晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「アバウト・ア・ボーイ」 70点

2020-03-28 12:33:08 | (米国) 2000~09 


・はまり役のH・グラントによるブリティッシュなヒューマン・コメディ。

 ニック・ホーンビイの小説をクリスとポールのワイツ兄弟が監督・脚色。父親の印税で気ままに暮らす38歳の独身男ウィル(ヒュー・グラント)が、母親と暮らす12歳の少年と交流することから生活や心の変化が現れるというヒューマン・コメディ。
 H・グラントといえば女性にモテモテな憎めないプレイボーイが定番のコメディが目に浮かぶ<ラブ・コメの帝王>だが、本作はそのダメ押しのような作品。
 舞台はノース・ロンドン。高級車アウディTTを乗り回しブランドもので決めながら仕事もせずガールハントに明け暮れる生活は、男にとって羨ましくもアリ老後が心配でもある暮らしぶり。結婚願望がないため腐れ縁になるのを嫌い、シングルマザーに目をつける。いわば女性の敵だが、どこか憎めないのがはまり役の所以か?
 ここで出会ったのがフィオナ(トニ・コレット)。最初のデートに付いてきたのが息子のマーカス。演じたのはのちに「XーMEN」シリーズや「マッドマックス 怒りのデスロード」などイケメン俳優としてブレークするニコラス・ホルト。子役時代の彼は美少年というよりは達者な演技で魅了。本作でも大人顔負けの演技である。
 ウツ病の母を抱えるいじめられっ子でウィルを兄や父親のような存在として懐いてくるシークエンスは二人の友情物語でもある。
 イジメや貧困という世界共通の問題をテーマにしながら、家族揃って楽しめる作品に仕上っていたのは脚本の巧さによるものだろう。オスカーは獲れなかったが脚色賞にノミネートされているのも納得。
「シックス・センス」(99)で知られるトニ・コレットも躁鬱気質ながら息子を大切に想う危なっかしいが優しい母親に扮し好演。ほかにはレイチェルという役名でレイチェル・ワイズが出ていたが、本作では見せ場がなかった。
 孤島を目指したウィルが人間は島ではないことを実感したほのぼのとしたエンディングといい、「やさしく歌って」やバッドリー・ドローン・ボーイのサウンド・トラックによって、ブリティッシュなハリウッド作品の味わいな100分だった。

「影の軍隊」(69・仏)70点

2020-03-18 12:25:03 | 外国映画 1960~79

・フィルム・ノワールの巨匠J=P・メルヴィル監督・脚本によるレジスタンス映画。

「サムライ」(67)、「仁義」(70)など独自の世界を築いたジャン=ピエール・メルヴィル監督が、ジョセフ・ケッセルの原作をもとに自身の体験を反映させた第二次大戦中のフランスにおける抵抗運動を描いている。
 出演はリノ・ヴァンチュラ、シモーニュ・シニョレ、ジャン=ピエール・カッセルなど。

 ドラマはシャンデリア通りをドイツ軍が行進するシーンで始まる。土木技師のフィリップ・ジルビエ(L・ヴァンチェラ)を中心に、哲学者のリーダー・リュック(ポール・スミス)とジャン=フランソワ(ジャン=ピエール・カッセル)のジャルディ兄弟、女闘士マチルド(S・シニョレ)、フェリックス(ポール・クローシェ)などドゴール派のレンジタンスを通して描かれたのは<悪しき記憶であり、懐かしい時代の記憶でもあった>。
 それは組織の結束であり捕らえられた仲間の救済はもとより、仲間の裏切りは制裁の死が待っている非情な世界。
 大切な家族にも秘密は守られ、ジャルディ兄弟は同志でありながらお互いの本当の姿は分からず終いだったり、ひとり娘と活動の板挟みとなるマチルドは功労者でありながら悲劇が待っていたりする。

 メルヴィルはメルヴィル・ブルーといわれる色調と時折流れる印象的な音楽を駆使。説明を極力省いた映像で繰り広げる濃厚な人間ドラマは、死と隣り合わせの重苦しい空気のなか緊迫感溢れる雰囲気で繰り広げられる。
 先ずは序盤ジルビエのナチス取り調べ直前での脱走シーンに息を呑む。さらにフェリックスが逮捕され拷問のため衰弱が激しい中、J=フランソワは偽名でわざと捕まりフェリックスに近づき励ましながらこっそり青酸カリを渡す。そこへマチルドがドイツ軍看護師に変装して救助に向かう場面が本編最大のハイライト。加えて再逮捕されたジルビエを処刑場から救うシーンなど次から次へと脱獄映画さながらのシークエンスが続いていく。
 
 エンディングに流れるその後の彼らのクレジットが何とも切ない。
 華々しい活動の実態は描かれず、仲間の救済と制裁のみが描かれるこの特異なレジスタンス映画に妙なリアル感があり、自由を渇望するフランス人の哀しい歴史の一ページを観る想い。


「ヒトラー暗殺、13分の誤算」(15・独)70点

2020-03-12 12:03:08 |  (欧州・アジア他) 2010~15

・たったひとりでヒトラーを暗殺しようとした男の人生を、史実をもとに描いたドラマ。
’39年11月8日ヒトラー暗殺未遂事件を起こしたゲオルク・エルザーの人生を、回想を交えながら描いたドラマ。
「ヒトラー~最後の12日間~」(04)のオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督、「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最後の日々」(05)のフレート・ブライナースが娘・レオニークレアとの共同脚本で映画化。
「白いリボン」(10)の狂言回し役で葛藤する牧師役だったクリスティアン・フリーデルが主演、「グッバイ レーニン」(03)以来ドイツ映画には欠かせない名脇役・ブルクハルト・クラウスナーが共演。
ウェルテンベルク地方の田舎町出身で、女性に好かれ音楽を愛する平凡な男がどのようにしてヒトラー暗殺をたったひとりで行ったのか?その動機は何だったのか?42件もあったヒトラー暗殺未遂事件のなかでも特異な事件を7年前からの出来事を交差させながら描いている。
プロテスタントの家庭で育ち貧しいながら家具職人として生計を立て、音楽を愛し人妻エルザ(カタリーナ・シュトラー)と不倫の恋におちるなど自由を生き甲斐としてきたゲオルク。
反ナチスだった36歳の男にとって青春を謳歌していたときは過去となり、緊迫した時代を肌で感じるようになっていた。
ナチスと共産党の狭間にいたゲオルクは個人的な理由<自由が欲しい>で、ミュンヘン一揆の記念日にヒトラーが演説する会場のビアホールへ時限爆弾を仕掛ける。
設定どおりだったが、ヒトラーの演説がいつもより早く切り上げられたため失敗、8人が死亡63人が怪我。スイスとの国境で逮捕され、ヒトラーの命令で背後関係の有無を詰問される。
取り調べたのはゲシュタポのミュラー局長(ヨハンフォン・ビューロー)と刑事警察ネーベ長官(B・クラウスナー)の二人で拷問も厭わないミュラーに対しネーベのあくまで真実を追究する姿勢に立ち位置の違いが描かれる。拷問は熾烈で目を覆うシーンも。黙々とタイプに向かう女性書記の無機質な態度が当時の趨勢を象徴している。そっと恋人の写真を手渡す女性でもある。
単独犯という結論に上官は納得せず、恋人や親族を巻き込まれるがイギリス諜報部もソ連も関与したという事実はなくそのまま拘留される。
本作では延命の謎は描かれず、謎のまま終戦間近の45年3月に反逆者として縛り首となったヌーベに続き、4月9日強制収容所で処刑されてエンディングとなる。(体制側に転向しながらも謎を漂わせて延命を図ったとも)
見終わってエルザーの行為はどうだったのだろうと思わずにはいられない。戦後もワルキューレ作戦で英雄と称えられたシュタウェンベルク大佐とは対照的なテロリストとして反ナチストからは反感を買い大衆からも異端者として扱われたエルザー。
タラレバのない歴史のいたずらから組織を持たない人間の行動は歴史から抹殺される典型か?
伊藤博文・リンカーン・ケネディなど、ときのリーダーを暗殺した名もなき人物と同様、エルザーの行為は13分の違いでその名は埋もれてしまっていた。名誉回復がされたのはツイ6年前だった。
地味な作風だったが、とても感慨深い作品だった。



「終電車」(80・仏)80点

2020-03-07 13:52:46 | (欧州・アジア他)1980~99 

・C・ドヌーヴの美しさが際立つトリュフォー最大のヒット作。
 ゴダールと並んでヌーヴェルヴァーグを代表するフランソワ・トリュフォー監督晩年の作。
ナチ占領下のパリで、モンマルトル劇場の支配人・演出家の夫に代わって劇場を守る妻の女優マリオンを巡る物語。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ、若い俳優ベルナールにジェラール・ドパルデュー、夫ルカはハインツ・ベンネントが扮している。
 題名は夜間外出を禁止され地下鉄の終電車に殺到する混乱の時代を象徴した邦題で、ヒロインを巡る三角関係を描きながらも「逢びき」(45)のリメイクでデシーカ監督の「終着駅」(53)を連想させるような切ないメロ・ドラマとは一線を画している。筆者は、夫がベルナールとの初対面で「妻は君に夢中だ」という台詞を聴くまで女好きのベルナールの片想いだと思っていたほど。
 トリュフォーはかつての愛人・ドヌーヴの美しさを引き出すことはお手のモンで、髪型や真っ赤な口紅やマニキュアと脚線美は勿論、彼女にとってその多面性が抑制された表情とともに<元祖クールビューティ>に相応しい歴代最高の演技となった。
 マリオンは実在人物ではないが、ユダヤ人だったため地下に隠れていたルカ、単なる女好きではなかったまだスマートだったドパルデュー扮するベルナール、親独派演劇評論家ダグシア役のジャン=ルイ・リシャールのリアルな人物像もモデルがいたようだ。
 オープニングでの「サンジャンの私の恋人」はじめ「素敵なあなた」など随所に流れるシャンソンが時代を感じさせ、当時のパリの雰囲気が醸し出されていたのもこのドラマに相応しい。
 なによりオシャレだなと感じたのはマドンナを中心にルカとマドレーヌが手を繋いだ幕切れは如何にもトリュフォーらしい。エンディングに流れるキャスティング紹介は、フランス映画の伝統を引き継いだ役柄映像によるものでファンにはとても嬉しい手法だ。



「100万ドルの血斗(71・米)60点

2020-03-02 13:35:37 | 外国映画 1960~79

・デューク一家総出による懐かしの娯楽西部劇。
ジョン・ウェインといえば、多くの西部劇に主演したハリウッドを代表するスター。そのデュークが肺がんと闘いながら「勇気ある追跡」(69)で念願のオスカーを獲得し復活を遂げている。
ただ時代はイタリア製やニューシネマに時代が移り西部劇そのものが衰退著しい頃だった。
本作は長男マイケルがプロデュースした昔ながらの正統派?西部劇。御大デュークと五本目の共演となったモーリン・オハラを始めパトリック、イーサンの息子たちが出演し、無名時代のデューク作品を多く手掛けたジョージ・シャーマンが監督。これが遺作となった。原題は「Bigg Jake」
時代背景をモノクロ映像でスタートさせ、ならず者たちをひとりひとり紹介する冒頭はニューシネマ風。
20世紀初頭のテキサスの大牧場に押し入ったジョン・フェイン(リチャード・ブーン)を頭とする盗賊たち。長男ジェフ(ボビー・ヴィントン)を銃撃、その息子(イーサン・ウェイン)を誘拐して100万ドルを要求。
留守中だったジェイコブ(J・ウェイン)が妻(M・オハラ)に呼び戻され孫を取り戻すための追跡を開始する。
追跡団には車やバイクが登場するが、西部の荒れ地には馬が最適という流れは如何にも郷愁が漂う。
邦題のような血なまぐさいシーンよりホーム・ドラマのような雰囲気なのは、息がぴったりなM・オハラとのヤリトリや実の息子たちが息子や孫で登場してファミリー感満載のせいか?
さらに先住民のブルース・キャボットや愛犬までが御大の引き立て役となっている。
今観るとシナリオに破綻も多く、忠実な愛犬や先住民への哀悼もない家族への偏愛について行けないひとも多いことだろう。当時はこれが許された時代でもあったことを改めて知らされる。
さすがにアクション・シーンは衰えも隠せないが、家族揃って楽しめる西部劇の砦を孤軍奮闘して守ろうとした御大の存在感が最大の見どころだ。