晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ワーテルロー」(70・伊/ソ連) 70点

2018-04-27 16:30:55 | 外国映画 1960~79

・ 壮大なスケールで描いた英雄の素顔。




オードリー・ヘプバーン主演「戦争と平和」(56)の名プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスと「戦争と平和・二部作」(66・67)で監督・主演したセルゲーイ・ボンダルチュークによるコンビで、1815年6月18日・ワーテルローの戦いを中心に描いた。

ワーテルローの戦いはネーデルランド連合王国(現ベルギー)のワーテルロー近郊で、イギリス・オランダ連合軍とナポレオン一世仏軍の総勢20万が激突した早朝から夕方までの戦い。いわば<欧州版関ケ原>だ。

最大の見所はソ連軍の協力による戦闘シーン。エキストラ2万8千人、馬1500頭を動員しての空撮と騎馬兵の突撃は今どきのCGとは違う迫力でリアル感が満載。

もうひとつの見所は、名優たちの演技。ナポレオン一世に扮したのはロッド・スタイガー。自信過剰のカリスマ性と、胃の病で体調不良により苦悩する素顔の両面を見せている。

子豚を盗んだ兵卒を根性があると褒めたり、スコット軍楽隊を婦人部隊と言ったりする逸話を挿入して、魅力的な人物像を演じている。

ウェリントン公を演じたのがクリストファー・プラマー。近年まで主演している名優の若かりし姿は、気品を備えた貴公子に相応しい。

さらに序盤ルイ18世で登場したオーソン・ウェルズの風格ある存在感はこの歴史劇にピッタリ。ほかにも
英軍ピクトン将軍のジャック・ホーキンス、仏軍ネイ元帥のダン・オハーリー、プロイセン将軍役セルゴ・ザカリアズなど多士済々。

戦さ上手なナポレオンが何故負けたのかが、西洋史好きなら周知のことかもしれないが、あまり詳しく知らない筆者にとって、大変解りやすいストーリーだった。

オリジナルは240分の大長編だが、133分でも充分雰囲気は伝わり堪能できた。

「エタニティ 永遠の花たちへ」(16・仏/ベルギー)60点

2018-04-25 13:43:32 | 2016~(平成28~)

・ フランス3大女優を起用、ユン監督による19世紀末の上流社会を再現した大家族の物語。




ベトナム出身、12歳で亡命した自身の生い立ちから大家族に惹かれたトライ・アン・ユン監督がオドレイ・トトゥ、メラニー・ロラン、ベレニス・ベジョの実力派女優を起用して19世紀末から続く上流階級の大家族に生きる女性たちを描いた愛と命の物語。

マーク・リン・ピンビンのカメラを始め、美術・衣装など当時の上流社会を再現、監督の美へのこだわりが隅々まで行き渡っている。

A・トトゥが演じたヴァランティーヌを17歳から老女までを一人で演じたが、彼女の一代記というより世代を超え命をつないでいく女性の喜びと悲しみをナレーションと音楽で綴っていく群像ドラマのトップランナー的存在。

従って結婚して6人の子供をもうけ7人目を生まれてスグ亡くし、20年目に夫を亡くすまでが美しい映像とともに流れるように描かれ、うっかりすると置き去りにされそう。

これは双子の息子が第一次大戦に出征して戦死するという深い悲しみが起こっても、娘が修道院へ入るときも同様で取り乱したり大声で泣きわめいたりしない。

中盤からヴァレンティーヌの息子アンリ(ジェレミー・レニエ)と結婚したマチルド(M・ロラン)と従妹のガブリエル(B・ベジョ)夫婦の物語へ。

マチルドはアンリと幼馴染で10人の子供を産み、ガブリエルは親が決めた結婚で理工系の秀才シャルル(ピエール・ドゥラドンシャン)と結ばれ愛を育んでいく・・・。

ユン監督の狙いは、喜びや悲しみを女優たちの感情に委ねるようなドラマチックな盛り上がりを望んでいないようだ。

そのため3人には調度品と同じような扱いに戸惑いもあって、とくに演技派を自負しているB・ベジョとは撮影中衝突もあったと聞く。

出来上がってみると<命には限りがあるが、生と死が繰り返される>という人間の根幹に触れる命の営みの偉大さが伝わってくる。

正直、ユン監督の哲学的な作風とは相性が良くないが、美しい映像とクラシックが流れるフランス100年の上流社会世界に浸ることができた。


「婚約者の友人」(16・仏/独 )85点

2018-04-20 16:16:21 | 2016~(平成28~)

・ 嘘をテーマにしたオゾン監督・脚本によるミステリー・タッチの人間ドラマ。




1919年ドイツとフランスを舞台に、戦死した婚約者の謎めいた友人と残されたヒロインによるミステリー・タッチの人間ドラマ。

モウリス・ロスタンの戯曲を映画化したルビッチ監督「私の殺した男」(32)のリメイクだが、フランソワ・オゾン監督が大胆に翻案している。

時代の雰囲気を出すためか35ミリフィルムのモノクロ画面とロマンティックな音楽が静謐な雰囲気を醸成してくれる。

ドイツの田舎町に住むアンナ。フランスとの戦いで婚約者フランツを亡くし、フランツの両親とともに悲しみに暮れる日々を送っていた。
ある日、フランツの墓前で花を手向け泣いている見知らぬ男を目撃する。

男はアドリアンというフランス人で、フランツの家に訪ねてくると問われるままに戦前のパリでフランツと知り合い親しくなったと言い、想い出を語り始める。その話を聴くうちアンナや最初は拒絶していた父親たちの癒しとなっていく。

だが、男には秘密があった・・・。

アドリアンはパリ管弦楽団のバイオリニストで、苦悩を抱えた繊細な芸術家タイプ。女性的な面や脆さを窺わせた風貌で演じたピエール・ニネが謎めいていて、ミステリー感満載だ。
筆者はてっきり彼の秘密は同性愛ではないか?と推測した。仲良くルーブル美術館を散策したり、彼の手引きでヴァイオリンを弾く回想シーンは色鮮やかなカラー画像となっていたからだ。

アドリアンにフランツの友人以上の感情を抱き始めたアンナにとって彼の秘密は驚愕そのものだった。その秘密を告白するためにドイツにきたという。アンナは、両親には自分が伝えるといってアドリアンを追い返してしまう。

アンナに扮したのはオーディションで選ばれた21歳のパウラ・ベーア。一途さと力強さを兼ね備えた可愛らしい瞳が印象的で、ヴェネチアの新人賞を受賞している。

ルビッチ作品とは違って、本作はドイツ人アンナの視点で描写される。そのため終盤までミステリー・タッチが生かされ、さらに当時のフランスを客観的に捉えている。アドリアンがドイツで受けた仕打ちは、後半パリに渡ったアンナが観た光景となって展開する。まるでナショナリズムが蔓延しそうな今のヨーロッパへの警鐘のようだ。

アンナは嘘をつくことで神に赦しを請いフランツの両親を救うが、アドリアンはアンナを傷つけたことに気づくのがあまりにも手遅れだった。
彼女はルーブル美術館で<若者が仰向けになっているマネの絵>を観ることで生きる勇気が沸いてくるという。

歴史はさらに過酷な第二次大戦を迎えるが、アンナには新しい人生を生き抜いて欲しいと願わずにはいられないエンディングだった。

40代の最後で、成熟した大人向け映画を作ったオゾンに拍手を送りたい。










「ドクトル・ジバゴ」(65・米/伊 )85点

2018-04-13 16:12:41 | 外国映画 1960~79

・D・リーン監督による ロシア革命を背景に壮大なスケールの大河ロマン。




19世紀末、ロシア革命を背景に医者で詩人でもあるジバゴの二人の女性、ラーラとトーニャとの数奇な愛の生涯を描いたヒューマン・ドラマ。ボリス・パステルナークの自伝的小説を「アラビアのロレンス」(62)のデヴィッド・リーン監督ロバート・ボルト脚色によって映画化し、脚色賞などオスカー5部門獲得作品。

製作したカルロ・ポンティは大女優ソフィア・ローレンの夫。彼女をヒロインにしようと権利を取得し、MGMがD・リーン監督を条件に映画化は成立したが、ラーラ役はイメージが合わないと拒否されジュリー・クリスティ起用となっている。

ジバゴを演じたのは「アラビアのロレンス」のエジプト俳優オマー・シャリフ。メイキャップと鬘でロシアのインテリらしく変貌を遂げ、一世一代の演技を魅せた。

原作は運命に翻弄されたジバゴの生涯を描いた長編文芸作品で、映画化には相当脚本の力量が問われる。R・ボルトは見事に成し遂げたが、それでもインターミッションが入り200分弱の作品となった。

医学生・ジバゴは恩人の娘トーニャ(ジェラルリン・チャップリン)と婚約、出版した詩の評判も上々で順風満帆の暮らし。
仕立て屋の娘・ラーラは17歳で母の愛人である弁護士のコマロフスキー(ロッド・スタイガー)に犯され、ジバゴとトーニャの婚約パーティの席で発砲事件を起こす。

そんな二人が軍医と看護師で再会、ラーラの夫・パーシャ(トム・コートネイ)は行方知れず。帝政と革命軍の内戦を経て時代に翻弄されながら逢瀬と別離が繰り広げられる。

舞台は革命で混迷するロシアが舞台でその広大な土地で繰り広げられる人間模様は時空を踏まえた映像作りが成否を問われそう。

手抜きは一切しないD・リーン監督らしく、時代の変遷・季節の移り変わりやその風景まで一切妥協を許さない映像は、まさに映画ならではの醍醐味。

スペイン・マドリード郊外に膨大なエキストラを使い、建築物や街並み・列車で帝政時代のモスクワさらに冬のシベリア平原を、壮大なスケールで見事に再現している。

なかでもカラーコーディネイトは実に徹底されていて、モノトーンのモスクワに赤い旗と血の色が強烈に残る配色だったり、ラーラは赤のドレス、トーニャはピンクの衣装で二人の役柄をイメージ。

さらにモーリス・ジャールの挿入曲<ラーラのテーマ>が流れる印象的なシーンでは、ひまわりなどの黄色で心情を表現するなど、緻密な演出には感心するばかり。

<ラーラのテーマ>はバラライカで演奏されるが、この民族楽器はジバゴの母が大事にしていてラスト・シーンでこのドラマを象徴するような登場がある。
ちょうど第三の男のチターのように名画には欠かせない音楽として今に伝わっている。

時代の流れに乗って巧みに生き抜いたコマロフスキー、革命に命を懸けのちに偏狂的となり自ら命を絶ったパーシャなどラーラに関わる男たちのドラマでもある。

革命軍のリーダーで義兄のエフグラフ(アレック・ギネス)が、過去に遡って殻られる形式のジバゴの生涯は<党には受け入れられなかったが詩を愛する人は忘れない。>とダムで働く娘に伝えることで終焉を迎える。ダムの上にかかる虹が未来の希望を託すように・・・。

家族を人質にされノーベル賞を辞退したパステルナークの小説は、この映画で見事に花開いたのだ。







「シェーン」(53・米)85点

2018-04-11 15:29:44 | 外国映画 1946~59

・ 観るたびに新発見がある西部劇の傑作。


「陽のあたる場所」(51)で一度、本作ののち「ジャイアンツ」(56)で二度目のオスカーを獲得した巨匠・ジョージ・スタージェス監督による唯一の西部劇。ワイオミングの空気が伝わるような臨場感あるテクニカラーの美しい映像で、ロイヤル・グリグスが撮影賞を受賞している。

ヴィクター・ヤングのテーマ曲<遥かなる山の呼び声>とともに「シェーン、カムバック!!」のラストシーンで有名だ。まるで股旅もののようなスタンダードなストーリーだが、溢れ出る豊潤な香利を放つ傑作である。

グランドティートン山のふもとに住む開拓農民のスターレット一家。一人息子のジョーイ(ブランドン・デ・ワイルド)が見つめるなか、現れたのが流れ者のシェーン(アラン・ラッド)だった。

父親ジョー(ヴァン・へフリン)の勧めで開拓を手助けすることに。ジョーイと仲良くなるが、母・マリアン(ジーン・アーサー)は警戒気味で、「何れは出て行く人だからあまり好きになってはダメ」と息子に言う。まるで自戒を込めているような・・・。

そこへ牧畜業者のライカー(エミール・メイヤー)らがやってきて、自分の土地だから出て行けと言い争いとなるが堂々巡り。

南北戦争終了後、入植した農民がその土地で5年間耕作すると無償で土地が得られる<ホームステッド法>を政府が制定したことが背景にあり、同類の争いがあちこちに頻発していた。

ライカーは名うてのガンマンであるジャック・ウィルソン(ジャック・パランス)を雇い、手始めに農民仲間のトーリー(エリシャ・クックJr)を挑発し銃殺、ジョーを誘き出そうと画策する。

シェーンはジョーを諫め、ライカーたちが待ち構える酒場へ単身で向かう・・・。

少年ジョーイの視点で描かれた切り口は当時新鮮で、早撃ちのガンマン・シェーンは<憧れ>、父ジョーは頼りになり、母マリアンは愛情溢れる優しい存在として描かれる。

スティーブンス監督は控えめな描写ながら、ちょっとした表情や行動からシェーンがマリアンへの仄かな愛情を持っていること、マリアンは母親であり善き妻であることを意識しながらもシェーンへの淡い慕情が伝わってくる大人の視線をおろそかにしていない。それを察したジョーの漢らしさまでひしひしと感じ、とても痛々しい。

マリアンは銃を否定するが、男たちは殴り合いの果て最後は銃で決着をつけ、スターレッド家が土地とともに残されて行く。

西部劇にホーム・ドラマを持ち込み、さらにアメリカンドリームの原型であるホームステッド法が要因で争いは銃では解決しないことを示唆しながらも、最後で西部劇の醍醐味を堪能させてくれる。

シェーンを演じたA・ラッドはこの作品だけで早撃ちガンマンとして永くファンにその名を留め、ジャック・ウィルソンを演じたJ・パランスはその存在感でその後のガンマン・スタイルを確立した。

デジタル・マスター版で蘇った本作は、見るたびに新発見がある。これこそ名作である所以だ。


「ミルドレッド・ピアース」(45・米 )80点

2018-04-09 12:31:53 | 外国映画 1945以前 

・ M・カーティス監督との確執を乗り越えたJ・クロフォードの起死回生会心作。




「郵便配達は二度ベルを鳴らす」の作家ジェームズ・M・ケインの原作を「カサブランカ」のマイケル・カーティスが監督し、ジョーン・クロフォードがオスカー(主演女優賞)を獲得した。

いきなり男が「ミルドレッド・・・」と呟き倒れる殺人事件のプロローグ。ミルドレッドとは彼の妻でコート姿で橋にたたずみ警官に注意される。

サスペンスタッチで始まり主人公が警察で語る身の上話は、平凡な主婦からレストラン経営者として成功するが、自らの愛情過多が要因でわがままな娘ヴィータとの確執に悩む4年間だった。

原作は、世界恐慌や禁酒法で揺れる時代背景でヒロインの愛と確執の9年間を描いたドラマだが、本作は殺人事件から起こるミステリーに脚色され最後までドラマを引っ張って行く構成。

ヒロインを演じたJ・クロフォードは、クラーク・ゲーブルとの共演メロドラマなどで人気があったが、年齢とともに落ち目の頃で、本作に自ら名乗りを上げ起死回生の会心作となった。

ウェイトレスからレストラン経営者として立身出世し波乱の人生を歩む女性像は、踊り子からファムファタール女優となった彼女自身の人生に重なる部分もあってスラリとした容姿とともにヒロイン像にピッタリ。
モノクロならではのソフトフォーカスのアップが、太い眉と大きな眼・えらの張った顎など意志の強さを表し、いかり肩のスーツやミンクのコートが良く似合う。
他方で娘のためには自分の愛情を犠牲にしてしまい、おまけに娘に疎まれ裏切られる人生を歩む哀れな女性でもあった。

ハリウッド・スタイルのエンディングは救いとなったが、ミステリーとしては多少強引さもあってか敗戦後の日本では劇場未公開になってしまった。昨今はDVDも発売されていて本作を観られるのは嬉しい限り。






「ドリーム」(16・米)70点

2018-04-07 13:35:51 | 2016~(平成28~)

・ 二重の差別にメゲズ頑張った女性賛歌の痛快エンタテイメント。




62年米国有人宇宙飛行計画(マーキュリー計画)で、初めて地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士ジョン・グレンの功績を陰で支えたNASAの黒人女性スタッフたちの、知らぜざる事実に基づく痛快エンタテイメント。

監督は「ヴィンセントが教えてくれたこと」(14)のセオドア・メルフィ。3人のヒロインにはタラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイが扮し、ケヴィン・コスナー、キルスティン・ダンスト、ジム・パーソンズ、マハーシャ・アリ、グレン・パウエルらが脇を固めている。

天才的な数学の才能を持つキャサリン(T・P・ヘンソン)を中心に、計算部の実質的管理職ドロシー(O・スペンサー)、エンジニア志望のメアリー(J・モネイ)の3人。

この時代の南部での有色人種への差別は激しく、おまけに男女格差は当たり前の社会であることを全編で知らされる。

トイレが黒人専用で研究所から40分もかかる場所しかなく、ティポットも別々。今では当たり前のコンピュータによる解析も計算手と呼ばれるチームが存在しそこには優秀な黒人女性たちが担い手だった。

最先端技術の粋を集めたNASAにおいてこのような事実があったとは思えないが、フィクションによってより明確になった差別を乗り越える彼女たちが軽快な音楽に乗ってポジティブに描かれ、現在も色濃く残る米国への警鐘ともなっている。

なるほどと思ったのは、無自覚な男女差別。筆者も含め<女の割りに優秀だ>と思って思わず言葉に出してしまうジム・ジョンソン(M・アリ)やメアリーの夫など人種とは無関係に男たちの本音が描かれる。

偏見のないハリソン本部長(K・コスナー)でさえ、差別に気づいていない現実は現代社会でもよるあることだ。

60年代の華やかなファッション、ビンテージ・カーが登場し、米国が頑張っていた時代。NASAという象徴的存在の裏に誇り高い彼女たちが時代の先駆けになって活躍していたのを改めて知る想いだ。

ちなみにこの撮影監督は数少ない女性であるマンディ・ウォーカーである。






「ダンケルク」(17・米)75点

2018-04-02 16:27:54 | 2016~(平成28~)

・ 観客を巻き込む臨場感溢れるドラマに挑んだC・ノーラン監督の意欲作。




「ダークナイト」(08)、「インセプション」(10)のクリストファー・ノーラン監督による第二次大戦での救出作戦<ダイナモ作戦>をもとに描いたサバイバル・アクション。

1940年5月仏北部の港町ダンケルク。若き英国兵のトミーはビラが舞い落ちる無人の街中で突然銃撃を受け、必死で逃げ回っていた。ひとりだけ生き残りたどり着いた海岸には、大勢の兵士たちが救助の船を待っていた。

英首相チャーチルが英・仏連合軍40万人の救出に向け、輸送船・駆逐艦そして民間船舶も動員した作戦のエピソードを陸の一週間、海の一日、空の1時間の同時進行で描いた群像ドラマのスタイル。

英国人のノーマンにとって、<陸海空において神が我々に与えた全ての力を用いて戦う。決してあきらめるな!>というチャーチルの名言はダンケルク・スピリットとして深く身に沁みついていることだろう。

当然感動のドラマとして描くことはできたが、それを避け映像で観客を巻き込み戦場にいるような極限状態での臨場感を味わうことで、戦時下での人間の無力感や生きることの大切さを実感してもらうことに全エネルギーを注いでいる。

そのためIMAXのフィルムを使用し、リアルな大音量と途切れない緊張感を醸し出すタイマー音などが効果的だ。

出演した俳優もトミーに扮したフィオン・ホワイトヘッドを始め若手は無名に近い俳優を起用、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、マーク・ライアンス、トム・ハーディなど著名な俳優を随所に配した鉄壁なキャスティングだ。

随所に英国賛歌が織り込まれJ=ポール・デルモンド、C・ドヌーブ主演の同名映画「ダンケルク」(64)のフランス兵の悲劇とは大分趣きが違っている。

なかでもスピットファイア戦闘機は本物を使ての空軍パイロットの大活躍ぶりや民間船舶で救助に向かうさまは英国賛歌そのもの。

感動のドラマを避けたかったノーマンには商業映画として成功するための葛藤が見え隠れする作品ともいえる。

「メメント」(00)以来、筆者を惹きつけてやまないノーマン監督。これからもその多才ぶりで驚かせて欲しい。