ツリー・オブ・ライフ

2011年/アメリカ

自然の摂理と人間の本質を哲学した映像美

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

自然と人間を映像美で探究した伝説の監督テレンス・マリックの5作目。カンヌ映画祭でR・デニーロが絶賛したパルムドール賞(最優秀作品)受賞作品で、ブラッド・ピット、ショーン・ペンの2大スター共演とくれば、期待せずにはいられない。
大学で哲学を教えていたマリックは、50年代テキサスのオブライエン一家の物語を借りながら宇宙の誕生・生命の起源を映像化して自然の摂理と人間の本質に迫ってくる。
冒頭オブライエン夫人(ジェシカ・チャスティン)が一通の電報を受け19歳の息子の死を知り、嘆き悲しみ夫(ブラット・ピット)へ電話するプロローグ。それから近代的な高層ビルを背景に想いを巡らせるショーン・ペンの姿へ。彼は40年後のオブライエン家の長男ジャックらしい。彼の回想は一家の幼少時代へ移るが、画面は受け継がれる命の連鎖を模索しながら宇宙や生命の起源を映像化してゆく。その映像はナショナル・ジオグラフィックのカメラマンが世界中の自然現象を撮ったものと最新のSFXを駆使した恐竜など、監督の哲学を映像化することに心血を注いだ贅沢さがうかがえる。オブライエン一家の父と息子が葛藤する物語を想像していた観客(筆者)を唖然とさせたその間30分。まるで<ディスカバリーCH>を大画面で観るようだ。
50年代のアメリカは理想の家庭像が明確にあったとき。父は強く一家を支え母は子供を優しく包み、子供たちは礼儀正しくのびのびと育つ。そんな理想を抱えながら実像は世俗にまみれ成功から脱落してゆく父。信仰に厚く神の恩寵を受けることで全てを受け入れる母。長男のジャックは父親似。母親似で音楽家を夢見た父とギター演奏する弟は可愛いが嫉妬の対象でもある。スメタナの<交響曲 我が祖国「モルダウ」>をバックに家の周りを遊ぶ3兄弟が幸せの絶頂だったのだ。
そんな一家の叙事詩をもっともらしく書いてみたがマリック監督は頭で理解させるのではなく映像・音楽・詩のような台詞を駆使して観客の心に訴えることを狙っているようだ。筆者にとって苦手な聖書の世界がフンダンに溢れている展開は正直ついてゆけなかった。
前の席で観終わった老人が「訳わが分からん。ああー疲れた」といったほど好き嫌いがハッキリしそう。カンヌで拍手喝さいとブーイングが交錯したのも頷ける。


『ワンダフルライフ』 80点

2011-08-11 16:53:41 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

ワンダフルライフ

1999年/日本

ファンタジーとドキュメンタリーの融合に挑む

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「幻の光」で数々の賞を受賞して注目を浴びた是枝裕和の2作目。
「あなたの人生のなかから大切な思い出をひとつだけ選んで下さい」と500人ほどインタビューするという手法でシナリオがカタチとなったという。TVのドキュメンタリー・若手ディレクター出身の彼らしく、俳優と素人を混在させ台詞と本音トークをミックス。不思議な世界を創りファンタジーとドキュメンタリーの融合に挑んだ意欲作。
東京・京橋の小さな試写室で観て以来12年振りの再見だが、ユニークな発想のドラマだというあの時の新鮮な印象とは違いよりドラマ的な視点の感想を抱いた。それは自分が渡辺(内藤武敏)に近い人生を送り平凡な老後を迎えようとしていて、自分だったらどんなシーンを想像するだろうと連想する気持ちが失せているからかもしれない。主人公の望月(ARATA)を始めとする天国へ送りだす手助けをする職員になったままヒトの人生を傍観することになりそう。
出演者は谷啓、由利徹、香川京子、内藤武敏、白川和子、原ひさ子などのほか当時無名だった俳優が多数出演している。寺島進、内藤剛志、伊勢谷友介、木村多江などいまドラマでは欠かせない役者たちだ。
望月としおり(小田エリカ)の切ない恋物語になりそうなストーリーをこういうすっきりした後味のドラマに仕上げた是枝監督。彼の作品では「空気人形」が好みだが、ジャンルを超えてさまざまな作品に挑んで「誰も知らない」以上のさらなる飛躍を期待したい。


『黄金の七人』 70点

2011-08-05 10:35:53 | 外国映画 1960~79

黄金の七人

1965年/イタリア

けっこう最後まで楽しめた

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★☆☆70点

音楽 ★★★★☆75点

名車・コスプレ美女・ハイテク機器・銀行強盗と今ならアニメに格好な材料をフンダンに盛り込んだマルコ・ヴィカリオ製作・監督・脚本によるイタリア映画。わざわざクレジットでフィクションだと断るまでもない奇想天外な犯罪ものだが、その手法と展開は意外とリアル?で、見ているうちにハラハラどきどきで結構楽しめた。
フィリップ・ルロワ扮する<教授>と呼ばれる銀行強盗がヨーロッパ中から集めたスペシャリスト6人を使ってスイス銀行の金塊を白昼盗み出すという物語り。アルマンド・トロヴァヨーリのスキャットに乗りロールスロイスでホテルに到着した教授と謎の美女。そのコスチュームを見ただけで目を奪われる。当時ハイテクで厳重に守られた銀行の大金庫をどうやって破ったかは、のちのこの手のドラマでマネされている。
謎の美女ロッサナ・ポデスタが随所でキイとなって教授との名コンビぶりを発揮。二転三転ののちハッピー・エンドになるかで最後まで引っ張ってくれる。


『若者のすべて』 80点

2011-08-04 12:38:55 | 外国映画 1960~79

若者のすべて

1960年/イタリア

ヴィスコンティが最も愛したネオ・リアリズモの集大成

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

40年代イタリアでロッセリーニ、デ・シーカなどと並ぶネオ・リアリズモの代表的監督ルキノ・ヴィスコンティ。その集大成ともいわれる3時間弱の大作で彼が最も愛した作品といわれている。
今も名残りはあるが、50年代のイタリアは南北の地域格差が著しく、問題は深刻だった。南部のパジリーカ州から北の大都会・ミラノへ来たパロンディ一家。母と4人の息子たちはミラノ中央駅で長男が迎えに来ず不安げに佇んでいた。ジュゼッペ・ロトゥンノによる冒頭のモノクロ映像とニーノ・ロータの音楽が、大都会に翻弄されそうな一家を暗示するようだ。原題「ロッコと彼の兄弟たち」が示すとおり、3男ロッコと4兄弟特に次男シモーネ、愛人ナディアを巡る愛と葛藤を中心に家族の絆が揺らいで行くさまを克明に描いている。
都会の生活になじんで婚約者もいる長男は、旧来の田舎のように一家揃って暮らす生活はとても無理。母親の愛は4人の息子に注がれ、それだけに過干渉気味。次男シモーネはボクシングで一家を支えるが、娼婦ナディアを見染めすっかり都会の誘惑に負けてしまった。それでもかばい続けた盲目的な母親の愛はナディアへの憎悪に向けられる。
3男ロッコは聖人君子のように何でも受け入れるタイプ。好きでもないボクシングをやり、いちどは好きになったナディアもシモーネに譲ってしまう。犠牲を強いられたようでそれは欺瞞以外のなにものでもない。「太陽がいっぱい」で這い上がる若者の危うさを好演したA・ドロンの美青年ぶりがヒトキワ目立ち、尚更現実離れしていて4男のチーロに、「寛大で何でも許すが、現実の生活では生きてゆけない」といわせてしまう。ナディアとの別れの場所が大聖堂の屋上なのも一瞬メロドラマかと思わせるほど情感たっぷりな舞台なのに台詞の中身は何とも間逆なのが切ない。
気の毒なのは好きでもないシモーネを押しつけられたナディア。好きなロッコの眼の前で強姦され哀れな終焉が待っている。はすっぱで気まぐれ、幸せを願う想いは人一倍強い女をアニー・ジラルドは自在に演じてもっとも目立つ存在だ。シモーネを演じたレナート・サルバトーリと結婚し今年79歳で亡くなったが思い出深い女優だった。
ヴィスコンティ監督は5人の兄弟、ひとりひとりにタイトルをつけ、そのひととなりを丁寧に描いているため脚本も5人の共同作業となった。貴族出身のオペラ演出家である監督は、貧困層の過酷な現実にはかけ離れた存在でリアリズムには限界があったに違いない。そのため一家を通して普遍的なテーマ<人間の性や愛と欲望が交差する家族の絆>が壊れてゆくさまと再生への希望を描いたのだろう。


『危険なささやき』 75点

2011-08-03 09:31:53 | (欧州・アジア他)1980~99 

危険なささやき

1981年/フランス

A・ドロン初監督によるハードボイルド

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

アラン・ドロンが自身のプロダクションで初の監督・主演したハードボイルドアクション。
元刑事でバイクを乗り回し、コルト45の早打ちの独身私立探偵を気持ちよさそうに演じている。ある盲目の少女失踪事件調査を依頼されたシュカス。捜査開始間もなく依頼人の母親が銃殺され、自身も危機にさらされる。捜査するうち背後に麻薬組織があることを突き止める。
あらすじはシリアスだが、A・ドロンの演出はどこか軽快な恋愛ドラマの風情が漂う。恋のお相手は夫持ちの秘書シャルロット(アンヌ・パリロー)で、べたべたしない関係。それでも困ったトキは助け合う2人。元刑事仲間や犯人グループが交錯して名前が混同してしまいそうだが、派手なカーチェイスやアクションを交えヒーローを演じるA・ドロンだけを観ていれば取り残されることはない。相変わらずジーンズにシャツのうえにさり気なく羽織ったジャケット姿がかっこいい。
相手役を演じたA・パリローはのちに「ニキータ」で大ブレークするがその前はA・ドロンの秘蔵っ子と言われた新進女優。大胆な脱ぎっぷりもありファンにはお宝映像だ。
元警視で相棒のミシェル・オークレールが軽くなりがちなドラマの重石的存在となっている。


『北北西に進路を取れ』 80点

2011-08-02 11:52:45 | 外国映画 1946~59




北北西に進路を取れ


1959年/アメリカ






エンターテインメントのテンコ盛り





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
85点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





A・ヒッチコック監督の<巻き込まれ型サスペンス>。唯一のMGM作品だけにフンダンにサービス・ショットがあり、エンターテインメントのテンコ盛り状態。アーネスト・リーマンのオリジナル脚本が上手く出来ていて140分の長さもあっという間。
ジョージ・キャプランと人違いされた広告代理業の男が、命を狙われ孤軍奮闘。随所に見られるユーモア、ロマンスが場所を変えテンポ良く次々登場して観客をハラハラさせてくれる。
「午前10時の映画祭」の予告編にも登場する主人公ロジャー(ケーリー・グラント)がトウモロコシ畑で複葉機に襲撃される名シーンは前半のハイライトで申し分ない。訳も分からず拉致され酒を飲まされ車を運転させられたり、国連本部で会った男の殺人容疑者にされながら謎の女イヴ(エヴァ・マリー・セイント)に豪華列車で助けられたり息つく暇もない展開のあげくだから、一層何もないバス停でこれからどうなるのだろうと思わせるところが何ともいいタイミングだ。
後半ロジャーとイヴのロマンスへウェイトが移ってから快調さが失せてしまってヒッチがやりたかったラッシュモア山でのアクションはサービス過剰気味。有名なエンディングに至ってはとてもお洒落だと絶賛する人も多いが「考え落ち」すぎて取り残された気分。
主演はJ・スチュアートから売り込みがあったがヒッチは年を取りすぎているからと断ったらしい。実際はC・グラントのほうが年上だが、55歳ながらマザコンのプレイ・ボーイを頑張ってこなし、「泥棒成金」を上回る好演だった。母親役のジェシー・ロイズ・ランディスが年下で最初は妻だと勘違いしたほどアンバラスなのが気になった。ヒロインE・M・セイントは監督が好きな金髪美女といえるが、個人的には魅力を感じなかった。これは好みの問題。
ソール・バスのタイトル、国連ビルの無許可撮影、ラッシュモア山のセットなどスタッフの苦労をものともせず職人ぶりを発揮したヒッチコックのワンマンぶりが目に浮かぶ。