晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「死の追跡」(73・米)60点

2020-10-23 10:55:52 | 外国映画 1960~79


 ・ R・ハリスが復讐の鬼と化した保安官を演じたニューシネマ・ウェスタン


 サミュエル・フラーの原案をバリー・シアー監督、ルーカス・フラー脚本で映画化。銃を持たず町の治安を担っていた保安官が妻子を無法者に殺され、復讐のため追跡する物語。主演は晩年ハリーポッターシリーズで校長役に扮してお馴染みのリチャード・ハリス。

 リオグランデ川沿いにあるテキサスの小さな町サンタローザには名物保安官キル・パトリックがいる。アイルランド系の彼は、法を遵守、町の自警団を統率するリーダー役であった。
 そこへ現れたのはフランク・ブランドらの無法者四人組で銀行強盗を挙行する。追い詰められたフランクは学校に逃げ込み、保安官の息子を人質に逃走。教師だった妻は銃殺され息子は馬の下敷きとなってしまう。

 銃は自警団には持たせるが自身は持たないパトリックが銃を手に、保安官補の制止を振り払い単身四人組を追い国境を越えて行く・・・。

 もともと般若顔のR・ハリスが一転してなりふり構わない私怨を晴らそうとする展開は、マカロニ風でもありニューシネマ的でもある。

 無法者四人組のリーダー役フランクを演じたのはロッド・テイラー。オーストラリア出身の彼は「ジャイアンツ」(56)、「鳥」(63) などエリート役が多かったが、人間くさい敵役に転身し芸域を広げている。修道院にいる一人娘のために大金を寄付しようと銀行強盗を働くなど偏愛ぶりを見せもする。
 最初に殺される少し頭がおかしいスクール・ボーイ(ウィリアム・スミス)、右腕が鉄道レールのチューチュー(ネビル・ブランド)、黒人いかさま師ジェイコブ(ポール・ベンジャミン)など個性的な三人の描写も丁寧である。

 もうひとりメキシコ保安官グティエレスに扮したのが「ゴッドファーザー」(72)「ゲッタウェイ」(72)など悪役でお馴染みのアルフレッド・レッティエリ。ブラントを追って裁判に掛けるため法を遵守する善良な役柄だ。立場の違うパトリックとの奇妙な友情も成立しながら終盤へ。

 銃撃戦で一時失明状態から回復したり、投獄されたりしながら不死身の死闘を繰り返すなど脚本の破綻によるB級西部劇感は否めないが、クライマックスまで波瀾万丈な展開はキャスティングの妙と俳優たちの熱演で結構楽しめる。

 ただしバッド・エンドはこの時代の流行だが、私怨による殺人と法の遵守という矛盾を背負いながら収集を果たせないまま終焉を迎えてしまったのが残念!
 

 

 

 

「戦う幌馬車」(67・米)70点

2020-10-09 18:14:11 | 外国映画 1960~79


 ・ ニューシネマ元年に公開されたJ・ウェイン、K・ダグラスの2大スターによるエンタメ西部劇。


 闘病中ながら元気な姿を魅せているジョン・ウェインとカーク・ダグラスの二大スターが共演したユーモア溢れるアクション西部劇。クレア・ハフェイカー原作・脚本で、「続・荒野の七人」(66)のバート・ケネディ監督で映画化。原題は「THE WAR WAGON」。

 ニューメキシコの故郷エメットへ戻ってきたトゥ・ジャクソン(J・ウェイン)は無実の罪で投獄されていた。自分をハメたピアース(ブルース・キャボット)に奪われた土地と金鉱を取り戻すためだった。
 ピアースは流れ者のガンマン・ロマックス(K・ダグラス)に1万ドルの報酬でトゥ殺しを勧誘するが、快諾は得られなかった。彼はその前にピアースが50万ドルの砂金を運ぶ装甲馬車を襲撃する誘いをトゥから受けていた。
 トゥは先住民のリーヴァイ(ハワード・キール)、爆破の天才ビリー(ロバート・ウォーカーJr)、御者で金の亡者フレッチャー(キーナン・ウィン)を仲間に加えた5人で、カトリング銃を備えた装甲馬車と大勢の護衛がいる相手からどう砂金を奪おうとするのか?・・・。

 「マッド・マックス 怒りのデスロード」がお手本にしたという装甲馬車の疾走シーンと二大俳優の共演が見どころの娯楽アクション西部劇。ディミトリ・ティオムキンのタイトルバック音楽で始まり、ウィリアム・H・クローシア撮影の雄大なニューメキシコの風景で繰り広げられる勧善懲悪のドラマ展開は、残酷なシーンもなくユーモアも交えイタリア西部劇に奪われた本家の意地が感じられる。

 J・ウェインは病後で派手なアクションはないものの、お馴染みの酒場での派手な殴り合いでは健在ぶりを発揮し、くせ者揃いの仲間を取り纏めるリーダーを楽しそうに演じている。
 K・ダグラスは金にはドライだが女にモテるダンディなガンマンで颯爽と馬に飛び乗りアクションで存在感を魅せ、最後にコミカルなシーンまでサービスしてくれる。
 10歳違いのコンビはなかなか息が合っていた。
 
 飲んだくれで爆破の天才ビリーを演じたのはR・ウォーカーJr。「黄昏」「終着駅」「慕情」など50年代メロドラマの大女優ジェニファー・ジョーンズの長男だが、残念ながら大成しなかった。その後人気TVドラマでよくゲスト出演していたのを思い出す。本作では御者の若い妻ケイト(ヴァローラ・ノーランド)と結ばれハッピー・エンドとなる。彼にとって最も印象に残る映画作品だ。

 本作が公開されたのはニューシネマ元年で「俺たちに明日はない」や「イージー・ライダー」の話題で席巻された年。今観ると中国人女性や先住民・メキシコ人の扱いが類型的で一昔前の娯楽映画の風評は否めない。

 それでも御大J・ウェインが元気な姿で銀幕に再登場してくれたのを観ることができたのは嬉しい限りだ。

 

 

「眼下の敵」(57・米/西独)75点

2020-10-07 11:18:02 | 外国映画 1946~59

 ・ 両雄の緊迫した知恵比べを、ゲーム感覚で楽しむ元祖・潜水艦映画。

 英国海軍中佐D・A・レイナーの体験に基づく小説「水面下の敵」を、英国からアメリカに置き換え俳優でもあったディック・パウエルが監督、オスカー特殊効果(音響編集)賞受賞作品。ロバート・ミッチェル、クルト・ユールゲンスの競演が最大の見どころ。

 第二次大戦中の南大西洋。米国駆逐艦ヘインズが独軍Uボートを発見。Uボートは特別任務を負って航路変更できなかったため、海上と海中で双方の艦長が知力の限りを尽くした対決が始まる・・・。
 
 米軍駆逐艦ヘインズの艦長マレルに扮したのがR・ミッチェル。貨物船船長だった前歴を知った乗員からは船酔いする素人と噂されていた。ひとたび緊急事態になると迅速で的確な指揮で懸念は一掃される。
 魚雷で貨物船が撃沈され妻を失った過去があり「破壊と苦痛に終わりはない。やがてこの戦争は終るが、次が始まるだろう。」と諦観の念を抱きつつ任務は全うするプロフェッショナルである。

 かたやUボート艦長シュトベルクを演じたのはC・ユールゲンス。第一次大戦で息子ふたりを失い「昔の戦争は負けても名誉が残った。しかしこの戦争は名誉などなく勝っても嫌な記憶が残るだけだ。」とナチス体制への疑問をぶつける。それでも「死も任務のひとつだ。だが、我々は死なない。」と部下への言葉は真のリーダーだ。

 ドイツ人が英語を話す違和感はあったが、この知らない男同士の心理的駆け引きによる戦いはまるでシーソー・ゲームを観るような感覚で、筆者のようなマニアでない人にも元祖・潜水艦映画と言われる所以が分かる面白さ。

 のちの「Uボート」(81・独)のようなリアルな艦内描写はなく当時の特撮技術では粗もめだつが、米海軍が全面協力したことで駆逐艦による爆雷攻撃などの迫力は満点!

 ノーサイド精神で美化されたハリウッドらしいエンディングが肌に合うかどうかで評価も分かれるところだが、大戦後まだ20年も経っていないのに米軍=正義、独軍=悪と言う図式を超えた戦争映画を作ったことに敬意を表したい。

 それに応えたC・ユールゲンスの名演に拍手を送りたい。