晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ザ・エージェント」(96・米) 75点

2013-07-30 11:42:16 | (米国) 1980~99 

 ・R・ゼルウィガーの出世作で、C・クロウ、T・クルーズの代表作?

   

 アメリカの4大スポーツを始めとするスポーツ・ビジネスを陰で支える存在のスポーツ・エージェントに注目して、3年掛かりで取材して書き上げた脚本を自ら監督したキャメロン・クロウの王道を行くサクセス・ストーリー。その実態に迫るシリアスなモノではなく、理想に燃えたエージェントが挫折しながら本当に大切なこと(選手への愛と信頼)を知って行くハートフルな造りで、主人公のラブ・ストーリーが絡んで行く。

 主演のジェリー・マグワイアに扮したのはトム・クルーズ。SMIの中でもピカイチのエージェントで72人のマネジメントを取り仕切っていた。NHLのスターが怪我で入院、家族の前で復帰を励ます姿は息子には守銭奴にしか見えなかったらしく、「人殺し!」のひと言にショックを受ける。
 高額な報酬のみを追求する会社に疑問を抱き提言するが、あっさりとクビになってしまい恋人エイヴリー(ケリー・プレストン)から負け犬呼ばわりされる始末。

 提言書に共感したのはシングルマザーの会計士ドロシー(レニー・ゼルウィガー)のみ。それも一目惚れのほうが優先している。72人中契約が継続できたのはNHLのロッド・ティッドウェル(キューバ・グッテンJr.)のみ。カレッジ・フットボールの大スター、フランク・クーシュマン(ジェリー・オコンネル)との契約も元年下の同僚ボブ・シュガー(ジェイ・モア)に浚われてしまう。

 スポーツ・エージェントの元祖ディッキー・フォックスがトキドキ登場して発言するとおり、<この仕事の原点は、選手との人間関係だ><愛がなければ売り込みは成功しない><心が空っぽなら頭は無価値>に沿って、たった一人のロッドとの信頼関係をもとに孤軍奮闘するジェリー。

 一見単純なテーマ設定を家族愛や友情を絡め心温まるラブ・ストーリーへ昇華させてゆくC・クロウの手腕が見事に実を結んだ作品。オスカー作品・脚本・主演男優・助演男優・編集の5部門にノミネートされている。自信過剰で傲慢なフットボーラーだが、家族想いでしかも友情に厚いロッドを演じたC・グッテンJr.が助演男優賞を獲得した。

 元ローリングストーン誌の記者でビリー・ワイルダーを敬愛するC・クロウは音楽の使い方も長けているし、脇を固める人物描写も丁寧で彼の代表作といえる。そして数々のヒット作で主演してきたT・クルーズにとっても代表作のひとつだろう。

 ヒロイン・ドロシーを演じたR・ゼルウィガーの出世作でもある。ぽっちゃりした唇と可哀そうな泣き顔がトレードマークで、健気な苦労人を好演した本作を機にスターダムへ上って行く。

 138分の長さを感じさせない熱い映画だった。

   

「居酒屋兆治」(83・日) 75点

2013-07-28 17:23:44 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

 ・大原麗子を偲ぶのに最適な作品。

   

 山口瞳原作による小さな居酒屋「兆治」を営む男と店の常連客が繰り広げる人間模様を、函館に舞台を移して「駅/STAITION」(81)に続く降旗康男監督・高倉健主演で映画化。

 健さんの代名詞、<不器用で無口だが他人への思い遣りがある男>はこの主人公を演じる頃から定評化されたと思われる。舞台設定を東京近郊から函館・札幌へ移すこと以外は原作に忠実なストーリーはとてもクラシックな物語で、時代が20年ぐらいズレているような雰囲気。

 藤野栄治(高倉健)は高校時代は投手として将来嘱望されていたが肩を壊して断念、地元の造船会社に勤める。上司から総務課長に抜擢の内命を受けたが、<リストラ>がメインの仕事と知って退職。焼き鳥屋で働いて倉庫街の一角に小さな店を持った経緯がある。

 糟糠の妻・茂子(加藤登紀子)は愚痴も言わず店を切り盛りしてくれて常連客で賑わっている。幼なじみの岩下(田中邦衛)とはバッテリーを組んだ仲で親友、先輩の河原(伊丹十三)は酒癖が悪く何かとケチをつける厄介者、市役所の職員・佐野(細野晴臣)保険会社の堀江(池部良)、タクシー運転手秋本(小松政夫)や会社の元同僚などがストレス解消で立ち寄ってくる。

 栄治が気掛かりなことは20年前青年会で知り合って恋人同士で牧場主に嫁いだ神谷さよ(大原麗子)のこと。栄治は<さよの幸せのために身を退いた>のだが、2人の子供がいながら、さよは忘れられずにいる。腹いせに若い男と駈け落ちした過去を持つ。火事で全焼したあと行方不明となっている。

 庶民のささやかな憩いの場にもドラマがあって、井上は小さな造船会社の2代目だが受注もなくカラオケ狂いで倒産の危機だし、子沢山な秋本は妻を亡くし金属バットを抱いて寝る。それを揶揄した河原に何を言われても忍に一字だった栄治が諫めたため、無抵抗なまま殴られてしまう。ついに堪忍袋の緒が切れた栄治が腹に一発見舞うと警察沙汰に・・・。

 不器用で女性に本心を巧く伝えることができない栄治と一途にその男に恋焦がれ望まない結婚から逃れるため歓楽街に身を投じる<さよ>。2人のすれ違いを軸に常連客のエピソードが繰り広げられて行く。

 今改めて観ると豪華な出演者でバラエティに富んで多士済々。加藤登紀子を妻に据え、向かいの小料理屋の女将に、ちあきなおみ。客に武田鉄矢など歌手を始め、大滝秀治・石野眞子という年の離れた夫婦、焼き鳥屋の東野英治郎など多士済々。インテリ役のイメージがある伊丹十三を敵役に使うなどキャスティングも新鮮だった。
 
 何といってもヒロイン大原麗子の存在が忘れ難い。女優としては代表作に恵まれないが、サントリーのイメージ・キャラクターとして男性ファンをトリコにした待つ女で一世を風靡し、私生活では2度の結婚も上手く行かず、晩年は病と闘い62歳で孤独死したのが話題となった。この役がとても気に入っていたという。当時37歳で薄幸の女を素で演じていた。高倉健が命日に墓参りをして長々と話しかけていたという、このドラマとオーバーラップする逸話もある。

 本作の準備中に黒澤明監督に「乱」の出演オファーがあった健さん。降旗監督との約束を優先して、直々に出演を断ったというほど義理堅い。井川比佐志が演じた鉄修理役は健さんのイメージでできたことを知ると、俳優として歩む道が違っていたのかもしれない。「駅/STAITION」(81)から最新作「あなたへ」(12)まで30年も続いている降旗監督との男同士の絆は、まるで本作の栄治と岩下のようでもある。

 

 

「夜叉」(85・米) 80点

2013-07-27 17:46:16 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

 ・男の哀愁を漂わせる健さんの魅力満載。



 「駅・SUTATION」(81)、「居酒屋兆治」(83)に続く降旗康男監督・高倉健主演・木村大作撮影トリオによる男の哀愁漂う物語。

 若狭の漁村で静かに暮らしている修治(高倉健)には、若いころ大阪・ミナミで<夜叉の修治>と名を売っていたという秘密があった。知っているのは妻の冬子(いしだあゆみ)とその母(音羽信子)だけで、仲の良い啓太(田中邦衛)すら知らなかった。

 突然現れた飲み屋の女将蛍子(田中裕子)にも無関心を装うが、ヒモの矢島(ビートたけし)が後を追ってきて事件を起こし、巻き込まれてしまう。

 身体に沁み付いたヤクザの名残りを漂わせながら、地道な生活と葛藤する役は高倉健にとって、まさにはまり役。ヒロイン田中裕子の薄幸な色気漂う演技も適役で、年齢差は気にならない。2人の名場面は冬の若狭の風景に溶け込んだ<赤い衣装>が鮮やかで印象的。

 ビートたけしは、どうしようもないチンピラ役を殆ど地ではないかと思わせるほどの好演。のちの「世界のたけし」の原点を垣間見る想い。

 佐藤允彦の音楽、トゥーツ・シールマンスのハーモニカも一層効果を盛り上げている。

「愛と哀しみの果て」(85・米) 80点

2013-07-26 07:55:23 | (米国) 1980~99 
 ・アフリカの雄大な景観で繰り広げられる、波乱万丈ドラマ。

  

 20世紀初頭、デンマークの裕福な家庭で育った女性が、結婚のためケニアに渡った波乱万丈の17年間を描いた回想記。この年のオスカー作品・監督(シドニー・ポラック)・撮影(デヴィッド・ワトキン)など主要7部門を獲得している。

 主人公カレン・ブリクセンにはメリル・ストリープ。アフリカの自由と孤独を愛するハンター、デニス・ハットンにロバート・レッドフォードという大スターの共演。ふたりの愛の葛藤が展開され邦題に女性観客狙いのタイトルがついているが、原題は「Out Of Africa」。
 
 偉大な資源のあるアフリカをドイツと英国を始めとする列強国が植民地化していた時代。男爵夫人として優雅な暮らしを持ちこんだカレンは夫プロア(クラウス・マリア・ブランダウアー)との諍い、農園でのコーヒー栽培、300キロ先の英軍への食糧運び、梅毒を夫から移され母国での手術、農園での火災など、苦難の連続で培った<人間として愛するヒトの大切さ>を知る。

 カレンと執事ファラ(マリク・ボーウェンス)との絆は共感を呼ぶ。アフリカの大地や現地人に接するうちに逞しい女性から優しい女性になって行く様がとても魅力的だ。全てを失うことでアフリカに英国風上流文化が無意味に感じたことだろう。カレンが最も愛したデニスも、アフリカに同化した金髪のライオンのよう。2人はお互いを認めながら、相容れない人生の価値観があった。

 161分の壮大なアフリカのドラマは、美しい景観とともに繰り広げられ、幾分冗長さはあるものの、ジョン・バリーの美しい音楽とともにアフリカを旅した気分にさせてくれる、贅沢な時間を過ごすことができた。

「アンコール!!」(12・英) 70点

2013-07-25 15:38:25 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・愛すべき老夫婦の死別を描きながら清々しさが印象的。

     

 テレンス・スタッフはイギリスの名優だが、どちらかといとハードボイルドな役柄で鳴らし、悪役のイメージもある俳優。その彼が気難しい頑固老人を演じながら、愛すべき人物像を漂わせるハーウォーミングな主人公を演じている。

 妻を演じているのがオスカー女優のヴァネッサ・レッドグレイヴ。若いころから気品のあるイギリス女性を演じてきたが、暗い役柄が多かった。近作では「ジュリエットからの手紙」(10)のような一途な女性を演じていて、ここでも死を目前に健気に生きる女性に扮している。

 近年、<老人と音楽>を素材にした映画が多く見られ、「愛、アムール」(12)、「カルテット!人生のオペラハウス」(12)と話題作が多い。ここでの音楽はクラシックで如何にも高尚なイメージだが、本作はとても庶民的。むしろドキュメント映画「ヤング@ハート」(07)のドラマ版に近いイメージ。

 この2人の名優が演じていなければ、ストーリーも予定調和のハッピー・エンドが読める平板なドラマとなっていたことだろう。

 マリオン(V・レッドグレイヴ)にガンが再発、余命を楽しむため化学療法をしないことを決意。彼女の生き甲斐は老人たちのロックやラップの合唱団(年金ズ)で歌うこと。折りしもコンクールの予選会に向けて練習に熱が入っていたころだった。

 夫アーサー(T・スタッフ)は体調が悪化するのを心配しながら付添い送り迎えをするが、決して合唱に加わることはなかった。若いころは夫婦が同じことをしながら楽しんでいたのに、年を取るに従って夫婦は趣味趣向が合わなくなって行く。どこにでもいる普通の夫婦だ。

 ただこの夫婦愛は固い絆で結ばれていて相思相愛なのだ。その寄り添いぶりは傍から観ていて現実にはありえないほど理想的。この辺は「愛アムール」の夫婦のようなシビアな描き方と対照的で、本作の評価の分かれるところ。映画なのでシビアな世界は見たくないというヒトにはうってつけ。

 中盤マリオンが歌う「トゥルー・カラーズ」と終盤アーサーが歌う「眠りつく君へ」というラブ・ソングが観客の涙を誘う。原題は、ずばり「SONG OF MARION」。筆者はユーモアたっぷりなシーンに笑いを誘われたが、周辺の女性客からはすすり泣く声が聴こえた。

 キュートな音楽教師エリザベス役のジェマ・アータートンはボンド・ガールのイメージとは180度違う役柄を好演。恋人にフラレ深夜泣きながらアーサーの家へあらわれるシークエンスにとても好感を持った。

 孫娘は可愛がるのに息子ジェームズ(クリストファー・エクレストン)と波長が合わないアーサー。寡黙なとっつきにくい性格は父と息子に和解のキッカケがつかめないままなのも気掛かりだったが・・・。

 予選会を通過しながら本戦会場で規格外なため出場停止を受ける、「年金ズ」のメンバー。そんななかでアーサーが本来の性格を発揮して愛する人のために力ずくの行動に出る。脚本に無理があるがこれは<コンクールもの>の定番で、日本でも「スウィング・ガールズ」(04)などにも見られるので大目に見ることにしよう。

 老後や余命幾ばくもない人生をどのように過ごすのか?というテーマをこういうタッチで描いたポール・アンドリュー・ウィリアムズ監督にエールを送りたい。

 
 

「真空地帯」(52・日) 80点

2013-07-24 06:35:11 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

  ・戦時中の陸軍内務班をリアルに再現した反戦映画。

   

  左翼運動歴のため大阪刑務所入り経験がある野間宏の原作を、山形雄作が脚色・山本薩夫が監督したエネルギッシュな反戦映画。

 敗色が色濃い昭和19年1月の大阪陸軍内務班。そこには新任の峯中隊長(神田隆)が赴任してきたが、、人事を扱う立澤准尉(三島雅夫)が取り仕切っていた。古参の3年兵は野戦への派遣を最も恐れ、大住軍曹(西村晃)地野上等兵(佐野淺夫)は上官へのごますりに躍起となる。のちの黄門様でお馴染みの両雄が演じているのも皮肉な現象だ。

 戦地派遣への教育訓練の場である内務班の兵は、生まれも育ちも様々だが兵歴が全てを支配する。そこへ配属されてきたのが4年兵で訳ありの木谷一等兵(木村功)。陸軍刑務所で2年服役した貧しい農家育ちのアウトローだが、利権争いに巻き込まれた犠牲者。

 戦後7年しかたっていないこの時期に映画化しただけあって、軍隊組織でのリンチや理不尽な制裁や、尉官や下士官の物資の横流しなど末端の腐敗ぶりをリアルに描いている。軍隊経験のある出演者たちの演技が迫力満点で、集団ビンタのシーンは経験者ならではで画面からその激しさが滲み出る。

 唯一の救いは事務要員で大学でのインテル曽田一等兵(下元勉)で、個人の想いと理不尽な組織のならわしとのバランスを取っている。初年兵に向かって「軍隊というところは人間性を奪うところです。」と諭す言葉が重く響く。

 終戦後70年経った現在、強烈な反戦映画という印象は薄いが、集団での陰湿で醜い権力争いは今でも共通するところだろう。そしてイジメは人間にとって永遠の深い溝である。

「裏窓」(54・米) 80点

2013-07-21 08:40:45 | 外国映画 1946~59

・ロマンチック・コメディでもあり舞台劇でもある傑作サスペンス。

 コーネル・ウールリッチの原作をもとに、ジョン・マイケル・ヘイズに大胆な脚色をさせたヒッチコックのサスペンス。何度観ても面白い。

 NYのダウンタウン、グリニッチ・ビレッジのアパートで、足を骨折したカメラマンが慰めとして窓越しに覗いた住人たち。作曲に悩む音楽家。テラスで寝る老夫婦。ミス・トルソという仇名の踊り子の卵。耳の遠い彫刻家。新婚カップル。ミス・ロンリーという仇名のオールド・ミス。なかでも興味を惹かれたのは、病床の妻と夫の大男。

 カメラがあたかも覗き見するジェフ(ジェームズ・スチュワート)の目線で、音声だけのパントマイムによって鮮やかに情景が伝わってくる。台詞なしで表現するヒッチコックの掴みの巧さに感心させられる。

 ジェフの恋人に扮したクール・ビューティ、グレース・ケリーが何とも素敵で美しい。良家のお嬢さまで溌剌としていて、一途な思い遣りのある理想の女性像である。ジェフが羨ましい限り。

 サポートするのがコメディ・リリーフとなる看護師ステラ(セルマ・リッター)で、子のトリオがサスペンスをバランスよく盛り上げている。

 サスペンスなのに、ジェフとリザのロマンティック・コメディでもあり、アパートの住人たちの舞台劇でもあり、ジェフとソーウォルド(レイモンド・バー)のアクションもついてくる盛り沢山な112分だった。

「氷点」(66・日) 80点

2013-07-20 07:53:24 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)
 ・無駄のない展開を楽しめる97分の人間ドラマ。



 三浦綾子の原作で、新聞連載終了直後TVドラマ化されて話題となった。ほぼ同時に水木洋子脚本・山本薩夫監督・若尾文子主演で映画化された。

 北海道を舞台に繰り広げられる医師家族の葛藤の物語で、モノクロ画面の雪景色がドラマを盛り上げる。原作はキリスト教でいう「原罪」がテーマだが、人間ドラマとして無駄のない展開を楽しめる97分。これだけコンパクトに纏めながら、しっかり起承転結があるのは水木洋子の手腕によるものだろう。社会派山本薩夫の職人振りも手堅い。

 主演の若尾文子はこのとき32歳。良家育ちの明るく働き者の奥様が、娘を失い悲しみ、代わりに養女を溺愛し、そして憎しみに変わる複雑な役を見事にこなしている。何よりしっとりとした美しさがある。
 夫の船越英二は町の名士で人格者を自負しながら、心の奥で妻の浮気を疑う。殆ど素の演技と思えるほどのさりげなさが上手い。
 ヒロイン安田(現・大楠)道代は、可愛いが健気さに欠けるきらいがあり残念だった。

 脇では兄の山本圭がイメージどおりのハマり役だった。さらに森光子のシャキシャキした演技が光っていて、津川雅彦の美男振りも今観るとお宝ものである。

 その後、日本および韓国・台湾で幾度となくリメイクされているが、この映画を超えるものは見当たらない。

「マーニー」(64・米) 75点

2013-07-19 08:05:59 | 外国映画 1960~79


 ・心理学を取り入れたヒッチコックのサスペンス・ドラマ。

 サスペンスの巨匠・ヒッチコックによる心理学をテーマにした本格的ドラマ。ウィンストン・グラハムの原作を、ジェイ・プレッソン・アレンが脚色した。

 赤い色と雷雨を異常に怖がり、無意識に盗みを続けるマーニー(ティッピー・ヘドレン)と、盗癖を承知で結婚し救おうとするマーク(ショーン・コネリー)の葛藤を描いている。

 ヒッチコックは「性的フェチズムに興味を惹かれた」という製作意図を語っているが、冒頭マーニーの後ろ姿にその意図が充分感じられる。おまけに黒髪だったマーニーが金髪になるなど、ヒッチの金髪フェチぶりは健在。「鳥」(63)で好演したT・ヘドリンも期待に応え、前半は好調なスタート。とくに誰もいないオフィスでの金庫破りのシーンは圧巻!マーニーと掃除婦をワンフレームで納め、見つかるのでは?という観客の視線を意識したカットは期待充分だった。

 ところが、冷淡な母バーニー(ルイーズ・ラサム)との不仲のわけでハナシを引っ張りながら、マークの献身的な愛が中心となり、そこまでやるかというほど不自然な流れについて行けなくなってしまった。そして、衝撃的事実もあまりにストレート。

 これがグレース・ケリーの復帰作として用意されたというので納得。このあたりがモデル出身T・ヘドレンの限界だろう。<007>から脱出したかったS・コネリーもあまり活きなかった。マーニーに嫉妬するリル役のダイアン・ベーカーも黒髪に染められ気の毒な役割となってしまった。

 お馴染みのスタッフ、ロバート・バークスの撮影、これが最後となったバーナード・ハーマンの音楽、イーデス・ヘッドの衣装も、らしさの片鱗は窺えるが纏まりに欠けてしまった。

 本作を機にサスペンスの巨匠としてのヒッチコック作品は下り坂となって行く。筆者のようなヒッチ・ファンにとって残念な映画として記憶に残っている。

「偽りの人生」(12・アルゼンチンなど) 70点

2013-07-18 10:44:39 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・V・モーテンセンの緻密な演技に惹きこまれる。


  

 3才から11才までアルゼンチンで過ごしたヴィゴ・モーテンセンがアルゼンチン映画に出演したサスペンス。監督・脚本のアナ・ビターバーグはこれが初監督。

 モーテンセンはブエノスアイレスに妻と暮らす医師・アグスティンと、北へ30キロ離れたデルタ地帯・ティグレで養蜂を営む双子の兄ペドロの二役を、流暢なスペイン語で演じ分けている。

 性格の違う2人は疎遠になっていたが、久しぶりに出会ったのはペドロがブエノスアイレスのアグスティンを訪ねてきたとき。アグスティンは仕事も8年間暮らした妻との生活も閉塞感を感じていた。ペドロは末期がんで、自分で死ぬ勇気がないのでアグスティンに殺してくれと頼みにきたのだ。喀血して苦しむ兄を見たアグスティンは発作的に殺害して、彼に成り済まして故郷ティグレへ戻る。

 死んだ人間に成り済まして違う人生を送ろうとする物語は幾つかあるが、筆者はリチャード・ギア、ジョディ・フォスター主演の「ジャック・サマースビー」(93)を思い出す。粗野で思いやりのない故人に代わってとても優しいジャックになった主人公を妻だけが別人だと見破り、彼を救うため殺人裁判事件で証言する物語。冒頭で飼い犬が懐かないのを故人の服で臭いを嗅がせるシーンが印象に残っている。

 本作も犬が出迎えるので思い出したのだろう。いくら一卵性双生児でも、所詮親しい人には別人であることは分かること。ペドロになろうとして、なれなかったアグスティンを演じたV・モーテンセンはペドロ・アグスティンとひとり3役を演じたことになる。
 ペドロは裏稼業で誘拐事件の片棒を担いで金を稼いでいた。犯罪に巻き込まれて行くに従い、何もかも無気力だったアグスティンが能動的となっていくのは、本当の自分を探していたからだろう。姿・形だけではなく、ちょっとした仕草や顔つきなどで性格を使い分けるなど緻密な演技は独壇場だ。

 とはいえ、彼の悩みについての描写は突っ込み不足で、自分勝手な男に映っていまひとつ観客の共感を得られない。ひとり三役?を演じたモーテンセンには気の毒ながら、周りのひとに何時バレルかが焦点のドラマとなってしまった。

 脇を固めたのは「瞳の奥の秘密」で好演したアグスティンの妻・クラウディアのソレダ・ビジャミル。本作でも聡明なキャリア・ウーマンぶりで夫を支えているだけに、真相を知ったときの衝撃は如何ばかりだろうか!同情を禁じ得ない。
 ほかでは、一途な田舎娘・ロサを演じた若手のソフィア・ガラ・カスティリオーネの上手さが目立った。

 曇天のデルタ地帯を小舟で行きかう貧しい村で育った兄弟の人生は、<やり直しがきかない人生>を改めて想わせる人間ドラマだ。