晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『狐の呉れた赤ん坊』 85点

2012-12-30 11:29:08 | 日本映画 1945(昭和20)以前 

狐の呉れた赤ん坊

1945年/日本

終戦の年製作した、悪役不在・人情時代劇の傑作

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

終戦の年に製作された阪東妻三郎主演の人情時代劇。原作は後の衆議院議員・谷口善太郎で脚本・監督は丸根善太郎で撮影は石本英雄。GHQ傘下でチャンバラ映画御法度の統制下にも拘らず、時代劇に挑んだ映画人のエネルギーが画面いっぱいに溢れ、明るさに満ち満ちている。
大井川の川越人足・張子の寅は、気が荒く酒とケンカに明け暮れていたが、ひょんなキッカケで捨て子を育てるハメに。意地を張って育てるうちに情愛が湧いて、本当の親以上に溺愛するが、6年後大事件が起こる。
チャップリンの「キッド」をヒントに書き上げた丸根の脚本はテンポ良く無駄がない上、とても緻密な構成に感心させられた。熱を出した息子・善太を救うため、京の名医を追い掛け一命を取り留めたり、大名行列の邪魔をした息子の命乞いをしたり、無償の献身的な愛が絶妙のタイミングで繰り広げられ飽きさせない。
期待に応え、阪妻が「無法松の一生」で魅せた一途な情愛をここでもケレン味たっぷりに演じている。歌舞伎役者や無声映画のヒーローだった経験が動きや表情に溢れでて<殺陣のない時代劇というジャンル>を見事に開花させている。
脇を固める俳優も個性豊かで人足仲間の羅門光三郎、寺島貢、谷譲二を始め、馬方の喧嘩仲間丑五郎・光岡龍三郎、相撲取り賀太野山・阿部九州男、因業な質店大黒やの見明凡太郎、京の名医に原健作など枚挙に暇がない。紅1点のおときに扮した橘公子の面長な娘ぶりも適役でこのベタだが普遍的なストーリーを飽きさせずに盛り上げている。
子役が2人出ているが7歳の善太を演じた沢村アキヒコは当時5歳の津川雅彦。何処となく品のあるガキ大将をノビノビと演じていたのも印象的。
のちに近衛十四郎や勝新太郎でリメイクされTVで長男・田村高広で製作されたというが筆者は未見。機材など不十分なため音声にバラツキが見られるが、おそらくこの時代に作られた本作がもっとも相応しい内容だったのでは?


『ザ・ヤクザ』 75点

2012-12-23 11:05:30 | 外国映画 1960~79

ザ・ヤクザ

1974年/アメリカ

<義理・人情の世界>を美徳と感じた米映画

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★☆☆70点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★☆☆70点

日本通であるレナード・シュレイダーの原案を弟のポールとロバート・タウンで脚本化し、シドニー・ポラックがメガホンを撮った米映画。日本の<義理と人情の世界>を真面目に理解しようと描いた抒情感溢れる異色任侠映画。
主演は元進駐軍兵士で旧友の娘が日本のヤクザに誘拐されたのを取り戻すため20年振りに来日したハリー・キルマー(ロバート・ミッチャム)。元恋人・英子(岸恵子)の兄でヤクザの田中健(高倉健)の助力を得ようとするが...。
東映のヤクザ映画を観て感傷的なところが好きだというシュレイダーのお気に入り俳優は鶴田浩二。本作も鶴田をイメージしたところが多分に見えるが、東映のエグゼクティブ・プロデューサー俊藤浩滋がキャスティングしたのは高倉健だった。また、監督は主演にロバート・レッドフォード起用を考えていたが若すぎるということでR・ミッチャムに決まった。こうして異色の日米競演となったが、クライマックスのアクションもショットガンのミッチャムと長ドスの健さんでは<義理・人情>を身体ごと演じてみせた健さんに軍配が上がる。
日本・日本人を描いた米映画は首をかしげるシーンや映像が数多くあるが、本作は任侠道と武士道の混在はあるものの日本の様式美描写は銭湯での映像以外は(鯉の水槽・女湯が透けて見える)奇異な感じは見られなかった。これは日本で撮影した成果だろう。新宿歌舞伎町の雰囲気や新幹線・京都・鎌倉が随所に映り、日本の美しい風景がドラマを盛り上げる。
ただ、ヤクザの指詰めは日本人にとっても奇異な儀式なのに重要なテーマとなっていて誤解のもとにならないといいが。
シドニー・ポラックにとって失敗作だが、その後の作品に少なからず好影響を与えたに違いない。その後シナリオを書いたP・シュレイダーは「タクシー・ドライバー」でブレイクしているし、高倉健は寡黙ながら筋を通す男のイメージが確立した作品でもある。


『素晴らしき哉、人生!』 80点

2012-12-21 12:03:51 | 外国映画 1946~59




素晴らしき哉、人生!


1946年/アメリカ






キャプラー・コーンの真骨頂





プロフィール画像

shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





 ’30年代に3度もオスカー監督として名声を極めたフランク・キャプラの感動ファンタジー。
 アメリカの田舎町に育った主人公ジョージ・ベイリーは世界に飛び立つ夢を抱きながら貧しいヒトのため住宅金融会社を父から引き継ぎ、貧しいながら幸せに暮らしていた。
 クリスマスイヴの日、叔父が銀行に預けるつもりの8000ドルを無くしてしまう。会社が窮地に陥りジョージは、自分の人生に嫌気がさし橋から飛び降りようとする。
 冒頭神がジョージの身上を2級天使クラレンスに話し物語が始まるこのドラマは、正義漢溢れる善意の人ジョージの少年時代から4人の子持ちとしてささやかな幸せを糧に生きる中年までを描いた心温まるファンタジー。

 キャプラーは、厳しい現実に背を向けた<正直者は救われる>というご都合主義の甘い世界観を描く監督だとして作品をキャプラ・コーンと呼ばれている。その新骨頂といってよい本作はオスカー主要5部門にノミネートされながら「センチメンタル過ぎる」と評価され無冠に終わる。
 おまけに5万5千ドルという多赤字を出し興行的にも失敗作となってしまった。
 ところが70年代年末にTV放映され好評を呼び、今では「三十四丁目の奇蹟」「クリスマスキャロル」と並ぶ年末定番映画となっている。
 古典落語「文七元結」に似た<他人に親切にすると自分に帰ってくる>というこのドラマはズバリ「生きていることの素晴らしさ」をてらいなく見せてくれる。

 主演のジョージを演じたジェームズ・スチュアートはキャプラと三度目のコンビで<アメリカの良心>を身を持って伝えてくれた。戦勝に沸くアメリカの’46年、プロタガンバ映画を悔いたキャプラと空軍大佐として英雄扱いされるのを嫌ったJ・スチュアートならではの作品でもある。
 妻役のドナ・リードは、のちにTVドラマ「うちのママは世界一」でお馴染みの理想の良妻賢母女優。この2人が不幸になってはいけないハズだ。
 その分敵役の銀行家ポッター役のライオネル・バリモアが上手い。悪役ながら人間味溢れる演技はこの作品を支えている。

 厳しい現実があるいまこそ、たまにはこういうファンタジーを一家揃ってお茶の間で観るには最適な作品かも。もちろん独りでみても感動できる。なにしろアメリカ映画協会が選んだ感動する映画100の第1位なのだから。






『弾丸を噛め』 80点

2012-12-19 09:53:58 | 外国映画 1960~79

弾丸を噛め

1975年/アメリカ

R・ブルックス、渾身の異色西部劇

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

アメリカ建国200年の年’75の作品。「暴力教室」「熱いトタン屋根の猫」などの名作を手がけたリチャード・ブリックスの製作・脚本・監督による異色西部劇。厳密には、西部開拓が終焉を迎えた20世紀初頭は西部劇とは言えないが、馬による西部横断レースに参加した8人はカウボーイ、賞金稼ぎ、名声に憧れる若者たち、それに紅一点が元娼婦とくれば西部劇の名残りが漂っている。
新聞社主催の過酷な賞金レースは700マイル(1100キロ)を馬1頭で争うもので、チェックポイントを通過すればあとは自由というもの。賞金2000ドルとバッファロー・ビルのウェスタン・ショー出演という副賞にどれほどの価値があるか分からないが命知らずの8人が参加する。
主演は動物愛護精神が溢れる正義漢クレイトンに扮したジーン・ハックマン。レースの本命馬を陸送途中に馬の死骸の埋葬や仔馬の世話に時間を取られギリギリに到着したため雇い主と揉めて、はからずもレースに参加するハメに。共演はクレイトンとキューバの義勇騎兵隊時代からの親友・マシューズに扮したジェームズ・コバーン。賭博師で全財産を自分の優勝に賭けている。紅一点の元娼婦ミス・ジョーンズに扮したのがキャンディス・バーゲン。美しい金髪を靡かせ荒くれ男に交じってレースに参加する動機はどうやら恋人を救うためらしい。
豪華キャストの三人以外にもミスターと呼ばれる初老のカウボーイにベン・ジョンソン、最初は無鉄砲ながらクレイトンに道を糺され素直な若者となるカーボにジャン・マイケル・ヴィンセントなど多士済々。
アレックス・ノースの音楽に乗せた大自然の過酷さと雄大な美しさがレースの醍醐味を伝えている。なかでもホワイトサンズの砂漠が印象的だ。ただブリックスはレースに参加した8人の人間模様を描くことに重点を置いたため、レースそのものの緊迫感に欠けるきらいがあったのが残念。その分、8人が何故レースに参加したかがレース中に解ってくる人間模様にかなりエネルギーが割かれている。なかでもミスターが夢を観ながら息絶えたシーンや、G・ハックマンがアクターズSで印象深かったとして語った砂漠でミス・ジョーンズに亡き妻の想い出を語るシーンなどブルックスらしいカットが随所に見られた。
題名は、手術のとき弾丸を噛ませ痛みに耐えさせた由来から「どんなにつらいことでも耐えやり抜け」という意味もあるが、ドラマでもレースに参加したメキシコ人が虫歯の痛さに耐え散弾を被せるシーンがある。あの痛さは経験した者なら誰でも忘れない。ラスト・シーンは肩すかしの感はあるものの、ブルックスらしい骨太な作品に仕上がっている。ただ131分は少し長く感じたかも。


『人生の特等席』 85点

2012-12-10 12:09:17 | (米国) 2010~15




人生の特等席


2012年/アメリカ






予定調和の素晴らしさを満喫





プロフィール画像

shinakamさん


男性






総合★★★★☆
85



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
90点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





「マディソン郡の橋」(95)以来クリント・イーストウッドの黒子として映画づくりに関わってきたロバート・ロレンツの初監督作品。イーストウッドが「グラン・トリノ」以来4年振りの出演はファンとしても嬉しい。大リーグA・ブレーブスの老スカウト・ガスが失明の危機にもめげず、ノースカロライナのハイスクール・スラッガーを指名するか見極める旅に出る。上司で長年の友人でもあるピートが心配して、父の様子を観るように言われ娘・ミッキーはシブシブ同行する。
父と娘の修復は?スカウトの仕事は?娘の恋の行方は?それぞれの距離感がとても自然で、お約束ごとながら誰もが心がほっとする優しさが溢れるハナシの展開と期待を裏切らない予定調和の素晴らしさを満喫した。
原題は「カーブに難がある」でズバリだが、その裏にはガスやミッキーの<人生の曲がり角における困難さ>を意味するのだろう。邦題はローカル球場で観戦する場所が2人にとって居心地の良い特等席だったというミッキーの台詞からとったもので悪くない。野球好きでイーストウッドのファンである筆者にとって一番後ろの中央で観たこの作品は至福のひとときで、まさに題名とリンクしていた。
日頃映画は疑似体験と思っている筆者には、イーストウッドの老いたりといえども一人暮らしの頑固一徹な老人ぶりは自分にはない理想の老人像。肉体の衰えを隠さず、演技に活かした<暴走老人ぶり>はイーストウッドの適応力と相まってまさに独壇場だ。
マネーボールの大リーグ経営が趨勢であることは間違いないが、敢えて経験と五感を働かした人間の能力も必要なはずだと示唆していて、現代社会への警鐘も忘れていないところにオールドスタイルへの郷愁が窺える。
娘・ミッキー役のエイミー・アダムスの愛憎が交錯しながらも父への想いが見え隠れする演技には好感が持てた。筆者も一人娘の親だが、こんな娘がいたら最高だと思わせる。ほかにも旧友ピートのジョン・グッドマンは最高の友人だし、肩を壊しスカウトに転身したジョニー役のジャスティン・ティンバーレイクも性格の良い男だし、敵役ながらマシュー・リラードのマネーボール派のスカウトもハマり役だった。
心地良い111分を過ごしたあとも「ユー・アー・マイ・サンシャイン」が耳に残っったままシネコンを後にした。