晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『ミルク』 80点

2009-04-25 14:53:03 | (米国) 2000~09 

ミルク

2008年/アメリカ

偏見をバネに生き抜いたヒーロー

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

公職者で同性愛者であることを公表したサンフランシスコ市議、ハーヴェイ・ミルクの半生を描いたドキュメント風のヒューマン・ドラマ。ガス・ヴァンサント監督久々のメジャー作である。H・ミルクはアメリカでは「タイム誌が選ぶ20世紀英雄の100人」に選ばれるほど有名だが、日本ではそれ程知られていない。実在の政治家・運動家の映画化が近年多い中、彼を取り上げたのはR・エプスタインのドキュメンタリー「ハーヴェイ・ミルク」(’84)以外は見当たらない。「全てのマイノリティに対して差別や偏見を解消することで、生きる希望を与えようとした活動」が死後30年にして、ショーン・ペン主演で映画化され高評価を得たのは時代が要求していたのかもしれない。
G・バンサントはドキュメンタリー・フィルムを交えながら、ゲイであることをカムアウトした40歳から48歳で死ぬまでの8年間に焦点を絞って、巧く128分に纏めている。
「ブロークバック・マウンテン」以来同性愛をテーマにした映画に対しての偏見はめっきり減ったというものの、男同士のラブ・シーンは、ストレートの自分としてはやっぱり違和感なくして見るには抵抗があった。リベラルな演技派S・ペンならではのオスカー獲得である。
ミルクを取り巻くキャスティングが色とりどり。NY時代以来の恋人スコット・スミスにジェームズ・フランコ、若き運動家クリヴ・ジョーンズにエミール・ハーシュ、同僚市政執行委員のダン・ホワイトにジョシュ・ブローリンと最近話題の映画に出演した若手・中堅どころがそれぞれ見せ場を作って、彼のひととなりを際立たせてくれる。このあたりは、オスカー受賞の若手脚本家、ダスティン・ランス・ブラックによるテンポの良さが要因となっている。
カリフォルニア州では州憲法で同性結婚が認められているが、昨年11月その法案を改正する案が可決され、問題が再燃しているという。果たしてこの映画は解決策の糸口となるのだろうか?


『スラムドッグ$ミリオネア』 80点

2009-04-23 12:51:48 | (欧州・アジア他) 2000~09




スラムドッグ$ミリオネア


2008年/イギリス






あらゆる要素を盛り込んだ映画の原点を見る想い








総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





監督ダニー・ボイル、脚本サイモン・ビューティのイギリス人コンビによる、インドのムンバイを舞台にした寓話的なストーリー。
スラム街育ちの18歳の少年ジャマール・マリクが人気番組「クイズミリオネア」に出演し、あと1問正解で2000万ルピー(約4000万円)を獲得する。教養のないこの少年が何故正解できるのか?番組MC(アニル・カプール)は不正があるのではないかと警察に連絡する。ジャマールは警部(イルファン・カーン)の尋問を受け、生い立ちを回想する。
イギリスを始め、世界80国で放映される世界最大のクイズ・ショー番組は日本でも、みのもんた司会の人気番組となっている。舞台を最も現代社会を象徴するムンバイに設定することで物語が躍動感溢れる物語に仕上がった。
貧困・犯罪・宗教・経済発展などあらゆる社会情勢を抱えながらエネルギッシュに変化する街の底辺で過酷な生い立ちのマリク兄弟と少女・ラティカの3人。人身売買も現実にあって、ヒロイン・ラティカの幼女期を演じた少女が、父親に30万ドルで養女に出されそうになったという疑いが話題になったほど。原作はシリアスなドラマだが、サイモン・ビューティは大胆に脚色。社会派ドラマの要素を含みながらも、ピュアなラブ・ストーリーに仕上がっている。番組収録場面、警察での尋問、主人公の回想と3つの要素をリンクさせながら、エンディングに持ってゆくスリリングな展開は見事。
D・ボイル監督はボリウッド映画の持つあらゆる要素を盛り込んでエンターテインメント溢れる映画の原点を見せてくれた。
細かい注文はあるものの、大スターは使わず製作費1400万ドルという低予算ながら、ドラマの進行そのままにインディペンデント映画としてスタートし、最後にアカデミー賞作品賞など最多8部門を獲得して頂点に上り詰めたこの作品に、理屈抜きで拍手を送りたい。






『ミザリー』(90・米) 80点

2009-04-17 17:48:50 | (米国) 1980~99 




ミザリー


1990年/アメリカ






一瞬にして豹変するK・ベイツが秀逸








総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
80点




キャスト

★★★★☆
90点




演出

★★★★☆
85点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
80点





スチーブン・キングがジョン・レノン暗殺事件をヒントに書いた原作を、ロブ・ライナーが製作・監督。人気小説家(ジェームズ・カーン)と偏執的な自称・NO1愛読者(キャシー・ベイツ)との出会いによるサイコ・ストーリー。
コロラドの山荘で人気シリーズの完結編「ミザリーの朝」を書き終えたポール・シェルダン(J・カーン)は雪道で事故を起こし気を失う。気がつくと元看護師・アニー(K・ベイツ)の自宅で献身的な介護を受けていて、彼女は命の恩人となる。ペットの豚に「ミザリー」と名をつけるほどの熱狂的なファンでもある。有名人とそのストーカーというプロットはロバート・デ・ニーロの「ザ・ファン」があるが、その凶暴さは甲乙付け難い。
K・ベイツがアカデミー主演女優賞を受賞しただけあって、少女のような愛らしい表情から一瞬にして冷酷な狂気に満ちた表情に豹変する演技が秀逸。ロー・アングルでカメラが捉えるK・ベイツの表情のアップが、なんともいえない恐怖感を募らせる。怖いなかにも可愛らしさや孤独に耐える女の哀しさを感じさせるキャラクター。日本では渡辺えり子が舞台で当たり役となっているのも頷ける。
J・カーンはブランクがあって久し振りの主演だが、痛々しい演技を好演している。原作より逞しく、インテリ作家とは違うイメージで恐怖感が薄まってしまったのが残念。
名優リチャード・ファーンズワースが地元の保安官役でいい味を出している。






『レッドクリフ PartII -未来への最終決戦-』 75点

2009-04-11 12:49:01 | (米国) 2000~09 




レッドクリフ PartII -未来への最終決戦-


2009年/アメリカ=中国=日本=台湾=韓国






過ぎたるは...の感は否めない








総合★★★★☆
75



ストーリー

★★★★☆
75点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★★☆
75点




ビジュアル

★★★★☆
80点




音楽

★★★★☆
75点





三国志最大の山場「赤壁の戦い」のPART2完結編。製作費100億円を賭けたジョン・ウー監督の一大スペクタル。三国志の予備知識やPART1を知らなくても充分楽しめる。
80万の魏の丞相・曹操(チャン・フォンイー)軍に挑む5万の劉備、呉・孫権連合軍。どのように戦いを挑んだか?そこには相手の裏をかいて臨機応変に合戦をしたかが醍醐味。
PART1で登場人物を描くことに終始苦労したJ・ウー監督は、ここでは大胆に省略することで問題をクリアし、のびのびと描いている。その分、敵同士ながら一時の同盟を結ぶ、三国志ファンが持つ従来のイメージとは程遠い、呉の大都督・周瑜(トニー・レオン)と劉備の軍師・孔明(金城武)の信義の篤い友情物語を柱に据えている。
有名な船と船を繋ぐ「連環の計」や孔明が10万本の矢を調達する逸話はしっかり描かれているが、尚香(ヴィッキー・チャオ)の間諜ぶりと敵兵の友情はあまりにも劇画チック。もうひとりの周瑜の妻・小喬(リン・チーリン)といいJ・ウーの女優の描写は類型的。とはいえ涙腺をくすぐるところでもある。
チャン・フォンイーが演じた敵役・曹操の人物像が、最も人間的に描かれていて存在感があったのは皮肉な結果。
最大の見せ場は、ここまでやるかというほど徹底した火薬爆発が果てしなく続く合戦シーン。大迫力でファンにとっては堪らない魅力なのだろうが、過ぎたるは...の感は否めない。
騎馬の戦闘や矢の雨が降る合戦シーンなど黒澤明を多分に意識した作りが目に付く。周瑜が語る台詞は、「七人の侍」の志村喬とオーバーラップして思わず失笑を禁じえない。
予告編のPART1で期待してpart2の本編でそれ程でもなかったという典型。






『フロスト×ニクソン』 85点

2009-04-04 16:15:05 | (米国) 2000~09 

フロスト×ニクソン

2008年/アメリカ

ドラマチックな展開で、人物像がくっきりと浮かんで見える

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

オスカー監督ロン・ハワードが英国で好評の舞台劇を、作家ピーター・モーガンに脚色を依頼して映像化した最新作。実在人物のドラマ化に定評のある2人が、<アメリカTV史上最強視聴率を得たインタビュー番組>をドキュメント・タッチで描いた人間ドラマ。
前代未聞のスキャンダル「ウォーター・ゲート事件」で辞任した米大統領リチャード・ニクソン(フランク・ランジェラ)。歴史的には悪評高い大統領だが、その人間像は巷間言われるとおりなのか?そして最大の関心事は事件について本音が引き出せるか?インタビュアーは英国コメディアン出身のデヴィッド・フロスト(マイケル・シーン)。米国では地方で放映されているトークショー番組が3大ネットワークには乗らず苦戦中。このインタビューに賭けていた。
4回の収録を中心に、この番組がどの様に行われたか、裏面が伺えて想像以上にドラマチックな作りとなった。結果、TVというメディアを知り尽くしていたニクソンが、組み易い相手として選んだフロストに圧勝する筈だったのに意外な落とし穴が...。4回目の収録前夜における電話でのヤリトリなど、フィクションを交えることにより2人の人物像がくっきりと浮かび上がって見える。無冠に終わったが、アカデミー賞の主要5部門にノミネートされたのも頷ける。
2人とも舞台で演じた役を、映像ならではの魅力で演じている。とくにニクソン役のF・ランジェラは「ドラキュラ」以来の代表作として印象深い。顔は似ていないのに、威圧感があり猜疑心が強い孤独な人物像は本物で、このドラマを奥深くさせた最大の功労者。対するM・シーンは「クイーン」でブレア首相を演じて注目されたが、軽さの裏に虚栄心を秘めたインテリ像を形成していて決して見劣りしていない。
ボクシングにはラウンドの合間に1分間インターバルがあるように、この4回のインタビューにもそれぞれのブレーンがついてアシストする。ニクソンにはジャック・ブレナン(ケヴィン・ベーコン)、フレストには反ニクソンの作家(サム・ロックウェル)ジャーナリスト(オリバー・プラット)にプロデューサー(マシュー・マクファディン)の3人。それぞれがこのバトルに欠かせないスタッフで、紅一点のキャロライン(レベッカ・ホール)も彩りに欠かせない。