晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「麗しのサブリナ」(54・米)75点

2021-08-28 12:08:34 | 外国映画 1946~59


 ・ オードリーのハリウッド2作目はワイルダー監督による王道のロマコメ。


 「ローマの休日」で衝撃のハリウッド・デビューを果たしたA・ヘプバーンの次回作は、ビリー・ワイルダー監督のウィットに富んだロマンチック・コメディ。
 サミュエル・テイラーの戯曲をもとに大富豪の兄弟とお抱え運転手の娘との恋を描いた王道のラブストーリー。

 オードリー在りきの本作は前作「ローマの休日」とは逆パターンで、運転手の娘が身分違いの男に憧れ<月に手を伸ばすような恋愛>を成就させるというシンデレラもの。

 大富豪のララビー家の兄ライナスにはハンフリー・ボガート、弟デイヴィッドにはウィリアム・ホールデンが扮し引き立て役を務めている。

 ケーリー・グラントがライナス役を断ったため回ってきたため、ボギーに合うようシナリオを書き直したという。仕事人間の堅物で恋とは無縁の中年男を演じている。オードリーとは30歳年上で2年後他界している彼にはミスキャストでは?という声も多いが、事業以外生き甲斐のなかった男が初めて知った恋心をどう抑えようかドギマギする姿は共感を呼んで、さすがの存在感。

 W・ホールデンのデイヴィッドは、離婚歴三回で婚約者もいるのにパリ帰りのオードリー扮するサブリナへ猛烈アタックするプレイボーイ役。「サンセット大通り」(50)、「第十七捕虜収容所」(53)とシリアスな役柄とは打って変わってのラブコメを楽しんでいる。

 ボガート、ホールデンの共演は「前科者」(39)で仲違いして以来二度目だが、プライベートはおくびにも出さない兄弟愛の演技は、まさに一流スター同士である所以だ。二人のギャラがオードリーの20倍(ボガート)、8.3倍(ホールデン)だったという。

 オードリーがハリウッド俳優として自他共に認められたのは、キュートでピチピチした少女からエレガントな大人の女性に生まれ変わり目を奪割れるような美しさが際立つのはワイルダー演出のタマモノ。
 サブリナの名前がついたパンツ・スーツ・イヴニングはジバンシーの名とともにファッションの世界に定着したが、オスカー衣装デザイン賞を受賞したのは皮肉にもイーデス・ヘッド。後日談で明らかになったが3点はオードリーの私物ということだったようだ。 

 「ローマの休日」を演出したウィリアム・ワイラー、「麗しのサブリナ」を製作・監督したB・ワイルダーはともにヨーロッパからハリウッドへ渡ってきた似たもの同士。
 その後「ベンハー」(59)など大作を手掛け名匠と謳われたワイラー、ハイテンポなコメディ中心で観客を虜にしたワイルダーと道は違ってもハリウッドを支えた名監督同士で仲も良かったという。
 ワイラーは「噂の二人」(61)・「おしゃれ泥棒」(66)、ワイルダーは「昼下がりの情事」(57)でオードリー作品を手掛けているがワイルダーのほうが彼女の魅力を生かしているように見える。

 ニューヨーク・タイムズ誌でボズリー・クロウザーが<折れそうな細い身体に驚くほど繊細な感覚と揺れ動く感情が詰め込まれている。彼女が演じた運転手の娘は前年演じた王女よりも輝いて見える>と評している。諸手を挙げて賛成である。

 

 

 

 

 

「西部魂」(41・米)70点

2021-08-22 12:07:25 | 外国映画 1945以前 


 ・ ナチから逃れたフリッツ・ラング監督による西部劇・第2作。


 「激怒」(36)「暗黒街の弾痕」(37)などフィルム・ノワールで名高いオーストリア生まれのフリッツ・ラング監督が、米国亡命中手掛けた西部劇3作のうちの第2作。
 ゼイン・グレイの原作「Western Union」を映画化したテクニカル・カラー。

 南北戦争時代、大陸横断通信網の施設工事を巡って通信会社とそれを阻もうとする南部ゲリラ隊や先住民との戦いを描いた西部開拓史。
 主な出演は測量技師長エドワード・クレイトン(ディーン・ジャガー)、流れ者で後に道案内役として片腕となるヴァンス・ショウ(ロバート・ランカスター)、ハーバート出の電信技師リチャード・ブレイク(ロバート・ヤング)の三人。

 ラング監督はヘンリー・キング監督「地獄への道」(39)の続編自身初の西部劇作品「地獄への逆襲」(40)が大ヒットしたため、ダナル・F・ザナックから本作へのご指名があったもの。
 男の友情・淡い恋・銃撃戦など娯楽西部劇には欠かせないテーマを、大画面での迫力とユーモアをミックスしながら切れ味良く進めていく。
 ヴァンスとエドワードが出会った冒頭、二人のアップとバッファローの群れを折り込んだカットで観客を引きつけるテクニックは斬新な映像で、二人の奇妙な友情がストーリーの柱となることを暗示している。
 生まれも育ちも違うヴァンスとリチャードはエドワード最愛の妹スー(ヴァージニア・ギルモア)を巡る恋敵として描かれ、最後までその行方は分からない。

 タイトルはR・ヤングの名が最初に出てくるが、物語としてはR・スコットが主役である。中年を過ぎて押しも押されもしない西部劇大スターとして名を馳せるが、当時はまだB級西部劇での主役を務めている頃。34年の俳優生活で100本以上出演しその半分以上が西部劇だったというスコット。ジョン・ウェイン、ゲイリー・クーパーと並びハリウッドの娯楽西部劇を支える存在となっていく。
 本作では過去を隠した謎多き人物像だが、その心情まで表現できる演技力には欠けていたものの正統派2枚目スターとしてドラマを牽引していた。

 スーを演じたV・ギルモアは本作では紅一点で男社会で生きる凜とした美しさがあり、リチャードとヴァンスの恋の相手より西部開拓事業に貢献したい理想の高い女性役。

 コックのクッキーに扮したのはベテランのスリム・サマーヴィル。もっぱらコメディ・リリーフとして大活躍。ラング監督の語り口の巧さに応えている。

 ネブラスカのオハマからユタのソルト・レイクまで電柱を建て通信網を延長する工事はリンカーン大統領から祝電がくるほどの大事業。当然先住民に邪魔されないような配慮と南部ゲリラ隊の排除が最重要なこと。
 先住民には電線は魔除けだと言って逃れるが、ゲリラ部隊には手を焼き、作業所や森林火災など大変な目に遭う。
 迫力ある火災シーンは見所のひとつ。

 ヴァンスの正体が判明し終盤での銃撃戦はガンマンではないリアルなもので、ラング監督の拘りが見えるシークエンス。
 第一次戦争体験で右眼を失明したラング監督にとってスタイリッシュな決闘シーンは絵空事だという想いがあったことだろう。
 

 

 

「我等の生涯の最良の年」(46・米)80点

2021-08-19 12:16:30 | 外国映画 1946~59


 ・ 復員兵の社会復帰プロパガンダ映画の傑作。


 マッキンレー・カンター原作[Glory for Me」をサミュエル・ゴールドウィンがプロデュースし、この年のオスカー9部門を受賞した伝説の映画。監督は名匠ウィリアム・ワイラー。

 第二次世界大戦後、同じ軍用機で中西部の故郷へ戻ってきた米国帰還兵三人が、市民生活に馴染むために様々な問題を抱えながら再生しようとする姿を丁寧に描いた群像劇。

 アル(フレドリック・マーチ)は陸軍軍曹で元銀行マンのエリート。フレッド(ダナ・アンドリュース)は空軍大尉でドラッグストアの店員。ホーマー(ハロルド・ラッセル)は両手首を失った水兵で恋人が待っている。
 年齢・家族構成・暮らしぶりも三者三様の三人だが同郷のよしみで仲良くなり、再会を誓ってそれぞれの家へ戻っていく・・・。

 当時PTSDという言葉はなかったと思うが、アルは理想的な妻ミリー(マーナ・ロイ)と娘ペギー(テレサ・ライト)と息子に迎えられ、銀行復帰も叶いながらアルコール中毒状態。裕福な生活環境がちょっぴり変化しすっかり大人になった娘と息子の成長ぶりに戸惑っている。
 フレッドは出生20日前に結婚した妻マリー(ヴァージニア・メイヨ)が家を出て、ナイトクラブで働いていると両親から聞き驚く。爆撃手として功績大で勲章を貰い大尉に昇進するが、後遺症にうなされている。職探しもままならず元のドラッグストアの店員となったが薄給で、派手好きの妻には愛想を尽かされる。
 傷痍軍人のホーマーは家族や隣家の恋人から温かく迎えられるが、必要以上に気を遣うさまに耐えられず家に閉じこもってしまう。唯一普通に対応してくれる叔父のブッチ(ホービー・カーマイケル)が経営するピアノバーが癒やしの場となる。演技経験のないH・ラッセルが障害者の悩みをそのまま演じ、オスカー助演男優賞と<復員兵に勇気と希望を与えた>として特別賞を受賞している。

 終戦の翌年上映された本作は、社会復帰もままならない帰還兵やその家族・恋人たちがいっぱいいたはずで、演じた誰かに自分を置き換えて観た人もいたことだろう。シリアスなドキュメンタリーではなく、登場人物に寄り添いキメ細やかに描いた心温まるストーリーにすることで観客の共感を得られたに違いない。

 W・ワイラーは戦場と現実社会のギャップを俯瞰で捉え、S・ゴールドウィンとの意見の食い違いがあったにもかかわらず決してアメリカ万歳の作品にはしていない。
 傷痍軍人のホーマーに<日本は英ソへの戦意しかなく無駄な戦争だった>という男を登場させたり、ジャップというアルに息子が<原爆のことを尋ねたり、日本人は家族の絆を大切にする>といわせたり、かなりキワドイシーンもある。

 反面、銀行の担保と戦争のリスクを比較したスピーチなど戦場で戦った兵士への敬意を示すシーンも随所に織り込んで、兵士の社会復帰プロパガンダの役割をしっかり果たしている。

 女性陣のキャラクターがちょっぴり類型的ながら、戦争で心身をすり減らした三人の復員兵は愛情溢れるエンディングを迎える。戦後のホームドラマの味わいをたっぷり魅せてくれたストーリーは、172分という長さを感じさせない巨匠の手腕によるところが大きい。

 

 
 
 

 

 

「私は告白する」(53・米)75点

2021-08-14 12:06:09 | 外国映画 1946~59


 ・ 宗教の戒律をテーマにしたヒッチの異色サスペンス。
 ポール・アンセルムの戯曲「私たちの2つの良心」をアルフレッド・ヒッチコックが映画化した異色サスペンス。
 ケベックに住む神父が強盗殺人を告解(告白)され守秘義務を守る聖職者であるため真実を語ることができず、自分に容疑が掛かり追い詰められて行く・・・。

 主人公の神父マイケルに「陽の当たる場所」(51)のモンゴメリー・クリフト、元恋人で国会議員の妻ルースに「剃刀の刃」(49)のアン・バクスターが初共演。

 ケベックの美しい街並みをモノクロ映像が捉え、ヒッチがカメオ出演する冒頭からローアングル・俯瞰シーン・斜めのカットを駆使し、これから起こる事件の不安感を誘う滑り出し。
 
 前半は事件を起こした殺人犯オットー(O・E・ハッセ)から告解され守秘義務を全うしようと思い悩むマイケルが、事件を担当するラルー警視(カール・マルデン)の捜査でアリバイを拒否したため容疑者となっていく過程が描かれ、シリアスなヒューマンドラマのおもむき。

 中盤はルースがアリバイを証明するために登場。しかし彼女が元恋人で被害者から脅迫されていた過去を明かしたことで殺害の動機となってしまう。あたかもラブ・サスペンスへと展開して行く。

 終盤で予定調和ながら漸く持ち味を存分に発揮、シリアスな原作をヒッチが映像化するとこうなるという展開を見せてくれた。

 M・クリフトはこの年「地上より永遠に」「終着駅」と3本に主演し、演技派二枚目俳優として名実ともに絶頂の頃。本作もまさにはまり役だったがヒッチとの相性があまり良くないことは明らかで、その後内面描写を表現する演技派へと傾倒して行く。
 さらにゲイ・アルコール・薬物などスキャンダル続きで45歳の若さで亡くなってしまう。もっと活躍してほしかった人材で、後年M・モンロー、C・ゲーブルの遺作「荒馬と女」(61)での共演は何とも因縁深い。

 共演したA・バクスターは、ハリウッド・デビューの予定だったアニタ・ビョルクの代役として起用された。当時ロベルト・ロッセリーニとの不倫事件でハリウッドを騒がせたイングリッド・バーグマンの二の舞を恐れたためだった。
「イヴのすべて」(52)の好演で注目を集めたアンがモノクロ映像なのにヒッチの好みで金髪に染め頑張ったが、キャラクターとしての存在感不足は否めない。
 21年後TV「コロンボ 偶像のレクイエム」(73)で実像と重なるような女優ノーラ・チャンドラー役が話題となった。

 K・マルデンは「欲望という名の電車」(51)など特異な風貌の性格俳優で知られるが、本作では仕事熱心だが犯人扱いで変貌する世俗的なラルー警視を演じて印象深い。

 必ずしも成功作とはいえないが、ヒッチが独特のユーモアを封印してまで<宗教をテーマにしたラブ・ロマンスの異色サスペンス>に挑んだ作として一見の価値ありと感じた。