・ 最後の砦?小泉堯史監督の様式美溢れる時代劇
直木賞受賞の葉室麟原作の静謐な時代劇を、小泉堯史監督が古田球と共同脚色した本格的時代劇。
前作「明日への遺言」(08)以来のメガホンで、時代劇は「雨あがる」(00)から14年経過している。
豊後・羽根藩の右筆・壇野庄三郎(岡田准一)は些細なことから殿中で刃傷沙汰を起こし、家老・中根兵右衛門(串田和美)の温情で切腹を免れる。
替わりに、7年前事件で切腹を命じられ、10年間の猶予で家譜(藩の歴史)の編纂のため山里に幽閉されている戸田秋谷(役所広司)の監視役を命ぜられた。
事件とは、大殿・三浦兼通の側室・お由の方(寺島しのぶ)との不義密通というもの。なのに穏やかに日々を家譜の編纂と畑仕事に勤しみ、妻・織江(原田美枝子)や娘・薫(堀北真希)も慎ましく暮らしている。
物語は秋谷と庄三郎の師弟愛を軸に庄三郎と薫の純愛、秋谷と織江の夫婦愛を織り交ぜながら真相に迫って行く。
決して大仰な描写はなくても、生き方に熱い想いを抱かせてくれる。こういう時代劇は映画化がかなり難しいが、じっくりと時間を掛けて準備した節が窺えて好感が持てる作りだ。
秋谷のような完全無欠な人物は物語でしかありえないが、役所広司という俳優が演じると不自然さを感じないのが不思議。
事件を追っていくうち、お由の方がお家騒動に巻き込まれ幼な馴染みだった秋谷がお家を守るため罪を背負ったという理不尽な真相が判明して行く。
山里での四季の移り変わりを丁寧に捉え、武士が仕えるとはこういうことかと納得させられてしまうが、現代社会では納得の行くものではないことは明白。
年貢を取り立てる理不尽な奉行や武士に取り入る悪徳商人も登場し、農民が犠牲になるが何故か悲惨な光景に映らないのは何故だろう?
敵役である家老中根兵右衛門がお家のために行ったという免罪符があって、勧善懲悪ものになっていないためだろう。
本作は時代劇が持つ勧善懲悪が不明瞭なためにドラマが成立しているのだ。
それだけに役所を始め若手で時代劇の資質を持つ岡田や黒澤時代劇で揉まれた原田美枝子・井川比佐志、歌舞伎の血筋を受け継いでキメ細かな情感を醸し出す寺島しのぶの演技が支えている。
堀北も時代劇の所作を習得しこれからが期待できる女優となったが、結婚で銀幕復帰はしばらく待たなければならないのは惜しい。
益々時代劇の映画化が難しくなった今、次回作はどんな作品になるのだろうか?待ち遠しい。