晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「キック・オーバー」(12・英) 65点

2014-07-28 15:49:29 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 痛快アクションで本領発揮のメル・ギブソン。

                 

 私生活で何かとお騒がせのメル・ギブソンが原点に却って製作・脚本・主演したメキシコに実在した刑務所を舞台に描いた痛快アクション。監督のエイドリアン・グランバーグはM・ギブソンの助監督だったから、彼のワンマン作品と言って差し支えない。

 マフィアから大金を奪ってメキシコへ逃亡中に失敗し、史上最悪の刑務所という形容詞を持つエル・プエブリート刑務所だった。

 場末の盛り場のような雰囲気の刑務所は犯罪者が家族と同居していて、麻薬取引・売春まで行われている非現実的な社会。まさに<小さな町は大きな地獄>そのもの。

 56歳のM・ギブソンが、最初のカーチェイスから爽快なラストシーンまで「ペイバッグ」の続編を想わせる大活躍。

 どのようにして大金を取り戻し脱獄できるか?を観客は期待しながら観ることになるが、どうなろうが心配せず観ることになる。はらはらドキドキ感よりは、M・ギブソン演じる通称<ドライバー>のスーパーマンぶりを楽しむ映画だ。

 所内で出会った少年キッドが、刑務所のボスの肝臓移植のドナーであることから、少年とその母親を救うために立ち上がるところが見所。

 彼に立ち向かうマフィアのボス・フランク(ピーター・ストーメア)や刑務所を支配する男ハビ(ダニエル・ヒメネス・カチョ)など敵役もいるが恐怖感はあまり感じられなかった。

 もっとも彼を悩ませたのはエル・プエブリート刑務所そのものだろう。6000人の囚人が暮らし600人の家族もいたというこの刑務所は、02年軍隊が制圧したという。その雰囲気は充分伝わってきた。
 

「ユー・ガット・メール」(98・米) 70点

2014-07-25 08:02:48 | (米国) 1980~99 

 ・ ロマコメの王道を歩むN・エフロン、T・ハンクス、M・ライアンのトリオ。



エルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色の店」(40)という映画があった。街角の雑貨屋で働く男女をジェムズ・スチュアートとマーガレット・サラヴァンが演じていたラブストーリー。

 このリメイクが本作で、エンディングに「オーバー・ザ・レインボー」のカバーが流れるのはその時代のヒット曲へのオマージュか?原作が私書箱での文通に対してインターネットでのやりとり。わずか15年ほどで時代は急速に変化を遂げ、ネットでの交際から結ばれるカップルは日常茶飯事だが、日本ではパソコンですら普及していない時代なので、映画館で見たときは流行の最先端を行っている気がした。

 ロマコメの女王メグ・ライアンが「めぐり逢えたら」(93)以来トム・ハンクスと共演し、ノーラ・エフロン監督とのトリオが再現した。

 もうひとつの売りは、NYの街並み。高級住宅街アッパーウェストを舞台に当時珍しかったスタバも登場し、カップ片手に出勤するのがお洒落だった時代はこのあたりからか?ほかにも高級食材スーパーのゼイバース、グレイス・パパイヤなど枚挙に暇がない。

 なかでも2人が会う約束をした、カフェ・ラロは、クラシックな佇まいで今でも観光客の憧れのマトとなっている。

 こんなお洒落な街で小さな絵本の店を母から受け継いで守ってきたキャスリーンと、大型チェーン・ブックストア<FOXブックス>の御曹司ジョーとのチャットは、本音で言い合える仲。ヴァーチャルなるが故の気楽さがそうさせている反面、現実とのギャップを埋める役割を果たしているのだろう。

 一歩間違えると怪しい関係になりかねないネット交際。現実歯止めが効かないほど事件が頻発しているが、本作のチャットには弊害よりも手紙をスピードアップした便利な通信機器としてそのメリットのみが浮かび上がっている。といっても携帯・スマホの今とは大違いでネット社会の変遷は著しい。

 現にキャスリーンには新聞記者のフランク、ジョーには雑誌編集者のパトリシアという恋人がいるが2人とも毎日入るメールが恋人のよう。

 そろそろ年齢的にラブコメの限界が近づいてきた感はあるものの、M・ライアンのキュートさは相変わらず。パジャマ姿や歩く後ろ姿が可愛いと感じさせるのは演技ではなく彼女自身の素の姿を想わずにはいられない。

 チョッピリ貫録が出てきたT・ハンクスも早口で毒舌を放ちながら、コメディ育ちの彼の魅力と本当に人を愛することを知ったときのワクワク感が巧く噛み合っていた。もっとも今ならこんな男は女から総スカンを喰らいそう。

 この直後「ノッティング・ヒルの恋人」が映画化されジュリア・ロバーツとヒュー・グラントに受け継がれたラブ・コメ。このあと年下のヒュー・ジャックマンと組んだ「ニューヨークの恋人」(01)以降ヒット作に恵まれないまま、今日に至っているM・ライアン。

 思えば「ゴースト/ニューヨークの幻」(90)、「プリティ・ウーマン」(90)、「羊たちの沈黙」(91)の出演を断ってきた結果での本作は、彼女にとって最も安心できる故郷だった。まだ、52歳、もうひと花咲かせて欲しい。

 

「蟬しぐれ」(05・日) 75点

2014-07-23 18:09:46 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・藤沢文学の傑作を、映像化に腐心した黒土三郎の意欲作。

                    

 「たそがれ清兵衛」(02)を始め「隠し剣 鬼の爪」(04)と続いた山田洋次監督による藤沢周平時代劇の映画化。最高傑作と言われながら映画化は難しいと思われていた本作を黒土三郎が実現した。

 黒土がTVドラマのシナリオを書きドラマ化され評判となった本作。念願叶っての映画化で、TVでは描き切れなかった作品の「気高さ」を表現することに挑んだという。

 江戸時代、庄内地方の海坂藩で起こった権力争いに巻き込まれながら、直向きに生きた下級武士・牧文四郎の、清貧な半生と切ない恋を描いた時代劇。

 原作のエピソードを忠実に守りつつ、文四郎15歳から20数年間の物語を131分に纏めるのはかなり無理があり、初めて本作を観た場合エピソードの羅列について行けないところもあったのでは?

 原作やTV連続ドラマと条件が違うので、それとの比較はあまり意味がない。結論から言うと、<行間から溢れる空気感や透明感に腐心して頑張ったが、観客をその世界に引き摺り込むインパクトには欠けるきらいがあった>というところか。

 お気に入りは元服前の前半。普請組の義父・牧助左衛門は、お家騒動のため反逆罪に問われ切腹。最後の親子の対面は最初の見せ場。父を尊敬する文四郎の一途さを石田卓也が好演し、助左衛門を演じた緒方拳の律義で慎ましい姿が流石で印象深い。

 父の遺体を大八車で泣きながら引いて行く<矢場の坂>が前半のハイライト。文四郎と彼を秘かに慕うふくとの2人の懸命な姿が痛ましい。その後ふくは江戸に奉公が決まり、最後の別れに文四郎の家に行くが不在のまま逢えず仕舞いとなる。子役の佐津川愛美がなかなかの演技で、少女の直向きさが出ていて感心させられた。

 好調な前半に比べ、元服後の中盤は?が多く原作の味とは程遠い。演じた市川染五郎の品の良さは文句のつけようもないが、下級武士には見えず終盤の郡奉行で初めてイメージが合致。石田卓也からの変換が巧くないうえ2人の雰囲気がまるっきり違っているのが致命的。これは演技上の問題ではなくキャスティングのミス。

 剣に励みながら道場の先輩・同輩との交流も、ソレゾレは成り立っているが纏まりがなく原作の映像化に腐心しているのが窺える。リアルな斬り合いなど殺陣も見せ場があるが、決闘となった犬飼兵馬との経緯が省略されていたので深みが伝わらない。

 おふくに扮した木村佳乃は気高さと美しさを漂わせ、ヒロインに相応しい演技を魅せた。注文をつけるとすれば儚さが欠けていたように思うが・・・。

 「蝉しぐれ」というタイトルはラスト・シーンからつけられているが、本編は思い切ったアレンジとなっている。是非論はあるがこれは納得。

 庄内地方のオープンセットを組み、1年掛かりで美しい日本の風景をバックに繰り広げられたこのドラマ。できれば、庄内地方の言葉でやって欲しかった。

 私利私欲とはかけ離れたところで懸命に生きた下級武士と、好きなヒトとは結ばれなかったが20数年経っても想いは変わらなかった女の慎ましく気高い恋物語。

 大衆小説でありながら人々の心を掴んで離さない藤沢文学の映像化に全力投球した黒土三郎やスタッフに拍手を送りたい。
 

「愛のメモリー」(76・米) 70点

2014-07-20 15:56:15 | 外国映画 1960~79

 ・ デ・パルマ得意の360度スローモーション・カメラが見られるロマンチック・ミステリー。

                    

 サイコ・スリラーで名を売ったブライアン・デ・パルマ監督がヒッチコックを尊敬していたのは有名だが、名作「めまい」のオマージュとして知られる作品。邦題「愛のメモリー」はまさにロマンチック・ミステリーのようだが、原題は「OBSESSION(妄想)」。

 「タクシー・ドライバー」(76)の脚本家ポール・シュレイダーとともに作ったが、デ・パルマのマニアには幻の名作と言われるほど、日本公開はひっそりと行われた。その理由は、同年上映され話題を呼んだ「キャリー」と比べ地味で、日本にはなじみが薄いキャスティングのサスペンスものという評価がされていたからか。

 59年ニューオリンズで結婚10周年記念のパーティを行ったマイケル。その晩、現金50万ドルと引き換えに最愛の妻と娘を渡すという脅迫文とともに妻子を奪われてしまう。警察の指導どおり行動するが、2人を乗せた車が大型タンクローリーと衝突して車ごと川中へ。

 16年後、傷が癒えないまま、共同経営者のロバートとともにイタリアへ渡ったマイケル。妻と出逢った想い出のフィレンツェのサン・ミニアート・アル・モンテ教会で妻とそっくりな女性を見かける。

 ヴィルモス・ジグモンドのカメラはソフトフォーカスでニューオリンズの湿った空気とフィレンツェのクラシックな佇まいを見事に捉え、ミステリアスなストーリーをシッカリ支えている。音楽はヒッチコックの作品には欠かせないバーナード・ハーマンなのでさらに雰囲気が盛り上がる。

 マイケルを演じたクリフ・ロバートソンはオスカー俳優だが、日本ではそれ程知られていない。妻とイタリアの若い女性を演じたジュヌヴィエーヴ・ビジョルドは、2役には少し無理があったが独特の風貌はミステリアスで、彼女中心でストーリー展開して行く。

 デ・パルマとシュレイダーの2人は、もう少し違った展開を考えていたようだが、3時間を超える長編になるということで断念したという。もし構想通りだとすれば、論議を呼び話題騒然となったことだろう。当時なら道徳上日本公開されなかった恐れすらある。ミステリーの謎ときは多少強引な感が否めないのはその中抜きがあったためだろう。ジョン・リスゴー扮するロバートが台詞で種明かしする手法は、名手P・シュレイダーのシナリオらしくない。

 デ・パルマといえば、長廻しと360度のスローモーションが定番だが、後者はこれがラスト・シーンに登場する。マニアにとってはこれだけで価値がある作品ともいえる。
 

「サブウェイ・パニック」(74・米) 80点

2014-07-19 15:24:37 | 外国映画 1960~79
 ・ ユーモアで味付けされたスリル溢れるサスペンス。


               

 ジョン・ゴーディの原作を、TV界から「0011ナポレオン・ソロ 劇場版」(66)でデビューしたジョセフ・サージェント監督を起用して映画化された。地味なキャスティングが却って功を奏し、スリリングなサスペンスの佳作となった。

 主演したウォルター・マッソーの持ち味を充分活かした、ユーモア溢れる味付けがその要因。「おかしな二人」(68)などジャック・レモンとのコンビによるヒット作が最も印象深く、当時ブームだったパニックものとはかけ離れた存在だったが、本作はまさにはまり役だ。

 NYの地下鉄が4人の男にハイジャックされ、100万ドルの現金を1時間以内に持ってくるよう要求される。公安局の警部補ガーバーや市当局・警察がどう対処するのか?

 深刻な内容なのに、シリアスさよりコミカルな部分が随所に出てくるので極度の緊張感はない。4人の犯人の大胆な犯行に18人の人質をどう対処すべきかを巡って、NY市交通局内部の混乱ぶりや市長の動揺などが風刺的に描かれる。

 冒頭に出てくる東京の地下鉄重役4人の視察団は、当時の日本人感を風刺的に捉えた典型だろう。メガネ・カメラ、愛想笑い、お辞儀の連発など、日本人が見てあまり好い気持ちではない。冒頭でガーバーが案内役として指名され、NYの地下鉄が如何に安全かを伝える最中にハイジャック事件が起きるのは皮肉な出来事でもある。

 犯人たちは本名ではなくソレゾレ色の名称で呼ばれる。なかでもリーダーのミスター・ブルー(ロバート・ショウ)の冷徹かつ大胆な言動がガーバーたちを悩ませる。おまけに風邪気味のミスター・グリーン(マーティン・バルサム)は地下鉄の操作に詳しいし、ミスター・ブラウンは目立たないがグレイは切れやすそう。

 コミカルさは最後まで失わないが、終盤の地下鉄の暴走やタイムリミットでの相互の駆け引きは、なかなかスリリング。

 そして誰もが印象深く思うのはラスト・シーン。このために本作があるようなエンディングは今や伝説と化し、トニー・スコット監督、デンゼル・ワシントン、ジョン・トラボルタ主演のリメイク「サブウェイ123 激突」(09)も影が薄い。               

「コッホ先生と僕らの革命」(11・独) 65点

2014-07-15 15:37:32 |  (欧州・アジア他) 2010~15
・ 類型的ながら、清々しい学園ドラマ。

                   

 ブラジルで開催されたサッカーW杯は、ドイツがアルゼンチンを破って4回目の優勝を遂げた。そのドイツにサッカーをもたらしたのは、1874帝政ドイツ時代のカタリウム校の教師だったコンラート・コッホ。ドイツサッカーの父と呼ばれる彼と教え子たちの心温まる学園ドラマだ。

 監督はセバスチャン・グロブラーで自身の原案をもとにしたフィクションである。親子で観るにはもってこいのテーマである<友情・協調・自主性を盛り込んだ>類型的ではあるが安心して観られる清々しさは、従来のドイツ映画のイメージとは趣を異にする作品だ。

 この時代のドイツは、階級社会でなおかつ英国への偏見がはびこっていた。学校教育もそのなかで行われていたからブルジョア階級の子息が大半を占めている。メアフェルト校長は比較的柔軟な持ち主で地元の名士などの反対を抑え、英語教育を受け入れコッホ先生が英語教師として赴任してくる。

 級長のフェリックスは名士の息子でクラスのリーダー。プロレタリアートで貧しい母子家庭の子ヨストをいじめている。体操は器械体操や行進ばかりで体操用具メーカーのオットーは太っていて運動音痴。この3人を中心に生徒たちがサッカーというチーム競技に触れて変化して行くサマをユーモアを交え澱みなく進行して行く。

 コッホ先生は英語教育よりも、サッカーというスポーツを通して自主性やフェアプレイ精神・チームプレイの大切さを熱心に伝える。今でいう部活のようなもの。ムチを片手に有無を言わせぬ帝政精神を伝えていた他の先生や父兄からの批判を、子供たちのチームワークが打ち砕いて行くサマは如何にも出来過ぎだが、拍手喝采せずにはいられない。

 父の言いなりだったフェリックスは、身分違いの初恋の相手と再会しイジメも止める。小柄で虐められっ子のヨストはサッカーで才能が開花する。運動音痴のオットーはゴール・キーパーという適材ポストを得て張り切っている。おまけに父の工場でサッカーボールを作らせ商才豊かな片鱗まで見せる。

 如何にも出来過ぎな終盤も微笑ましく鑑賞した。コッホを演じたダニエル・ブリュールは如何にも理想的な若い教師役を衒いもなく演じ好感が持てた。脇を固めるドイツのベテラン俳優や子役たちも適材適所のキャスティングだった。

 いいことずくめのストーリーにちょっぴり刺激が足りないように感じたのは、あまりにも清潔感溢れる作品だったからだろうか?現実はバイエルンでサッカーが解禁になったのは50年以上後だったのだから。

「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(85・スウェーデン) 80点

2014-07-14 17:07:40 | (欧州・アジア他)1980~99 

 ・ L・ハルストレム監督が、ハリウッド進出のキッカケとなった作品。


                    

 50年代後半、自国で開かれたワールドカップに湧くスウェーデンを舞台に、12歳の少年が日々の暮らしの中から成長して行く姿をみずみしく描いたヒューマンドラマ。83年出版のレイダル・イェソンの原作を、ラッセ・ハルストレム監督が映画化。彼がハリウッド進出のキッカケとなった作品でもある。

 海辺の町に住むイングマルは、兄エリクと結核の母、そして愛犬シッカンと暮らしている。父は南氷洋へ行ったまま帰ってこないので、母の病状悪化とともに田舎の叔父の家にひとり預けられる。

 12歳にしては幼く、兄弟ゲンカやドジをしたりして大好きな母をいらいらさせ叱られている。やがて母の病状悪化とともにひと夏だけ愛犬とも別れることになり、自分より不幸なことを探しては<僕はOOよりは恵まれている>と心の中で慰めている。繰り返し思うのは<宇宙船スプートニクに乗せられ死んでしまったライカ犬>。

 90年代「ギルバート・グレイプ」(93)、「サイダーハウス・ルール」(99)、2000年代「ショコラ」(00)、「シッピング・ニュース」(01)など、コンスタントに良作を送り続けてきたハルストレム監督。その原点が本作で<子供と動物がテーマ>なのは、まさにストライクゾーン。

 都会の伯父さん夫婦とは違って、田舎のガラス工場に勤めている叔父さんはとても温かく迎えてくれる。そこでひと夏を過ごすイングマルがとても微笑ましく、本人が思うほど不幸ではなく見えるのは大人目線での解釈か?

 叔父さんはガラス工場の社宅に住んでいるが、許可なく東屋を建ててマイルームを謳歌している。ゴンドラ宇宙船を作って子供たちを楽しませる人、一年中屋根を修理している人、ちょっとエッチな芸術家、曲芸を披露する男、女性下着のカタログを読んで喜ぶ老人、真冬の湖に飛び込む男・・・。可笑しな
大人たちがいるが、子供の世界には適度な距離感があった。これはちょっと年上だが同世代の筆者が育った少年時代の境遇と共通している。

 サッカーやボクシングをして遊ぶ子供たち。なかでもサガという少女とはヒトキワ仲良くなる。12歳にしては幼いイングマル。少女は男の子たちと一緒に遊んでいても異性を意識し始めた微妙な時期。胸の膨らみを隠すためバンテージを巻くのを手伝うイングマルに、男と女の成長期のズレを感じてしまう。

 こんな素敵な想い出はなくても、甘酸っぱい経験は誰にでもあること。ハルストレムは自身の少年時代を再現するようにひとつひとつのエピソードを重ね、出逢いと別れを通して少年を少しづつ人生の目覚めに遭遇させて行く。

 これが唯一の作品となったオーディションで選ばれたイングマル役のアントン・グランセリウスは泣きべそ顔が気に入られたとか。美少女サガを演じたメリンダ・キンナマンは女優となったと聞くが、筆者は未見。おそらくこれが代表作だろう。

 2度目に戻ったとき、もうサガとはボクシングもサッカーもできなくなったイングマル。それでもスカートを穿いたサガとはゴンドラには乗ることができ、屋根を修理している村のヒトは相変わらずツチ音を響かせている。

 ギリシャ人の家族が同居して手狭になった叔父さんの家では、ラジオでヘビー級世界チャンピオン・パターソンを破ったヨハンソンの英雄復活を流していた頃でもあった。

 筆者は栃錦VS若乃花や長嶋VS金田の対決を、ラジオで聞いていた頃と重なる。まるで自分がイングマルだったように微笑ましく、懐かしい作品だった。        

「コールガール」(71・米) 65点

2014-07-12 14:37:37 | 外国映画 1960~79

 ・ アラン・J・パクラの出世作。

                    

 ペンシルベニアの研究所・所員が行方不明となって数ヵ月。親友の探偵が唯一手掛かりとなったNYのコールガール宛ての手紙をもとに事件を探って行く。

 事件の謎解きミステリーよりも、探偵とコールガールの触れ合いによる感情の起伏を描いたサスペンスがメイン。アラン・J・パクラ監督の出世作となった。

邦題は「コールガール」でブリーを演じたジェーン・フォンダが主役だが、原題は「クルート」で探偵を演じたドナルド・サザーランドの名前。どちらが主役というより、生まれも育ちも性格も違う2人が事件に関わりながら微妙に惹かれあうストーリーなので、W主役が適切だろう。

 70年代のNYの風景が懐かしく、事件の鍵となる盗聴器、電話、タイプなど時代を感じさせる。事件は中盤あたりで道筋が見えてくるが、終盤まで引きつけるのは大都会で暮らす女の孤独や不安が目に見えない恐怖に繋がっているからだろう。

 撮影は「氷のフィルターを持つ男」といわれたゴードン・ウィリス。ラニー・メイヤーズ・オーケストラが奏でるジャズをバックに、これでもかというほど暗いカメラワーク。目を凝らして観ないと映像が真っ暗で良く見えないほど。

 ミステリーとしても、ラヴ・サスペンスとしても中途半端な出来だったが、J・フォンダが最初のオスカーを獲り、A・J・パクラが売り出した作品として記憶に残っている。

 筆者にはD・サザーランドの2枚目振りが新鮮だった。

 

「ロード・トゥ・パーディション」(02・米) 80点

2014-07-10 17:41:44 | (米国) 2000~09 

 ・ コンラッド・L・ホール撮影の様式美を堪能。

                    

 「アメリカン・ビューティー」のオスカー監督サム・メンデスが、30年代のイリノイを舞台にしたマフィア世界の掟や親子の情愛を描いた大作に挑んだ。

 グラフィック・ノベルの原作をデイヴィッド・セルフが脚本化。トム・ハンクス、ポール・ニューマン、ジュード・ロウという異色の組み合わせのマフィアものといえば、どうしても期待が膨らむ。「ゴッドファーザー」と比較してしまうが、原作が<子連れ狼>をモチーフとしているだけに不条理な裏社会で生きる父と子の物語が主題だ。

 父はロックアイランドに住むアイリッシュ・マフィアの幹部マイケル・サリヴァン。息子は12歳のマイケルJr。ボスのジョン・ルーニーは孤児だったマイケルを実の息子のように面倒を観てきたので、親子の絆のようにシッカリと結ばれている。ボスには実の息子コナーがいるが、出来が悪く後継者として不向きなドラ息子が悩みの種。

 ジョンはヘマをして幹部の信頼を失ってしまった不肖の息子と、可愛がってきた気心の知れた息子同様の部下との二者択一を迫られ悩むことに。イタリアン・マフィアなら裏切った肉親も容赦なく殺害して組織を守るが、情愛に傾きやすいアイリッシュにはその狭間に悩んでしまう。

 遺作となったP・ニューマンはこの葛藤を言葉少なに演じて、オスカー助演候補となっている。雨の中スローモーションで部下たちが倒れて行く中、その佇まいが最後となってしまうシークエンスはこの映画の中盤でのクライマックス。

 これを映像化したのは監督の意向だが、撮影したコンラッド・L・ホールの手腕によるともいえる。「明日に向かって撃て!」「アメリカン・ビューティー」で2回オスカーを獲得した彼も、3度目の受賞作品が遺作となってしまったが、2人の偉大な映画人のコラボが生んだ傑作様式美を堪能した。

 肝心の主演トム・ハンクスもイイ人のイメージから体型を変え、抑えたアイリッシュ・マフィアに変身して頑張っている。ただ何か物足りないのは脚本のせいか、息子役との相性のためか?

 J・ロウの怪演も話題のひとつ。死体専門のカメラマンだけでも怪しいのに実は殺し屋。髪を抜き歯も黄ばんだ風貌で終盤の敵役として奮闘している。

 のちの007ボンド役となるダニエル・クレイグのドラ息子ぶりは印象的だし2人の子役も悪くない。出番はすくないが妻アニー・サリヴァン役のジェニファー・ジェイソン・リーも流石。

 なのに、観終わってハリウッド好みの定番劇の印象が色濃く、映画の醍醐味としてはイササカ期待外れの感もあるのはS・メンデスの作風が合わないのか?それとも力量不足か?

 それでも30年代を満喫し、贅沢な気分に浸れた119分だった。

「預言者」(09・仏) 85点

2014-07-06 12:55:30 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・長さを感じさせないプリズン・ドラマの傑作。

                    

 「リード・マイ・リップス」(01)、「真夜中のピアニスト」(05)のジャック・オーディアール監督が、人種間対立のある刑務所内で生き残るために様々なことを学びながら伸し上がって行く青年の姿を描いたプリズン・ドラマ。脚本を完成させるまでに3年を要したJ・オーディアールは寡作ながら絶えずハンディキャップを負った人間の生き様をドラマチックに描いてきた。

 今回も19歳の孤児であるアラブ系のフランス人マリクが刑務所という社会の縮図である世界でどう生き抜いてきたかを実にスリリングに描いて2時間30分の長さを感じさせない傑作に仕上げている。カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリ受賞作品。

 日本公開は3年後の12年。理由のひとつには無名な俳優が主役(タハール・ラヒム)で、著名な俳優はコルシカ・マフィアのセザールを演じたニエル・アレストリュプだけの地味なキャスティング。これがオーディアールの狙い通りで、観客を惹きつけて止まないのだから映画は面白い。

 身寄りのない孤独なマリクは所内で最大勢力のコルシカ・マフィアに目を付けられ、アラブ系レイェブ
を殺すよう強要される。初めて人を殺めたマリク。ボスのセザール庇護のもと、フランス語、コルシカ語、アラブ語の読み書きを覚え、生き残るスベを学んで行く。このあたり台詞は少ないがセザールのN・アレストリュフの圧倒的存在感が光る。

 マリクが殺した男の亡霊と会話する幻想的シーンが何度か出てくる。題名の由来は殺した男なのかそれとも<神と接触し神の言葉を人々に伝えるような主人公・マリク>になぞらえてのことか?

 舞台はフランスの中央刑務所で、これが想像とはかけ離れた日々を送る囚人たち。看守はボスに買収されいいなりで、模範囚は日帰りの時間指定ながら外出が許される。マリクの外出日に観た海岸の風景はヒトキワ眩しい。

 マリクは6年間でセザールの指示のもと地下ビジネスのノウハウを学び、先に出所した親友リヤドとともに麻薬ルートを開拓してチャンスを窺う。さらにジプシー(ロマ)のジョルディと手を組みコルシカ一派の一掃を図る。

 19歳の無学な青年が徐々に成長し、6年間で立派な?リーダーとなって行く様は現代フランス社会への複雑な問題提起にも重なってる。社会派ドラマとは思わせないフランス映画伝統のフィルム・ノワールの世界を醸し出している点では、「ゴッド・ファーザー」の持つ義理・人情のナルシリズムとは違うギャング映画の誕生を想わせる。

 現に続編が期待できそうなラスト・シーン。タハール・ラヒムが演じる出所後のマリクを観てみたいが、5年が経ってしまった。緻密で慎重なオーディアールが筆を取るのは何時のことになるのだろう。ハリウッドでリメイクが企画進行されているのでこちらが先になりそうだ。