晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『デンジャラス・ビューティー2』 65点

2011-02-26 16:12:31 | (米国) 2000~09 

デンジャラス・ビューティー2

2005年/アメリカ

S・ブロックの頑張りで...。

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 65

ストーリー ★★★☆☆65点

キャスト ★★★☆☆70点

演出 ★★★☆☆65点

ビジュアル ★★★☆☆70点

音楽 ★★★☆☆65点

サンドラ・ブロックの新境地として4年前大ヒットしたFBI捜査官の大奮戦記の続編。原題が「ミス・コンジニアリティ」のとおり女同士のバディ・ムービーに仕上がっている。相棒に抜擢されたのはレイで好演したレジーナ・キングだが、意外に小柄でグレーシーに反発しながら友情を育む重要な役柄だが、正直あまり適役とは思えなかった。プロデューサーでもあるS・ブロックは今回マイケル・ケインをキャスティングできず、多少小粒化したのは残念。前作から引き続き出演したのはボスのアーニー・ハドソン、ミス・アメリカのヘザー・バーンズ、司会者のウィリアム・シャトナーといったところ。
舞台をラスベガスに移して見事な脚線美を披露したかと思えばビッグ・バードのコスプレと大奮闘のS・ブロック。元気を貰える度合いが少しダウンしたがパート1を観なくてもそれなりに楽しめる作りに仕上がっている。さすがにパート3は無理なようだ。


『デンジャラス・ビューティー』 70点

2011-02-25 14:55:10 | (米国) 2000~09 

デンジャラス・ビューティー

2000年/アメリカ

女性が観ると元気をもらえるシンデレラ・ストーリー

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shinakamさん

男性

総合★★★☆☆ 70

ストーリー ★★★☆☆65点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★☆☆70点

ビジュアル ★★★☆☆70点

音楽 ★★★☆☆65点

サンドラ・ブロックが主演、プロデュースもしているコメディ・タッチのシンデレラ・ストーリー。
S・ブロックが扮する男勝りなFBI捜査官が爆破予告のあったミスコン会場へ潜入捜査するため大変身。同僚との淡い恋・出場者との友情・サポートする人たちの反感から好感へなど魅力満載のワン・ウーマン映画でファンでなくても女性が観ると元気になれそう。
S・ブロックを盛り立てるオネエ言葉を連発するカリスマ美容コンサルタントに名優マイケル・ケインを配し、絶妙な「マイフェアレディ」ぶりを魅せる。さらにコンテスト大会委員長に約20年振りに顔を見せてくれたキャンデス・バーゲン、コンテストの司会者にウィリアム・シャトナーというベテランが脇を固める。このベテラン3人は引き立て役としては充分な顔ぶれだ。ただ相棒役のベンジャミン・ブラットが相手役としては弱く、ジュリア・ロバーツの元恋人としてしか印象に残らないのも納得。ミス・アメリカのヘザー・バーンズも可愛いおバカちゃんで、ミスコン出場者とは程遠い。
もっぱら豚のような鼻を鳴らす笑いやカチャカチャ音を立てる食事のマナーの洒落ッ気のない女性が見事なプリティ・ウーマンに変身するS・ブロックの大活躍を楽しむ肩の凝らない作品だ。


『ゼロ時間の謎』 75点

2011-02-24 17:33:04 | (欧州・アジア他) 2000~09

ゼロ時間の謎

2007年/フランス

原作に忠実なフランス製クリスティ・ミステリー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

A・クリスティのミス・マープル「ゼロ時間へ」を、パスカル・トマがフランスの現代へアレンジしている。前作「アガサ・クリスティの奥様は名探偵」と比べるとマープルは出てこないが、原作に忠実で伝統的なミステリーの趣きは失っていない。そのぶん大富豪の老婦人が住む邸宅に集まるテニス・プレイヤーの甥と妻、その前妻という設定そのものに時代を感じてしまう。
叔母が何者かに殺され凶器が甥のゴルフクラブだったがアリバイがある。さて犯人は?邸宅にいる7人の容疑者をヴァカンスに来ていたバタイユ警視が捜査することに。
冒頭<ゼロ時間>とはものごとが進展するするとき、さまざまな出来事が絡み合い沸点を迎え事件は発生する。その沸点のトキを指すとバタイユ警視が説明する。バタイユはその後登場することなく7人の人脈と恋愛模様が続き、なかなか事件は起こらない。観客に犯人は誰かを楽しんでもらおうという展開だろう。叔母が殺される前弁護士がホテルで心臓発作を起こし亡くなったのも殺人だったのが、ヒントになる。
終盤で二転三転のドラマチックな展開を絵トキするシークエンスにもう一工夫が欲しかった。
P・トマは得意のコメディ・タッチに光るものがあり今回は使用人の2人の挙動がクスリとさせてくれる。バタイユも推理するとき「ホームズ、メグレ、ミス・マープル、コロンボ...」とつぶやくキャラクターだが、名探偵のわりにイカンセン出番が少ない。
出演者は大女優ダニエル・ダリューがしっかりと健在ぶりを見せていたが、他は小粒の感は否めない。「僕を葬る」でナイーブな演技を魅せたメルヴィル・プポーは大根だったことがバレてしまい、キアラ・マストロヤンニがM・マストロヤンニとC・ドヌーブの娘でローラ・スメットがJ・アリデイの娘であるという七光り女優を楽しむ作品となってしまった。


『ペイルライダー』 80点

2011-02-23 11:14:00 | (米国) 1980~99 




ペイルライダー


1985年/アメリカ






究極の西部劇に挑んだC・イーストウッド





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shinakamさん


男性






総合★★★★☆
80



ストーリー

★★★★☆
75点




キャスト

★★★★☆
85点




演出

★★★★☆
80点




ビジュアル

★★★★☆
85点




音楽

★★★★☆
80点





「荒野のストレンジャー」「シェーン」のリメイクともいわれたC・イーストウッドの正統派西部劇。
「ガントレット」のマイケル・バトラー、デニス・シュラックの脚本にイーストウッドが加わり、不遇な80年代・西部劇の集大成に挑んだだけあって、美しい映像と徹底的した勧善懲悪、美学を貫き通したヒーローに酔いしれる。
ペイルライダーとはヨハネの黙示録にでてくる、<蒼ざめた馬>を指し、乗るものの死を象徴する馬を意味するそうで、牧師・ペイルライダーと呼ばれる流れもののヒーローは神秘的な存在。背中には6つの銃弾痕がある。ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアのマウンテン峡谷で起きる経営者と代々の土地を守りながら金鉱を探す村人との争いを示談金で仲裁した牧師。村人たちは弱者だが臆病者ではないと峡谷を守ろうと立ち上がる。それを見守り黙って消える牧師。村に住むハルとミーガン母娘の片思いを知りながら...。
守り神を失った村人たちのその後は?経営者と結託した保安官(ジョン・ラッセル)との対決は?老いたとはいえJ・ラッセルのコートでの立ち姿はイーストウッドに負けずかっこいい。
レニー・ニーハウスの音楽も何処か幻想的。
西部劇ファンとイーストウッドファンには必見の作品。それ以外の人には何と独りよがりの映画だと興ざめする作品。もちろん筆者は前者である。






『愛する時と死する時』 85点

2011-02-21 13:22:31 | 外国映画 1946~59

愛する時と死する時

1958年/アメリカ

D・サークが息子に捧げたメロドラマの傑作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

「西部戦線異状なし」のエリッヒ・マリア・レマルクの原作を、巨匠ダグラス・サークがロシア戦線へ出兵した亡き独り息子へ捧げたラブ・ストーリー。
ドイツ軍がロシア戦線で敗退し始めた第2次世界大戦末期。若き兵士エルンストが2年振り3週間の休暇で知った故郷は、想像を超えた悲惨な情景だった。実家は焼け両親は行方不明で尋ね歩くうち医師の娘エリザベスと出逢う。
製作はD・サークがアメリカへ亡命中の’58で台詞は全て英語だが、ロケは当時の西ドイツ・ベルリン。原作者のレマルクが全般をサポートしただけあって、悲惨な戦争で人々がどのような想いで過ごしたがしっかりと描かれていて、単なる甘いラブ・ストーリーではない。自身も教え子であった牛乳屋の息子でナチ親衛隊幹部に監視を受ける教授役として出演もしている。
上司の命令なら民間人を殺すことを拒めない悩みを抱えながら、ヒトを愛することを知った若き兵士・エルンスト。反戦を訴えた父親を失い愛する人を得ながら再び戦場へ送りだす若い妻・エリザベス。とても過酷な環境で得た幸せは何事にも代えられない。エルンストを演じたジョン・ギャビンとエリザベスを演じたリゼロッテ・パルヴァー。主演の2人はあまり名前を聞かないが、この作品にぴったりでもっと評価が高くても良い。公開時アメリカでは評価が低かったらしいが、立派な反戦映画でもあり、ゴダールが絶賛しただけあって、究極の人間ドラマでもある。


『再会の食卓』 80点

2011-02-20 11:47:19 |  (欧州・アジア他) 2010~15

再会の食卓

2010年/中国

国情に翻弄されながら必死に生きた市井の人々

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「トゥヤーの結婚」でモンゴル自治区で暮らす人々を描いてカンヌ・グランプリを獲得したワン・チュエンヤン監督が、今回は台湾からの帰郷団の取材をもとに上海の家族を通して夫婦・親子とは?を問う物語り。
中国と台湾という微妙な関係に翻弄されたユィアー。元夫に40数年ぶりに再会し、今の夫や家族と食卓を囲みどんな思いが蘇ったのだろう。主人公の3人は激動の中国に翻弄されながら必死に生きてきた市井の人々。とくにユィアーには1年しか暮らしていない元夫への想いは女として決して消し去ることはできないだろう。台湾で暮らすイェン・ションには望郷と懺悔の気持ちと余生への想いで一杯。イチバン気の毒なのは上海の夫シャンミン。息子を抱え途方にくれるユイアーを気の毒に思い、国民党の遺族であることを承知で引き取り、娘2人をもうける。こんな家族団らんの食卓に台湾からの賓客を迎えるだけでドラマになる。息子は競争社会から脱落し、次女は今の生活を壊しにきたイェン・ションを許せない。一家は急激な変化に巻き込まれながら過ごし、孫の世代は大都会上海の繁栄を当たり前のものとして享受している。向田邦子や橋田寿賀子のホームドラマの世界と同じ切り口だが、特異な設定の割に物語は淡々と進んで行く。東洋の文化を底辺に持ちながら欧米並みの発展を遂げた上海文明が本流となりつつなる今の中国・上海を見事に切り取って見せてくれた。カンヌの銀熊賞(最優秀脚本賞)を獲得した若手脚本家ナ・ジンの視線が孫のナナを通して描かれている。
倹約家で質素な生活のシャンミンは高価なカニを振る舞い、秘蔵の酒を飲み大いに謳う。3人の食卓は必死に生き延びた人生を切々と訴え、とてもいい場面だ。同情を禁じ得ないシャンミンが本音を隠し家族に意見を託したり、料理店で高級な白酒を飲み大声を発し隣客と口論する場面がとても切ない。
ユィアーを演じたリサ・ルーは「ラスト・エンペラー」で西太后を演じたヒト。とても80歳を超えたとは思えない、みずみずしいヒロインぶり。元夫役のリン・フォンは台湾歌手で中国を初めてTVで紹介したプロデューサーでもある。この作品への想いも人一倍強いだろう。シャンミン役のシュー・ツァイゲンは中国の大ベテラン。ナナ役のモニカ・モーは環境保護を訴えたヌードで有名な若手女優。このカルテットが世界一変化の激しい上海に暮らす人々の存在を改めて考えさせてくれる。
台湾からの帰郷団が盛んだったのは90年代。時代が10年ほどギャップがあるのは目をつぶろう。


『ギャング・オブ・ニューヨーク』 80点

2011-02-16 10:18:16 | (米国) 2000~09 

ギャング・オブ・ニューヨーク

2002年/アメリカ

NYを愛するスコセッシの想いが溢れる叙事詩

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

マーティン・スコセッシが長年温めていた企画をジェイ・コックスらが脚本化した19世紀中頃のNYを描いた壮大な叙事詩。NYを愛するM・スコセッシの想いが画面いっぱい溢れ出ている。この年のカンヌ映画祭でダイジェスト版をお披露目して大絶賛を浴び、米アカデミー賞に9部門ノミネートされ、大本命と目されながら無冠となった期待外れの作品として記憶に残っている。
改めて観ると、建国間もないアメリカの歴史を南北戦争以外で映像を通して伺い知る貴重な作品である。ドラマとして冗長さはあるものの、いまでも大きな社会問題である人種や宗教の対立を背景に、親子の情愛を切り口とした壮絶な生きざまを表現したとても骨太な作品である。
’46年マンハッタンの南部スラム地区、ファイブ・ポインツで起きたネイティブ・アメリカンズとデッド・ラビッツの抗争。ネイティブアメリカンズはUKから移住してきたWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)で、デッド・ラビッツとはアイルランドから最近渡ってきた移民のグループのひとつでカトリック。リーダー同士の闘いはネイティブのビル・ザ・ブッチャー(ダニエル・ルイ=ルイス)の勝利となる。父を殺された幼い息子が16年後刑務所からファイブ・ポインツへ戻ってアムステルダム(レオナルド・デカプリオ)と名乗る。
ファイブ・ポインツをすっかり握ったビル。アムステルダムの復讐がなるか?がメインテーマだが2人の間に疑似親子の関係が生まれ葛藤が始まる。さらに同じような境遇の女スリ・ジェニー(キャメロン・ディアス)とのラブ・ロマンスや幼なじみのジョニー(ヘンリー・トーマス)との友情が絡んで悩ましい状況に。
ジェニーのキャラクターが個性溢れた人物として描かれ、演じたD・レイ=ルイスが素晴らしい。シルクハットでカイゼルひげ・左の義眼という風貌で、元ボクサーで肉屋という人物像は実在のモデルがいた。単なる極悪人ではなく、男の誇り・剛さ・思いやりを忘れていない。
デカプリオもディアスも頑張ったがこの個性溢れる人物にさらわれてしまった。
NY発展の歴史に暴力の抗争があったという紛れもない事実。公開直前に9.11事件が発生して公開が1年遅れたのも因縁めいたものを感じる。当時の記念品はこの映画で使われ、9.11で大半が失われてしまった。


『ピアニスト』 85点

2011-02-10 17:05:44 | (欧州・アジア他) 2000~09

ピアニスト

2001年/フランス=オーストリア

大胆で繊細なM・ハネケの問題提起

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

社会での抑圧や矛盾を背景に女性の性を取り上げたエルフリーデ・イェリネクの原作をオーストリアの鬼才・ミヒャエル・ハネケが大胆かつ繊細に映像化した問題作。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品でもある。さらにE・イェリネクは’04のノーベル文学賞を受賞してこの作品が再注目されてもいる。
母(アニー・ジラルド)からピアニストになるため厳しく躾けられたエリカ(イザベル・ユペール)は中年になるまで恋人もいない。ウィーン国立音楽院のピアノ教師でありながら、服装から帰宅時間まで干渉する母に支配され服従している。
そこに現れたのは美しい容姿の青年ワルター(ブノワ・マジメル)。ピアノの才能に恵まれ理系の大学生でアイスホッケーもするスポーツマン。どう見ても不釣り合いな2人の愛の葛藤のドラマ。
そもそもE・イェリネクの作品は母親に指揮者としてスパルタ教育を受け、父親を精神病院で亡くす主人公エリカに似た境遇で育ち、自叙伝的小説と言われたが、あまりにも過激で<不愉快なポルノグラフィ>と批評したノーベル賞選考委員がいたほど。
ピアノ教師としてのエリカはシューベルトの演奏については誰にも負けない自信家で、生徒には厳しく、無感情で強圧的。反面処理済みのティッシュを口に当てながらの個室ビデオ観賞、ドライブイン・シアターでの覗きでの放尿など首を傾げるシークエンスが続く。「ファニーゲーム」でカンヌ審査員を何人も途中退場させたM・ハネケらしく観客を心理的に追い詰め不安に陥れる。恐らく歪められた性癖は母親に抑圧されたことによる痛ましい行為であり、男の快感の代替え行為でもあろう。そこにあまりにもノーマルな青年に求愛されたエリカの反応の仕方がとんでもないマゾヒスティックな行為。トイレでの視姦までは遊び感覚だったワルターも手紙で告白されたマゾ行為要請には困惑し嫌悪感が...。
支配するのが男で服従するのが女という社会を頭で理解していたエリカ。本当は愛する人の前で女になろうと思ったのかも。遊ぶなら同じルールでというプレイボーイのワルターと中年になって初めて恋をしったエリカの行く末は想像どおりといえるが、この作品は想像以上に刺激的な結末へ。
エリカを演じたE・ユペール、ワルターを演じたB・マジメル。2人ともカンヌの主演賞を受賞しているがとくにE・ユペールの演技は鬼気迫るものがある。前半は素ッピンで無表情のなかに孤独感を滲ませ、後半は異常さ・無邪気・哀しさときにはコミカルな姿で中年女を演じてみせた。
鍵盤を真俯瞰から写すピアノ演奏の映像は新鮮で、バッハのハ短調協奏曲やシューベルトのピアノソナタ20番イ長調が美しく流れるのとは対照的に、冬の旅の第17曲「村で」の伴奏が<完全な狂気に対する直前の自己喪失>を象徴するように不気味に流れるのが印象的だった。


『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』 75点

2011-02-07 12:54:05 | (欧州・アジア他) 2000~09

アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵

2005年/フランス

エスプリに富んだフランス版2時間ドラマ 

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆90点

音楽 ★★★★☆75点

アガサ・クリスティの探偵シリーズ<トミーとタペンスのおしどり探偵「親指のうずき」>を、コミカルな作風を得意とするパスカル・トマ監督がフランス版に翻案した105分。
初老のプリュダンス(カトリーヌ・フロ)とベリゼール(アンドレ・デュソリエ)夫婦が悠々自適の生活を送るサヴォア地方の情景が見事にマッチしていて、とてもゴージャスな雰囲気。手入れの行き届いた庭のある豪邸に住み骨董品がインテリア。元海軍大佐で国家機密の仕事に携わるベリゼールが乗る車はオースティン・ヒーレーE3000のオープンカー。プリュダンスの衣装がチフォネリのスーツでバッグはエルメスのヴィンテージ。
とても探偵とは無縁の世界にいるが、叔母のいた高級老人ホームで会った老婦人の失踪と1枚の風景画をキッカケに「親指のうずき」を感じたプリュダンスが単身で調査するうちある村の忌まわしい出来事に関わる。まさに奥様は名探偵ということだが、偶然過去の事件に遭遇してそれが好転し解決してしまうため、ミステリーそのもののワクワク感はない。
むしろ昼間からワインを飲んで夫婦生活を楽しむ優雅な雰囲気と、ときにはシニカルなユーモアのあるフランスらしいエスプリに富んだ2時間ドラマをともに満喫する気分である。主演の2人がほのぼのとしていて陰湿な事件など感じさせないそのゆるさが何ともいえず良い。


『愛する人』 80点

2011-02-05 15:35:05 | (米国) 2000~09 

愛する人

2009年/アメリカ=スペイン

さまざまな「母親と娘」の心理描写を繊細に

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

「彼女を見ればわかること」「美しい人」と女性をヒロインにした心理描写をオムニバスで描いてきたロドリゴ・ガルシア監督が3人の母を同時進行させながら観客に問いかけるヒューマン・ドラマ。原題はズバリ「母と娘」。
カレン(アネット・ベニング)は14歳で出産して養子に出した娘を37年間忘れられずにいる。エリザベス(ナオミ・ワッツ)は17歳から独り暮らしの自立した女で弁護士としてキャリアを積んでいるが、結婚・妊娠を拒否している。ルーシー(ケリー・ワシントン)は愛する夫との間に子供ができず、20歳のレイが出産する子供の養子縁組を望んでいる。
カレンとエリザベスは母と娘であることは冒頭から容易に想像できるが、2人がいつ、どんなタイミングで再会するのだろう?ルーシーはどう絡むのだろう?という想定で観ていると、なかなか進展しない。ガルシア監督は3人のヒロインが出産・別れ・出会いを機に微妙な内面の変化を丁寧に描くことが本題であって、結末ありきのシナリオにはしていない。この作品の良いところでもありテンポを悪くしている部分でもある。
カレンは老いた母と2人暮らしだったが、母を亡くし独りに。介護士の同僚パコ(ジミー・スミス)の愛情も素直に受け入れられない。エリザベスはキャリアを積みながら上司ポール(サミュエル・L・ジャクソン)の子を身ごもり、打ち明けずに事務所を辞める。ルーシーに優しかった夫は養子縁組を反対し去ってゆく。他にもカレンの初恋の男トム(デイヴィッド・モース)など、ここに出てくる男たちはみな優しいが、女にとって大切なとき何の役にも立っていないのがちょっと類型的。対する女はカレンの家政婦、ルーシーやレイの母親を始め、ポールやパコの娘、盲目の少女ヴァイオレット(ブリット・ロバートソン)など皆な自分の感情をハッキリ伝えるしっかりものである。何度かある出産シーンとともに女の強さを見せつけられる。唯一の例外はエリザベスの隣人夫婦で、夫はエリザベスの誘いに見境なく乗ってしまうし妻は妊娠を自慢することで優越感を持つ。どこにでもいそうな等身大の人物でこの辺りはリアルで面白かった。
N・ワッツは単なるヌードではなく妊娠9カ月の妊婦姿を惜しげもなく曝し大熱演。こんなヒトは周囲の女性から疎外されそうで、孤独な生い立ちを癒すために言動する自立した女の危うさが良く出ていた。A・ベニングはメリル・ストリープと並んで今やベテラン女優としてハリウッドきっての演技派だろう。年相応のシワがかえって魅力を増している。今回はC・ワシントンが損な役回りとなってしまった。