goo blog サービス終了のお知らせ 

晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「どら平太」(00・日)60点

2017-11-03 12:17:45 | 日本映画 2000~09(平成12~21)


・ 椿三十郎と遠山の金さんをミックスした市川崑監督の時代劇




’69に結成された黒澤明・木下恵介・市川崑・小林正樹による<四騎の会>。山本周五郎原作「町奉行日記」を映画化しようとシナリオは完成していたが結局果たせなかった。

その前に勝新太郎主演<町奉行日記 鉄火牡丹>が映画化され、岡本喜八が仲代達矢「着流し奉行」でTV時代劇化されている。

00年84歳だった市川が30年ぶりにメガホンを取って実現した。かつて錦之助、裕次郎、勝新などが候補だった主演は役所広司。

ある小藩に「壕外(ほりそと)」と呼ばれる治外法権と化した地区に蔓延る腐敗を糺すべくやってきた町奉行。あだ名が「どら平太」で道楽の限りを尽くした小平太をもじった望月小平太(役所広司)が八面六臂の活躍を描いた時代劇。

主人公は椿三十郎と遠山の金さんをミックスしたような黒澤色が濃いキャラクター。

随所に銀残しと呼ばれる影と光あふれる映像を駆使、大胆なカット割りなど市川節は健在だ。

ただ、コミカルな要素が空回りして爽快感が沸いてこない。

原因は、巨匠四人の個性が足を引っ張り合い出来上がった脚本を尊重するあまり、勧善懲悪の痛快時代劇として完成度が今ひとつだったこと。

さらに主要な共演俳優(浅野ゆう子、宇崎竜童、片岡鶴太郎)がイメージ・ギャップとなって盛り上がりに欠けるキライがあった。

反面、大滝秀治、加藤武、神山繁など藩の重臣が流石の演技で脇を固め、壕外の三悪(菅原文太・石橋蓮司・石倉三郎)や流れ者の壺振り女・岸田今日子などが惹きたてていた。

菅原は大物過ぎて役所は貫禄負けしていたが、飄々とした爽やかな演技と奮闘した殺陣で今後の活躍が想像できる主演ぶりが目立った。

脚本の欠点を露呈してしまった本作だったが二一世紀に時代劇の火を灯した記念すべき作品として拍手を送りたい。






「半落ち」(04・日) 65点

2016-11-06 17:00:38 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 横山秀夫のベストセラーを豪華キャストで映画化した社会派サスペンス。


      

「クライマーズ・ハイ」などのベストセラー作家・横山秀夫の原作。題名は警察用語で「一部自供」という意味。優秀な警察官である梶聰一郎(寺尾聰)が妻(原田美枝子)を絞殺し、出頭するまで<空白の2日間の謎を巡る>サスペンス風社会派ドラマ。監督は「陽はまた昇る」(02)でデビューの佐々部清で脚本も担当している。

 自首してきた梶を担当した警察官・志木和正(柴田恭兵)、検察官・佐瀬銛男(伊原剛)、新聞記者・中尾洋子(鶴田真由)、梶の弁護を買って出た植村学(國村隼)、そして判決文を書くことになった若い裁判官・藤林圭吾(吉岡秀隆)の立場から、事件に関わった背景やエピソードを交え物語が進展して行く。

 とにかく豪華キャストである。主要人物以外でも西田敏行・樹木希林・高島礼子・井川比佐志・奈良岡朋子などが次々登場。検察事務官・田山涼成や刑務官・笹野高史などチョイ役でオイシイ役もあり、それぞれの達者な演技を楽しむには見応え充分。

 空白の2日間に何があったのか?というミステリー的興味は終盤までに解明してしまい、寧ろ<尊厳死>がテーマとなっている。

 7年前一人息子を急性骨髄性白血病で失い、妻が若年性アルツハイマー症という境遇の主人公。自分が梶だったらどうしただろう?という悩ましい選択を迫られた場合、同じ行動はとても取れなかっただろう。とはいえ当事者になってみないと分からないのかも・・・。

 公開時には裁判官・藤林の判決文を書くまでの思い悩む姿や公判での結審時の朗読があったような記憶がある。「魂が壊れてしまったという人間にも生きる権利があり、何人でもそれを奪うものではない」という正論が語られていたハズだったが、今回再見したものはカットされていた。

 梶夫婦が亡くなった息子の代わりに生き甲斐としていたことへの喪失が悲劇となって泣かせる映画を志向したため、力作ながら共感と反論が相半ばしてしまったのが残念!
  
 

 

 

   

「火垂るの墓」(08・日) 60点

2015-08-31 16:02:14 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 黒木和雄の遺志を引き継いだ日向寺監督の戦争悲話。

                   

 自らの戦争体験をもとにした野坂昭如の直木賞受賞・短編小説(68)が原作。すでに高畑勲監督でアニメ化(88)され<一番泣ける映画で二度と見たくない映画>と言われ大ヒットした。

 さらに松島奈々子主演でTVドラマ化(05)され評判を呼んでいて、実写版は相当の期待とハンデを負っての登場。<戦争レクイエム三部作>など反戦ドラマを熱心に映画化していた故・黒木和雄の遺志を継いで愛弟子・日向寺太郎が監督している。

 太平洋戦争末期、神戸の大空襲で中学生の清太(吉武怜朗)と4歳の節子(畠山彩奈)は優しかった母・雪子(松田聖子)を亡くし、西宮の叔母(松坂慶子)の家を頼ってリヤカーで向かう。

 叔母は追い返そうとするが、食料を持ってきた兄妹を見て引き止める。戦禍のなか、兄妹を通して市井の人々が悲惨な暮らしをする姿を、かなり淡々と描いている。

 泣かせるアニメや叔母から見た兄妹のTV版とは違って、清太という少年から見た戦時中の大人の世界が繰り広げられて行くストーリー。

 軍人の家に生まれ比較的恵まれた家庭で育った兄妹が、皮肉にも戦争で孤児となり心から頼れる大人が不在となってしまう。ここでは、叔母が非情な大人の象徴として冷たい仕打ちがエスカレートして憎まれ役となっている。大なり小なり身内を守るための行為は現実のものだったはずだった時代でもあったが・・・。

 松坂慶子は、渋々引き受けた敵役だったが、新境地を拓くキッカケとなった気がする。母親役の松田聖子は7年ぶりの映画出演だったが、話題づくり程度の役割で無難なところ。

 親切な中学の校長・本城(江藤潤)一家は、家を無くした人々が学校で暮らすことを黙認した結果、自炊の火の不始末から校舎を焼失させてしまう。責任を取って一家は自殺するという悲惨な結果に。現在では信じられない行動だが、世間の厳しい目と教育者という立場で家族まで犠牲にする理不尽さが切ない。

 ほかにも若い未亡人(池脇千鶴)の家に入り浸りの病弱な学生(山中聡)は、虚無的な暮らしを晒し純粋な清太を傷つけ、防火訓練を陣頭指揮する町内会長(原田芳雄)らの不興を買う。

 清太は唯一よき理解者だった本条校長を真似て、理想を追って家を出たのだろう。

 東京大空襲のとき母親の背におぶさってB29からの焼夷弾投下を逃げ回り、着物を売ってミルク代に変えたと聴かされた筆者にとって、節子はもしかすると分身だったかもしれない。

 本作は、映画としての出来よりも佐久間ドロップの缶を知っている自分には、キャッスル・イン・ジ・エアのピアノとギターの音とともに、涙なしでは観ることはできない作品でもある。
 

「壬生義士伝」(03・日)75点

2015-08-17 16:19:18 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 泣かせる作家・浅田次郎の時代劇を、手堅く纏めた滝田洋二郎監督。

                  

 浅田次郎原作の長編時代劇を中島丈博が脚本化、相米慎二監督の急死を受けて滝田洋二郎が監督した137分。

 主演・中井貴一、共演・佐藤浩市の映画界サラブレッドが、幕末に翻弄された新撰組志士に扮し初共演したのも話題となった。

 明治32年満州・奉天に旅立つ前夜の町医者の所へ、孫を連れてきた老人。古い写真立ての男に気付いた。男は新撰組の吉村貫一郎(中井貴一)で、老人が思い出を語り出す。

 老人は新撰組でも幹部クラスの斎藤一(佐藤浩市)だった。入隊希望者のみすぼらしい田舎浪人が、組第一の遣い手・永倉新八と互角に渡り合った剣の達人だった。彼が元南部藩下級武士の吉村である。

 原作同様、吉村が若いころに戻って、何故貧しいながら愛する妻・しづ(夏川結衣)と子供たちを残し脱藩したのか?を辿って行く。

 おさな馴染みだった大野次郎右衛門(三宅裕司)が上司であり、恋のライバルだった経緯、脱藩の理由などが綴られ、貧しい田舎侍の哀愁が滲み出ている。

 卑屈なまでに腰が低く守銭奴とまで呼ばれた吉村は、貧困に喘ぐ家族のために脱藩して金を送っていたのだ。人を何人も殺し虚無的な人生を送っていた斎藤には、凡そ正反対の吉村が気に入らず斬ろうとするが、必死の抵抗に会い腕を試したのだと誤魔化す。

 幕府の京都守護を任されていた旗本となったのも束の間、大政奉還後逆賊となった仇花新撰組にいる二人。人となりを知った斎藤は、鳥羽伏見での戦いで一人官軍へ斬り込んでいった吉村へ「死ぬな~!」と絶叫する。

 中井貴一の朴訥とした南部下級武士はミスキャストでは?という予想を覆す名演技。一見冷めた男だが愛情溢れる男を演じた佐藤浩市はハマり役。

 薄幸な女ぬいを演じた中谷美紀、健気な妻夏川結衣も彩りよく、脇を固める共演者も三宅裕司を始めなかなかユニーク。

 塩見三省の近藤、野村祐人の土方、堺雅人の沖田、津田寛治の大久保など本来なら脚光を浴びる役柄を斬新なイメージで適材適所に配している。

 なかでは大野家の中間・佐助に扮した山田辰夫が役得だった。
 
 盛りだくさんなエピソードを盛り込んで、時代を行ったり来たりする長編ストーリーを何とか纏め上げた中島丈博の脚本は、原作の雰囲気を壊さないよう苦慮したようで、後半は整理し切れずテンポがダレてしまった。

 滝田の演出もナレーション・台詞が過剰気味で、久石譲の音楽もこれでもか?という泣かせる映画にエネルギーが費やされたのが惜しい!

 本作は渡辺謙主演のTV新春時代劇(02)と比較されるが、むしろ前年上映された「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督・真田広之主演)を意識していたのはないか?

 この藤沢周平の原作は山形庄内を思わせる海坂藩の下級武士が主人公で、剣の達人ながら家族のために慎ましく暮らす主人公が藩命により人を斬る。境遇が良く似ている南部盛岡の吉村は、<故郷の石割桜のような侍魂を持ち>義の道を選ぶ。

 回顧シーンをコンパクトにして120分ほどだったら、余韻の残る名作になったのでは?と思わずにいられない。

 

 

  

「父と暮らせば」(04・日)80点

2015-08-12 10:38:45 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 井上ひさしの名戯曲が黒木和雄の映像で蘇った。

                 

 作家・井上ひさしが広島の原爆被災体験者を丹念に取材して書き上げた二人芝居の名作を、黒木和雄が映画化している。

 「TOMOROW 明日」(88)、「美しい夏 キリシマ」(02)に続く黒木の戦争レクイエム三部作・完結編でもある。

 昭和23年広島。図書館に勤める美津江(宮沢りえ)は大切な人を失った心の傷が癒えないまま暮らしている。

 図書館に現れた一人の青年(浅野忠信)に淡い恋心を抱くが、幸せになることのためらいから、いざというとき心が拒否してしまう。

 それを知った父・竹造(原田芳雄)が「恋の応援団長」を買って出て、何とかこの恋を成就させようとあれこれ励まし説得を重ねる。

 その竹造は原爆投下の日に亡くなっていた・・・。悲しみを乗り越えて新しい人生を歩みだそうとする4日間の物語だ。

 自分の幸せを願う心が父親との会話で浮き彫りにされながら、戒める心を持つもう一人の美津江が存在する。

 筆者にも宮沢りえと同い年の一人娘がいるので、父・竹造の気持ちが手に取るように分かる。劇中「人がたまげてのけぞるような色気はない」というが、我が娘と比べるべくもないが、凛とした美しさは儚い色気を感じ、まさにはまり役。

 原作に殆ど忠実に描きながら映画ならではの工夫は凝らされている。復興前の広島の市街地はとても舞台では表現できない。悲惨な被災地を再現することで、この戦争の酷さが倍増されている。

 父・武造に扮した原田芳雄は時には軽妙洒脱、時には悲運を伝える悲痛な叫び、そして事実を受け止めた今は娘の幸せを願う一人の父親の心情が見事に伝わってくる。

 一人芝居<広島の一寸法師>は、舞台にも負けない映画人としての誇りすら感じさせる熱演だった。

 殆ど出番・台詞がないのに、青年役・浅野忠信の存在感もなかなかのもの。

 映画本来の特長であるダイナミズムを放棄しても、宮沢りえ、原田芳雄の出演者、鈴木達夫の撮影、木村威夫の美術、松村偵三の音楽が一体となって、原作の持つエネルギーを映像に残したいという意欲が溢れていた。

 挿入歌、宮沢賢治の「星巡りの歌」が流れ、「こよな むごい別れが二度とあっちゃいけん!」という父と、「おとったん ありがとありました。」という娘の声がいつまでも耳に残っている。
  



 
 

「日本の黒い夏 ー 冤罪」(01・日)60点

2015-07-05 08:08:45 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 「松本サリン事件」、社会派・熊井啓監督の魂心作。

                   

  「帝銀事件 死刑囚」(64)で監督デビューした熊井啓。「忍川」(72) 「サンダカン八番娼館 望郷」(74)などの文芸作品から「黒部の太陽」(68) 「天平の甍」(80) などのエンタテインメント大作まで幅広い作品を手掛けているが、デビュー作や「日本の熱い日々 謀殺 下山事件」(81)など社会派イメージの印象が色濃い監督だ。

 松本市育ちの熊井は94年6月27日に起きた<松本サリン事件>とはとても縁が深く、第一通報者の河野義行夫人の祖父と監督の母は旧長野高等女学校(現・長野西高校)の校長と教師の間柄で、何度か河野家に遊びに行ったことがあるそうだ。

 20年経ってもこの事件は鮮明に記憶に残っている。TV・新聞などメディアによる連日の情報で、筆者を含め大多数の人は被害者である河野さんを容疑者だと思っていた。

 情報はどのように作られ、どのように変化していったのか?しっかり検証したという記憶はなく、真犯人に誤解された河野さんおよびその家族は気の毒だったでは済まされない。
 
 平石耕一の戯曲「NEWS NEWS」をもとに熊井自身が脚本化した「強引な警察の捜査手法と報道機関の過熱取材」がテーマで、事件の1年後高校生の取材に応えたローカルテレビ局TV信濃の報道部長・笹野(中井貴一)ら4人のスタッフが振り返るという内容。

 TV局の笹野や3人の記者、神戸夫妻(寺尾聡・二木てるみ)、長野県警松本署の吉田警部(石橋蓮司)が、事件発生からそれぞれがどのような言動だったかを明らかにして行く。

 警察発表に誘導されるようにマスコミがあたかも<青酸カリが大量殺人の原因であるような誤った初期報道>が致命的。それがサリンという聞きなれない毒物が原因と判明すると、あたかも簡単に作れる危険薬物であるかのような誤報が追い打ちとなってしまう。

 「TV信濃」では誤報を避けるため<青酸カリによる大量殺人が可能か>裏付けを取ろうとするが、はっきりしないまま他局に先を越されてしまう。

 その後毒ガスはサリンと判明、大学教授藤島(藤村俊二)の「サリンは薬品をバケツで混ぜ合わせて簡単に作れる」との証言を放送したが・・・。

 さらに取材を進めるうち、古屋教授(岩崎加根子)から大がかりな装置と複雑な製法が必要であるとの情報を得て<後藤夫妻は被害者であるという裏付けのサリン特番>を放送すると大きな反響があった。

 それは、皮肉にも視聴者からの抗議電話が殺到し、局内の反感を呼んでしまうという結果。被害者の後藤家には無言電話や石が投げられ完全に犯人扱いの村八分状態はエスカレートという予期せぬ反響となってしまった。

 一途な高校生(遠野なぎ子)の感情には大人の事情は到底理解できない。民放局はスポンサーありきで、視聴率が何より大切であること。警察には検挙率が最優先で、取材記者には記者クラブという暗黙のルールがあることなどなど・・・。

 熊井監督は、当初被害者を中心にした事件の真相解明ドラマを描いてみたがシックリ来ず、若い目で事件を見る発想に変えたという。

 その分とても純粋な高校生から見たサリン事件は、TV局報道関係者4人それぞれの心情や、警察や報道機関から犯人扱いされた家族の過酷な心境が類型的に描かれるという突っ込みに中途半端な印象が付きまとってしまった。

 それでも、限られた予算でこれだけのスタッフを揃え、愚直なまでに思いの丈を映像に遺した熊井監督に敬意を表したい。その後の大事件発生でもスピード競争ばかりが目立ち、同じような過ちが繰り返されている。マスコミへの信頼度は益々希薄になっているのが現状だから。

 筆者にとって遺作となった「海は見ていた」(02)のほうが清廉な熊井監督らしくて、数段好きなのだが・・・。
 
 

「SABU さぶ」(02・日) 65点

2015-04-24 14:39:15 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 情緒溢れる山本周五郎・原作の21世紀版青春時代劇。

                     

 山本周五郎の原作は巨匠・黒澤明などによって数多く映画化されている。「さぶ」も小林旭・浅丘ルリ子・長門裕之で映画化(「無頼無法の徒 さぶ」64)されているが、これは21世紀版。

 もともとTV局の周年記念ドラマで放映されたものを完全版として再編集し劇場公開したもので、監督は鬼才・三池崇史だが一連の作品のような過激さはない。

 経師屋・芳古堂に住込みで働く栄二(藤原竜也)と<さぶ>(妻夫木聡)は大の仲良し。身寄りのない栄二はさぶを弟のように可愛がっていた。

 馴染みの得意先・綿文で仕事をしていたとき、突然栄二は仕事を外され姿が見えなくなった。店が大切にしていた高価な<金襴のきれ>が栄二の道具箱から見つかり、石川島の人足寄せ場へ送られしまっていたのだ。

 綿文の中働きをしている<おすえ>(吹石一恵)は栄二と良い仲で、何れ一緒になるはずだった。

 冒頭、泣きながら田舎へ帰ろうとする幼い<さぶ>を、栄二が慰め2人で将来を約束するシーンから始まる。雨に濡れながら歩く2人に傘をさし出したのが12歳の<おのぶ>(のちの田畑智子)だった。

 薄幸の少年・少女が必死に生き若者へ成長したとき、理不尽な世の中をどう受け止めるのか?21世紀の今も同じようなことが起きる現実を思ってしまう。

 寄せ場に足しげく通い励ます<さぶ>と<おすえ>。<さぶ>は良かれと思って自分がやったと嘘までついてしまう。

 理解ある大人の示唆で立ち直るキッカケを得た栄二。沢田研二扮する役人・岡安が何かと気配りをしてくれる。「風は荒れることもあれば、静かに花の香りを運んでくることもある。」という台詞が心に沁みる。

 寄せ場の荒くれ浮浪人たちも取締る役人も、貧しい娘を売って金を得る因業な女衒まで、根っからの悪人は出てこない。みんなシガラミのなか肩を寄せ合って必死に暮らし、いざというときには自分を犠牲にまでする人が登場するのが、周五郎の世界なのだ。

 当時20歳の藤原竜也が自立心旺盛な兄、22歳の妻夫木が心優しい泣き虫の弟を共演し奮闘するが、江戸の下町情緒を感じさせないのが辛い。

 女優では小料理屋「すみよし」で再会する<おのぶ>を演じた田畑智子がとてもサマになっていて、ほのかに栄二に片想いするさまが愛おしい。時代劇の下町娘をやらせたらピカイチだろう。

 吹石一恵も一途な娘心を演じて好演、脇を固める沢田研二、六平直政、山田辰夫、堀部圭亮、遠藤憲一、大杉漣など多士済々。

 先人たちが築いてきた人情時代劇の雰囲気は味わえなかったが、二一世紀になっても日本人のDNAは失われていないと感じる作品だった。 

「春との旅」(09・日) 80点

2014-11-08 15:42:58 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・小林政広監督・仲代達矢の集大成とベテラン脇役陣の演技比べ作品。

                    

 映画ファンを自称する筆者だが、不覚?にも小林政広監督作品は今まで観たことがなかった。本作を観て力量の程を実感するとともに、従来作品を見比べて集大成だったのでは?と感じた。

 さらに仲代達矢も数々の映画のなかでも、これがある意味で一区切りとなる好演であった。若かりし頃のエネルギッシュでシャープな演技、黒澤明作品で魅せた脂っこさも忘れられないが、どちらかというとオーバー・アクションが好みではなかった。ところが本作はフレーム内に収まった抑えた内面の演技で改めて感心させられた。

 <春>とは、北海道の増毛で暮らす元漁師・忠男の孫娘の名前。給食係として働いていた小学校が廃校になり失職して上京して職探しをしたい春。2人が忠男の受け入れ先を求めて姉・兄弟を訪ねる旅を通して、さまざまな家族・暮らし振りを垣間見るロード・ムービー。

 ニシン漁の夢を諦めきれず頑固に生きてきたが足が不自由になり漁も儘ならず、一人娘を自殺で失い残された孫娘に生活を委ねてきた忠男。

 長兄・重男夫婦(大滝秀治・菅井きん)夫婦を手始めに、仲の良かった弟、旅館経営で頑張っている姉(淡島千景)、不動産業を手広くやっている末の弟・道男夫婦(柄本明・美保純)を訪ねるが、身勝手な忠男を引き取り面倒を観る兄弟は現れない。

 豪華なベテラン俳優たちが、まるで演技比べをするように次々と現れ、仲代と競い合う様子は見応え充分だ。それぞれの事情を窺わせる台詞が散りばめられ、それを時にはにはロングショットで時にはアップでカメラが追う。

 淡島千景は長い芸歴でこれが遺作となってしまったが、ダメな弟を叱りつけ容赦なく追いかえしながら、見送る姿に姉としての愛情と惜別の瞬間を魅せ、さすが大女優の風格だった。

 小林監督のシナリオは、女性の理想像を願いながら描く監督のようだ。刑務所入りの夫を食堂経営で支える義妹・愛子役の田中裕子、末弟・道男の妻・明子役の美保純、自殺した娘婿・真一(香川照之)の後妻・伸子役の戸田菜穂など、殆ど初対面の2人を想いやりを持って迎え・見送っている。

 主演した大御所・仲代とペアで終始出ずっぱりだった春役の徳永えり。祖父への思い遣りと嫌悪が複雑に絡み合う。旅を続けながら、胸の内を吐き出した父への想い。監督の拘りの演出に耐えながら田舎の純粋な少女になりきった渾身の演技は、敢闘賞をあげたい。

 北海道・東北を殆ど順撮りしながらオール・ロケした映像は、北の風土・情景が映し出されている。その東北も3.11の震災で失ってしまった。2人の旅はもう再現不可能なのが感慨深い。

 日本映画の両巨頭・小津安二郎と黒澤明を意識したテーマと斬新映像は、誰もが意識していて小林政広もそのひとり。間違いなく本作によって受け継がれたというのは言い過ぎだろうか?

「オリヲン座からの招待」(07・日) 80点

2014-09-28 15:36:27 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 宮沢りえの女優魂と、台詞では表せない映像に惹かれる。

                    

 浅田次郎の短編をもとに三枝健起監督が映画化。宮沢りえ・加瀬亮主演による昭和のノスタルジー溢れる物語。

 良枝(樋口可南子)のもとに京都西陣にある映画館オリヲン座から閉館の知らせとともに記念映画上映の招待状が届く。別居中の夫・祐次(田口トモロヲ)を誘うが断られる。

 舞台は昭和32年、松蔵(宇崎竜童)・トヨ(宮沢りえ)夫婦で賄っている映画館オリヲン座へ。「二十四の瞳」と「君の名は」二本立てを上映中。着の身着の儘の留吉(加瀬亮)という青年が雇って欲しいと訪ねてくる。

 庶民の娯楽が映画だった昭和30年代は、TVの普及とともに衰退の一途を歩み始め、町の映画館は徐々に無くなって行く。

 そんな栄枯盛衰を経ながら昭和25年開館以来、半世紀以上あかりを灯し続けていた映画館には、映画のような男と女の純愛物語があった。

 その映画は太平洋戦争中の昭和18年('43)作られた「無法松の一生」。無学な人力車夫がお世話になった男の未亡人に秘かに想いを寄せる切ない物語。名優・阪東妻三郎の豪快な演技とともに、戦時中のためカットされた未亡人への告白シーンが話題となった。のちに稲垣浩監督は三船敏郎主演でリメイクしてヴェネチア国際映画祭・グランプリを獲得しているが、オリジナルは幻の名作と言われていた。

 松蔵は留吉にその話をして、いつか上映してみたいという。タバコと酒で急死した松蔵の遺言のように、映写技師としてオリヲン座を支えた留吉にはその映画が自分と重なっていたに違いない。

 筆者が育った時代は良枝と祐次より10年ほど前で「二十四の瞳」の上映時は10歳だったから、時代の空気は共有でき、まるでタイムスリップしたような感覚に浸れた気分。留吉が自転車でフィルムを運ぶシーンで上映していた大友柳太郎の「丹下左膳」(60)は16歳、映画館で観ていた。

 ちょうど「ALWAYS 三丁目の夕日」があらゆる層に受け入れられ昭和回顧ブームを起こしたこの年、同時期に公開されている本作。エンタテインメント性に欠け、時代を体験しなかった世代にはピンとこない内容で、興行的には完敗だったが筆者は遥かに本作のほうが好きだ。

 原作は祐次・良枝の物語が中心で何故オリヲン座が大切な存在かを想わせる流れだが、脚本(いながききよたか)は留吉・トヨにシフトしている。そのため流れに物足りなさやリアル感のなさを指摘するヒトも多い。日本版「ニューシネマ・パラダイス」の趣きだが、良くも悪くもそれ程のアクの強さはない。寧ろ淡々と進み感情に入り込めないという感想も。

 もっともではあるが、あの時代を体感したヒトにとって情感は充分伝わってくる。台詞では語りつくせない映像の美しさや魅力がある。なによりトヨを演じた宮沢りえがいい。儚さと情感溢れる若き未亡人役はまさに適役。夫を亡くしながら年下の男と一緒に暮らす不義理な女と噂されながら、傍にいたら誰でも命懸けで庇いたくなりそう。

 スキャンダルで話題を浚い、久しく銀幕には遠ざかっていて久々の登場だが、いまや女優としてはピカイチで吉永小百合を超えている。注文をつけるとすれば若い頃のようにふくよかさが欲しい。本作以降舞台に活躍の場を移していたが、この秋(11月)封切り予定の「紙の月」が楽しみだ。

 共演者もみんな好演している。相手役の加瀬亮は役柄がイメージどおり。ただ晩年の原田芳雄があまりにもガッチリとしていて、繋がりに欠けるきらいはあるがこれには目をつぶろう。トヨの晩年を演じた中原ひとみも風貌が正反対だったが、台詞が殆どなかったので善しとしよう。(無名でもイメージが合う女優でも良かった。)

 宇崎竜童、豊原功輔の2人が俳優としても立派に通用することを示し、子役の小清水一輝、工藤あかりもなかなか達者で原田芳雄も含め頑張っている。田口と樋口には見せ場がなかった原因は脚本なのか演出なのか・・・。

 留吉がホタルを見つける洛北・柊野、トヨが自転車を漕ぐ鴨川公園など印象的な京都の風景と、バックに流れる上原ひろみのテーマ曲・村松宗継のピアノ音楽が、さらにノスタルジックな気分に浸ることができた。
 
 

 

「眉山」(07・日) 60点

2014-09-12 12:13:05 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 壮観な阿波おどりを背景に、母と娘の絆を謳いあげる。

                    

 さだまさし原作の映画化3作目の舞台は、長崎ではなく徳島だった。グレープ時代ザ・ピーナッツの前座で全国を巡業中、ケーブルカーで眉山に登った印象が深く彼の創作意欲を掻き立てたという。

 東京で旅行代理店のキャリアウーマンとして働いている咲子(松島奈々子)。徳島で独り暮らしをしている母・龍子(宮本信子)が入院しているという知らせを受け、久しぶりに帰郷する。医師からは末期ガンであることを宣告され途方に暮れる。

 物語は母から亡くなったという咲子の父と若かった母・龍子との秘められた恋に辿りついて行く。

 最大の見所は、12000人のエキストラを動員した徳島名物<阿波おどり>。地方の文化には独特の祭りが多いが夏は東北と並んで四国が知られ、阿波おどりもそのひとつ。優雅な女踊りと少し滑稽な
男踊りが連をなして壮観だ。

 犬童一心監督はCM出身らしく、美しいなだらかな眉山やダイナミックな阿波踊り風景を背景に、母と娘の心情を描写している。

 神田のお龍こと龍子役の宮本信子が適役だ。伊丹作品以来ご無沙汰だった映画出演は10年振りという。粋な着物の着こなし、人形浄瑠璃での節回し、気に入らない客を啖呵で追い出すなど得意なシーンが盛り沢山。

 松島奈々子も微妙な年頃の30代を迎え頑張ったが、映画のフレームには不向きな体型なのか?共演の恋人役大沢たかおとともに、涙を誘う予定調和の脚本では力の発揮どころが限られてしまった。
 
 ほかには、今は亡き脇役の夏八木勲・山田辰夫のさり気ない演技が見られたのが得した気分にさせられた。

 献体という制度を再認識させられたのもこの作品の特徴だが、徳島観光PR映画の域を超えることはできなかった。