・ 脇に回ったT・ハンクスの独壇場。
20世紀後半の世相を背景に、子供向け人気TV番組MCフレッド・ロジャースと彼を取材した雑誌記者との心温まる交流を描いたヒューマン・ドラマ。
ロジャースに扮したトム・ハンクスが脇に回って主演のマシュー・リースを支え、オスカー助演男優賞にノミネートされた。監督は「ある女流作家の罪と罰」(18)のマリエル・ヘラー。
日本ではあまり馴染みがないが、アメリカでは<セサミ・ストリート>と並んで有名な子供向け長寿TV番組<ミスター・ロジャースのご近所さんになろう>のMCフレッド・ロジャース。
雑誌・エスクワイアの辛口記事で定評のある記者ロイド・ヴォーゲル(M・リース)が取材をすることに。
気が進まないまま収録現場を訪れるが、逆に質問攻めに合いロイドが家族に問題を抱えていることを見抜かれてしまう。
TV番組のオープニングで登場したロジャーは穏やかな口調で紳士的。どこから覧ても誠実な老紳士。
聖人ぶった人物の本性を見抜いてやろうと切り込んだロイドに対し決して怒ることなく受け止め、ロイドの悩みを自分のことのように心配して何かと気配りをするロジャー。
その人となりをどのように演じるのかがT・ハンクスの真骨頂で、その誠実な人柄は天性の優しさだけではなく、努力あっての様子が垣間見られる。
実在人物を演じることには優れているトムだが、本人とはあまり似ていないし、おまけに少し胡散臭さも・・・。
それでもコロナ渦で誰しも家族とか人生を顧みるこのタイミングで公開された本作は、多くの人に共感を呼んだに違いない。
ロイドは疎遠だった父ジェリー(クリス・クーパー)との再会は<愛する人ほど許すのが難しい>というロジャーの言葉に胸を打たれる。さらに<自分が子供だったころを思い出せ>と言われ自分の家族とも向き合えることができた。
筆者は<1分間の沈黙で相手の良いところを見つける><許すことは決断すること>というアンガー・マネジメントが大いに参考となった。
「どうか、私とご近所さんになって下さい」という決まり文句で癒やされるアメリカ人が多かったことだろう。