晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「クライ・マッチョ」(21・米)75点

2023-10-30 14:20:45 | 2016~(平成28~)
・コロナ禍・91歳で監督・主演したC・イーストウッドのネオ・ウェスタン

 '78年、ロディオの元大スターだった孤独な男が旧知の牧場主から息子を連れ戻して欲しいと頼まれメキシコへ渡り、二人でアメリカへ戻ろうとする老カウボーイと少年の交流を描いたロード・ムービー。

 本作の企画は何と40年前にあったとのこと。クリント・イーストウッドが50歳で「ブロンコ・ビリー」(80)を監督・主演していた頃だ。
 N.リチャード・ナッシュ原作の主人公は38歳だが、彼は初老の元ロディオ・スターのイメージで映画化を考えロバート・ミッチャムをキャスティングしようとしたが実現しなかったという。

 監督50周年40作目企画で再浮上した本作はシュワルツネッガーが候補になったが実らず、御大自ら主演の運びとなり「グラン・トリノ」(08)の脚本ニック・シェンクに委ねられた。

 <主人公が若者に大事なことは何かを伝承する物語>は彼が長年テーマにしていて、本作は少年の相棒でもある闘鶏の名でもある<マッチョ>とはどういうものか?が主題である。

 <マッチョは過大評価。老いとともに無駄な自分を知る。気づいたときは手遅れなんだ。>という台詞は彼の映画人生を俯瞰しているようだ。

 地味で枯れた映画という酷評もあるが、荒野を自ら車のハンドルを握り30年ぶり馬上でのカウボーイ姿で主人公マイクを演じた彼は、その映像だけで貴重な宝もの的な存在。

 無駄のないカット・自然の光と影の映像美、気骨ある老人のモテモテぶり、クスっという笑いなどイーストウッド作品らしいシーンの軌跡の映像化に感動させられる。
  
 監督・主演作はこれが最後かもしれないが、また新作をクランクインしたというイーストウッド。まだまだ新作が観られるのは嬉しい限り。
 




 

「君たちはどう生きるか」(23・日) 70点

2023-10-18 12:05:50 | 2016~(平成28~)
・ 日テレ傘下入り前・宮崎駿最後の?ジブリ作品。

 ポスターのみで事前宣伝を一切行わなかった宮崎駿13作目は公開後ファン賛否が渦巻いていたが、ここに来て沈静化しつつあるようだ。

 筆者は「風の谷のナウシカ」(84)以来2度目の劇場公開での鑑賞というほど宮崎アニメには疎い人間だが「千と千尋・・・」など公開後話題作は観ていたので恐らく遺作になるだろう本作は劇場鑑賞した。

 ひと言で言えば総集編である。作画は本人ではないが随所に過去の作品を思わせるシーンが現れ宮崎ワールドに魅了される。

 時代は1944年、10歳の少年牧真人。入院中の母を亡くし父の経営する軍需工場へ疎開した2年間のファンタジー。
 宮崎の生い立ちとオーバーラップするが実年齢(3歳)とは合致しないため自伝的要素を織り込んだもの。

 多感な少年時代、大好きな母を亡くしその妹を母親と呼ぶには複雑な戸惑いが全編に流れる。

 未読だが本ネタはジョン・コナリーのファンタジー小説<失われたものたちの本>で本題の吉野源三郎の小説は宮崎の愛読書だという。この2冊が重なって骨格ができあがったようだ。

 物語は説教臭くなく楽しめるが深層心理はよく分からない。恐らく何度も観ることで見えてくるのだろう。

 大叔父の不安定な13個の積み木を託された真人が自分の扉を開けて新しい世界へ旅立つことで感性や生き甲斐を見つけることができることを暗示しているようだ。

 日テレ傘下に入り宮崎ワールドは本作が最後になりそう。製作が遅れ完成した本作は巧く編集したとはいえないが盟友の故・高畑勲には伝わったに違いない。