・ 長回しとSEでリアリティと緊張感を醸し出す、サスペンス風社会派ドラマ。
長編ドラマ・デビュー作でベネチア最優秀監督賞を受賞したグザヴィエ・ルグランのオリジナル作品。
離婚したベッソン元夫婦は11歳の息子ジュリアンの親権を巡り裁判で争っていた。
ジュリアンがあの男と呼ぶ父・アントワーヌは「父親として息子と面会の権利」を主張。
裁判官は母親ミリアムが失業中であり父親のDVは証拠不十分であることを理由にアントワーヌに隔週週末ごとにジュリアンとの面会の権利を与える。
離婚した夫婦とその家族関係を描きながら、張り詰めた緊張感がどんどん増して行く。
新鋭ルグラン監督は短編「すべてをを失う前に」(12)での夫婦を同じキャスティングで肉付けし、サスペンスを超える人間ドラマに仕立て上げている。
ダルデンヌ兄弟でお馴染みの長回しと、BGMを一切使用せず自然な音を効果的に入れ、リアリティと緊張感を持たせる手法で観客の想像力を誘って行く手腕はなかなかのもの。
物語は法廷ドラマで始まり、ホラー・サスペンスの趣で終わる想定外の方向へ。監督は「クレイマー・クレイマー」と「シャイニング」を参考にしたというが、シャイニング色が強すぎてテーマは回収されず終わった感もあった。
ミリアムを演じたレア・ドリュッケールはか細く、アントワーヌに扮したドゥニ・メノーシェはブルーカラーの韋丈夫で如何にもDV夫婦の雰囲気が姿形からも窺える。メノーシェは家族愛ある男から孤独なDVストーカー男への変貌ぶりが真に迫っていて、今後の役柄に影響しなければいいが・・・。
ジュリアンを演じたのはトーマス・ジオリアで実年齢は役柄より少し年長。父親への恐怖感と母親を守ろうと必死になる演技はトラウマにならないか?心配になるほど。
DVが原因で死亡する事件が多いフランスに一石を投じた作品だが、家族には司法も行政も立ち入ることができないという事実を今更ながら突きつけられた作品だった。