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晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(02・米) 80点

2023-07-28 17:30:40 | (米国) 2000~09 
 フランク・W・アバクネイルの自伝小説「世界をだました男」をスティーヴン・スピルバーグ監督、レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクスの共演で映画化。
 ’68年、NYブロンクスヴィルに住む16歳の高校生フランクJr(R・ディカプリオ)が、両親の離婚をキッカケで家出。生活のため小切手詐欺に手を染めるが上手く行かない。パイロットに成りすますことがキッカケで成功するのを手始めに医師・弁護士として偽名を使いFBI捜査官カール(T・ハンクス)との追走劇が繰り広げられる。
 昔から偽名を使った詐欺事件の映画は数多くあって楽しませてくれている。筆者は「チャップリンの殺人狂時代」(47)、「スティング」(73)、「ペーパー・ムーン」(73)などが好みだが邦画では「クヒオ大佐」(09)が本作によく似ている。
 事実だがウソのようなストーリーは魅力的でダスティン・ホフマン主演で過去にも映画化の話があったという。
 スピルバーグはコメディタッチやシリアスなクライム・サスペンスにもなそうなハナシを大筋は変えないものの、16歳の少年が何故大胆な詐欺行為をしたかを追いながら<帰る家のない自分の居場所探しをする男のビター・スイーツな人間ドラマ>として描こうとジョニー・デップの起用を考えていたという。
 フランクJrを演じたディカプリオは当時20代後半で流石に16歳には見えないが、両親とくに父親に憧れを抱いた純粋な少年の面影を巧みに演じ見事期待に応える主人公になりきっていた。
 FBI捜査官カールに扮したT・ハンクスはスピルバーグ作品には4度目の出演。オーバーな演技が裏目に出ることもあるが、本作では離婚して独り身の捜査官を渋い受けの演技で支えている。
 フランクJrの愛する父親フランクにはオスカー俳優クリストファー・ウォーケンが出演し、息子の人格形成にはこの父がいたからだと納得の存在感を魅せ、オスカー・ノミネートも納得の演技だった。
 また後に「魔法にかけられて」(07)でブレイクし売れっ子女優となっていくエイミー・アダムスが新人看護師役で初々しい姿を見せてくれているほか、「アメリカの夜」(73)のナタリー・バイが浮気をごまかす母親を巧みに演じているのも目を惹いた。
 最近ヤンキースの縦縞のユニフォームは元気がないが、昔から<馬子にも衣装>といわれるとおりエリート階級の制服には騙されやすい。
 IT時代の今、小切手詐欺よりもっと大がかりな詐欺事件が横行しているに違いない。そんなテーマの作品も垣間見えるが、名作が生まれるのを期待したい。
 
 

「キャスト・アウェイ」(00・米) 70点

2023-07-24 12:30:37 | (米国) 2000~09 


  ・ 身体を張ったT・ハンクスの大熱演。

 メンフィスにある世界宅配便・フェデックスのシステム・エンジニアがマレーシアへ飛行中に墜落し無人島にたどり着く。
 孤独な4年間のサバイバル生活を経て帰還する男の人生を描いた人間ドラマ。

 「フォレスト・ガンプ/一期一会」(94)のロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演のゴールデン・コンビによる映画化で共演は「恋愛小説家」(95)のヘレン・ハント。

 フェデックスと言えばゴルフPGAツアーの年間スポンサーとしてお馴染みだが、宅配便会社の最大手。自社便が墜落するストーリーで始まる本作ではイメージダウンになりはしないか?と思うが、フレッド・スミスCEOが本人役で出演するなど全面的協力がされている。
 
 お陰で事実をもとにしたのでは?と思うほどリアリティにこだわり不自然さを極力排除したシナリオ・映像・演出である。
 
 なんと言っても主演のT・ハンクスの身体を張った独演ぶりに目を奪われる。デニーロ・アプローチと呼ばれる体重の増減は25キロに及びお陰で2型糖尿病になってしまった。
 無人島でのサバイバル生活でのアクション・表情では孤独感を目一杯に表現しているが、重くならない彼のキャラクターによって安心して?観ていられる。

 約140分のうち前半分刻みの猛烈サラーリーマンの暮らしぶりが30分、無人島のサバイバル生活が80分、帰還後が30分という構成で「生きること」とは?を問いかけている。

 皮肉なことに無人島では希望を捨てずに頑張っていてバレーボールをウィルソンと命名・擬人化し友としたり、火起こしから食料調達や脱出の工夫を凝らすなど日々生き生きとしている。
 しかし無事帰還し皆から大歓迎を受けるが浦島太郎状態を味わい、恋人まで失って失意のどん底を味わうハメに。

 冒頭に出てきた<デックとベッティーナの工房>への宅配便が<世の中から見捨てられた漂流者>への救世主になるというエンディングがさり気なく表現されるが、もっとドラマチックさを期待していた筆者にとって肩透かしを食らったようなオシャレな作品だった。

「デジャブ」(06・米)70点

2022-12-02 12:01:45 | (米国) 2000~09 


 ・<過去は変えられるか?>をモチーフにしたサスペンス・アクション。


 トニー・スコット監督✕デンゼル・ワシントン主演による一大エンタテインメント。題名の「デジャブ」とは<体験したことが無いことを体験したことがあるように感じること>。

 06年2月28日マルディグラの日。ニューオリンズ・カナルストリートで500名以上の犠牲者がでたフェリー事故が発生。FBI特別捜査班によると原因はテロによる爆弾によるものであり、現場近くで発見された女性の死体は殺害されたものと判明した。ATF(アルコール・タバコ・火器局)捜査官であるダグ・カーリン(D・ワシントン)は、FBIの協力要請を受けスノーホワイトという監視システムに案内された。

 巨大なタイムウィンドウであるスノーホワイトを開発したデニー博士(アダム・ゴールドバーグ)によると<4日間と6時間の映像>で一度しか観られないが、場所を特定さえすればあらゆる角度からリアル情報が得られるという。
 女性死体のクレア(ポーラ・パットン)に既視感を感じたダグは、爆弾事件と関係あると睨み彼女の自宅映像を再現し彼女に赤いペンライトをかざすとそのライトに反応した。ボードには<U can SAVe heR>とのマグネット文字が・・・。

 スノーホワイトには過去を変えられる機能があるのでは?単なる監視装置ではないと察したダグは、試しに過去の自分にメモを送ると机上に置かれるがそれを観たのは相棒のラリー(マット・クレイヴン)だった。

 楽しそうなマルディグラのお祭りシーンからフェリーの爆破事故発生のリアルなサスペンス・タッチで始まったドラマは、スノーホワイトなる先端装置の登場から一気に転調しパラレルワールドとなっていく。

 これはスコット監督より製作のジェリー・ブラッカイマーの意向でシナリオが書かれ、お得意の壮大なSFアクション・エンタテインメントの世界へ変貌していったとのこと。

 ダグは監視外領域にもかかわらず博士の忠告も承知で、過去が見えるゴーグルでタイムラグのある危険なカーアクションに挑んだり、あらゆる手段でフェリーの大爆破やクレアの死を免れるため奔走。まさに過去を変えようとする。

 D・ワシントンの安定感ある演技とP・パットンのスタイリッシュな美しさを堪能し、かなり凝った映像やダイナミックなアクションで細かいことを気にせず流れに任せ観ていればそれなりに楽しめる。

 ただ時間軸をかなり複雑にしたうえ、伏線をあちこちに配置した進行は一度観ただけではとても回収しきれない。一部のマニアには大絶賛と聴くが、筆者のような単純な思考回路ではついて行けなかった。

 ふたりが再会した?ラストシーンは題名を思わせる洒落たエンディングだったが、果たしてハッピーエンドか?それとも悲劇なのだろうか?
 
 


 

 

「3時10分、決断のとき」(07・米)75点

2022-09-13 12:02:51 | (米国) 2000~09 

 ・ J・マンゴールド監督渾身のリメイク西部劇。


 グレン・フォード主演「決断の3時10分」(57)を観た「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(05)のジェームズ・マンゴールド監督がいつかリメイクしたいと願っていた作品で、トム・クルーズ、エリック・バナで企画された。
 ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベイルの共演で実現、大ヒットした西部劇。

 アリゾナ準州の小さな牧場主が200ドルの報酬で悪名高い強盗団の頭目を刑務所のあるユマ行きのコンテンション駅まで護送しようとする物語。

 頭目ベン・ウェイドに扮したのはラッセル・クロウ。「L.A.コンフィデンシャル」(97)で注目され、「インサイダー」(99)、「グラディエーター」(00)、「ビューティフル・マインド」(01)と立て続けに主演しスターとなった彼が無法者を演じるのは単純な勧善懲悪ウェスタンではないことを雰囲気で匂わせる。
 早撃ちウェイドと呼ばれる拳銃の名手でありながら教養もあり絵も上手い。おまけに女性にモテ笑うと人なつっこい。オリジナルより複雑な人物設定で、おさないころ親に捨てられ孤児院で育った環境を背にどこか家族愛に飢えている人物像だ。
 筆者にとってどちらかというと苦手な演技派スターだが、本作ではまずまずの好感を抱かせる存在感。

 対する牧場主ダン・エヴァンスを演じたC・ベイルは、「ダークナイト」三部作(05~12)のバットマン役で象徴されるように本来なら主役のハズが準主演扱いがイメージとしてある。
 北軍の名狙撃手でありながら負傷して片足を不虞。街の発展のために不都合な牧草地を排除するため放火で牛を失ってしまう。妻や14歳の息子ウィリアムのためにも牧場再建を誓う。
 
 出会いから道中、そしてコンテンションの街までふたりの距離感がどのように変化していくのか?
 21世紀に勧善懲悪=西部劇という単純なストーリーは成立しないが、西部劇ならではのヒューマンな趣きを情感豊かに描写して大ヒットへと導いた監督の手腕を評価したい。
 
 ふたり以外では前半登場したピンカートン探偵社に雇われた老賞金稼ぎバイロンのピーター・フォンダの演技が観られたのはうれしい。銃撃を受け獣医に球を執ってもらいすぐ復帰するなど多少の破綻もあるがドラマに厚みを持たせてくれた。
 中盤以降ではベンを狂信的に崇拝する副頭目チャーリーのベン・フォスターが光っていた。二丁拳銃で躊躇なく殺傷し、どこまでもベンを追いかける姿は全てベン命あってのもの。かなり時代と役柄はちがうもののランス・アームストロングの栄光と挫折を描いた「疑惑のチャンピオン」(16)の彼を彷彿とさせる演技だった。

 法や道徳・良心も金や暴力に負けてしまうかもしれない現実を、西部劇という世界で突破したかったマンゴールド。四半世紀たった今、西部劇を映画化するのはかなり高いハードルを超えなければならないことを改めて感じた。 
 

「アバウト・ア・ボーイ」 70点

2020-03-28 12:33:08 | (米国) 2000~09 


・はまり役のH・グラントによるブリティッシュなヒューマン・コメディ。

 ニック・ホーンビイの小説をクリスとポールのワイツ兄弟が監督・脚色。父親の印税で気ままに暮らす38歳の独身男ウィル(ヒュー・グラント)が、母親と暮らす12歳の少年と交流することから生活や心の変化が現れるというヒューマン・コメディ。
 H・グラントといえば女性にモテモテな憎めないプレイボーイが定番のコメディが目に浮かぶ<ラブ・コメの帝王>だが、本作はそのダメ押しのような作品。
 舞台はノース・ロンドン。高級車アウディTTを乗り回しブランドもので決めながら仕事もせずガールハントに明け暮れる生活は、男にとって羨ましくもアリ老後が心配でもある暮らしぶり。結婚願望がないため腐れ縁になるのを嫌い、シングルマザーに目をつける。いわば女性の敵だが、どこか憎めないのがはまり役の所以か?
 ここで出会ったのがフィオナ(トニ・コレット)。最初のデートに付いてきたのが息子のマーカス。演じたのはのちに「XーMEN」シリーズや「マッドマックス 怒りのデスロード」などイケメン俳優としてブレークするニコラス・ホルト。子役時代の彼は美少年というよりは達者な演技で魅了。本作でも大人顔負けの演技である。
 ウツ病の母を抱えるいじめられっ子でウィルを兄や父親のような存在として懐いてくるシークエンスは二人の友情物語でもある。
 イジメや貧困という世界共通の問題をテーマにしながら、家族揃って楽しめる作品に仕上っていたのは脚本の巧さによるものだろう。オスカーは獲れなかったが脚色賞にノミネートされているのも納得。
「シックス・センス」(99)で知られるトニ・コレットも躁鬱気質ながら息子を大切に想う危なっかしいが優しい母親に扮し好演。ほかにはレイチェルという役名でレイチェル・ワイズが出ていたが、本作では見せ場がなかった。
 孤島を目指したウィルが人間は島ではないことを実感したほのぼのとしたエンディングといい、「やさしく歌って」やバッドリー・ドローン・ボーイのサウンド・トラックによって、ブリティッシュなハリウッド作品の味わいな100分だった。

「ターミナル」(04・米)70点

2019-04-04 15:10:00 | (米国) 2000~09 


・ S・スピルバーグとT・ハンクス3度目のコンビによるコメディ・タッチな人間ドラマ。


 空港に閉じ込められてしまった男の泣き笑いをスティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演で映画化。「シカゴ」(02)のキャサリン・ゼタ・ジョーンズ、「Shall We Dance?」(04)のスタンリー・トゥッチが共演。

 アメリカ、ジョン・F・ケネディ国際空港。入国手続き中のクラコウジア国(架空の国)のビクター(T・ハンクス)は、クーデターで母国が消滅、出入国を禁じられ空港内で生活する羽目になってしまった。空港労働者との交流や客室乗務員との淡い恋など、ユーモアを交えながら綴られる129分。

 「プライベート・ライアン」(98)、「キャッチ・ユー・イフ・ユー・キャン」(02)に続く3度目のコンビにだが、T・ハンクスの演技に全てを委ねたような演出のスピルバーグ。最大のエネルギーはジョンF空港をセットで再現することに注いだようで、重厚なヤヌス・カミンスキーの映像も軽快なジョン・ウィリアムズの音楽も本物感を醸成するためのもの。

 何ヶ月も空港内で暮らし、有名人物となっていく主人公。悲惨な境遇を、限られた空間で懸命に暮らす姿はまるで宇宙飛行士のようだ。突拍子もない展開だが、モデルがいたという。パリのドゴール空港になんと18年も生活していたイラン人、マーハン・カリミ・ナセリで「ターミナル・マン」という本まで出している。

 もっとも人物像は正反対に近く、主人公ビクターは言葉も不自由ながら人なつっこく、生活力旺盛。ポーカー仲間エンリケ(ディエゴ・ルナ)と入国係官(ゾーイ・ザルタナ)との縁結びをしたり、客室乗務員アメリア(k・ゼタ・ジョーンズ)に片想いしたり悲壮感とはほど遠い。

 そんないい人ばかりでは話は盛り上がらないので、敵役を一手に引き受けたのが警備局主任のフランク(スタンリー・トゥッチ)。局長昇進間近の生真面目な小役人ぶりが、身につまされる。

 父親との約束を果たすため、はるばるアメリカにやってきたビクター。T・ハンクスの泣き笑いで進むハートフルなファンタジーは、ジャズの巨匠ベニー・ジャコルソンが奏でるサックスの音色で幕を閉じる。

 若い頃コメディで売り出したT・ハンクスが大スターとなり、シリアスなキャラクターが増えつつあるこの頃。本作はちょうど分岐点になったようなシニカルな味付けが隠し味のヒューマン・コメディともいえる。

 

 

「アパルーサの決闘」(08・米 )70点

2018-07-09 16:04:31 | (米国) 2000~09 

・ E・ハリスによる監督2作目のハードボイルド・ウェスタン。




スペンサー・シリーズのハードボイルド作家であるロバート・B・パーカー原作を、エド・ハリスが製作・監督・脚色・主演した同名の映画化。

19世紀ニューメキシコの町アパルーサを舞台に新保安官として雇われたコールとヒッチの二人が、無法者の牧場主と対決するという王道を行く西部劇で、日本では劇場未公開だった。

コールにはE・ハリス、ヒッチにはヴィゴ・モーテンセンという「ヒストリー・オブ・バイオレンス」で共演した男の篤い友情物語に、レネー・セルヴィガー、ジェレミー・アイアンズ、ランス・へリクソン、ティモシー・スポールなど豪華キャストが共演。

「ポロック」(00)以来監督2作目のE・ハリスの惚れこみ具合が良く分かる時代考証への徹底した映像美は、西部劇全盛期に劣らない。

大西部の風景、服装、銃器など細部にわたって19世紀のリアル感がフィルム撮影の質感とともに見て取れる。

コールは凄腕のガンマンだが、女性に関しては先住民と娼婦以外は知らず恋をしたことがない。そこに現れた貴婦人のような女アリー(L・ゼルウィガー)に一目惚れ。

ヒッチは冷静で寡黙だが、アリーの本性は見抜きながら長年の相棒を守る健気な男。

コールは感情に溺れるなとヒッチに説教するが、寧ろかっとなって銃を抜くのはコールのほう。コルトSAAの拳銃がお似合いだが、無教養な育ちでボキャブラリー不足でヒッチに補ってもらうキャラクター。
E・ハリスの冷徹で信念の男のイメージを崩す、人間味溢れる役を楽しんでいる風情。

方やV・モーテンセンはチョット間違えると危ない役柄のイメージを覆す目立たない渋い役柄で、脇役に徹している。エイトゲージのショットガンがお似合いだ。

アリーを演じたL・ゼルウィガーは未亡人でコールを骨抜きにするファムファタールだが、強い男になびくことが平気なトラブル・メーカー。
ミスキャストでは?という声が多いが、西部の田舎町にひとりで現れる貴婦人などいるはずがない。「西部では女は愛に生きられない。愛に生きられるのは男だけ」ということを実践するコケティッシュな役柄はピッタリ。
もっとも当初予定していたダイアン・レインだったら違うイメージになったことは間違いない。

J・アイアンズの牧場主から町の有力者へ伸し上がって行くランダル・ブラッグは、教養もあって裁判でも言い負けない敵役。かつて保安官を殺したとはいえ、あまり極悪人には見えなかった。

最後の決闘は意外な組み合わせだったが、納得の眼と眼で会話できる二人の男の友情物語だ。

「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」 特別版(05・米)75点

2018-07-07 16:06:02 | (米国) 2000~09 

・ アウトローの終焉を描いたS・ペキンパー最後の西部劇。



ジェシー・ジェイムズと並ぶ稀代のアウトロー、ビリー・ザ・キッドと彼を追う保安官パット・ギャレットの詩情溢れる男の挽歌。「ワイルドバンチ」(69)のサム・ペキンパー監督で73年劇場公開されたものを、彼の没後05年に特別版として再編集された。

20世紀初頭のニューメキシコ。土地売買のトラブルで背後から撃たれたパット・ギャレット。死の間際でビリー・ザ・キッドのことを思い出す。

公開当時なかった冒頭のシーンは、時代変化の寂寥感が全編に流れる鎮魂歌として欠かせないシークエンスで本作の再評価に繋がっている。

バイオレンスの巨匠S・ペキンパーにしては抑え気味ながら全編銃声が轟く銃撃シーンのオンパレードで、スロー・モーションは健在の本作。

原題<パット・ギャレットとビリー・ザ・キッド>のとおり、ビリーの生涯を描いたものではなく、ビリーを倒したパット・ギャレットを通してフロンティアの終焉を描いたもの。

主役のパット・ギャレットは無法者だった時代ビリーとはウマが合い弟のような存在だったが、落ち着くことを選んで保安官になった。渋い風貌で颯爽としていて権力者に雇われながらビリーへの友情は消えていない。ギャレットを演じたジェームズ・コバーンが完璧な演技。

ビリーに扮したのは人気カントリー・ミュージシャンのクリス・クリストファーソン。義侠心と愛嬌を兼ね備えたアウトロー役を好演しているが、如何せんかなり年上で躍動感がない。

二人の立場は好対照だが表裏一体の関係で、若いビリーへの羨望がギャレットにはあったが、時代はそれを許さない。

全編に流れるボブ・ディランの哀愁あるメロディが、殺伐な銃撃戦を浄化させてくれる。ディランはナイフ使いの流れ者エイリアス役で出演していて、今思うと貴重な映像。
老保安官ベイカー(スリム・ピケンズ)が腹を撃たれ川辺に佇み、ベイカー夫人(ケティ・フラド)が見守るシーンで流れる「天国への扉」が中盤での名シーン。

ビリーを射殺したギャレットは鏡に映った自分を銃撃した。
58歳で亡くなったパット・ギャレットを描いたS・ペキンパーは、11年後の59歳で亡くなった。ギャレットが感じた<最後のアウトローへの憧憬とフロンティア時代の終焉>はペキンパーの想いでもあった。



「ジェシー・ジェームズの暗殺」(07・米 )70点

2018-07-06 12:00:17 | (米国) 2000~09 

・ 伝説のアウトローと彼を暗殺した男の心理ドラマ。




ロン・ハンセンの原作「臆病者ロバート・フォードによるジェシー・ジェイムズの暗殺」をアンドリュー・ドミニクの監督・脚本で映画化。
伝説のアウトロー・ジェシーにブラッド・ピット、ロバート・通称ボブにケイシー・アフレックが扮し、ジェシーに憧れながら彼を裏切って暗殺し、臆病者と呼ばれたボブの視点で描いた心理ドラマ。

ジェシー・ジェームズは、西部開拓時代に銀行や列車を襲い25件以上の強盗・17件の殺人事件を起こした実在の人物。
南北戦争後の南部の荒くれ男とともに派手な犯罪を繰り返しながら、新聞や三文小説などに取り上げられ人気を博した無法者のリーダー。
その生立ち・風貌や金持ちから金を奪う行動で、苦しんでいる南部の人にとって義賊として全米に知られる存在になる。

映画化も数多くあって、同じミズリー州生まれのブラピにとっても演じてみたい人物だった。カリスマ性があり魅力的だが、英雄扱いされるようになり虚像に苛まれ疑心暗鬼になっていく様子を、キメ細かな演技で存在感を魅せている。(ヴェネチア映画祭で主演男優賞受賞)

最後の列車強盗を実行したあと兄フランク(サム・シェパード)とも袂を分かち強盗団を解散するが、そばにいることを許したボブにさえ心を許していなかった。コロコロ変わる態度と表情に、彼の心の揺れ具合が見て取れる。

ナレーション入りで最後の列車強盗シーンからボブを傍に置くキッカケ、かつての仲間から裏切られる恐怖で一人一人を訪ね旅するシーンが続く。このシークエンスが如何にも冗長的だが、哀愁漂う音楽とロジャー・ディーキンスのカメラワークが支えている。
R・ディーキンスは14回オスカーにノミネートされ、今年初受賞した伝説の撮影監督。どのシーンを観てもその映像に酔いしれてしまうほど。

もう一人の主役はボブ役のC・アフレック。本作で、ベンの弟と言われ続けていた彼が初めて注目された。ジェシーへの憧れから、恐怖心を隠しつつ虚栄心を持ち続け、暗殺者へと変化して行くさまを繊細に演じている。
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で10年後の今年、オスカー受賞(主演男優賞)で念願が叶った。

ガンベルトを外して壁の額縁の曲がりを直すため、背中を無防備にしたジェシーと、後ろから銃殺したボブのシーンがとても印象深い。

暗殺後からエンディングまでが20分以上あって、本作の主題が見えてくる。死後ジェシーは益々英雄となり、ボブは臆病者として世間からツマハジキになっていく。歴史のヒーローはこうして創られるのだ。


『めぐりあう時間たち』 (02・米)80点

2017-02-28 10:58:50 | (米国) 2000~09 
 ・ J・ムーアにも主演女優賞をあげたかった

                                                                          マイケル・カニンガムの原作を「リトルダンサー」のスティーヴン・ダルドリー監督で映画化。ニコール・キッドマンがヴァージニア・ウルフ役でアカデミー主演女優賞を受賞した。 時代と地域を超えた3人の女性の一日を、交錯させながら描いてゆく手法が鮮やか。共通項が小説「ダロウェイ夫人」に出てくる花・パーティ・自殺がモチーフ。心理描写の微妙な揺れが、これ程見事に表現された映画は滅多にない。 3人の主演女優(N・キッドマン、M・ストリープ、J・ムーア)の競演が何れ劣らぬ好演。なかでもJ・ムーアが2大女優を向こうに廻し、抑えた演技で最も光っていた。主演女優賞は彼女にあげても良かった。 3人を囲む助演陣も達者な人が多く、エド・ハリスを始め、スティーヴン・ディレン、ジョン・C・ライリー、トニ・コレットなど夫々見せ場がある。アカデミー賞の作品賞は逃したが、この年アメリカの代表作だ。