・ 殺人犯に執り付かれた男達の苦悩ぶりが見所。
「セヴン」のデヴィット・フィンチャーが実在の未解決殺人事件をもとに映画化。犯人ゾディアックは「ダーティ・ハリー」の犯人スコルピオのモデルとしても有名。
この事件をキッカケに、SFの新聞社で風刺漫画を描いていたロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)や、記者ポール(ロバート・ダウニー・Jr)、刑事デイヴ・トスキー(マーク・ラファロ)達の人生が狂ってしまうサマがとても興味深い。2時間37分という長さを感じさせないシナリオの面白さだ。
映画の中では犯人らしき人間はいるが、確定できないもどかしさが付いて回るところがリアルさを増している。事実を踏まえた未解決事件なので当たり前のことではあるのだが、本作はもう一歩踏み込んでいて最後まで観客を惹き込んでしまう。
犯人に執り付かれた人々の苦悩を描きながら、原作者R・グレイスミス同様D・フィンチャー自身が最も嵌まってしまったのかもしれない。
だが、この映画「ゾディアック」が「セブン」と大きく異なるのは、ここで描かれているのが実際に起こった事件であり、いまだ未解決という点だ。
それと惨殺死体だけを見せた「セブン」に対して、こちらは犯行そのものを映していく。
しかも、このときのカメラが容赦ないんですね。
次々と有力情報がもたらされるものの、どれも実ることはなく、結局は空振りに終わってしまう。
この描き方がドキュメンタリーとまでは言わないにしても、少し引いた目線で描かれる。
ところが、それがある瞬間、一気に身も凍るスリラーへと変わる。
この話法の転換が実に見事でしたね。
犯人の挑発、自己顕示欲。それにマスコミが乗ったことで、モンスターのようにその像を膨らませていった。
そして、そのことがまた真実を知りたいという男たちの執念をさらに増幅させる。
しかし、もがけばもがくほど一様に深みにハマっていく。まさに底なし沼。
フィンチャーは、そんな事件に魅入られた男たちをひとりに絞ることなく複数描くことで、この事件が生み出した不条理そのものをあぶり出しているようにも見える。
論理では決して割り切れない、人間の不可解な心理と行動。
そういう意味でも、実に見応えのある映画だった。