晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「断崖」(41・米)75点

2021-06-26 12:14:54 | 外国映画 1945以前 


 ・ C・グラントのはまり役がドラマを牽引したヒッチのサスペンス。


 フランシス・マイルズの小説「レディに捧げる殺人物語」をアルフレッド・ヒッチコック監督で映画化。正体不明だが魅力的な男と結婚した大富豪の娘リナの視点で描かれたサスペンス・ミステリー。原題は「SUSPICION」。ヒロインを演じたジョーン・フォンティーンがオスカー主演女優賞を獲得。

 両親からオールドミスと思われているのに反発してプレイボーイのジョニー(ケーリー・グラント)とヨーロッパへ駆け落ちしたリナ(J・フォーンティーン)。英国へ帰国して新居を構えるが、身辺に異変が起きるごとに夫が遺産目当てで自分を殺そうとしているのでは?と疑い始める・・・。

 美女イジメ?に定評があるヒッチコックがJ・フォーンティーンを「レベッカ」(40)に引き続き恐怖感に苛まれた人妻役で起用した。世間知らずの真面目なお嬢様が軽薄で胡散臭さを持ちながらその男の魅力に引きずられてしまう危うさを、テンポ良く重ねて行く緊迫感はヒッチお得意のパターン。

 その最大の功労者はC・グラントだ。正体不明の怪しさと、如何にも二枚目プレイボーイの風貌はまさにはまり役。当初ジェームズ・スチュアートが熱望したが年を取り過ぎているという理由で拒否しC・グラントが演じることとなったという。調べてみると実年齢はC・グラントのほうが年上だった。怪しいイメージのある彼をキャスティングしたに違いない。

 ジョニーが毒薬の入っていそうなミルクをお盆に乗せ階段を上る名シーンは本編のハイライト。100分足らずのミステリー・ドラマだが、二時間ドラマのお手本になりそうなラストシーンも含め大いに楽しめた。

 

 

「わが谷は緑なりき」(41・米)85点

2021-06-04 12:32:48 | 外国映画 1945以前 


 ・ 詩情豊かなJ・フォード演出によるヒューマンドラマ。


 19世紀末、英国ウェールズ地方の炭鉱の町で暮らしているモーガン一家を末っ子ヒューの視点で描いたリチャード・リュウエリンの小説を、ジョン・フォード監督で映画化した人間ドラマ。作品・監督賞などオスカー5部門を受賞している。
 50年前の貧しくも家族愛に包まれた一家の暮らしを通して、時代から置き去りにされた故郷への愛おしい想いが綴られている。
 当初、名プロデューサーのザナックは「風と共に去りぬ」(39)のようなカラー超大作をと意気込んでウィリアム・ワイラー監督を起用してウェールズ・ロケを企画した。しかし脚本が遅れ戦渦の影響でロケができず紆余曲折の末、J・フォード監督によるモノクロ118分映画となってしまった。その結果炭鉱の町はカリフォルニアに巨大なセットが建てられ、アーサー・ミラーの映像はモノクロなのに鮮やかな緑の谷が目に浮かんでくる情景として再現され、災い転じて福となっている。

 本作を始め<炭鉱の町を舞台にした作品に外れなし>といっても差し支えないほど古今東西印象的な作品が多い。英国では「ブラス!」(96)、「フルモンティ」(97)、「リトルダンサー」(00)、「パレードへようこそ」(14)、アメリカでは「スタンド・アップ」(05)、我が国では「幸せの黄色いハンカチ」(77)、「フラガール」(06)など枚挙に暇がない。
 中年になった主人公が故郷での子供の頃の思い出を愛おしむという構成では「ニュー・シネマ・パラダイス」(88)も連想させる。

 監督のJ・フォードにとって「駅馬車」(39)、「怒りの葡萄」(40)で叶わなかった作品・監督の同時受賞による<三度目の正直>を果たし、最高の気分を味わった記念作品でもあった。

 主演したロディ・マクドウォールは、12歳にして20作以上映画出演した名子役だが本作が生涯の代表作となった。成人後は「猿の惑星」(68)以外思い浮かばない。
 
 スト・組合結成、長男の結婚・事故死、娘の牧師との恋・炭鉱主の御曹司との結婚、息子たちの離散などを挟みながら、ヒューの怪我、名門学校入学・いじめ、主席卒業後炭鉱夫となる決意などのシークエンスが描かれていく。一家の大黒柱で律儀な炭鉱夫の父モーガン(ドナルド・クリスプ)、気丈で家族思いの母(サラ・オールグッド)、6人の息子たちと優しい姉アンバート(モーリン・オハラ)の暮らしは、理不尽な社会に翻弄されながらも健気に生きて行くさまが描かれて涙を誘う。

 幼い頃の思い出はどんなに悲惨なことがあってもセピア色の甘酸っぱい記憶として心に残っているもの。不朽の名作といって良い。