晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場」(86・米)70点

2020-06-25 12:01:30 | (米国) 1980~99 


・ C・イーストウッドの分岐点となったスラング連発コメディタッチの戦争映画。

 朝鮮・ヴェトナムで先攻を重ね名誉勲章を受けた軍曹が、古巣の海兵隊で落ちこぼれ小隊を鍛えグレナダ侵攻する戦争ドラマ。C・イーストウッド製作・主演で初老の鬼軍曹ぶりが見どころ。
 この手の映画は軍の協力なしでは不可能なため当初は陸軍に協力要請したが、内容が相応しくないという理由で拒否され海軍に変更された。その海軍も完成後プロパガンダ映画ではないことから軍の推薦は得られず、同年製作の「トップガン」とは対照的な扱いとなった。

 C・イーストウッド演じるトム・ハイウェイ一等軍曹はタフで頑固な愛国者だが、PTSD症状の酒浸りで別れた妻とヨリを戻すことにも不器用な軍隊馬鹿。朝鮮・ヴェトナムの歴戦の強者だが、除隊せず再び海兵隊に戻ってくる。
 戦地経験のないエリート上官ややる気のない落ちこぼれ集団を相手に戦場体験者ならではの実践的訓練で鍛えて行く。前半は「愛と青春の旅立ち」(82)に似た鬼軍曹物語プラス元妻アギー(マーシャ・メイソン)との物語がミックスされたストーリー。自称ロックの帝王スティッチ(マリオ・ヴァン・ピーグルズ)など、およそやる気のない隊員相手の訓練ぶりはまるでコメディ。
 上司パワーズ少佐(エヴァレット・マッギル)との確執は戦地体験のない官僚批判が痛烈。題名は気の良い直属上司でもあるリング中尉(ボイド・ケインズ)から出身大学を聞かれ<朝鮮戦争の激戦地>と答えたことからつけられている。
 後半は三度目の戦場グレナダ侵攻へ。パワーズ少佐の指示を無視見事目的を果たす流れは類型的だが、クレジットカードで支援要求したというウソのような逸話が目を惹いた。 

 盟友レニー・ニーハウスの音楽が懐かしく「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」(06)、「グラントリノ」(08)、「アメリカン・スナイパー」(14)へと変遷して行く戦争ドラマの彼の姿勢が窺える作品でもあった。

「心の旅路」(42・米)80点

2020-06-15 11:25:41 | 外国映画 1945以前 


 ・ M・ルロイ監督による元祖・後遺症ものメロ・ドラマ。


 第一次大戦による後遺症で記憶を失った男と健気な踊り子とのすれ違いメロ・ドラマ。ジェームズ・ヒルトンの原作をマーロン・ルロイ監督で映画化。ロナルド・コールマン、グリア・ガーソンの美男美女による共演で、オスカー7部門にノミネートされたが無冠に終わった。

 陸軍大尉のチャールズ・レイニア(R・コールマン)はフランス戦線の後遺症で記憶を亡くしメルペリーの陸軍精神病院に入院していた。霧の深い夜病院を抜け出したチャールズは、町のたばこ屋で親切な踊り子のポーラ(G・ガースン)に助けられる・・・。
 チャ-ルズはジョン・スミス(愛称スミシー)と命名され、ふたりはリバプール郊外の家で貧しいながら幸せな暮らしをしていた。息子も生まれ漸く新聞社で採用が決まった矢先車にハネられ頭を打った衝撃で記憶が回復するが、自分が何故見知らぬ土地にいるのか?分からなかった。

 M・ルロイ監督は「哀愁」(40)の甘く切ない叙情豊かなメロ・ドラマで有名。のちに「若草物語」(49)を手掛けるなど、名作を手堅く映像化することには定評がある。
 英国人監督と殆どが英国人俳優によるこのアメリカ映画は、記憶喪失とすれ違いをモチーフにメロドラマのお手本となっていて、我が国戦後最大ヒット作「君の名は」にもその影響を及ぼしている。

 R・コールマンは口髭で有名な英国人の2枚目俳優で、このとき51才。本作でオスカーは逃したが、五年後「二重生活」で見事獲得。本作でもただの二枚目ではなく、どことなく不安なスミシーの前半と名家レイニア家の御曹司で実業家から政治家へ転身していく後半では別人のようだ。

 ヒロインG・ガーソンは、この年「ミニヴァー夫人」でオスカー獲得の38才。なんと前年から5年連続オスカーノミネートという名女優だ。ルロイ監督作品には「庭に咲く花」(41)、「キュリー夫人」(43)と3年連続出演してともに代表作となっている。
 本作では気の良い踊り子から健気な新妻、そして有能な秘書と変遷しながらも直向きな女性に扮し、当時のアメリカでは希有な存在の<耐える女性>を演じている。夫を支える銃後の妻的役柄は第二次大戦中の影響もあったかもしれない。

 冷静に観れば、記憶快復後ポーラとの3年間を記憶喪失していて秘書として現れたポーラに気づかないことや、姪キティ(スーザン・ピータース)の身のひきかたなどご都合主義的なことも多々あるが、脚本の巧みさと手堅い演出がそのスキを与えない。

 桜の花が咲く一軒家でのエンディングは観客の涙を誘い、これぞメロドラマの真骨頂であることを世に知らしめた。
 

「新幹線大爆破」(75・日)70点

2020-06-11 12:12:30 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)


 ・ 製作裏話に映画作りへの魂を観た!


  国鉄が<安全な超特急が謳い文句>の新幹線を爆破するというパニック・映画を作ろうとしたのは、衰退が見え始めた実録路線からの脱却を狙っていた東映・岡田社長の肝いりでスタートした。
加藤阿礼の原案を佐藤純也が監督・共同脚本化、高倉健・千葉真一・宇津井健を始め山本圭・志村喬・丹波哲郎・永井智雄・渡辺文雄など多彩な顔ぶれが出演。

 ある日東京駅発ひかり109号に爆弾を仕掛けたという脅迫電話が掛かる。ATS(列車自動制御装置)・CTC(列車集中制御装置)による安全神話を覆すような時速80KM以下に速度を落とすと爆発するというもの。
 誰も殺さずに巨額の身代金(500万ドル)を得ようとしたのは沖田(高倉健)という男で町の零細工業経営者。沖縄出身の集団就職青年大城(織田あきら)と過激波崩れの古賀(山本圭)が加わっていた。

 国鉄の新幹線爆破をどう防ぐのか、乗客の安全をどう守るのか極限状態での焦りと緊張ぶり、警察の犯人逮捕を最優先した捜査、高度成長の時代に取り残された犯人たちの犯行にいたる背景などを描いた娯楽超大作だ。

 いまなら鉄道会社のタイアップで全面協力のもと乗客安全のため奮闘する職員たちの美談で大ヒットする作品が想定されるが、映画としての迫力や魅力には乏しいのでは?

 国鉄と東映は従来から良好な関係にあり、本作でも協力を得られるものと踏んでいた。国鉄もシナリオを見て「新幹線危機一髪」という題なら協力しても良いということだった。
 ところが、岡田は頑として譲らない。映画屋としてのカンが働いたのだろう。国鉄の協力なしでも断固製作するという号令をかけた。

 今なら許されないことだが、新幹線走行映像は盗み撮り、セットで本物そっくりの12両編成の新幹線を作り、ミニチュアで遠景を撮影したり、私鉄(西武)の協力を得たり、北海道の原野で本物の貨物列車を爆破したりアラユル知恵を絞っての挙行だったという。

 あら探しをすれば切りがないほどの映像だが、その迫力は映画作りのエネルギーが画面を通し観客に迫ってくる。

 主演した高倉健はシナリオを読んで、どんな役でもいいからとオファーして実現した。岡田は菅原文太を指示したが、新幹線が主役の映画だと拒否、当初宇津井健が演じた倉持運転司令長役だった高倉に回ってきたもの。
 結果はW健がはまり役となったが、その分サスペンス・アクションのテンポが中だるみしたのは否めない。

 紆余曲折のため封切り二日前に完成したという信じられない状況で宣伝もままならず、興業成績も振るわなかったが、その後犯人側のシーンを大幅カットしたフランス版が大ヒット。
 さらに「スピード」(94)が参考にしたという話題もあって国内でもDVD化されるなど評判を呼び映画が再評価されている。

 熱い男たちの映画は、今観ても面白い。






「緋牡丹博徒」(68・日)75点

2020-06-03 12:21:29 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)


 ・ 藤純子主演任侠映画シリーズ8作の第1作。


 鶴田浩二、高倉健という東映任侠映画の大スターが脇に回って藤純子を任侠スターとして育て上げたシリーズの第1作目。監督は「関の彌太っぺ」(63)の山下耕作。若山富三郎、清川虹子、大木実などベテランが脇を固め高倉健が特別出演している。

 明治の中頃、熊本・五木で一家を構える矢野一家の一人娘・竜子が殺された父の仇を求め、”緋牡丹のお竜”と名乗り賭場を流れ歩く・・・。

 佐久間良子・三田佳子に去られ、スター女優不在となってしまった東映が、当時22才の藤純子をスターに育てようと当時京都撮影所所長だった岡田が企画し、藤の実父・俊藤浩滋プロデューサーをくどきおこした起死回生作。

 冒頭の襲名披露にはじまり、仁義を切るときの凛としたした美しさと女を捨てたという台詞とはウラハラな健気な風情は、一気に観客の心を奪い彼女の出世作となっていく。

 義理と人情のしがらみの世界に生きながら不正には目をつぶらず立ち向かって行く姿は、当時学生運動の挫折で無常観に苛まれていた若者にも元気を与えた。
 健さんの背中の入れ墨で涙した世代も緋牡丹の入れ墨は控えめながら好感を持って受け入れられ、若山富三郎演じる熊坂虎吉や山本鱗一が演じた子分・フグ新のような気分にさせられる。

 第2作でメガホンを撮った鈴木則文の脚本も男と女の機微を絡ませる構成が巧みだ。豪華俳優の脇役陣が見せ場を作れるようなシチュエーションもキッチリとあって、喜怒哀楽を交えながら初々しいヒロインを盛り立てて行く。

 名匠・山下耕作は女の儚さ一途さを持ちながら度胸もあるというヒロインの人物像を的確に捉え、特に澄んだ眼の美しさと牡丹の白と赤の変化が深く印象に残る演出には定評がある。

 敵役として奮闘したのは大木実。実年齢では高倉健より6才年上ながら兄貴と慕い、這い上がるためには辻斬りまでした元会津藩の武士という役柄は、ウソをついてでも我が身を守ろうとする人間の弱さを演じている。

 ゲストの健さんは出番は少ないながら美味しいところは持って行く役柄。「私のために!」「違う、俺のためだよ」というラストシーンがそのあらわれ。

 大ヒットとなった4年間で8作のシリーズは藤純子の婚約引退発表で幕を閉じたが、東映任侠路線の隆盛期を飾る作品となった。
 監督は山下耕作2作品、加藤泰3作品、小沢茂弘2作品、脚本も担当した鈴木則文1作品と受け継がれ、俳優も鶴田浩二、高倉健、菅原分太、里見浩太郎、松方弘樹などがそれぞれ存在感を魅せファンを喜ばせてくれた。

 筆者には、少年時代からお馴染みの東映のマークで始まるわくわく感を映画館で最後に味合わせてくれた時代だった。