晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ファニーガール」(68・米)70点

2015-10-30 12:57:27 | 外国映画 1960~79

 ・ 圧倒的存在感のB・ストライサンドの映画デビュー作。

                   

 今年7月に亡くなったオマー・シャリフ。「アラビアのロレンス」(62)、「ドクトル・ジバゴ」(65)の印象が強烈なエジプト俳優だが、ミュージカル映画にも出演していた。

 名匠ウィリアム・ワイラーが初めて手掛けたミュージカル映画で、主演はブロードウェイのヒロインを演じていたバーブラ・ストライサンドで彼女の映画初出演でもあった。

 彼女が演じるファニー・ブライスは30年代のブロードウェイ人気女優で、彼女の自伝的ミュージカルに相手役の恋人役ニック・アーンスタインに扮しているのがO・シャリフ。

 2人が知り合ったのは、無名の女優だったファニーが端役を貰い、舞台で大失態を演じるが観客に大受けし、ギャンブラーのニックが劇場主に高く売りつけに成功したことがキッカケ。

 ファニーは大興行主のジークフェルトに認められ、喜劇女優として売れっ子となって行くが、ニックと再会したのはボルチモアへ巡業中の1年後。

 馬主でもあったニックは馬とともにボルチモアに遠征していた。NYで遭い船上での求婚、ギャンブルで大金を稼ぎ豪邸暮らしという順風満帆は永遠に続くハズはなかった。

 出会いと別れはミュージカルにぴったりのテーマ。ジュール・スタイン作曲ボブ・メリル作詞の名曲に乗って歌いまくるB・ストライサンドは、とってもキュート。

 その圧倒的な存在感は、ミュージカル場面を演出したハーバート・ロスの手腕もあって、まさに独壇場。
O・シャリフはその相手役でしかなかったが、単なる女好きではなく彼なりのプライドを示すところは、
彼女の後半生にとって丁度良い役割を果たしたのでは?

 「ピープル」「パレードに雨を降らせないで」「ファニーガール」など数々の名曲が、B・ストライサンドの張りのある歌声とともに心地良く体内に染入ってくる感じ。 

 ミュージカル好きにはダンス・シーンが少なく物足りなかったと思うが、筆者のようにミュージカルを敬遠していた映画ファンには手ごろな作品だった。
 

 

「ワイルド・ギース」(78・英)75点

2015-10-25 13:54:45 | 外国映画 1960~79

 ・傭兵モノの先駆けと言われた戦争アクション。

                 

 第二次大戦後アフリカ某国を舞台に、軍部のクーデターのため拉致された大統領を救出する目的で派遣された傭兵たちの活動を描いた戦争アクション。監督はジョン・フォードの下、数多くの西部劇を手掛けたアンドリュー・V・マクラグレン。

 ダニエル・カーニーの原作は、68コンゴ大統領チョンベが傭兵によって救出され、ローデシアの空港に着陸したという流言をもとに書かれている。

 脚本は「十二人の怒れる男」(57)のレジナルド・ローズで、ドラマチックな描かれ方であったが、ハリウッドものとは違う案外地味な展開。

 英国の大銀行家マターソン(スチュワート・グレンジャー)からリンバニ大統領救出要請を受けたのはフォークナー大佐(リチャード・バートン)で、僅か50名の傭兵で挑もうというもの。

 フォークナーは旧知の仲、名パイロットで今マフィアに命を狙われているショーン・フィン(ロジャー・ムーア)、妻に逃げられ息子と静かに暮らす作戦参謀レイファー・ジャンダース(リチャード・ハリス)、鬼軍曹サンディ(ジャック・ワトソン)を訪ね作戦参加を呼びかける。

 このあたりの人物紹介はL・ローズらしく手慣れた巧さだ。それぞれの事情を抱えながら嬉々として参加する傭兵たちに戦場でしか居場所のない男たちの人物描写が味わい深い。

 意外と地味な展開というのは、面接・訓練の様子・計画準備を丁寧に描いている処。どことなく黒澤の「七人の侍」に似た構成だ。

 こうして将校4・下士官4・兵40・衛生兵1・曹長1の計50名が2班に分かれ大統領救出と空港制圧に向かう。ということは25名で200名の軍事施設を襲い救出するスリリングな展開。

 モデルともいわれる実在の伝説的傭兵隊長マイク・ホアーが技術アドバイザーとしてついているだけあって、マニアには嬉しい流れなのだろう。その手には不案内な筆者には、特別な感動はなかった。

 余りにも簡単に救出成功と思わせた作戦は、その後思わぬ裏切りで、あわや壊滅状態になる。

 逃亡中、アパルトヘイト擁護派である南アの白人元警官・カーツィーが黒人大統領のリンガニを背負いながらのヤリトリは<理論武装での憎しみ合いが如何に無意味なもの>かが伝わってくる。

 敵兵の追撃と裏切りで次々と占有を失うフォークナー。救出作戦とともに戦友同士の深い友情物語が主題となっていて、国家や主義だけではなく金のために命がけで戦場へ赴く傭兵の虚しさが浮かんでくる。
 
 フォークナーのR・バートンは50代前半とは思えない風貌の衰えはあったものの、堂々とした主役を全う。R・ムーアは「007」の合間で出演したためか、案外活躍の場は少なかったものの存在感たっぷり。

 寧ろ相手役として好演したのはジャンダース役のR・ハリス。筆者には「許されざる者」でのイングリッシュ・ボブが印象深いが、「ハリー・ポッター」での教授役でお馴染みの俳優。

 監督のせいか、フォークナーとジャンダースの友情物語が西部劇のようでもあった。 

「黒い罠」(58・米)75点

2015-10-23 15:26:02 | 外国映画 1946~59

 ・映画史に残るO・ウエルズの最後のハリウッド作品。

                  

 オーソン・ウエルズといえば、「市民ケーン」(41)、「第三の男」(49)の名作もしくはニッカウィスキーのCM・英語教材の新聞雑誌広告を思い出す。

 本作はチャールトン・ヘストン主演の映画で相手役にO・ウエルズが出演する探偵小説だったが、C・ヘストンがウエルズ監督作品と勘違いしたことがキッカケで実現した最後のハリウッド作品。

 アメリカとメキシコの国境地帯ロスロブレスを舞台に、C・ヘストン演じるメキシコ人麻薬捜査官が0・ウエルズが扮する米国の凄腕老警部の悪徳を糺そうとするフィルム・ノワール。

 冒頭の3分20秒の長廻しシーンは伝説となっていて、のちの映画に多大な影響を及ぼしている。時限爆弾を仕掛けられた車に乗った男女が国境を越えハラハラしながら見ている間、主人公のヴァルガス(C・ヘストン)とスーザン(ジャネット・リー)夫妻が車で現れ、2人の会話や警備員とのやり取りでその人となりが判明していく。サスペンス満載の掴みである。

 爆発で死亡したのはメキシコ人有力者リネカーだが、国境を超えたので捜査はアメリカ側に委ねられ、現れたのが巨漢で足のケガで杖を離さない老警部クインラン(O・ウエルズ)。

 役作りで詰め物をしてメイクを凝らしたとはいえ、第三の男で見たウエルズとは別人のようで、その風貌や言動まで、どちらが主役か?といえばO・ウエルズでは?と思わせるほどの怪演ぶり。

 監督・脚本も彼なので親友マレーネ・ディートリッヒを酒場の女主人役で特別出演させ、かつての恋人だった思わせぶりのシーンを絡め、ラスト・シーンを盛り上げるなどまさに独壇場。

 爆破犯人を独特のカンで突き止め、証拠をでっち上げるなど悪徳ぶりが明らかになっても、その存在感に圧倒され、C・ヘストン扮するヴァルガスはいつも後追いで、妻のスーザンはモーテルに閉じ込められたままで活躍の場は殆どない。

 証拠をつかんだクインランの長年に亘る相棒ピート(ジョセフ・カレイア)とともに、最後は盗聴で裏を取るという如何にも地味な捜査ぶりが気の毒なほど。

 ストーリーは爆破犯人の捜査よりヴァルガスとクインランの対決が主題だが、そこにエイキム・タミロフ扮するメキシコ人グランディンとその甥たちが絡む一見無意味なシーンが多くあるので話が拡散気味。甥の恋人が殺された有力者の娘で話は繋がるが・・・。

 クレーンを駆使したダイナミックな動きや究極のローアングルなど映画界初の試みを如何なく発揮した本作品。興行的には大失敗したにも関わらずゴダール・トリュフォーなどに大絶賛されのちに再評価された本作。ヒッチコックの「サイコ」(60)にも繋がる逸話(J・リーとモーテル監禁、デニス・ウィバー出演)も興味深い。

 筆者が見たのは93分の劇場公開版だったが、ウエルズの死後、彼のメモをもとに再編集した111分ものがあるらしい。筆者も再評価する時期があるかもしれない。
 

 

 

 

「真夜中のゆりかご」(14・デンマーク) 80点

2015-10-22 11:50:47 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 社会派S・ビアが、ミステリーで味付けした家族ドラマ。

                 

 「ある愛の風景」(04)、「未来を生きる君たちへ」(10)のスサンネ・ビア監督、アナス・トーマス・イエンセン脚本によるコンビ6作目は、シリアスなテーマの家族ドラマにミステリー色が加わって新鮮味が増している。

 夫々乳幼児を抱えた、妻子を愛する優しい家庭人でもある刑事と、薬物依存症で刑務所帰りの男が、一瞬を越える姿を通して人間の脆さを描いたサスペンス。邦題は如何にもミステリーらしい雰囲気が漂うが、原題は「もう一回のチャンス」。

 冒頭トイレの床に横たわるすすり泣く女性に、これから何が起こるのか?不安な気にさせられる。この女性はしばらくするとアンドレア刑事の妻アナだと分かるが、湖畔に瀟洒な家を構え生まれて間もない息子と幸せそうに暮らしている様子が繰り広げられる。

 アンドレア刑事が扱ったのは刑務所から出所したばかりのトリスタンの安アパート。パートナーで娼婦だったサネがDVを受ける事件。相棒シモンと踏み込んで見ると、そこには汚物まみれの乳幼児ソーフスがいた。

 虐待され育児放棄とみなされてもいいはずのソーフスは施設に入れることができず、トリスタンは無罪釈放で何も解決されず歯噛みするアンドレアス。高福祉国のデンマークにも、こんな格差社会が存在する事実を再認識させられる。

 一見幸せそのもののアンドレア一家と、問題だらけで不安いっぱいのトリスタンの家が交錯しながら進展するストーリーに目が離せなくなる。

 いつものようにクローズアップを多用し自然光による撮影した画面は、現実と虚構の差の少ない雰囲気が溢れている。

 イエセンのシナリオは意外な事実が判明するまでの伏線が巧みで、観客は不自然で気掛かりだったことが一気に霧が晴れるよう。それはアンドレアスの呵責の念が増すばかりのことであった。
 
 アンドレアスを演じたのはTVシリーズで有名なニコライ・コスター=ワールド。彼が誠実な人柄なので一瞬を超える行動に共感が得られるか?が作品の成否を分けている。自分ならどうするか?と考えると同じ行動は取らないが・・・。

 同僚のシモンを演じたウルリク・トムセン、トリスタンのニコライ・リー・コーラスはサネの常連で個性豊かに主人公を支えている。

 アナに扮したマリア・ボネヴィーは美しい妻と異常な取り乱し振りの落差が鮮やかでミステリアスな役を好演。サネに扮したのはトップモデルで映画初出演とは思えない熱演。

 そして何より大変だったと思うのはアレキサンダーとソーフスの乳幼児。撮影で幼児虐待にならなかったか心配してしまった。

 救いようがない切ない物語に、少し救いがあったラスト・シーンにサネの優しさを感じた作品でもあった。

         

                   

「Mommy/マミー」(14・カナダ)80点

2015-10-20 17:29:55 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 母と息子という身近なテーマを、独自なスタイルで描いたX・ドラエ。

                  

 前から気になっていたカナダの気鋭グザヴィエ・ドラン。映画好きを自認しながら5作目の本作が初見。噂通りの才能溢れる26歳だ。

 シングルマザーとADHD(多動性障害)を抱える15歳の息子との深い愛情と葛藤の物語。

 幼いころから俳優だったドラエが監督としてデビューしたのが19歳だったというから驚き。本作でカンヌの審査員特別賞をゴダールと並んで受賞したのも何かの縁で、これからの映画界を託されたような気もする。

 本作が初見なので、知ったかぶりをしてもしょうがないが、若さからくるエネルギーを感じるが、それ以上に本人の多様な感性の素晴らしさと時代の中枢を往くファッション性を感じる。

 まず1:1のアスペクト比に圧迫感を感じる。登場したのが中年なのに若作りのファッションで車を運転していたダイアン(アンヌ・ドルヴァル)。事故を起こした相手にタンカを切るさまはお世辞にも上品とはいえず好感は持てない。

 出向いた先は障害児を預かる施設で、入所していた息子スチーヴ(アントワン=オリヴィエ・ピロン)を引き取るため。どうやら施設で揉め事があってのことらしい。

 この親子が暮らす生活は楽しい安寧のひとときもあるが、何かの拍子に発作的に狂暴な振る舞いにでる息子に家は修羅場と化す。

 そんなとき、現れたのが向かいに住むカイラ(スザンヌ・クレマン)。彼女も訳ありで精神を患う休職中の高校教師。吃音に悩みながらもダイアンに請われ家庭教師を買って出る。

 3人の暮らしは、お互いをカバーし合い夫々の苦悩を乗り越えたように見えたが、本質的な解決はなされていないのが観客にはよく判る。

 束の間の楽しい期間では、画面が16:9に広がり、ロック・バンド<オアシス>の「ワンダー・ウォール」が流れ解放感に浸れる。

 殆ど3人しか出てこないような映画だが、夫々の心の内の変化を見て取れるような画面構成はドランの才能の魅せどころ。顔のアップや後ろ姿・衣装や美術に至るまで緻密な設定は、若くして国際映画祭で天才の名を轟かせたドラエならではのもの。

 ときには陳腐と思われるスローモーションや写真のような決まった構図まで、彼の手に掛かると新鮮に映ってしまうから不思議。

 架空の国の設定だが、名前はカナダ。政府が設定したS-14法案というのがあって、「発達障碍児の親が経済的理由や心身に危機的状況に陥った場合、養育放棄しサインだけで施設に入院させる」という法律だ。

 この前提がないと、終盤のシーンは単なる元の木阿弥か?と思うが、どっちにしても息子への母の愛は永遠のもの。

 夫に頼って生きることを選択し転居したカイラ。息子を施設に入れざるを得なかったダイアン。2人は孤独な生活に立ち戻るが、「私には希望がある」と手を震わせながら語るダイアンには、優しくて傷つきやすい思わず応援したくなるような好感度満載。

 それにしてもドランが描く周りの大人には、世俗的で打算的な魅力のない男女ばかりが登場する。対して主人公たちは欠陥を抱えながら健気に生きる魅力的な人物ばかりだ。

 ヴィヴァルディの「四季」やシューベルトの「野ばら」からロックバンドや退廃的なヴォーカルまで音楽のジャンルを超えたドランならではの選曲にもセンスを感じる。

 次回作はハリウッド作品とのこと。当分この監督からは目が離せそうもない。ロードショウ公開は見逃したが、上映してくれた飯田橋ギンレイホールにも感謝。
 
                    

「モホークの太鼓」(39・米) 70点

2015-10-17 12:34:05 | 外国映画 1945以前 

 ・ 米国独立戦争時代を舞台に夫婦愛を描いた、J・フォード初のカラー作品。

                   

 ’39は西部開拓時代の西部劇「駅馬車」、南北戦争を舞台にした「風と共に去りぬ」という不朽の名作が作られた年。

 「駅馬車」のあと巨匠・ジョン・フォードが監督したのは、ヘンリー・フォンダを起用したフィクション「若き日のリンカーン」。

 その2人の次回作が独立戦争時代の開拓者を描いた本作で、翌年製作された名作「怒りの葡萄」の狭間で脚光を浴びることがあまりなく、監督初のカラー作品なのに本邦公開時(49)にはモノクロだった。

 NY州オルバニーで育ったラナとモホーク渓谷で農場を開拓したギルの新婚夫婦。環境の異なった2人が独立戦争の最中苦難を乗り越えて行くさまを描いた夫婦愛の物語。

 ギルを演じたH・フォンダはこのとき34歳。舞台から映画デビューしたのが4年前なので、ブレイク寸前のとき。役柄も、妻を愛し農場を開墾するため懸命に働き村を守るため兵役に出征するという、ヒロインの相手役というイメージ。

 ヒロインのラナに扮したのはクローデッド・コルベールでクレジットも最初に出てくる。どちらかというとロマンチック・コメディ風の女優さんなので可愛いが、「風と共に・・」のヒロインと比較されて割を喰ってしまったかも。

 好演が目立ったのは、マクレナー夫人役のエドナ・メイ・オリバー。亡き夫を偲びながら気丈に農場を守る好人物を見事にこなしていた。

 英軍にやとわれた先住民たちと戦う戦闘シーンはJ・フォードらしい迫力だが、最大の見どころはバート・クレイン、レイ・レナハンによるテクニカラーの美しい自然の風景。18世紀のアメリカ東部はこんな風景だったことだろう。

 意外と少ない独立戦争時代を背景にしたJ・フォード監督、H・フォンダ主演の貴重な作品だ。

 

「草原の野獣」(58・米) 70点

2015-10-12 17:19:00 | 外国映画 1946~59
 ・ 華やかさはないものの、全てに隙がない西部劇。

                 

 フィル・カールソン監督、ヴァン・へフリン主演による西部劇。タブ・ハンター、ジェームズ・ダーレン、エドワード・プラットなど共演者の如何にも地味な俳優たちが、19世紀末のワイオミングを舞台に繰り広げる父と息子の物語。

 大牧場主のリー・ハケット(V・へフリン)は、先住民や侵入者たちを力ずくで追いやり開拓した先駆者としての自負がある。

 時代の変遷とともに法で整備されつつある町でも一目置かれ、不法の銃を所持していても黙認されるほど。

 彼には2人の息子がいて、兄のエド(T・ハンター)は父譲りの銃の腕は立つが粗暴で父親には反抗的。弟のデイヴィ(J・ダーレン)は優しい性格で父と兄の生き方には批判的。

 こんな2人の息子を勇敢な男として育てたいと願うリー。

 昔ながらの価値観を押し付けようとするリーから見ると、乱暴者だがエドが自分の気質を引き継いだ後継者として相応しいと思っていたのが窺える。

 エドが牧童ポールと野生の白馬を巡って争い崖下に転落させても、事故だというエドの言葉を信じて疑わない。ポールが先住民の混血児なのを軽視するような対応に、妹のクリー(キャスリン・グラント)は事実関係を目撃者から聴き保安官に訴えて出る。

 「シェーン」(53)で農夫役を演じたV・へフリン。前年の「決断の3時10分」(57)では貧しい牧場主という地味な脇役のイメージが濃い俳優だが、本作では堂々の主役で存在感を見せてくれている。

 ただ本来なら敵役の悪徳牧場主の役柄は観客の共感は得られず、 本来なら弟デイヴィが保安官とともに法の下に大活躍してもおかしくないのに、単なる傍観者になってしまっている。

 名手フランク・S・ニュージェントの脚本によるストーリーは、落としどころはこれしかないというエンディングに安堵するとともに意外性のある結末を期待していたが、やっぱり!という落胆もあった。

 主題歌も歌った兄エド役のT・ハンターと弟J・ダーレン。その後の活躍を期待したが、代表作には恵まれていないように思える。

 全てに隙がないオーソドックスな西部劇だったという感想。

 

                

「龍三と七人の子分たち」(15・日)70点

2015-10-10 12:35:42 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 同世代8人の滑稽な頑張りが哀しくもあり、思わず苦笑い。

                  

 「HANA-BI」(98)、「アウトレイジ」(10)など世界のキタノが、久しぶりに本業のビートたけしネタで画面に登場した。実は北野作品を大画面で観るのは初めて。

 オレオレ詐欺に引っかかったヤクザの元組長。元暴走族グループの若者たちが詐欺をしていることを知り、昔の仲間と組を発足してカツを入れる姿をコミカルに描いている。

 龍三親分を演じたのは、アナーキーな役柄で一世を風靡した藤達也。ここでは監督の要望に応え真面目に演じながら、お茶目な人柄が溢れ出る期待通りの主役ぶり。

 悪なのに人情味もあって、借金の取り立てで相手が気の毒でお金を渡すという人柄だ。

 昔なじみのママ(萬田久子)の家から女装のまま逃走する姿は、龍の入れ墨を自慢する昔気質の男とのギャップを衒いなく演じていた。

 仲間のマサ(近藤正臣)がいい味を出している。団地で生活保護を受けながらの独り住まいだが、貧乏臭くない。何でも賭けの対象にしてソバ屋で龍三と客が何を頼むか?賭ける風景は、それだけで絵になるコント風景。

 もう一人、はばかりのモキチ(中尾彬)は寸借詐欺で暮らすケチな生活。イメージ・ギャップを大いに利用した監督の人選に拍手。終盤とんでもないことになるが、これもベタながらコントのうち。笑って許してしまう。

 他にも早撃ちマック(品川徹)の仁義、ステッキのイチゾウ(樋浦勉)の座頭市バリの殺陣、五寸釘のヒデのダーツ、カミソリのタカ(吉澤健)、神風のヤス(小野寺昭)などそれぞれの特技を持った平均72歳という年寄り軍団が勢揃い。

 時代遅れの軍団は、それぞれ肩身の狭い生活から昔なじみに再会すると年を忘れ活き活きとする。それが傍から見るととても滑稽に映る。筆者と同世代なのが哀しくもあり、思わず苦笑い。 

 
 

 
 

「サイコ」(60・米) 80点

2015-10-05 15:04:39 | 外国映画 1960~79
 ・ 渾身のシャワーシーンと意外な結末のクライム・サスペンス。

                   

「サイコ」という言葉は今では日常用語として使われているが、「サイコパス」を改めて辞書を引くと、<精神病質、反社会的人格・人格障害などと呼ばれる特殊な人格を持つ人々を指し、善意を持たず平気でうそをつく>とある。

 一般用語となったキッカケのこの映画は、アルフレッド・ヒッチコック監督最後のモノクロで、途中から見ることも当たり前だった当時上映開始後の入場禁止をするなど、話題を呼んだ作品でもある。


 アリゾナのファーベルにある小さな不動産会社の社長秘書マリオン(ジャネット・リー)は、4万ドルの現金を横領して、恋人のいる町へ向かうが道に迷って街はずれのモーテルへ宿泊する。

 モーテルを経営しているノーマン(アンソニー・パーキンス)は人の好さそうな青年で、「良かったら夕食を用意するので食べませんか?」と勧められる・・・。

 ここで伝説的なシャワー・シーンがあって、あっけなくヒロインがナイフで惨殺されてしまう。絶叫シーンが余りにも有名でパロディになるほど。

 初めて観たとき、これからは犯人探しのドラマになるのかな?と思いながら見ていた。予想通り行方を心配した妹ライラ(ヴェラ・マイルズ)と恋人サム(ジョン・ギャビン)のところへ私立探偵(マーティン・アーボガスト)が現れ、モーテルの調査を開始する。

 ところがあっさり殺害され、物語はライラとサムに委ねられて行く。中心人物が次から次へと変わって行く中、ノーマンが段々不気味な存在となって行く。A・パーキンスは余りにも強烈な印象を残したため、その後他の役柄が廻ってこなかったほど。

 ヒッチは僅か45秒のシャワールームでの惨殺シーンに、何と7日間を割いたという偏執狂ぶり。バーナード・ハーマンのチェロとヴァイオリンによるエキセントリックな悲鳴音にた旋律が、恐怖感を倍加させている。

 さらにチョコレート・ソースを使ったという血がモノクロならではの本物感。演じたJ・リーは瞳のクローズアップがさぞかし大変だったことだろう。

 名作ではあるが、多重人格者の存在が知られていなかった当時、観客を納得させるため精神科医が丁寧にセリフで説明するシークエンスに一工夫あれば、さらにクライム・サスペンスの最高傑作として映画界に金字塔を打ち立てたはず。

「キングスマン」(14・英)70点 

2015-10-02 12:24:52 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ バイオレンス、スパイ・アクションに挑戦したC・ファース。

                   
                   

 イギリス製スパイ・アクションといえば歴代俳優が演じてきた<007>シリーズが王道を行く。

 その007に挑戦するような映画が登場した。その主演を演じたのは、50代半ばで現在油が乗っているコリン・ファース。その彼が初のアクション・ヒーローに挑戦している。

 新シリーズD・クレイグのボンド役は初作以外見ていない筆者。本作ももしC・ファースが出ていなかったら映画館へ観に行かなかっただろう。
 
 原作はコミックで、監督は「キック・アス」(10)、「X・MEN:ファースト・ジェネレーション」(11)のマシュー・ボーン。したがって、シリアスな展開ではない。

 英国風のシニカルなユーモア満載箇所は、多分に007に対してのものなのも面白い。M・ボーンは007企画コンペに参加して落選した経緯があって、そのウップンを本作で如何なく発揮している。

 「キングスマン」とは英国ロンドンの高級仕立て屋の名。実はどの国にも属さない世界最強のスパイ機関でもある。ハリー(C・ファース)は「ガラハット」というコード・ネームを持つ一流スパイ。

 前代未聞の人類抹殺計画を進めるのは、米国・西海岸のIT富豪のヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)。その方法はどの機種にも対応できる通信・インターネットが無料のSIMカードを配布して、凶悪な殺し合いさせるというもの。

 ハリーは単身ヴァレンタインに立ち向かうとともに、亡き同僚の息子エグジー(タロン・エガートン)を後継者として見込んで、指導教官マーリン(マーク・ストロング)のもと「キングスマン」の新人テストに挑戦させる。

 ボンド・ガールは出てこないが、傘・ライター・靴・指輪などに斬新なアイデアを駆使した小物の秘密武器が登場。スタイリッシュな英国紳士が次々と殺人を重ねるさまは、スパイ・アクションそのもの。

 C・ファースとサミュエル・L・ジャクソンの対決、組織のリーダー・アーサー役のマイケル・ケインを起用するなどベテラン俳優が登場する本作には、続編が企画されている。

 本作が映画デビューのT・エガートンが名実ともに主演する続編は、日本も登場するらしい。シリーズ化して<007>シリーズを上回るか?正念場となることだろう。
 
 それにしてもエンディングのオチはスウェーデンがクレームをつけなかったのだろうか?