晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「張り込み」(87・米)80点

2019-06-29 12:02:30 | (米国) 1980~99 

 ・ 職人監督J・バダムのバディ・ムービー。


 脱獄犯の元恋人の家を監視する命を受けた刑事が、恋や笑いとともに派手なアクションがあるバディ・ムービー。製作・監督はジョン・バダム、リチャード・ドレイファスとエミリオ・エステヴェスがコンビを組み、マデリーン・ストウがマドンナ役で映画デビューを果たしている。

 アメリカ西海岸最北端のシアトル市警の刑事クリス(R・ドレイファス)とその相棒ビル(E・エステヴェス)は、FBIの特命により脱獄した凶悪犯スティック(エイダン・クイン)の元恋人マリア(M・ストウ)の家を張り込みすることになった。
 電気工事業者を装い電話に盗聴器を仕掛けたり偶然スーパーで出会ったりするうち、独身のクリスはマリアに惚れ込んでしまいマリアも好意を抱くようになる・・・。

 スタバもIT産業も出てこない80年代のシアトルで繰り広げられる刑事ドラマは想定を超える面白さ。冒頭、魚加工工場での追跡劇で幕を開け、車や船での追跡シーンを挟み、木材工場での追跡劇で終わるテンポの良いアクションはなかなかスリリング。
 さらに二人のコンビによるヤリトリや仲の悪い同僚(フォレスト・ウィテカー)との嫌がらせ合戦など、ドタバタ刑事コメディ要素も織り込まれ、好感度溢れるB級娯楽映画の王道を行くつくり。

 低迷中のR・ドレイファスが完全復活を遂げた作品でもあり、マーチン・シーンの息子でチャーリーの兄でもあるE・エステヴェスとのコンビが評判となり続編もできるほど。
 29歳で映画デビューしたM・ストウは、遅咲きながらその魅惑的な風貌で第一線で長く活躍するキッカケとなった作品でもある。

 80年代後半のハリウッド映画はひと頃の暗さを脱し、ポップコーン片手に映画館で楽しめる娯楽作品を送り出しているが、本作はその典型的な作品でもある。

 
 

「フォーエバー・フレンズ」(88・米)60点

2019-06-26 14:17:39 | (米国) 1980~99 


 ・ 主題歌が大ヒットした女同士の友情物語。  生まれや育ちが違う二人の女性30年間の交流を描いた友情物語。監督はゲーリー・マーシャル、ベッド・ミドラーとバーバラ・ハーシーが共演。主題曲「愛は翼にのって」が大ヒットした。

 LAのライブ会場ハリウッド・ボウルでリハーサル中のCCブルーム(B・ミドラー)宛てメッセージが届いた。それは11歳の頃アトランティック・シティで知り合ったヒラリーとの交流を思い起こさせる出来事だった。
 結婚・出産・離婚・離別と大事な節目ごとに二人は喜びや悲しみを分ち合い、その思い出が蘇ってくる・・・。

 わずか120分あまりで30年間の交流を描くという離れ業をやってのけたのはG・マーシャル監督。2年後の「プリティ・ウーマン」の大ヒット作品で知られる彼の職人的手際の良さが目立つ。

 主演したB・ミドラーは「殺したい女」(86)で演じたコミカルでエネルギッシュな役柄が適役だと思ったが、本作でも貧しい家庭に生まれ、歌手を目指すヒロインをまるで自伝のような入れ込みようで演じている。
 日本でも歌手で演技もこなすタレントはイニシエより数多いが、両方とも一流となると数えるほどしかいない。ミュージカル・スターではない彼女にこれ以上の演技力を望むのは酷といえる。
 何より圧倒的な歌唱力は文句のつけようがなく、さすがグラミー賞歌手!

 ストーリーは日本のテレビドラマ(素顔のままで)でリメイクされるほど定番の女性同士による友情物語。意外性はないが期待通り進むドラマはそれはそれで感情移入しやすいのかも?

 
 

 

「炎の戦線 エル・アラメインの戦い」(02・伊)75点

2019-06-22 12:21:23 | (欧州・アジア他) 2000~09

・ ネオレアリズモの伝統を引き継いだイタリアの反戦映画。


第二次大戦の北アフリカ戦線をイタリア軍の一人の志願兵の体験をもとに描いた戦争映画。監督・脚本は「エーゲ海の天使」(91)などの脚本で定評のあるエンツォ・モンテレオーネ。
イタリア軍小部隊の記録や生存者の証言をもとに、イタリアン・リアリズムの伝統を引き継いだ作風が高評価を得た。

’42.10学生志願兵セッラ(パオロ・ブリグリア)がエジプトのエル・アライメンへ着任した。ドイツ・ロンメル将軍の指揮下にいたイタリア軍は、英軍200万の投入で膠着状態となり劣勢を強いられているときだった。
セッラはフィオーレ中尉(エミリオ・ソルフィリッツイ)傘下のレッツォ曹長(ピエル・フランチェスコ・ファビーノ)分隊へ配属されたが、陣地の装備不足は想像を超えるもので、頭を低く、赤痢になっても報告しない、サソリに気をつけろの3か条を命令した伍長がスグに砲撃で戦死。着任早々砲撃されなかったセッラは、3つある奇跡のひとつを使ってしまった。
水250cc/日しか与えられず、砂漠の暑さと喉の渇きに苛まされ、日々の小競り合いで味方は次々と倒れていく。

ロッセリーニ、デ・シーカ、ヴィスコンティなど40~50年代ネオリアリズム(新写実主義)映画として一世を風靡したイタリア映画。その伝統を引き継いだ監督として脚光を浴びたのがモンテレオーネ監督の本作。バリバリの戦争映画ではなく戦争の虚しさを祖国への忠誠を誓い国のため理想を抱いていた志願兵の目を通して描いている。
そして、ドイツ軍からワインを飲みながら参戦しスグ捕虜になると酷評されたイタリア軍名誉回復のため、絶望的な戦いの中で奮戦し退却中に壊滅した第10軍団への鎮魂の意味も込めた作品でもあった。

それは勇ましい戦いではなく「戦争に勇敢な死などない。死体からは腐臭が流れてくるだけだ。」というセリフが生々しい。現地にある戦没者慰霊碑に佇む老人はセッラの晩年だろうか?観客に委ねるラストシーンが印象深い。





「私は、マリア・カラス」(17・仏)70点

2019-06-16 12:45:59 | 2016~(平成28~)


・歌と愛に生きたカラスを一人称構成で描いたドキュメンタリー。


 20世紀最高のソプラノ、マリア・カラスの人生を描いたトム・ボルフ監督によるドキュメンタリー。未完の自叙伝原稿や400通あまりのプライベートな手紙、世界中から集めた映像をもとにオペラ歌手としての信念と女性として愛に忠実に生きる姿が一人称構成で描かれる。
 手紙の朗読や語りを「永遠のマリア・カラス」(02)で晩年のカラスに扮したファニー・アルダンが行っている。

 厳しい母親の監視のもと英才教育を受けた貧しい少女時代。13歳のとき17歳と偽って音楽学校に入学、誰よりも早く来て遅くまで残っていた逸話に始まり、高度なベルカント唱法とエキゾチックな風貌でカリスマ性のあるディーバとなっていくさまが本人の語りや元教師の言葉で綴られる。

 一方ローマ歌劇場での一幕で降板しバッシングを受け、メトロポリタン歌劇場の支配人とのバトル、オナシスとの大恋愛と夫との離婚などスキャンダルがメディアに取り上げられることでオペラそのもの以外で絶えず話題となった。

 歌姫として栄光と挫折を重ねた53年のドラマチックな人生を送ったカラス。映画の題材には興味深い人物だけに21世紀になって3度映画化されているが、マリア・カラスやオペラに詳しくなくても充分楽しめる構成となっている。

 彼女自身の舞台でお馴染みの<ノルマ>や65年のメトでの<トスカ>、<カルメン>や<私のお父さん>などファンでなくても聴いたことがある曲も随所に登場するが、筆者には蝶々夫人の舞台が最も新鮮だった。

 自叙伝をもとにした構成からマリア・カラス賛歌の視点で描かれて一人称構成が相応しいつくりのため、ドキュメンタリーとしては甘さもあるが、もろさと強さを兼ね備えた歌姫マリア・カラスの素顔に迫るものがちりばめられてていた。

 数々のスキャンダルにもメゲズ、<歌は私の唯一の言葉だから>といった彼女の記憶が21世紀も消えることはないだろう。

 

「アリー/スター誕生(18/米)70点

2019-06-10 10:43:31 | 2016~(平成28~)


 ・ ハリウッドの古典をB・クーパー&L・ガガでリメイクしたラブストーリー。


 名声ある男性スターが若くて才能ある無名の女性を見いだし、スターへの階段を上っていく<スター誕生物語>の映画化。ふたりは結婚して幸せを掴むまもなく、男性は落ちぶれて行くというハリウッド定番のラブストーリー。オスカー作品賞など8部門にノミネート、主題歌賞を受賞している。

 昼はウェイトレス、夜はバーで歌いながら過ごしているアリーがロックスターのジャクソンに見出されショービジネスに飛び込んでいく。

 C・イーストウッド監督ビヨンセ主演で企画されていた本作をバトン・タッチされ、ブラッドリー・クーパーが初監督レディー・ガガが初主演という新鮮な組み合わせで4度目のリメイクだが、76年版バーブラ・ストライサンドのストーリーをほぼ踏襲している。

 最大の成功要因はレディー・ガガの起用だろう。筆者にとってガガは奇抜な衣装で素顔を隠したキワモノ的存在だが、東北大震災時にいち早くチャリティを買って出てくれたスターという好印象のあるミュージシャン。

 オリジナル曲の「SHALLOW」を始め、改めて歌唱力があることを認識。

 周囲の反対を押し切って起床したプロデューサーでもあるクーパー監督との出逢いがチャリティでの「ラ・ビ・アン・ローズ」だったのは映画でもそのまま活かされている。

 同時にアリーがガガ自身のキャリアと重なっているのもリアリティを感じさせ、新人時代鼻が大きいのでスターになれないといわれたとか。

 B・クーパーは、初監督として獅子奮迅の活躍。ドラッグ&酒で転落するロック・ミュージシャンのジャクソン役ではライブ会場で歌やギターを披露し、曲まで作っている。人物像も単にアリーへの嫉妬羨望というよりアリーの成功を喜ぶ反面、自己嫌悪に苛まされる元スターをリアルに表現していた。

 アップを多用した二人の人間ドラマに焦点を当てた演出には身内のドラマを回収しきれないところもあったが、イーストウッドを継いで欲しい期待の監督でもある。
 
 

「アメリカの友人」(77・西独/仏) 80点

2019-06-06 12:01:17 | 外国映画 1960~79


・ ヴィム・ヴェンダースの長編7作目は犯罪ロード・ムービー。


パトリシア・ハイスミスのトム・リプリーシリーズの3作目「リプリーのゲーム」をヴィム・ヴェンダース監督が脚色した犯罪ロード・ムービー。今年亡くなったドイツの名優ブルーノ・ガンツとアメリカの個性派俳優デニス・ホッパーの共演で、哀愁たっぷりに描かれた二人の奇妙な友情の物語。

米国人詐欺師トム・リプリー(D・ホッパー)は、死んだはずの画家の贋作で儲けている。ハンブルグの競売場で額縁職人ヨナタン(B・ガンツ)に色使いが怪しいと見抜かれる。
白血病で死の不安を抱えるヨナタン。彼を殺人に巻き込み完全犯罪を目論むトムとの危険な絡みは、孤独な寂寥感漂う奇妙な友情の誕生となる。

灰色の空・セピア色のハンブルグの街並みと赤いワーゲンや黄色のレインコートが色鮮やかな映像は、主人公ヨナタンの不安な心のうちを表しているようだ。

パリでマフィアを殺すため身代わりを探す一匹狼の殺し屋ミノ(ジェラール・ブラン)に借りのあるリプリーは、パリの血液学の権威の診断と25万ドルの報酬を餌にヨナタンを仲介する。

NY・ハンブルグ・パリ・ミュンヘンを舞台に繰り広げられるクライム・サスペンスは、平穏な日々が欲しいリプリーと余命短いヨナタンの手に入れたいものが思うに任せない二人の焦燥感が混ざり合った奇妙な友情へと繋がって行く。

カウボーイ・ハットで欧米を駆け巡る自由奔放なリプリーは孤独で人恋しさを秘めている。リプリーは妻と息子と暮らす平穏な日々だが死の恐怖を秘めハンブルグにいる。人間は無いものねだりをする生きものらしい。

贋作の老画家ボガッシュも自分の色使いをしてみたかったに違いない。

ボガッシュを演じたニコラス・レイ、マフィアのボスにサミュエル・フラー、標的の殺し屋イクラハムにダニエル・シュミットなど大御所監督が俳優として出演しているのも見逃せない貴重な作品でもある。

パリのエスカレータでの殺人シーンやミュンヘンの特急列車での格闘など、そのカットだけで絵になるシーンは若かりし頃のヴェンダースならではの狂気と不安な男の世界を想わせてくれる。

多少独りよがりな面も垣間見られるが、終盤美しい海辺で繰り広げられるやりとりは、ヨナタンの妻マリアンネ(リザ・クロイツァー)の登場とともに二人の友情の終焉を告げている。ロード・ムービー作家として定評あるヴェンダース好きには必見の作。