・ M・ストリープ、H・グラントの初コンビによるコメディタッチの感動作。
’44年、ソプラノ歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンスが開いた音楽の殿堂・カーネギーホールでのリサイタルは、未だにアーカイブ一番人気だという。
<史上最悪のオペラ歌手>に扮したのは大女優メリル・ストリープ。そのパートナーで献身的に支えるのは<ロマコメの帝王>ヒュー・グラント。
魅力的な初コンビによる伝説的なリサイタルを題材にしたこのドラマを、「クイーン」(07)、「あなたを抱きしめて」(14)、「疑惑のチャンピオン」(16)のスティーヴン・フリアーズが監督。
NY社交界のトップ マダム・フローレンスは、無類の音楽好きでオペラ歌手として舞台に立っている。無事終了後、どうやら持病があるらしく疲れが出てドクターの検診を受ける。
パートナーのシンクレアはベッドで詩を朗読して彼女を眠りにつけると、メイドがカツラを外しナイトキャップを被せる。彼女はスキンヘッドだった。
ベッドを離れたシンクレアは、愛人キャサリンのアパートへ戻って行く。英国貴族の庶子で俳優でもある年下のシンクレアは、財産目当てで近づいたのか?
オーディションで伴奏者に採用されたコズメ。あまりの音痴ぶりに戸惑い、笑いをこらえるのに必死。
メディアを買収し信奉者だけを集め、小さなサロンでリサイタルを重ねる不思議なトライアングルは、「裸の王様」のようなフローレンスへの哀れみが漂う。
やがてフローレンスの病気が18歳で夫にうつされた梅毒と判明。副作用でピアニストを断念し、音感の狂いもその要因であることが分かってくると、彼女の音楽に対する情熱が道楽ではなく生き甲斐で、そのピュアさに哀れみから共感へと変わって行く。
「マンマ・ミーア」などその実力に折り紙付きのM・ストリープは、<おおスザンナ><夜の女王のアリア>を正しく歌う練習を重ねてから外す練習を行い、撮影に挑んだという。実物レコードとそっくりの歌いぶりが見事というしかない。
H・グラントは、他の俳優がやったら鼻持ちならない役柄を、とても一途なヒモ?らしく演じて魅せた。
コズメ役のサイモン・ヘルバーク、スターク夫人のアクネス役のニナ・アリタが程よいスパイスとなって、フローレンスを称賛と尊敬されるべき歌手へと導いてくれている。
程よい笑いが共感に変わって行くカ-ネギーホールでのリサイタルは、NYポストの酷評があっても<やった事実は消せない>癒しの歌手として今なお記録に残っている。
後味の良い、コメディタッチの感動作に仕上げたニコラス・マーティンのシナリオとS・フリアーズ監督の手腕を称えたい。