アウト・オブ・サイト
1998年/アメリカ
スタイリッシュな犯罪映画
shinakamさん
男性
総合 70点
ストーリー 70点
キャスト 85点
演出 75点
ビジュアル 70点
音楽 70点
エルモア・レナード原作をスティーヴン・ソダーバーグ監督がスタイリッシュな犯罪映画に仕上げた。ジョージ・クルーニーとジェニファー・ロペスが銀行強盗と女連邦保安官に扮したというだけで内容が想像できそう。予想どおり?の展開で意外性はないが、それだけ雰囲気が満点。
ドン・チードルがチンピラ強盗役、マイケル・キートンが恋人役、サミュエル・L・ジャクソンが脱獄犯役と、夫々端役で出演しているのは豪華。
ファイナル・カット
2004年/アメリカ
オマール・ナイーム監督のこれからが楽しみ
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 75点
ビジュアル 70点
音楽 75点
本格長編映画デビューのオマール・ナイームが監督・脚本化した作品でロビン・ウィリアムズ主演のサイコロジー・シネマ。
生まれたとき、両親が生涯を記憶できるチップ(ゾーイイ・チップ)を埋め込むことができる近未来の話。その人が亡くなった場合、「追悼上映会」で写す映像編集者アラン(R・ウィリアムズ)は富裕層から信頼が厚い第一人者。数十年経っても、幼い頃の友人の死から逃れることがなく、罪食い人(シン・イーター)を自負している。あるとき編集中に死んだ筈の友人と思われる映像を追いかけた結果、自分のチップの存在を知ることとなる。
神の領域を侵しかねないゾーイ・チップの存在が、如何に人生を狂わせかねない不気味な怖さを描いて、オマール・ナイーム監督の才能を感じさせた。これからが楽しみだ。
ただ映像は、コンピュータがあまりにも陳腐で未来感がなく、唯一の心のヨリドコロであるディライラ(ミラ・ソルヴィノ)やチップの売買を持ち掛ける元編集者フレッシャー(ジム・カヴィーゼル)との絡みもいまひとつ突っ込み不足でしっくり来ない。R・ウィリアムズのワンマン映画になってしまったのが残念。
地下室のメロディー
1963年/フランス
ラストシーンが印象的なクライム・ムービー
shinakamさん
男性
総合
85点
ストーリー
85点
キャスト
85点
演出
85点
ビジュアル
80点
音楽
85点
「ヘッドライト」など仏の巨匠アンリ・ベルヌイユ監督の代表作のひとつでジャン・ギャバン、アラン・ドロンの新旧スターの初共演で話題となった。
刑期を終えたばかりのシャルル(J・ギャバン)は妻ジャネット(ヴィヴィアーヌ・ロマンス)の引きとめも聞かずカジノの現金強盗を画策。若いフランシス(A・ドロン)を誘い、まんまと成功するが...。
ラストシーンが印象的で、その後のこの手の映画にも影響をもたらした。何といっても2人の対称的な演技が魅力的で、ミシェル・マーニュのテーマミュージックが全編に流れ雰囲気を盛り上げる。最近はCMなどにも使われ、スタンダードナンバーともなっている。
フランス映画の円熟期を支えた名作だ。
街のあかり
2006年/フィンランド=ドイツ=フランス
カウリスマキの視点が素晴らしい!
shinakamさん
男性
総合 90点
ストーリー 90点
キャスト 85点
演出 90点
ビジュアル 90点
音楽 85点
「浮き雲」「過去のない男」に続くアキ・カウリスマキ監督の<敗者三部作>で孤独な警備員の物語。チャップリンの「街の灯」へのオマージュ作品でもある。
友人もいないコイステイネン(ヤンネ・フーティアイネン)の夢は警備会社を起業すること。セミナーの卒業証書を担保に銀行融資を申し込み軽蔑される。唯一の理解者アイラ(マリア・ヘイスカネン)の存在も気付かない。
突然現れた金髪女ミルヤ(マリア・ヤルヴェンヘルミ)に騙されて強盗幇助罪で逮捕され、刑務所へ入っても口を割らない一途さが、彼の孤独をさらに増長させる。
ハリウッド作品とは両極にあるこの作品は、この主人公に共感できるかで好みがハッキリ分かれると思う。小津安二郎を尊敬するカウリスマキは、不器用ながら仕事をコツコツとこなし、幸せとは程遠い無口な中年男を温かく描いてゆく。その視点が素晴らしい!
自身の体験も併せ、孤独な男の切なさを見事に描写して見せてくれた。
ラスト・シーンで希望の灯りをともしているが、その後の主人公がどのような人生を送るのか?観客の想像にゆだねる以外にない。
傷だらけの男たち
2006年/香港
トニー・レオンが初めての悪役?
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 70点
キャスト 80点
演出 75点
ビジュアル 80点
音楽 70点
「インファナル・アフェア」以来5年が過ぎ、ファン待望の香港クライム・ムービーが実現。アンドリュー・ラウ(監督)、アラン・マック(監督・脚本)がトニー・レオンを初めて悪役?に据えた。
刑事ポン(金城武)は’03クリスマスに恋人を自殺で失い、3年後はアルコール依存症の私立探偵でその日暮らし。上司のヘイ(トニー・レオン)は、実業家チャウの娘スクツァン(シュー・ジンレイ)と結婚して幸せの絶頂にいた。
その直後に起きたチャウの惨殺事件は一件落着に見えたが、ポンが探るうち’78マカオの一家惨殺事件が浮かんでくる。
犯人を観客に先に見せる手法は「インファナル・アフェア」と同じだが、いまひとつ共感を呼ばないのは終盤でのつじつま合わせのようなストーリ展開にあったのか?トニー・レオンは当初予定していたポンにぴったりで、復讐に燃える冷徹な役はやはり似合わない。むしろリメイクで予定されているレオナルド・デカプリオに向いているかもしれない。
ポン役の金城武はそれなりに無難な演技だが、彼の持つ甘いマスクが汚れ役のジャマをしていた。彼の恋人フォンのスー・チーが長い手足で華を添えていて存在感をみせていたり、エンディング・テーマソングに浜崎あゆみを添えるなど、アジアン・パワーを終結した無国籍な味がこの映画の魅力となっている。
ボルベール<帰郷>
2006年/スペイン
P・アルモドバルの望郷を結晶化
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 85点
「オール・アバウト・マイ・マザー」のペドロ・アルモドバル監督・脚本、ペネロペ・クルス主演でカンヌ国際映画祭最優秀女優賞を6人で受賞して話題となった。
ラ・マンチャの墓参りのために定期的に帰郷するライムンダ(P・ロペス)と娘パウラ(ヨアンナ・パウラ)と姉のソーレ(ロラ・ドゥニヤス)。故郷に残る叔母の死と夫の死が同時に降りかかるライムンダが、自分の過去をオーバーラップさせながら逞しく生きて行く。娘が父親を刺し殺し、冷凍庫に隠すというと如何にも悲惨な物語だが、そうならないところに、かつてブラック・コメディを得意としたアルモドバルの「もうひとつの帰郷」を感じる。進むにつれ女達の複雑な生い立ちが段々分かってくるあたりは構成が見事。死んだ筈の母が現れ思わぬ展開を見せ、<母と娘の絆の深さ>を改めて思い起こさせる。
タンゴ「ボルベール」をハスキーな声で歌う(吹き替え?)P・クルスが美しく逞しい。過去最高の演技を魅せて他の女優を圧倒している。
アルモドバルは彼の生まれ故郷ラ・マンチャを描くことで自分の母親を思い出すという。6人の女優それぞれに「女心の真髄」を吹き込んで、鮮やかに結晶化して見せた。風力発電の風車が廻るラ・マンチャの風景が印象的。
ニューオーリンズ・トライアル
2003年/アメリカ
法廷ドラマとしては異質ながら傑作
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 90点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 80点
「評決のとき」「ザ・ファーム 法律事務所」「ペリカン文書」「依頼人」と映画化された作品も多いジョン・グリシャム原作(陪審評決)の法廷ドラマ。
法廷劇ながら裁判の場面より、陪審員と陪審コンサルタントを巡っての人間ドラマがメインで異質ながら、なかなか見応えがある。
原作はタバコ訴訟だが、現在アメリカ社会に潜む銃訴訟に変え、よりドラマチック性を狙っているが社会派ドラマの色合いはそれ程濃くはない。
なにより豪華キャストが見もの。中でも陪審コンサルタントのジーン・ハックマンと原告弁護士のダスティ・ホフマンの初共演シーン(トイレでの数分間)が堪えらない面白さ。ただしこの映画の主役は陪審員9号のジョン・キューザックで正体不明の男。恋人レイチェル・ワイズとともに原告・被告の双方に陪審員買収を10百万ドルで売り込む。正義と悪の決着をつける裁判にこんなウラがあるとは?決してフィクションだと無関心ではいられないことを思わせる傑作だ。残念なのはあまりにも類型的なラスト・シーン。
白い花びら
1999年/フィンランド
怒りと哀しみを愛情が救う
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 80点
フィンランドの有名作家ユニハ・アホの原作を、「浮き雲」のカウリス・マキが、モノクロ・サイレント映画にして観せた。
農村でキャベツを耕し貧しいながらも幸せなユハ(サカリ・クオウスマネン)とマルヤ(カテイ・オウティネン)の夫婦。シボレーコルベット・スティングレーに乗って現れた都会の老紳士・シュメイッカ(アンドレ・ウィルムス)によって生活が一変してしまう。都会に出たマルヤを1年待ったユハは斧をリュックに入れて故郷を後にする。
アンシ・ティカンマキの音楽を活かした映像は、全編にユハの怒りと哀しみが伝わってくる。
沼のほとりでマルヤとシュメイッカが結ばれるときの白い花がヒトキワ鮮やかで、あたかもカラーのよう。その花をシュメイッカが靴で踏みにじるシーンがマルヤの今後を暗示していて、サイレント映画を何本も観てこの映画を撮ったカウリス・マキの見せ場のひとつでもある。
単純なストーリーを、カウリス・マキはモノクロ・サイレント方式という奇策により、さらに簡略化して観客を魅了してしまうのは流石だ。お気に入り女優のカティ・オウティネンは素朴な田舎女を好演。そして、エリナ・サロが唄うシャンソンが、やけに都会の退廃的な裏社会を著していて雰囲気満点。
愛犬を人に託し故郷を後にするユハは、一張羅の背広に着替え、電器カミソリで身繕いする。あたかも高倉健のヤクザ映画のようでカッコいい。サイレントなのにカミソリの音や愛犬の鳴き声が聴こえるようだ。
朴訥なユハの生き甲斐は、マルヤとの日々の暮らしだったがそれが敵わなくなったとき、我が身を犠牲にして彼女の幸せを守るしかなかった。現代社会で勝ち組と言われる男達へのアンチテーゼを感じる作品だ。